ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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17-7 光の剣

 G3突撃銃を構えた吸血鬼の一団が、散発的に射撃しつつ煙の中に突入する。

 正確な位置はわからないにしろ、高レベル冒険者同士の鋭敏な聴覚をもってすれば互いに大体の位置くらいはわかる。

 そして冒険者達は負傷を回復できないが、吸血鬼達にとって鉛の銃弾などは大した脅威ではなく、さらにこの世界でも働く高速治癒(ファストヒーリング)がある。

 多少の同士討ちなど、彼らにとっては物の数ではない。

 

「くくっ・・・」

 

 そう確信してニヤリと笑った吸血鬼の首が、紫紺の閃光に薙ぎ払われて宙を舞った。

 

『む?』

 

 慌てて銃を向ける隣の吸血鬼に、再度紫紺の輝線が走る。

 身を低くしてセミオートの連射をかわし、伸び上がるように切り上げた一閃が金属製の銃身を半ばから真っ二つにした。

 仲間を巻き込むこと覚悟で、また別の吸血鬼がフルオート連射。

 襲撃者は深追いせず、大きく飛びすさって身をかわす。

 

 白煙の中におぼろげに見える小柄な姿。

 だがそれでも、紫色に強く発光するナイフが「ここにいるぞ」と何よりも強く雄弁に主張している。

 

「この封印外世界で・・・」

「馬鹿な! あれ()アーティファクトか!?」

 

 アーティファクト。本来「遺物」と言う意味だが、剣と魔法の世界においては特に「現代では作り出せない強大な過去の遺産」を指す。

 D&Dにおいても同様で超古代文明や、あるいは神の力をもってしなくては作れないような強大なマジックアイテムをそう呼ぶ。

 そう、例えば死霊王の持つ"大魔術師の杖(スタッフ・オブ・マギ)"や、ベルの持つ《神のナイフ》のような。

 

 そしてそれらのアーティファクトは、その強力さゆえに周囲のマナにその力を依存しない。

 ゆえにマナのほとんど存在しない封印外世界でも死霊王は魔杖の力を行使できるし、ヘスティアナイフはその切れ味を最大限発揮できる。

 その結果がこれだった。

 圧殺するはずだった冒険者達を、吸血鬼達は押し切れない。

 

 だがベルのアーティファクトだけがその原因ではない。

 魔法や武具の助けがないとはいえ、残りの三人も一騎当千の猛者ばかりだ。

 レベル5のシャーナとレーテー、そしてレベル4では最強とも思われる【疾風】リュー・リオン。

 

 何も吸血鬼側も全員が一級冒険者相当の前衛タイプばかりではない。

 術士タイプもいれば、比較的レベルの低いものだっている。

 そしてもう一つ押し切れない理由が、吸血鬼達の武器だった。

 

 魔法が使えない世界で火力を補うために銃火器を使用する、それは正しい。

 しかし銃火器の扱いはともかく、実戦における運用をものにするにはさすがに時間が足りなさすぎた。

 射撃から近接戦闘に切り替えるタイミング、味方が弾倉交換する時の支援など、基本的な扱いを覚えただけでは分からない事も多い。

 後知恵になるが、死霊王は術者タイプのものたちにだけ銃を持たせ、前衛タイプには今まで通り近接戦を行わせるべきだったのだ。

 

「たあっ!」

「ぎゃあっ!」

「どおりゃっ!」

「ぐっ!」

 

 また一匹、ベルの神のナイフで吸血鬼が顔を割られて倒れ、また別の吸血鬼がシャーナの大剣で突撃銃を破壊される。

 ひん曲がった銃を捨てて本来の獲物である斧を引き抜いたそいつが、今度こそシャーナと正面から打ち合いを始めた。

 

「その白髪から倒せ! そいつが穴だ!」

『ちっ・・・』

 

 もはや煙幕もほぼ晴れた戦場で、白髪の少年を指して叫ぶ副官を見て死霊王が舌打ちする。

 ティオナと椿を封じてから動かなかった彼が、ここに来てみたび杖を振った。

 

「ぬおっ!?」

 

 ベルの正面、シャーナから見て左側。ゆらり、と空間に影が揺れる。

 薄い平面のもやのようだった影が見る間に厚みを帯び、実体を備え、一秒足らずの間に土塊で出来た7m程の巨人の姿を取った。

 

『・・・"招来(サモン)"など、久方ぶりに使(つこ)うたわ』

 

 エルダー・アース・エレメンタル。

 封印世界、つまりオラリオのダンジョンにはいないたぐいのモンスターだ。

 強いて言うなら精霊族が近いが、それとも少し違う。

 

 体内に魔石を持たず、従ってステイタス補正を受けないとは言え、地を司るエレメンタルの内でも高位の存在である彼らは、それだけでレベル3上位のモンスターに匹敵する戦闘力を持つ。

 耐久力、生命力に限って言えば間違いなくレベル4だ。

 いかな一級冒険者といえど、魔法や武具の力を封じられた状態では一撃とは行かない。

 

「ちっ、やばいなこれは・・・っ!?」

 

 巨大な紫紺の閃光がシャーナのぼやきを中断させた。

 

「なっ」

『お、おおっ・・・』

 

 この戦いが始まって以来初めて、死霊王が驚きの声を漏らす。

 唐竹割に両断されたエルダー・アース・エレメンタルがただの土塊に戻ってボロボロと崩れながら、その姿が薄れて消える。

 その正面に立つのは、紫色の光の剣を構えたベル。

 光を迸らせているのは、右手に構えた《ヘスティア・ナイフ》。

 刻まれた神聖文字が、夜の闇を圧してまばゆいほどに燃えていた。

 

 

 

 ――目の前に土くれの巨人が現れた瞬間、体が勝手に動いた。

 逆手に握っていた神のナイフを素早く順手に持ち直し、打ち合っていた吸血鬼も無視して大きく振りかぶる。

 当然その隙を見逃さず、致命の一撃を見舞おうとした吸血鬼達が次の瞬間、迸る魔力の余波だけで吹き飛ばされる。

 膨大な魔力が神のナイフから放たれ、巨大な光の剣を形成した。

 そして振り下ろす。

 

 一太刀。

 ただの一太刀で、ゴライアスに匹敵する体躯を持つ大地の精霊は消滅した。

 

「はあっはあっはあっ・・・」

 

 荒く息をつきながら、ベルが手の中のナイフを見下ろす。

 

「わかる・・・魔法は使えないけど、神様のナイフに精神力を注ぐことはできる!」

 

 魔法のために精神力を使うという感覚を覚え、そして魔法が使えなくなったベルが、唯一見つけた精神力を外に放てる出口。

 気付いたのは、ここがマナの存在しない封印外世界であったればこそ。

 魔力伝導に優れるミスリルという素材、そして封印外世界でも働く『恩恵』を力の源とする《神のナイフ》だからこそ出来た技。

 

『驚かせてくれる・・・だが、それなら代わりを呼ぶまで』

「えっ!?」

 

 死霊王が四度杖を振る。再び現れたのは不定型な身長7mの巨人。

 ただし、今度はその全身が炎で構成されている。

 先ほどのアースエレメンタルと同じ地水火風の四大精霊の一つ、エルダー・ファイア・エレメンタル。

 

『その一撃、かなりの精神力を消費すると見た。何度放てるかな・・・』

「・・・・っ!」

 

 歯がみするベルが、ナイフを構え直した瞬間、上から更に別の声が降ってきた。

 

「よう、お待たせベルッち!」

「無事ですか、みなさん!」

 

 五人の赤外套たちとアスフィ・アル・アンドロメダ。

 敏捷度の低い者達をおいて先行してきたのだろう。

 死霊王が口元を歪める。

 

『ええい、全部叩き込め! 後を考えるな!』

「はっ!」

「何を・・・」

「いけねえ、よけろ!」

 

 吸血鬼達が手元に残ったロケットランチャーや手榴弾を手当たり次第発射し、投げつけ始める。

 シャーナ達は素早く避けるが、「それ」が何かわからないアスフィ達は一瞬反応が遅れた。

 

「アスフィさん!」

 

 爆発音。

 それでも咄嗟に飛びすさってかわしたが、ダメージは免れない。

 

「"しゅりゅうだん"と言う奴ですか。迂闊でしたね・・・」

 

 言いつつ、アスフィの柳眉は逆立っている。

 アイテムメイカーとして、プライドを痛く刺激されたらしかった。

 だがそれでも冷静さは失わない。

 戦場の奥にいるリューに目配せをすると、再びその手から閃光白煙弾を投じる。

 

「小賢しい!」

 

 今度こそ乱戦に突入する中、リューが消えた事に気付いた者は誰もいなかった。





吸血鬼達がG3突撃銃を使っているのは、それがギリシャ軍の制式小銃だからです。
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