ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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3-2 専門家の議論(オタトーク)

 おかわりをいれた後、イサミが一つの指輪をテーブルに置いた。

 

「・・・これは?」

「姿隠しの指輪ですよ。アスフィさんたちは兜を使ってるようですけど・・・今度、見せて貰えます?」

 

 どきり、とアスフィの心音が高鳴る。

 自分の知らない魔道具に、研究者としての好奇心が激しくうずく。

 

(だめです! 姿隠しの兜は我がファミリアの最大の秘密! それを余人に明かすわけには・・・

 いえですがしかし、このようなチャンスは二度と・・・!)

 

 葛藤する間にも、イサミはポーチや背負い袋から、アスフィが見た事も聞いた事も無いようなアイテムを取り出して並べていく。

 

「こう言うのもありますよ。"石の軟膏"と言って、肌に塗ると鉄のように固くなり・・・ああ、こっちは周囲に空気の膜を作って、毒ガスを防いだり、水中でも呼吸できるように・・・」

 

 しばし躊躇した後――アスフィは自分の欲望に負けた。

 そこから専門家同士の話が弾み、後は冒頭のごとくである。

 

 この世界に存在しないD&D世界のマジックアイテムの知識はアスフィを興奮させたし、アスフィのひらめきと柔軟な発想はイサミにとって感動すら呼び起こすものであった。

 これで話が弾まないわけがない。

 

 実のところ、イサミとしては自分の秘密を明かすリスクを冒してでもコネを作っておきたいという思惑があったわけだが・・・話をしているうちにそんな思惑は綺麗さっぱり忘れてしまっているのだから世話はない。

 普段語り合える相手がいない同好の士(オタク)が出会えば、大体こんなものである。

 

 

 

 しかし熱心に議論をしつつも、イサミはそれまでの疑問を再確認していた。

 そもそも『何故アスフィと話が合うのか』ということだ。

 

 D&Dにおける「マジックアイテム」は、武器防具、ポーション、巻物、魔法の杖、指輪、その他の様々な魔法の品・・・

 それら全てのことであり、魔法を使える術者なら、理屈の上では全てを一人で作ることが可能だ。

(もちろん人やクラスによって作れたり作れなかったりはある)

 

 対してこの世界では武器と防具は鍛冶師の、ポーションは調合師の、杖は魔術師(メイジ)の領域で、アスフィのような超一流の魔道具作成者でも専門外のものは作れない。

 しかも、D&Dと違ってそれぞれの魔法の品に対応した魔法を保有している必要はない。

 

 なのに、イサミとアスフィの話は綺麗にかみ合っている。

 つまり基本的な理論、そして技法が共通していると言う事だ。

 あの怪人赤マントが言っていたように、随分変化してはいるが、ここはD&Dの世界だということらしい。

 

(魔法が使えなくても材料があれば作れるのは便利だと思うべきか、特定の材料がなければいくら高レベルでも作れないのは面倒だと思うべきか・・・まあ、痛し痒しだな)

 

 そんな事を考えたとき、柱時計が七時の鐘を鳴らした。

 どうやら、思いのほか長話をしてしまっていたらしいと気づき、イサミが周囲を見渡すと、微妙な表情をした弟と主神がいた。

 

「ああ、よかった。やっと戻ってきてくれたみたいだね。おなかぺこぺこだよ」

「これは気づかず失礼しました、神ヘスティア。

 ヘルメス・ファミリアで団長を務めさせていただいております、アスフィ・アル・アンドロメダと申します」

 

 アスフィが立ち上がり、綺麗な一礼をする。

 とてもたった今まで目をきらきらさせて熱弁を振るっていたのと同一人物とは思えない。

 洗練された身のこなしに、思わずヘスティアが感嘆の声を漏らした。

 

「おー。ヘルメスのところの子かい。ヘスティアだ、よろしくな。こっちは知ってるかもしれないけど、イサミ君の弟のベル君だ」

「よ、よろしくお願いします・・・」

「よろしく。とはいえ、そろそろいい時間ですし、おいとましましょうか」

「待ちなよ。どうせなら夕食も食べていったらどうだい?」

 

 再度一礼して立ち去ろうとするアスフィをヘスティアが呼び止めた。

 

「よろしいのですか?」

「なに、イサミ君の料理は絶品だからね! 問題ないよね、イサミ君?」

「ええ。今日はいい白身魚が手に入ったので、ポワレ・・・炒め焼きにしますよ」

「よし、じゃあ決まりだ!」

 

 満面の笑顔でどすん、とヘスティアがアスフィの向かいのソファに座り、アスフィも一礼して再度腰を下ろす。

 これはひょっとして探りを入れるつもりだろうか、という疑いを抱きつつ。

 

「そういえばヘルメスはどうしてる? 下界に来てから会ってなくてさー。それほど親しかったわけでもないけど、長く会ってないと気になるもんでね」

「しょっちゅう旅に出てばかりですよ。オラリオには年の半分もいないのではないでしょうか」

「あはは、あいつらしいなあ。放埒とか奔放って単語はあいつのためにあるようなもんさ」

 

 五分ほども会話を交わすと、これは探りとかではなく、単に会話をしたいだけなのではないかとアスフィはうすうす感じ始めていた。

 そして、目の前にいるのが自分の主神のような食わせ者ではなく、むしろ表も裏もない単純な神物ではないかと確信した頃、イサミがベルを呼び、食卓の準備が始まった。

 

「あの、わたくしもお手伝いを・・・」

「いいからいいから。君はお客さんなんだから、座っていてくれたまえよ」

 

 と言われても、さすがに神に配膳をさせてふんぞり返っていられるほど、アスフィの心臓は強くない。

 多少は手伝って食卓に着いた。

 

 メニューはバゲット、いわゆるフランスパンと粉チーズをまぶしたサラダ、カボチャを裏ごししたスープ、メインディッシュの魚のポワレ。そしてジャガ丸くんである。

 

(何故このメニューでジャガ丸くん?)

 

 いささか戸惑ったものの、まずスープを口にして、心の中で唸る。

 さらにサラダを一口、そしてポワレをひと切れ。バゲットを一口ちぎり、上品に口に運ぶ。

 どれもが舌の肥えたアスフィをして満足させる味だった。

 

 そして目を向ける最後の一品。

 

(もしやこれもジャガ丸くんに見えますが・・・)

 

 少なからぬ期待と共にフォークで小さく切ったジャガ丸くんを口に運ぶ。

 ジャガ丸くんだけは普通のジャガ丸くんだった。

 

 

 

「ごちそうさまでした。大変おいしかったです」

「お口にあったならよろしいですが」

「いえ、お世辞抜きで美味でした。そのまま店にも出せますよ、これは」

 

 照れたように頭をかくイサミ。

 自分のために身につけた技術だが、それでも褒められるのはやはりうれしい。

 ベルも自分が褒められたかのようにうれしそうな顔になる。

 

 アスフィはそんな兄弟をほほえましそうに見つめ、音を立てずに食後の紅茶を一口。

 ほうっ、と息を吐いた。

 

「癒されますねえ・・・」

「・・・疲れてるんですか?」

「あ、いえ・・・」

 

 思わずぽろっと本音が出てしまっていたことに気づき、赤面するアスフィ。

 イサミから顔をそらすと、気の毒そうなヘスティアの顔があった。

 

「・・・ああ、君はヘルメスのところの子だから・・・」

「わかっていただけますか・・・」

 

 同情のまなざしを送るヘスティア、額に手を当てて渋い顔になるアスフィ。

 イサミとベルは、それだけで彼女の主神がどう言う神かわかったような気がした。

 

 

 

 

 

 さすがに夜も更けたことでもあるし、とアスフィは帰って行った。

 一応イサミが送って行こうと提案するが、笑みと共にやんわりと断られた。

 少々残念には思ったが、格上の冒険者であるから強いては言わない。

 

「お気をつけて」

「ええ。ごちそうさまでした。おやすみなさい」

 

 アスフィが辞した後、そういえば、とイサミは思い出す。

 

「神様、明後日からちょっと遠出するかもしれません」

「ん、ダンジョンの奥深くに行くって事?」

「ええ、知り合った上級冒険者の人に誘われまして。そのあたりで仕事が終わるんで、リヴィラの街で会おうかって」

 

 そこで洗い物を終えたベルが居間に戻ってきた。

 

「リヴィラって何だっけ?」

「エイナさんが言ってたろ。迷宮の中の安全地帯、18階層にある街だよ。

 そこかしこから水晶が生えててな、天井の水晶が光ってて地上みたいに明るいし、広い森と綺麗な湖があるんだ。すごくいい景色だぞ」

「へー・・・って、君もう18階層に行ってるのかい!?」

 

 目を丸くする神と弟の視線をそしらぬ顔で受け流すイサミ。

 

「ええ。それくらいでなきゃ、こんなに生活に余裕が出るわけはないでしょう?」

 

 実のところは18どころか43階層にまで到達しているのだが、弟はもちろん、えらそうな事を言っている主神も嘘はへたくそだ。

 教えても構わないと言えば構わないが、黙っているにしくはなかろうとイサミはすっとぼける。

 

「そっかー、すごいなぁ」

「何だったら土産に水晶の一つでも持ってきてやるぞ」

「いいね。その隅にでも飾ろうか。そういえば、知り合った上級冒険者の子っていうのは?」

「ええ、ガネーシャ・ファミリアの人で、ハシャーナ・ドルリアさんと言います」

 

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