ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
「それで・・・さて、何から話したもんかね」
一息ついて気も多少紛れたのか、普段通りの調子に戻ってイサミが頭をボリボリとかいた。
死霊王たちの処遇、フェリスの事情、これからの行動など話し合うべき事は山のようにある。
僅かな沈黙の後口を開いたのはアスフィだった。
「そうですね。まず気になるのは吸血鬼の方々がこれで全部かどうか、ということですが」
『少なくともわしと共にこちらに来たのはこれで全てよ。
・・・ご丁寧に遺骸も運んでくれたようだが、これは蘇生をしても構わんということかな?』
その言葉に、いくらかの冒険者が床を見る。
確かに胴を両断されたものや首を落とされたものなど、いくつかの吸血鬼の死骸――元から死んでいるのだから死骸というのもなんだが――が転がっていた。
肩をすくめる死霊王を見て嘘は言っていないと判断し、イサミが言葉を返す。
「そのへんはこれからの交渉次第ですね。そもそも何故俺達やロキファミリアを狙ったのか、リヴィラや18階層にいた冒険者を襲ったのか。まずはそれを教えて貰いましょうか」
『・・・なんだと? 知らんぞ、そんなことは』
ざわ、と部屋の空気が揺らいだ。
冒険者の中にはあからさまに怒りを見せるものもある。
一方で死霊王や吸血鬼達も確かに戸惑いの色を見せていた。
食ってかかろうとする仲間達を取りあえず押しとどめ、質問を変える。
「それじゃ、神様達や他のファミリアの人をさらったのは?」
『ディックス・・・わしのしもべの一人が連れてきた。実験材料にするからと言ってな――神であることに気付かなかったのは迂闊であったわ』
迷宮の中ということでヘスティアは神気を抑えていた。
そのため死霊王も一瞥したのみでは気付けなかったのだろう。
「そのディックスとやらは?」
『お前達が来る前に姿を消したわい』
言葉が途切れる。
イサミと死霊王が少しの間にらみ合うように視線を絡め、やがてイサミが溜息をついた。
「つまり、ハメられたということですか。俺も、あなたも」
『そうなるな』
対照的に、死霊王は低い声で答える。
声に込められた怒りの響きに、周囲の吸血鬼やレベルの低い冒険者達が身をすくませた。
「整理しましょうか。あの人造迷宮は迷宮の力を利用して次元の壁に穴を開ける魔法装置だ。
で、ディックスとやらはあなたか俺達も邪魔になって一緒に片付ける算段を考えた。
騒ぎを起こし、神様達をさらって俺達とあなた方をぶつけ合わせ、ゲドさんに"
結果、俺達はまとめて封印外世界に追放されてディックス氏万々歳というわけですな」
『然り』
怒りの感情を収めないまま、言葉少なに死霊王が頷く。
握った
感情の希薄な不死者がここまで内心を表に出すというのは、しもべに裏切られたのが余程腹に据えかねたらしくあった。
『そう言えばあの
「それはもちろん。あんな芸術品、壊せるわけがないでしょう」
肩をすくめたイサミが、桃色の宝石がはまった黒い
ゲドが人造迷宮の魔法装置を起動させたあの錫杖である。
何もないところから錫杖を取り出したイサミに、ベルが目を丸くする。
「えっ? い、今どうやったの? それも魔法なの?」
「こんなの魔法を使わなくたっていくらでも隠せるし取り出せるさ。何なら今度教えてやるぞ?」
錫杖を手のひらの上でくるくる回転させながら、自慢するでもなく肩をすくめるイサミに、ベルの肩の上のヘスティアが溜息をつく。
「ほんと多芸な奴だなあ君は・・・」
「
「いやどう考えても魔術師の芸じゃねえよ」
シャーナのツッコミは毎度のごとくスルーされた。
「よろしいでしょうか、イサミ様?」
「なんだ、リリ?」
予想外の事実をぶつけられてざわつく冒険者達の中、リリが発言を求めた。
「おっしゃる事はわかります。ですがこの方々の言う事を信用なさるのですか?
私たちが実験材料だと言われて、それを問題にされないような方々ですよ?」
「まあ言いたいことはわかるがな。少なくとも、俺達のぶつかり合いを画策した第三者がいたことは確かだ。ゲドさんに"
そうでなかったら、見た事も無い魔道具のコマンドワードを唱えるなんて出来やしない」
リリが黙り込む。イサミの正しさを認めつつも、感情的には割り切れないものもあるのだろう。
それを見ていた死霊王が不意に口を開いた。
『何もわしらが善良だなどと言うつもりもない。わがしもべ達は血を吸わねば生きていけんしな。
だがこのような状況ではわしらがお前達を利用し、お前達もわしらを利用せねばここで朽ちていくだけだ。
ましてや今、わしらの生き死にはそこの魔術師の胸先三寸。このような些事で無駄なリスクを冒そうとは思わんわ』
「・・・わかりました」
不承不承、と言った感じではあったが一応納得した様子を見せてリリは引き下がった。
リリと、周囲の冒険者達の様子にちらりと目を走らせてからイサミは視線を死霊王に戻す。
「それで『帰りたかった』とおっしゃいましたが・・・やはりあなたはフェイルーン、あるいはトリルのご出身で?」
『然り。我が名はダイダロス。ミストラに仕える使徒にして、オラリオにて最初に神の《恩恵》を授かった一人よ』
「・・・!」
イサミが目を見張る。ひょっとしてと思ったが、ここで伝説の名工の名前が出てくるとやはり衝撃も大きいらしい。
「え、ダイダロスってダイダロス通りの?」
「いや、確かそれを作った昔の名工だって・・・」
ざわめく冒険者達には一瞥もくれず、死霊王ダイダロスはじっとイサミを見た。
『それより貴様は何者だ。てっきりわしと同じミストラに仕える身かと思えば、先ほどのやり取り。どういう事だ?』
「まあ、話せば長くなりますし、色々ありまして」
本当に色々あるので適当に流そうとして、ふとイサミは死霊王の落ちくぼんだ眼窩が今までになく真剣な色をたたえているように思えた。
『・・・戻りたいとは、思わなんだか』
僅かに沈黙。
「一度死んでいますから。たとえ前世の記憶があるとしても、大いなる転輪を経たこの身は上尾勇じゃない。イサミ・クラネルなんですよ」
『左様か』
死霊王が短く呟く。
この一瞬だけ、イサミは死霊王のむき出しの心に触れた気がした。
「まあ取りあえずダイダロス殿とその一党にはここを脱出するまでは協力して貰うこととして」
「では次はフェリスさんのことでしょうか」
「え、あたし?」
いつの間にか取り出した
「そりゃそうだろう。場合によっちゃ、おまえさんの持ってるアイテムがこの世界を脱出する唯一の切り札になるんだからな。後気になる所と言えば・・・なんでおまえさんみたいなのがマイアヘンを信仰してるのかってところだが」
「気にするところそこ? いやもっとあるでしょ! こっちに来た動機とか、私のこれまでの生き様とか!」
「"
「ぐっ・・・」
反論できないのか、フェリスがうーっ、と頬を膨らませて黙り込む。
小さな女の子みたいだなあ、とベルは思ったが、口に出したら絶対に怒られるので自重した。彼も成長はするのである。
「それで、何故マイアヘンだ? お前さんみたいなのなら"
恋愛には関心無さそうだから"
「好き放題言ってくれるわねえ・・・これでもマイアヘン様の
残っていた干し肉を口に放り込み、ムッツリ顔のフェリス。
ちなみにそれぞれ旅の神、星の彼方を旅する神、盗賊と幸運の神、愛の女神、人間から成り上がったユーモアと魔術師の神である。
ザギグは愉快犯的に性格が悪いことでも有名だ。
一方"盾の乙女"マイアヘンは善なる太陽神ペイロアの眷属で、弱者を守る守護者の神である。
確かにこういう自由奔放な人間が好き好んで信仰する神ではない。
「まあいいわ。私がマイアヘン様を信仰している理由、それはもちろん・・・」
「それはもちろん?」
「かっこいいからよ!」
「・・・」
思わず絶句したイサミのことをどう解釈したのか、フェリスは指を一本、ぴんと立てて得意げに話し続ける。
「マイアヘンの
私は聖騎士の召命は受けなかったけど、
強く! 優しく! かっこよく! そのために髪だって伸ばしたんだから!」
ふぁさ、と髪をかきあげてポーズを取るフェリス。
呆れた視線が集中するが、意にも介していない。
(こんなんでも
「神なんてみんないい加減なもんだよ」と言っていた己が主神と、オラリオで好き放題神生を謳歌していたろくでなしの神どもを思い出し、思わずこめかみをもむイサミである。
まあ実際に神が奇跡の力を授けているあたり、こんなのでもマイアヘンが重んじる善性や高潔さ、弱者を守る心は備えているのであろう。
「やっぱロングソードよりバスタードソードよねー! ロングソードも悪くはないけどありふれすぎてるし、ひと味違った選ばれし勇者の武器って感じがひしひしとするわ! "盾の乙女"ばんざい!
正直ザン・ヤイを信仰して《知識への献身》をしようかとも思ったけど、なんか私の趣味に合わなかったしね! やっぱ黄昏の女神なんて根暗よ! 人間ポジティブになった方が勝つの!」
備えているはずである、たぶん。
この辺ややこしいですが、トリルは惑星の名前、フェイルーンはその中の、冒険の主な舞台となる大陸の名前ですね。
ちなみに世界全体を指す場合は「忘れられた世界(フォーゴトンレルム)」とも言います。
同様にオアースは世界(惑星)の名前、フラネスはその中のオアリク大陸の中央地方、グレイホークはその中の最も栄えた中心的都市国家です。なので世界全体を指して「グレイホーク世界」とも言います。
ややこしいですねw