ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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18-3 グレイホーク

「まあともかく、しばらく行動を共にして貰うって事でいいのかな」

「それはまあね。こーんな面白い一行、こっちから同行頼みたいし!」

「お前さんには負けるよ」

 

 肩をすくめるイサミだが、実際の所は似たようなものであろう。

 

「それでイサミくん。これからどうします?」

「そうですね・・・神様、やっぱり封印世界の次元障壁は、外から入るのも厳しいんですよね?」

「まあね。正直あれだけ大がかりな魔法装置とは言え人間の力で突破できたのが・・・いや、そうでもないのか」

「というと?」

「ああ、そう言えば話してなかったっけ? つまりだね・・・」

「いい加減脇道にそれるのはやめましょう。興味深い話ですが・・・興味深い話ですが!」

 

 先ほどからの度重なる脱線に知的好奇心より仕切り属性がまさったか、アスフィがヘスティアの話を遮る。

 ヘスティアもさっき脱線をとがめただけに、ばつが悪そうに笑ってごまかした。

 

「ああうんそうだね! 今はこれからどうするかを考えようじゃないか!」

「おっしゃる通りで・・・ダイダロス殿、一応確認しますが例の魔法装置は一方通行ですね?」

『本来は迷宮の力を循環加速させ、世界の壁を打ち破ってトリルまでの門を開くためのものだ。

 未完成であるのと、恐らくは力の蓄積が不十分であったゆえ、中途半端に次元の壁を破ってしまったがな・・・まああれでは足りぬとわかっただけでも収穫よ』

「確かに。貴重なデータが取れましたね。とはいえ強固なのは封印世界の障壁でしょうから、トリルの次元座標さえわかれば・・・」

「い・さ・み・く・ん?」

「スイマセンスイマセンスイマセン」

 

 コメツキバッタのようにヘコヘコと頭を下げるイサミ。

 何度注意されてもこうして脱線してしまうのだから、全面的にこっちが悪い。

 本来はアスフィも話に混ざりたいところを、我慢して仕切りに徹しているだけに尚更だ。

 

「まあ・・・となると手段としては二つだな。この世界から封印領域の障壁を抜くか、いったんこの世界の外に移動して、マナのある世界から改めて次元門なり何なり開くか、だ。

 たしかスタッフ・オブ・ザ・マギには"次元界転移(プレインシフト)"の力もあったと思いますが・・・」

『次元界を特定するための触媒がない――封印世界のそれならこの場ででも用意できようがな』

「ですよねー」

 

 次元界と次元界の間を渡るためにはいくつかの手段があるが、"次元界転移(プレインシフト)"の呪文で移動するには触媒として目標の次元界の物質で作った金属棒が必要になる。

 上位呪文の"次元門(ゲート)"ならどうにかなる可能性もあるが、それとて次元界同士の距離が離れている現状では難しい。

 更に言えばイサミは封印世界以外の次元界を知らないので、どうにかして他の次元界の座標を確定する必要がある。

 

 かといって、ここから直接封印世界――オラリオに帰るには、神々が作った障壁に穴を開ける必要がある。

 エルミンスターの口ぶりからして、恐らく肉体を持つものは魂だけの存在に比べて障壁をすり抜ける難度が格段に高いはずだ。

 

「肉体を持ったまま、この人数で神々の障壁を抜ける方法か・・・難易度高いなあ」

 

 悩む兄を見て、ベルも肩の上のミニ紐神に顔を向ける。

 

「神様。神様の力で何とかならないんですか? 神様もその、しょうへき?を作ってるんだったら、神様の作った部分に穴を開けるとか」

「うーん、難しいかなあ。できるかどうかわからないし、できたとしても障壁はとても高度なバランスを保って作ってるから、ボクの部分に穴を開けると、全部がおじゃんになりかねない。

 それこそゼウスとかオーディンみたいな器用で力もある神ならどうにかだけど・・・」

「そうですか・・・」

「いや、いい線いってるぞ。それで行こう、ベル」

「「え?」」

 

 弟と主神が揃ってきょとん、とする様を見て、イサミはくっくと含み笑いを漏らした。

 

 

 

 イサミのアイデアは何の事はない、神の力を借りて障壁を突破しようというものだった。

 ただしオラリオのではない。トリルないしオアース・・・つまりダイダロスやフェリスの出身世界の神々である。

 幸いフェリスがオアース(グレイホーク)から次元の海を渡ってやってきたばかりだ。次元界同士の距離が不安定とは言え、そうすぐに離れるものでもない。

 せっかく未知の世界に来たばかりなのにとむくれるフェリスをなだめすかし、彼女の持つオアースの次元座標を用いて、翌日マナを蓄えたイサミの"ゲート(次元門)"呪文により一行は更なる異世界――ロビラーやグラシアの来た世界でもある――に跳んだ。

 

 

 

「翼よあれがグレイホークの灯~♪」

「変な歌ねえ。それはともかくようこそグレイホークに! フラネスの宝石、オアースで最も繁栄している都市!」

 

 グレイホーク自由都市を見下ろす丘の上、一行たちはいた。

 大きく手を広げてグレイホークを紹介するフェリスに、だが一同の反応は微妙なものだった。

 

「なによー、ノリが悪いわね」

「つってもなあ・・・」

 

 グレイホーク市の人口は約七万。いわゆる中世レベルのファンタジー世界では文句なしの巨大都市であり、オアースの代名詞ともなるくらいの都市だ。

 が、同じD&Dの背景世界であるトリル(フォーゴトンレルム)最大の都市ウォーターディープは人口13万。同じくエベロンの最大都市シャーンは20万。オラリオに至っては50万を超える人口を擁する超超超巨大都市である。

 彼らから見れば、グレイホーク市と言えどもオラリオの一区画程度の大きさに過ぎない。

 

「50万!? 外方次元界じゃなくて物質界の都市で?! はー、そりゃ凄いわねえ」

「フラネスより広い範囲、大陸全土から人が集まってくるからな。封印世界に戻れたら案内してやるから、今は戻る手伝いを頼むよ」

「OKOK、まかせておきなさい! そーれ、黙って私について来い!」

 

 胸を叩くと、後ろも見ずに意気揚々と歩き出すフェリス。

 互いに顔を見合わせて苦笑すると、イサミ達も三々五々その後に続いた。

 

 ちなみに死霊王たちは"携帯穴(ポータブル・ホール)"に纏めて詰め込んである。

 呼吸が必要ないから中にずっと入っていても窒息しないし、太陽の光も届かない。

 というかそもそも冒険者の町でもあるグレイホークは基本的にかなり出入りが自由な場所ではあるが、さすがに死霊王だの吸血鬼だのを中に入れてくれるほど寛容ではないのもある。

 まあ広い次元界の中には、そうしたアンデッドどもが昼日中(?)から堂々と歩いてる都市もなくはないのだが。

 閑話休題(それはさておき)

 

 

 

 さすがに地元民、フェリスは数多くの人種、種族でごった返すグレイホークの街路をすいすいと泳いで行く。

 そうした国際都市だけに、雑多な様子の一行もさほど目立たない。

 時折一行の実力に気付いて目をみはる戦士や魔術師がいたりもするが、特にちょっかいを掛けられることもなかった。

 むしろオラリオともまた違う「ファンタジー世界の風景」に封印世界生まれの一行が目を見張ることも多い。

 

 

 

「何だ、あのでかいの? 口元に牙があるぞ!」

「鼻がそれっぽいし、こっちの猪の獣人でしょうか・・・?」

「ありゃハーフオークだな。向こうのオークと違って、こっちのは人型種族の一種なんだ。まあ悪属性が多いからしょっちゅう戦争はしてるが、殺すしかない相手ってわけじゃない」

「えええ・・・」

 

 

 

「え? あの一団ひょっとしてノームですか!? あんなに沢山いるのは初めて見ましたよイサミ様!」

「ああ、ノームもこっちでは精霊じゃなくて人型種族の一員でな。タチの悪い冗談が大好きな連中だから気を付けろよ」

「そ、そうなんですか」

 

 

 

「あれってひょっとして『じいん』ってやつー?」

「神が地上に降りてくる前はそう言うのもあったらしいなあ」

「そういやうちのファミリアのホームも寺院だったんだよなあ」

「言われてみればそうだな。あれは・・・武勇と名誉の神ハイローニアスの神殿だな。戦士とかパラディン・・・聖なる戦士が帰依していることが多い」

「聖なる、ねえ・・・」

「なんだよ! 神が聖なる者であって悪いか! それに仕える存在だって聖なる戦士だろ!」

「か、神様」

「あんまり大声でそういう事を言うなよ? こっちでは神はオラリオにいるようなろくでなしの集団じゃなくて、空の上から恵みを与えてくれるありがたーい存在なんだ。

 神から力を授かる"僧侶(クレリック)"なんて存在はオラリオにはいないが、この世界で癒しの力を持ってるのは大体僧侶だし、信者の悩みを聞いたり問題を解決してくれたりするのも僧侶だ」

「よくわかんねえなあ。ファミリアと何か違うわけ?」

「もの凄く大雑把に言えば似たようなものではあるが・・・あれだ、僧侶や信者の前で神様を軽んじる発言をするのは・・・」

「するのは?」

「フレイヤ・ファミリアの前で女神フレイヤを侮辱するのと同じだと思え」

「OK、とてもよくわかった」

 

 

 

「この辺は一般向けの区画か。冒険者向けの区画はどこらへんだ?」

「ないよ、んなもん。あんなでかい迷宮、こっちの世界には――まあ、滅多には――ない」

「ないのかよ・・・」

「そもそもモンスターを生成したりはしないからな。住み着いたモンスターを倒したらそれで終わり、ただの空の洞窟だ。

 そうだな、こっちの世界の冒険者ってのは、ダンジョン探索もするけど基本的にはギルドの冒険者依頼(クエスト)みたいな依頼をこなすことで生計を立ててる何でも屋、トラブルシューターなのさ。

 隊商の護衛、金持ちのペットの捜索から犯罪捜査の手伝い、ドラゴンの討伐までそれこそピンキリだけどな」

「うーむ」

 

 

 

 大路地から曲がりくねった裏路地に入り三十分ほど歩いた後、一行はそれほど大きくはないが瀟洒な邸宅の前に出た。

 が、魔術師であるイサミの目には見かけとは違うものが映っている。

 塀の上に仕掛けられた警報の結界、門の奥に見える庭や玄関に続く石畳の上にいくつも仕掛けられた魔術的トラップ。

 明らかに、かなり高位の魔術師の邸宅だ。

 フェリスが無造作に呼び鈴を鳴らす。

 

「ここは?」

「"八者の円(サークル・エイト)"ってわかる? その一員、ジャラージ・サラヴァリアンの家よ」

「女魔術師ジャラージか!」

 

 "八者の円(サークル・エイト)"とは、オアース世界における均衡を守り、世界を維持することを目的とする秘密結社である。

 エルミンスターによれば、その首魁たるモルデンカイネンもオラリオの封印世界の事を知っている人間の一人だ。

 確かにコンタクトを取るには最適の人選と言えた。

 

「しかし凄いな。ジャラージとコネがあったとは」

「コネ? そんなもの無いわよ。会ったこともないわ」

「おい!?」

 

 顔色を変えたイサミだったが、玄関口から召使いとおぼしき人間――もっとも、見た目通り人間とは限らないが――が出てきたので慌てて口を閉じた。

 

「どちらさまでしょう」

「ウィムのフェリス。"SOS団(ソサエティ・オブ・センセーション)"のアーデント・ディレッタントよ。ジャラージ女史に取り次いでちょうだい」

「お約束は?」

「ないわね」

「では申し訳ありませんが・・・」

 

 紋切り型の文句で門前払いをしようとした召使いの言葉が止まった。

 フェリスが右手でゆっくりと胸の前を払い、手のひらを相手に向けてから裏返し、指を素早く小指から折りたたんでまたぱっと開く。

 同様の良くわからない仕草を数回すると、召使いが恭しくお辞儀をした。

 

「少々お待ちください。主人に取り次いで参ります」

「よろしくねー」

 

 相変わらずの軽い調子でひらひら手を振るフェリス。

 召使いが玄関の扉の中に消えると、一同の視線がフェリスに集まった。

 代表してイサミが口を開く。

 

「・・・一体何をしたんだ?」

「コネも面識もないけどね、手練手管ってものがあるのよ」

「何かの符丁か?」

「ま、そんなとこ」

 

 けらけら笑うフェリス。

 詳しく説明する気はないらしいが、ともあれ彼女のおかげで最初のステップはクリア出来たようだった。

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