ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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18-8 九層地獄の大君主

 オルクスの不承不承の了承を取り付けた後も、善悪秩序混沌様々な勢力との接触は続いた。

 至光なる太陽神ペイロア。イスガルドの英雄神コード。高貴にして邪悪なる仮面の黒騎士神ヘクストア。エルフの守護神コアロン・ラレシアン。秩序の次元界メカヌスの機械生命体イネヴァタブル。無数の次元門を管理し、マインドフレイヤーを仇敵と定める混沌の種族ギスヤンキ。フェリスの守護神である盾の乙女マイアヘン。

 七つの層なす天界山セレスティアで白金の竜神バハムートとも会った。

 

(りゅーじんまるー)

 

 とかなんとか、イサミが心の中で呟いていたのは秘密だ。

 

 もっとも善ないし悪であっても秩序の勢力は大体において協力的であった。

 タリズダンという危機がそれだけ重いことの証左であろう。

 

 あっという間に一月ほどが経ち、イサミ達がオラリオに帰る日がやってきた。

 門を開くのは大神ボカブの本拠地である"伝承図書館"のふもと。イサミ達がボカブに謁見した時、次元門で現れたあの場所である。

 善と悪、秩序と混沌、本来なら顔を合わせただけで即座に戦争の引き金になるような存在を集められるのは、魔法以外に関心を抱かない孤立神、ボカブのお膝元しかない。

 

 そこに三々五々別れてぽつぽつと立っている人影は、全て神格かそれに準じる存在とその腹心・護衛達。

 一般人であれば、この場に充満する濃密な神気邪気だけで絶息しかねない。

 実際リリやヴェルフなどレベルの低い者達は顔が真っ青で、タケミカヅチ・ファミリアの千草や飛鳥などは横になってアスフィとベルに介抱されている。

 一方で眼をきらきらさせて周囲を見渡しているフェリスのようなものもいるが。

 

 それを見やって溜息をついた後、遥か彼方、次元界の中心にそびえる巨塔に視線を転じる。

 少なく見積もっても高さ1000マイル(1600km)、直径200マイル(320km)はある巨大な石の塔と、その上空に浮かぶ天使の環のようなもの。

 チューブ状の環の内側には重力が働き、そこにはあらゆる世界から来たあらゆる存在が一大都市を形成している。無限の世界の交差点、"扉の町"シギルだ。そこには無数の次元の門が存在し、あらゆる場所より来たり、あらゆる場所に行けると言う。

 

「行きたくてしかたがない、といった風情だね。どこの世界でも冒険者とはやはりそのような生き物なのかな」

「!」

 

 勢いよく振り向く。

 声の主はまあまあとでも言いたげに、鷹揚に手を上げてイサミを制した。

 

 赤と黒を基調にした装束を身にまとった壮年の紳士だ。手は巨大なルビーをあしらった鉄色の錫杖をもてあそんでいる。

 高貴さを帯びたハンサムな顔立ち。バランスの取れた長身。赤みのかった銅色の皮膚に、炎の色の髪。瞳には燃える石炭のような炎がゆらめいている。

 その後ろには大理石で出来たかのような美しさと無表情さを兼ね備えた従者が二人いたが、イサミは目の前の人物から目を離せない。

 本来の姿とはやや異なる上に実際に見るのは初めてだったが、絶対の確信があった。

 

「アスモ・・・デウス」

「ご存じでいてくれたとは嬉しい限りだ、異界の英雄よ」

 

 神々すら時として恐れはばかる九層地獄の主は、そう言って親しげな笑みを浮かべた。

 

 

 

 イサミが何かを言う前に、いつの間にかそばにいたモルデンカイネンが口を開く。

 

「アスモデウス閣下。このたびは不測の事態を避けるため、可能な限り互いに干渉しないことをお願いしておりましたはず。どうぞ御身の場所にお戻りください」

「いいじゃないかモルデンカイネン。彼はこちらの世界の争いには無関係の者。ならば多少話をするくらいは構うまい?」

「それは・・・」

 

 整った顔立ちに鷹揚な笑み。

 紳士的で、洗練されていて、それでいて親しみやすい。

 目の前の人物がどう言う存在であるか知っているイサミでさえ、引き込まれそうになる魅力がある。

 溜息を一つつき、イサミは意を決してこの魔王の中の魔王に話しかけた。

 

「お初にお目にかかります、九層地獄の支配者よ。・・・質問を一つよろしいでしょうか?」

「どうぞ」

 

 緊張するイサミとは対照的に、アスモデウスはにこやかな表情を崩さない。

 

「閣下は遠大な陰謀をいくつも同時に動かしていると聞き及んでおります」

「うんまあそうだね。君たちよりは長生きだから、進め方も自然とゆっくりになる」

「何のためにですか?」

「まあ第一には現状を維持するためだね。私は一つの世界の頂点に立った。とすれば自然、それを維持するのが主たる目的になるだろう」

「・・・上を目指せないのは、つまらなくはありませんか」

 

 アスモデウスは一瞬きょとんとした後、はじかれたように笑い出した。

 

「つまらない、つまらないか! なるほど、その通りかも知れないな! やはり常命の者の視点というのは面白い!」

「お気に障りましたなら失礼」

 

 頭を下げるイサミ。アスモデウスは笑いを収めて面白そうにその顔を見やる。

 

「いやいや、気にしないでくれ。こんなに笑ったのは久しぶりだよ。

 そうだな、楽しい会話の礼だ、一つ教授しよう――大いなる転輪、即ちこの宇宙は善と悪、秩序と混沌、あらゆる力がバランスを取るように出来ている。

 一つの力が多少優勢になることはあっても、全宇宙を覆い尽くすことはない。大いなる転輪の全てを私の秩序で染め上げることはできないのだ。

 もしそのようなことがあるとすれば、それは転輪そのものの崩壊を意味する。

 人為的にバランスを取ろうとするボカブとモルデンカイネンは、その意味で全く正しい。それをつまらないと言うなら、ああ、確かにつまらないだろうね」

 

 そこで言葉を切り、アスモデウスは満面の笑みでイサミを見た。

 

「しかし仮定の話だが・・・大いなる転輪の回らぬ場所に勢力を伸ばしたとしたらどうだろうか。その世界にも大いなる転輪があるならそれが許すだけ、ないのであれば可能な限り勢力を伸ばせば? 一つ一つは九層地獄の一階層程度のものだとしても、それが無数に連なればどうなると思うね?」

「・・・!」

 

 その結果を想像し、イサミが戦慄する。

 表情を含み笑いに変え、アスモデウスが言葉を繋いだ。

 

「仮定だよ。あくまで仮定の話だ。だがそうすれば、それらを合わせたものはやがてこの宇宙全てよりも広大な領土となることだろうね」

「無数の次元界の連なるこの宇宙に大いなる転輪があるとするなら、無数の宇宙が集まるところにもやはり更に大いなる転輪があり、一つの力で宇宙群を強く染め上げるのを許さないかも知れませんよ」

「そうかもしれない。だが、試してみなくてはそれもわかるまい?」

「それは、まあそうでしょうね」

 

 そこで再びはじかれたようにアスモデウスが笑い出す。

 

「素直だな、君は! ここは『そんな事は許されない』などと言い出す場面じゃないかね、世界を守る善の英雄としては!」

魔術師(ウィザード)ですから。実験しなくては結論が出ないのは当たり前の事です」

 

 気負う風でもなく言ったのがおかしかったのだろう、アスモデウスの笑いが更に大きくなる。

 モルデンカイネンとアスモデウスの従者二人が普段の鉄面皮を崩し、呆然とそれを見ていた。

 

 

 

 ひとしきり笑った後、アスモデウスはまじめな表情になった。唇の端には笑みを残したままだが。

 

「さて、そろそろ楽しい会話の時間も終わりだな。世界の"合"の時が近づいている。何か聞きたいことはあるかね」

「ではお言葉に甘えて一つ――オラリオで進む陰謀が失敗したとして、その陰謀を仕掛けた黒幕は計画を破綻させた者達に対して何を思うのでしょうか」

「さて、その黒幕が何者かによるとは思うが・・・優れた黒幕ならこうだ。『私の使える便利な駒が増える』」

「っ・・・」

 

 自信に満ちた表情でさらりと言い切るアスモデウスに、イサミは言葉を失った。

 その顔を見て、アスモデウスの顔に浮かぶ笑みが再び深くなる。

 

「覚えておきたまえ。駒が盤面に乗っている以上、何色であっても思い通りに動かす手段はある。

 そして優れた指し手であればあるほど、全ての計画が思い通りに進むなどとは思ってもいない。失敗も折り込んで計画を練るものなのだ。君だって、何もかも全てがうまくいく前提で計画を立てたりはすまい?」

 

 イサミがこわばった顔のまま頷く。

 アスモデウスはにこやかな顔でその肩を叩き、きびすを返す。

 

「さて、ではそろそろ位置につかねばな。話せて楽しかったよ」

「ご教授ありがとうございました」

 

 頭を下げるイサミに、振り向かないまま手を振ることでアスモデウスは応えた。




 ワタルの創界山の設定は明らかにD&Dからのイタダキだと思ってる。
 七つの階層があるし、竜神が住んでるしw
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