ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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18-9 蕩児たちの帰宅

 神々と魔王たちによる儀式が始まった。

 それぞれが一見バラバラに立っているように見える位置は、魔術の大神ボカブがそれぞれの神の属性や力量を計算した上ではじき出した精密な魔術回路の配置。

 アイテムや常動魔術で頭の回転を限界近くまで強化してるイサミをして、辛うじて理解出来る代物だ。

 

 だがそれでも、その後起こったことは神ではないイサミには直接認識できなかった。

 存在の階梯そのものが違う者達の起こす現象を、図抜けているとは言え未だ人間の域にあるイサミは、魔術という補助具無くしては理解することも認識することも出来ない。

 それは逆に言えば、人の身でも相応の手段をもってすれば、神の力による現象を理解できると言うことであるが。

 

 短いながらも息詰まる時間が過ぎ、ボカブが口を開いた。

 

「それではこれより君たちを封印世界の迷宮に繋ぐ門を開く。

 頼むぞ、封印世界の勇者よ」

「いささか面はゆい呼ばれ方ですが・・・微力を尽くしましょう。

 ボカブさまも例の件をお願いします」

「わかっている」

 

 頷き合う。

 次の瞬間、イサミ達は迷宮十八階層――『迷宮の楽園』にいた。

 

 

 

「ひゃっほう! ようやく元に戻ったぞ! ああ、長かったなあ!」

「わ、わわっ! 神様!?」

「何をしているんですかヘスティア様! いきなりベル様に抱きついたりして!」

「今は・・・"昼"か」

 

 傍らの騒ぎをさらりと無視しつつ、水晶の天井を見上げてイサミが呟く。

 もっともこの階層の昼夜と地上での昼夜は同期していないので、外が今何時くらいであるかはわからない。

 

「ええっと、一ヶ月くらいで一致したりするんだっけ? だとすると、一月ちょっとだからえーと・・・」

「いや、多分半年くらいだ。向こうとこっちじゃ時間の流れが違うからな」

「!?」

 

 イサミの言葉に、ヘスティアと死霊王を除く殆どの人間が目を白黒させる。

 恐らくは意味がわかっていないものの方が多いのだろう。

 

「兄さん? ええと、それってオシァンの妖精の国みたいな?」

「そんな感じだ。10年向こうにいたら、多分知ってる人間はエルフ以外老人になるか死ぬかしてただろうな」

 

 日本で言う浦島太郎のような童話を挙げた弟に頷いてみせ、視線を死霊王に転じる。

 死霊王――伝説の名工ダイダロスは瞑目し、過ぎ去った過去に思いを馳せているかのようだった。

 

『まずは情報収集というところか。半年も経っているのでは、ディックスやら闇派閥やらが何をしでかしているかわかったものではない』

「まずはギルド、ウラノス様に接触することにしたいと思いますが・・・どうでしょう、同盟関係をもう少し延長するというのは?

 あなたの目的がトリルへの帰還であれば、あの人造迷宮を破壊しかねないエニュオとの協力関係は微妙なのでは? 隠れ場所は提供致しますよ、無論太陽の光のない場所を」

『・・・よかろう』

 

 死霊王が頷く。

 後ろの吸血鬼達がざわめいたが、手を振って黙らせた。

 ダメ元で提案してみたイサミも、少々の意外さを感じつつ一礼する。

 

(ひょっとして俺にはシンパシー感じてくれてるのかな)

 

 ふとそんな思いがイサミの脳裏をよぎるが、干からびた肉と皮膚のへばりついた骨の顔からは、イサミと言えども何かを読み取ることは出来なかった。

 

 

 

 やはりというべきか何と言うべきか、ちゃっかり再建されている(そして看板の数字も増えている)リヴィラに、まずはイサミがひとりで足を踏み入れた。

 目撃される可能性も考えて、変装帽子(ハット・オブ・ディスガイズ)で変装している。

 

(・・・ピリピリしているな?)

 

 それほど入り浸っていたわけでもないが、それでもどこか雰囲気が張り詰めているのがわかる。

 ティオナやアスフィがいたら人が少ないと言ったかもしれない。

 酒場で冒険者達の話に耳を傾け、酒をおごって話を聞き、記憶抽出の術まで使って手早く情報を集める。

 二時間ほどして、イサミは一行の待つ18階層の森に戻った。

 

 

 

「カーリー・ファミリア?」

「テルスキュラって国を作ってる国家系ファミリアだ。アマゾネスばかりの国で、戦士同士で殺し合いをしているらしい。団長と副団長のレベルは6」

「えっ!?」

「な、なんだいそれは!」

「レベル6!?」

 

 ざわつく面々の中、ぽつり、とティオナが漏らした。

 

「・・・よく知ってるね」

 

 常の彼女にない口調に、思わずイサミが彼女の顔を見る。

 

「ティオナ。まさかと思うが・・・」

 

 こくん、とティオナが首肯する。

 

「そうだよ。私とティオネはそこ出身」

「戦士同士で殺し合いをしてるってのも・・・」

「うん。立って歩けるようになると『恩恵』を授けられて、ゴブリンと戦わせられる。

 五歳になってからは、同じ年の子供達と殺し合いもした。

 今にして思えば、そうやって共食いをさせる事で、ダンジョン無しで高いレベルの戦士を産み出そうとしてたんだと思う。

 私たちは七つの時に国を出てそれっきり。

 ・・・ティオネ、大丈夫かな・・・」

 

 しん、と周囲が静まりかえる。

 死霊王や吸血鬼さえも無言だった。

 その空気を破るかのようにあえてイサミが口を開く。

 

「話を続けるぞ。どうやらイシュタル・ファミリアが呼んだらしくて、連中と共同歩調を取ってる。

 それからどうも大捕物というか、大がかりな戦闘があったらしい。

 らしい、って言うのはギルドが詳しいことを隠しているからなんだが、ガネーシャとロキに加えて、フレイヤ、イシュタル、カーリー、その他いくつものファミリアが参加したらしい。

 闇派閥は主神のタナトスが送還されて全滅したと公式発表、ディオニュソス・ファミリアも同じく主神が送還されて解散、その他にもかなりの被害が出たようだ。

 その功績か、カーリー・ファミリアはオラリオ滞在を公式に認められ、今じゃいっぱしの探索系ファミリアだ。

 ダイダロスどの、何か思い当たることは?」

『・・・恐らくは"精霊の分身(デミ・スピリット)"であろうな。緑色の宝玉の中の異形の胎児だ。

 他のモンスターと融合し、果てしなく巨大化していく』

「あれか・・・!」

 

 思い起こすのは24階の食料庫で対決した、怪人と怪物達が守っていた緑の宝玉。

 ロキ・ファミリアと協力してどうにか倒せたが、イサミ達とヘルメス・ファミリアだけでは危なかったのではないかと思う。

 

『あれを培養するのには我々も協力している。何に使う物なのかは言わなかったが・・・む』

「どうしました」

『思えばディックスには、あれをどう使うかを探らせておった。

 あるいは、奴があのような行動に出たのはそれが理由やもしれぬ』

 

 イサミ達と自身をハメたであろう男の名前を挙げる死霊王。

 

「そいつがギルドなりなんなりにタレ込んで、この事態を引き起こした・・・?」

『あるいはな。奴はわしの命令で迷宮を作り続けることに嫌気が差しておった節もある。自ら望んで我がしもべになったというのにな』

 

(不老不死や吸血鬼の力をエサにして迷宮作成に協力させていたと言うことか)

 

 口には出さず、死霊王をちらりと見やる。

 今は倫理を問題にしているときではない。

 大体それを言ったら『神の恩恵』とファミリアだって一種の取引だ。

 考えをまとめていたのか、ここまで口を開かなかったアスフィが眼鏡のつるを直す。

 

「ではこの先のことですが・・・まずはギルドかヘルメス様に接触するのがいいかと思います。

 私たちが帰ってきたことは、少なくとも当面は隠しておいた方がいいでしょうね。

 場合によってはそのディックス氏とギルドが密約を交わした可能性も否定はできません。

 イサミ君、人造迷宮のことは公表されているのですか?」

「少なくともリヴィラの冒険者達は知りませんでした。

 ただ捕り物の時にダイダロス通りが閉鎖されたりしているので、うすうす察している奴もいるんじゃないですか」

「ふーむ・・・」

 

 再び考え込むアスフィ。

 入れ替わりに椿が手を上げる。

 

「イサミどの。ぜいたくは言わんが、せめて手前どもの主神様にだけは我らが帰ってきたことを伝えるわけにはいかんかな」

「あーまあ確かに」

「ロキにも言っちゃダメ? というかティオネに話をしたいんだけど・・・ティオネ、きっと辛いだろうから」

 

 椿の言葉にヴェルフや他の鍛冶師達が追随し、ティオナやロキ・ファミリアのメンバーもそれに続く。

 

「どのみち神ロキやヘファイストス様には伝える事になるだろうから、そのついでにな。

 ただ、ゲドさんには申し訳ありませんが・・・」

「ああうん、しゃーねーよな。オグマ・ファミリア(うち)、レベル2しかいないもんな・・・」

 

 そう言う事ではないんだがと思いつつも、しゃがみ込んで地面にのの字を書くゲドに、イサミは何も言えなかった。

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