ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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18-7 魔術の虎と死の巨人

 観客席のヘスティアが、それを見た瞬間表情を一変させた。

 

「なんだい、あれは! 人の魂じゃないか!」

「その通り。デス・ジャイアントは殺した者の魂をああして捕らえるのだ。捕らえられた魂は、デス・ジャイアントを殺さぬ限り解放されず、蘇生させることもできぬ。あの者も、敗れればいずれかのジャイアントの霊気に囚われることになろう」

 

 何でもないことのように言うオルクスに、ヘスティアの顔が真っ赤になる。

 

「ふざけるな! 君たちは一体人の命を、魂をなんだと思ってるんだ!」

「きれい事を言うな、神よ。貴様らとて人の魂を管理するではないか。それに何の違いがある」

「大違いだ!」

「神ヘスティア。どうぞ抑えてください。譲れないものもおありでしょうが、だとしてもそれを乗り越えて我らはオルクスの力を借りねばならぬのです。全てはタリズダンを再び封印するため。なにとぞ」

「ぐぐぐぐぐぐ・・・」

 

 モルデンカイネンに諫められ、歯ぎしりするヘスティア。

 ぐっぐっぐ、とオルクスが愉快そうに喉を鳴らした。

 

「言っておくが蘇生ができないからと言って卑怯とは言うなよ? デス・ジャイアントどもはそもそも種族として蘇生を許されぬ。

 死の力に魂を売り渡した奴らは、力を得た代わりに死んだ瞬間魂が破壊されるようになった。

 奴らの魂は大いなる死の力の一部となるのだ。ゆえにこれは公平な戦いというものであろう」

「・・・どうしてそんなことに?」

「さてな。我も知らぬほど遠い昔のことよ」

 

 拳を握り、ヘスティアは祈るように闘技場のイサミを見つめた。

 

 

 

 オルクスが玉座から立ち上がり、大きく両腕を広げた。

 

「さあ、生と死を懸けた戦いを始めよ! 汝の力を示すがよい、身の程知らずの愚者よ!」

 

 戦闘開始の、それが合図。

 デス・ジャイアント達が咆哮を上げ、それと共に周囲の霊気に囚われた魂達が金切り声を上げる。

 巨人たちは一斉に左手を突き出し、自らの魂を売り渡して得た魔力をイサミに叩き付けた。

 

「・・・・・・・?」

「ふむ」

 

 何も起こらない。

 デス・ジャイアント達は明らかにたじろぎ、オルクスが僅かに称賛の声を上げるが、ヘスティアや他の者達には何が起こったのかまるでわからなかった。

 

「デス・ジャイアントは生まれつき解呪(ディスペル)の魔力を持っております。それなりの力を持つ解呪を十二も続けて受けて、イサミ殿の術は一つたりとも破られませんでした。大したものです」

「あ、ああ、なるほど・・・」

 

 イサミが常時自分にかけている強化術(バフ)のことである。モルデンカイネンの解説を受けて得心したヘスティア達だが、巨人たちが戦斧を構えたのを見て、再びその表情がこわばった。

 霊達の金切り声と共に、一斉に突進を始める巨人たち。

 霊気に囚われた魂達の叫びは生けとし生ける者に恐怖を呼び起こすが、そのようなものが無くても二階建ての家より高い巨人たちが一枚の壁となって突進してくるとなれば、それだけでも恐慌を巻き起こしかねない光景である。

 そのような圧倒的な光景を前に――イサミはただ、冷静に一言呟いた。

 

「"時間停止(タイムストップ)"」

 

 ギィンッ、と。耳を塞ぎたくなるような音が闘技場にいる全てのものの耳をつんざいた。

 それとともに戦斧を構えて突進していた巨人たちがバランスを崩し勢いよく倒れ込む。

 "時間停止(タイムストップ)"呪文からの、十連《呪文遅延》《非致傷化》"炎の泉(ファイアーブランド)"呪文。炎ではなく不可視の衝撃波として発動したがゆえに、魔力を見れないものは空気を軋ませる音を感じるのみ。

 土煙が上がり、それが収まった時に立っていたのはイサミ一人であった。

 

 

 

「やっ・・・」

「貴様ァ! 何をしておるか!」

 

 ヘスティア達が上げようとした歓声は、豪雷のごときオルクスの怒号によって遮られた。

 立ち上がり、右手のワンド・オブ・オルクスを握りしめてイサミを睨むオルクス。

 イサミはそれを正面から平然と受け止める。

 

「さて、わたくしは力を示せと言われたのでそうしただけですが」

「ここは生死を懸けた戦いの場ぞ! 殺せ! 勝者たるを望むなら殺せ!」

 

 オルクスの咆哮と共に、競技場の観客が一斉に拳を突き上げた。

 立てた親指を下に向け、奈落語で「殺せ!」「殺せ!」と闘技場をどよめかせる。

 その中でもイサミは泰然自若。

 

「御免蒙ります。それとも、呪文一つで彼らを昏倒させたのは力が足りぬと?」

「足りぬわ!」

「では言い方を変えましょう。敗者の命は勝者のもの。ならば奪うも捨て置くも自由ではありませぬか?」

「む・・・」

 

 僅かに眉をひそめるオルクス。

 機と見たか、イサミが声を張り上げてたたみかける。

 

「無様な敗北故、閣下がこの者たちの命を奪うというのであればそれは私ごときが口を差し挟むことではありません。

 しかし、闘技場では闘者たちがただあるのみ。観客の声も勝負の背景に過ぎませぬ。

 戦いは戦う者達のもの。戦いが終わっておらぬと言うのならば、たとえ閣下と言えども手出し口出しは無用に願いましょう。

 殺さねば戦いが終わらぬと言うのであれば、こやつらが立ち上がるたびに意識を刈り取るまで」

「・・・」

 

 視線をぶつけ合うオルクスとイサミ。

 平然とした風を装いつつ、少々押しすぎたか?とイサミが考えているうち、先に折れたのはオルクスの方だった。

 短杖を持たない方の手を振ると、「殺せ」の大合唱がぴたりと収まる。

 

「よかろう。見事な勝利に免じて特に許す。だがその大口、二度は許さんぞ」

「御意」

 

 見事な一礼をした後、イサミが昏倒したデス・ジャイアント達に向き直る。

 うん?とオルクスがいぶかしむ。

 

「なんだ」

「命を取るつもりはございませぬが、敗けは敗け。代価は払ってもらいましょう」

 

 短く呪文を唱えると、イサミの手から赤い光線が二度、三度と放たれる。

 それらは《連鎖》し、全てのデス・ジャイアント達に飛び移る。

 と、巨人たちを取り巻いていた霊気が消えた。それと共に金切り声を上げる魂達も消える。

 

「勝者の権利を行使いたしました。お気に障りましたか?」

「・・・よい。許す」

 

 仏頂面の(仏頂面の山羊というのも妙なものだが)オルクスが頷いたのを確認して、イサミは再び一礼する。

 "反魔法光線(アンチマジック・レイ)"。

 命中した対象を周囲の魔素(マナ)から断絶させ、"反魔法力場(アンチマジックフィールド)"内部のようにあらゆる呪文や超能力を使えなくしてしまう。

 デス・ジャイアントの霊気は呪文ではないが、やはり魔素(マナ)の力を借りた超常的な能力であるため反魔法力場(アンチマジックフィールド)の中では維持できず、捕らえられていた魂も解放されてしまう。

 イサミはそれを利用してデス・ジャイアントたちに囚われていた犠牲者たちを解放したのだった。

 

「・・・やったあ!」

 

 ようやっと、ヘスティア達が歓声を上げた。

 それと共に闘技場の観客たちから盛大なブーイングが上がる。

 今度はオルクスも止める気はないようで、ほおづえを突いて無言の仏頂面を貫いている。

 イサミは今度は観客席に向かって一礼。一層高くなるブーイングの中、ニヤリと笑った。

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