ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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18-5 神々の大魔道士

 美しいが幾何学的で無機質さを感じさせる、静寂に満ちた大広間。

 その玉座に魔術と知識の大神ボカブは座していた。

 威厳のある顔立ちに長い白髪、同じく長く白いひげ。ゆったりした紫のローブに杖。世の人間が「賢者」とか「魔術師」と言われて思い浮かべる典型のような風貌だが、ただの魔術師ではないことは一目瞭然だ。

 

 杖の先端には"ボカブの五角形"――中央に目をあしらった、やや平べったい五角形の聖印が輝いている。

 これこそ"ボカブの杖"、多元宇宙で初めて産み出された、"大魔術師の杖(スタッフ・オブ・マギ)"のオリジナルなのだという。

 劣化コピーですらアーティファクトの域にある魔杖。文字通りの神器である。

 

 玉座の前に進み出て片膝をついた三人に、ボカブが声を掛ける。

 

「立つがよい。・・・久しいな、優しき炉の女神よ。息災であったか」

「えっ?」

 

 思わずすっとんきょうな声が出た。

 目を丸くしたヘスティアが驚いた声で問い返す。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ。ボカブ、君ボクのこと覚えてるのかい?」

「無論だ」

 

 こともなげに頷く魔術と知識の大神。

 かつての戦いのおりには、地球――封印世界だけでも数百を数える神々がつどい、タリズダンに戦いを挑んだ。

 あまたの次元世界から集まった神々や魔王を合わせれば、その桁は二つ増える。

 ヘスティアは地球の神々のその他大勢だったし、ヘスティアにしてもボカブのことなどまったく覚えてはいなかった。

 言葉を重ねようとしたヘスティアから関心を失ったかのように視線を外し、ボカブはモルデンカイネンに説明を促す。

 

「はい、おおむねは先だってお伝えした通りですが・・・詳しいことはこちらの者からお聞きください」

 

 モルデンカイネンが自分を指すのに合わせ、恭しく一礼するイサミ。

 ボカブが頷いた。

 

「では話すが良い」

「かしこまりました、"神々の大魔道士"よ」

 

 もう一度、仰々しいほどに丁寧なお辞儀をしてからイサミは語り始めた。

 

 

 

 イサミが怪物達の跳梁跋扈やダンジョンの事々を語り終えると、僅かな間を置いてボカブがふたたび頷いた。

 

「よかろう。確かにタリズダン復活の時が近いと考えるだけの根拠はある。

 なれば我らも再び動かねばなるまい」

「・・・!」

 

 その言葉に目を見張ったのはモルデンカイネンだ。

 彼は自分の守護神が、どれだけ腰の重い神かよく知っている。

 

「それほどに状況は切羽詰まっておりますので?」

「その可能性は高いと言わざるをえんな」

 

 一方でやや首をかしげているのはイサミ。

 なおベルは緊張と理解が追いつかないのとで、ほぼ置物になっている。

 

「よろしいでしょうか、"神々の大魔道士"よ。怪人たちや緑の胎児の存在だけでそこまではっきりとわかるものなのでしょうか?」

 

 その問いにボカブはかえって意外そうな顔になり、ヘスティアの顔を見た。

 一瞬きょとんとしたヘスティアだったが、すぐに得心した顔になる。

 

「そうか、君たちには教えていなかったね。タリズダンを封印するために封印世界が作られたって言ったろう?

 それじゃタリズダンはどこに封印されていると思う?」

「・・・ダンジョンの奥底、とかでしょうか?」

 

 うすうす思っていた事を口に出すイサミ。

 いっひっひ、とこの神にしては珍しい、いたずらっぽい表情でヘスティアが笑った。

 

「惜しい、もうちょっと足りないね。いいかい、タリズダンは神ではなく別の形に変えられてこの世界に封印されたんだ。

 君たちがよーく知っているものにね」

「・・・・・・・・・!」

 

 正解に思い至ったのか、イサミが目を見張った。

 

「そうさ。世界で唯一オラリオにだけあるダンジョン。()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「え・・・ええええええええええ!?」

 

 ベルの口から驚愕の絶叫が漏れる。

 衝撃の事実に一瞬固まったイサミが、その声で再起動した。

 

「そうか、魔法的なエネルギーである魔石や生物であるモンスターを無数に作り出し産み出すダンジョン、その力の元は何かとずっと不思議に思っていたが・・・タリズダンの神格としての力だったのか!それならばダンジョンが再生するのも全く不思議ではないし様々なモンスターや物品を産み出すのも不思議ではないつまりモンスターとは本質的にタリズダンの使徒であり、地上に侵攻しようとするのは封印を破ろうとするタリズダンの意志の現れだったわけだダンジョンの中に天然の武器庫があったりモンスターたちを養う機構が存在していることもそれなら不思議ではないなにせ意図してそうした存在として産み出しているんだからなリド達については本来ゴーレムと大差ない単なるOSであったモンスターの魂が使い回しで魂の経験を積むうちに自意識を獲得したと見るべきか・・・」

 

 ブツブツと早口でまくし立てるイサミにベルとモルデンカイネンは苦笑して、ボカブは無関心に、そしてヘスティアは胡乱な視線を向ける。

 

「ベルくん、なんだいこりゃ?」

「ああ・・・時々こうなるんです。しばらく放っておいたら直りますから」

「魔術師や賢者にはたまにいるタイプです。特に害があるわけでもないのでご寛恕ください」

 

 さすがに付き合いが長いベルは慣れたもので、モルデンカイネンも似たようなのを何人も知っているだけに悠然としている。

 ヘスティアが半目で見やる間にも、発音が思考に追いつかないのか、聞き取るのも苦労するような早口でイサミは言葉を紡ぎ続ける。

 高速詠唱技術の完全な無駄遣いだ。

 

「迷宮の中の様々な空間に関してはタリズダンの内面インナースペースが形になったものと考えるのが妥当だろうかだが異質に過ぎる彼方の存在にしてエントロピーの神にしては迷宮の楽園や闘技場など見慣れた景色がありすぎる封印や封印した神々の意識など様々な物に影響されたと考えた方が良いかもしれないそういえばダイダロス殿の人造迷宮で次元障壁を突破できたのもそのエネルギー源が迷宮の力即ちタリズダンの神力であったと考えるとうなずける待てよ迷宮から産出される様々な存在は全てタリズダンの神力を用いて作られたもののはずつまりそれを奪ってダンジョンの外に持ち出す冒険者たちの活動はタリズダンのエネルギーを削いでいるとも考えられるわけで千年前に復活の徴候があったことやそのタイミングで神々が降りて来てオラリオと冒険者という職業が生まれた事を考えると・・・」

 

 ベルが娼館から朝帰りでもしたら見せそうな表情のまま、ヘスティアの首がぐりん、とモルデンカイネンの方に向いた。

 

「なあ、モルデンカイネン君。電撃の呪文とか使えないかい? この妙ちくりんな全自動たわごと垂れ流し機に叩き込んでやったら動作が正常に戻るんじゃないかと思うんだが」

 

 半分くらい本気でのたまうヘスティアに、このオアースに知らぬ者とてない大魔術師は更に苦笑を深めるのだった。

 

 

 

 ボカブとの会見を終えての帰り道(結局焦ったベルが体を揺らすことでイサミは正気に戻った)。

 再び高さ数キロの階段を下りていく途中で、不意にヘスティアがイサミの方を見る。

 先ほどのようなじとっとした目で。

 

「・・・なんでしょう?」

「何か引っかかってたんだけどね。君、何でボカブに対してはあそこまで恭しい態度なんだい?

 主神たるボクにはめちゃくちゃぞんざいなくせに!」

 

 ああ、と頷いたイサミが無造作に答えた。

 

「そりゃボカブ様が敬うに値する存在だからに決まっているじゃあないですか」

「ボクには敬う価値がないっていうのかーっ!」

 

 うにょうにょと文字通り怒髪天を突くヘスティアに、ベルが慌ててフォローを入れる。

 

「そ、そうだよ兄さん! 神様は神様なんだから敬わないとだめじゃないか!」

「そうだベルくん! この不敬者にもっと言ってやれ! ボクがいかに敬うべき存在であるか!」

「ええとその・・・あの・・・神様だから!」

「ベルくぅーん!?」

 

 ベルは基本素朴な田舎者であり、神は敬うべきと言う人間だが・・・それでもヘスティアの敬うべき点を上げるのは難しかったらしい。

 調子に乗っていたヘスティアが、一転してムンクの『叫び』のような顔になる。

 

「俺は魔術師ですから魔術の神となったら敬わないわけにはいきませんし・・・神様の場合は親しみやすすぎるのがまずいんじゃないですかねえ。まあ威厳とかなくても、誰にでも愛されるのはいいことだと思いますよ」

「ほめるふりしてさらっとディスってるなよ君は!」

 

 うがー、と吼え猛る紐神ではあるが、なにぶん1/10サイズなので髪でぺしぺしひっぱたくことすらできず、地団駄(ベルの肩)を踏むばかりである。

 

「・・・・・・」

「あは、はははははは・・・」

 

 もはや呆れ顔を隠しもしなくなったモルデンカイネンに対し、ベルはこわばった愛想笑いを浮かべるしかなかった。

 




 シーギリヤ・ロックはスリランカの世界遺産。
 昔の王様が作らせた、直方体の巨大岩の上に立つ空中宮殿です。
 もうね、ホントにジャングルからにょきっと岩山が突き出してるのw

 https://news.arukikata.co.jp/file_img/18020611374150066.5.jpg

 原作のイラストで一番お気に入りなのは第七巻第三章の扉絵(あれです、ベルくんの朝帰り直後のヘスティア)。
 マナのない封印外世界でも魔石灯が使えるのは、それがマナではなく魔石という、神の力を使った道具だからですね。
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