ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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18-6 死の国の大魔王

 属性、という概念がある。

 善と悪、あるいは秩序と混沌。

 地球においては「いい人」とか「気まぐれな人」程度の性格の傾向に過ぎないが、D&D世界において属性とは()()()()である。

 善であると言うこと、悪であると言うことそれ自体に力が宿るのだ。

 火龍が火の属性を帯びるように聖騎士は善なる属性を帯びる。モンクやサムライは秩序の属性を帯び、蛮族戦士(バーバリアン)吟遊詩人(バード)はしばしば混沌の属性を帯びる。

 

 それでも人間が住む物質界においては個人の問題に過ぎないのだが、神々が住む外方次元界――いわゆる神界や魔界と呼ばれるような世界だ――ではこれが問題になってくる。

 物質界やボカブのいた"属性入り乱れる異境"アウトランズは属性を持たない中立の世界であるが、例えば混沌の悪魔であるデーモンの故郷、奈落界アビスは悪と混沌の属性を持つし、"究極なる善の次元"と称される祝福の野エリュシオンは極めて重度の善属性を持つ、と言った具合だ。

 世界そのものが属性を帯びているため、その属性を持たない中立の者はそれなりに、相反する属性を持つものはかなりの圧を世界そのものから受ける。火の属性を持つものが氷の世界でダメージを受けるように、世界そのものからの反発を受けるのだ。

 

 たとえばイサミは「真なる中立(中立にして中立)」であり、ベルとヘスティアは「中立にして善」であるので、アビスではイサミは心持ち程度の、ベルとヘスティアはそれなりの圧を受ける。

 一方でエリュシオンにおいては、ベルとヘスティアは全く何も感じないが、イサミはそれなりの圧力を受けることになる。

 反発が肉体的なダメージではなく、精神的なプレッシャーであることだけが救いだろうか。

 

「い、一体これのどこが精神的なプレッシャーだって言うんだい・・・!?」

「これは世界の圧力じゃなく、"あいつ"の圧でしょうねえ・・・一応"次元適応形態(アチューン・フォーム)"の呪文は掛けてありますし」

「か、神様しっかり!」

「見た感じ、ダメージじゃなくて筋力を吸われているだけだ。動けなくはなるが死ぬことはないだろう」

「くそう、冷静だな君は・・・」

 

 ベルの手の上でぐったりしながらぼやくヘスティア。

 ぼやけるなら大丈夫だろうと、イサミは彼女から視線を外して正面を見る。

 

 ――邪悪の化身が、そこにいた。

 無数の骨を継ぎ合わせて作ったその玉座から立ち上がれば、身長は5m近くにもなるだろうか。

 牙の生えた獣の顔、山羊のようにねじくれた長い角、屈強な人型の体躯、山羊の蹄を持った足。

 背中には蝙蝠のような翼があり、先端の尖った尻尾がうねっている。

 

 見た百人が百人とも「悪魔」と表現するであろうそれこそは不死者の王、死の王国タナトスの支配者、《奈落》の魔王(デーモンロード)たちのうちでも三本の指に入る存在――あえて陳腐な表現をするならば、文字通りの大魔王。

 かつて神であったもの、死の秘密を握るデーモンロード、オルクス。

 

 謁見の大広間には邪悪と混沌が満ち、グールキングやロードヴァンパイア、リッチと言った強力なアンデッド、さらには魔族の将軍であるバロールなどが控えている。

 玉座の周囲には無数の影がたゆたい、その前に控えるイサミ達を闇の舌のようにちろちろと舐めている。

 さらにはオルクスのプレッシャーが物理的に作用しているのか、それともそう言う仕掛けか、玉座の周囲では体の重さが数倍にも感じられる。

 

 つまり、オルクスに謁見する者は影に筋力を奪われ、やがて力尽きて床に這いつくばるしかなくなるのだ。

 オルクスに対して服従の意志を示すかのように。

 

(・・・モルデンカイネンが「腕利きだけを連れてこい」と言った意味はこれか)

 

 今この場にいるのはモルデンカイネンとイサミ、シャーナ、レーテー、フェリス。椿、ティオナ、リド。死霊王ダイダロスと三人の従者たち。

 そして強引に付いてきたヘスティア(そのついでにベルも)。

 さすがというべきか、オルクスがモルデンカイネンの差し出した書状を読むのを待っている間にも揺らぐような者は一人もいない。

 突出してレベルの低いベルでさえ、オアースにおいては大概のクリーチャーを凌ぐ圧倒的な能力値を持っている。

 【神の恩恵】がいかに強力なバフであるかという証左であろう。

 更にベルについては背中の【幸運】スキルの文字が僅かに発光していたのだが、こればかりは兄にも本人にもわからないことである。

 

 やがてオルクスがモルデンカイネンの差し出した書状を読み終わり、山羊の頭がイサミ達をぐるりと見渡した。

 

「なるほど、無謀にもタリズダンに挑もうというだけはある。この程度で膝を屈するゴミはおらんか」

 

 彼なりにイサミ達を称賛するオルクスだったが、そこで目が嘲笑の形に歪む。

 

「まあ、一匹ばかり例外の小汚いペットがいるようだが」

「誰がペットだ・・・!」

 

 文句を言うヘスティアだったが、筋力を奪われへたっている状態ではその声にも力がない。

 その様子に、オルクスの目がさらに心地よさそうに細まる。

 混沌と悪の権化であるこの魔王からすれば、純粋に善であるこの女神は存在そのものが煩わしいのだろう。

 

「オルクス閣下。神ヘスティアはタリズダンの封印に力の大半を注いでおり、化身(アスペクト)にも僅かな力しか割けないのです。まして封印世界の外となると力も酷く限定されまして」

「ふん、そうだったな・・・だが貴様ら、本気でタリズダンに立ち向かう気か? かの神格は無数の多元世界を敵に回して戦った正真正銘の原初の怪物だぞ。まさか、我が影に数分耐えた程度で実力の証明になるとは思っておらんだろうな?」

「何がおっしゃりたいので?」

 

 用心深げなモルデンカイネンの言葉にオルクスの口が大きくめくれ上がり、無数の牙がむき出しになる。

 笑ったのだ。この上なく邪悪に。

 

「このオルクスに同盟を乞うのだ。しかも相手はタリズダン。実力の程を見せて貰わなくてはな」

「それはそうでございましょうが」

 

 そう言いつつもモルデンカイネンに動揺の色はない。

 

(・・・最初から予期してやがったな、このおっさん)

 

 イサミが軽い非難を込めて睨むと、この大魔術師はかすかに笑った。

 

 

 

「「オルクス! オルクス! オルクス!」」

 

 オルクスが髑髏のあしらわれた短杖――伝説に名高いワンド・オブ・オルクス――を振ると、イサミは巨大な闘技場の中央にいた。

 巨大な歓声に観客席を見やると、数十万に達しようかという無数のデーモンやアンデッドが席を埋めており、オルクスの座す貴賓席の脇に仲間達がいるのが見えた。

 心配そうにこちらを見ている者もいれば、のんきに干し肉をかじり始めるものもいる。

 

「「オルクス! オルクス! オルクス!」」

 

 悪魔王を讃える怒濤のような歓声。まるでロックスター・・・いや、意匠的にデスメタルかなとイサミはのんきに考える。

 仲間達に向かってイサミが手を振ると、オルクスが闘技場全体に轟く声で叫んだ。

 

「見よ我がしもべども! 必滅の神格に無謀にも挑もうとする愚者の姿を!

 身の程知らずにも我が力を借りうけんと頭を垂れてきた傲慢なる死すべき者(モータル)を!

 だが我が力は安くはなく、我が不死の軍勢の重みも軽くはない!

 この愚者どもは最低限、我にもの申すだけの力を証立てねばならぬ!」

「「「然り! 然り! 然り!」」」

 

 競技場に賛同の声が響き、波打つ。

 生ける者も死せる者も拳を――もしくは触手やかぎ爪を――振り上げ、叫び、イサミ達を罵倒する。

 並の冒険者なら心砕けてしまいそうな圧倒的アウェーで、イサミは一人静かにその時を待つ。

 

「出でよ我が闘士(チャンピオン)よ!」

 

 再びオルクスがその手の短杖を振る。

 イサミの前方30mほど。先触れもなく唐突に、それらが現れた。

 人型である。身長はオルクスと同じ5m弱ほど。それが十二体。

 濃い鉄灰色の肌に尖った耳、髪も鼻もない頭部。漆黒の重鎧。地面に立てているのは支えるのも苦労しそうな巨大な長柄戦斧。瞳のない黄色の目が自らに挑む愚かな有限寿命者(モータル)を見下ろしている。

 体の周囲にはおぼろげな霊気がたゆたい、時折人の顔の形を取ったり、苦しげなうめき声を上げたりしていた。

 

「・・・デス・ジャイアントか!」




巨人(ジャイアント)(イサミ)、伝統の一戦ですね!(ぉ
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