ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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18-10 タリズダン・ファミリア

 深夜のロキ・ファミリア。

 主神の部屋にフィン、リヴェリア、ガレスの三首領と、何故かティオネが呼び出された。

 部屋に籠もっていたティオネは、フィンが無理矢理連れてきた。

 仏頂面の主神を見て、顔を見合わせる三人。

 ティオネは無表情でうつむいたまま。

 

「それでなんだい、ロキ。よほどの話のようだけど」

 

 代表してフィンが話しかけると、ロキが複雑な表情で手を振る。

 

「おら、揃えたぞ。出てこいや」

「!」

 

 その言葉に応じるように、冬だというのに薄く開けていた窓から白い煙がすうっと入ってくる。

 同じものを既に知っている三人が「まさか」という顔になり、雰囲気の変化を察したティオネが顔を上げた。

 その顔が徐々に驚きの表情に彩られ、続けてくしゃくしゃにゆがんでいく。

 

「ティ・・・ティオナぁぁぁぁっ!」

 

 30秒後、"風歩き(ウィンドウォーク)"の呪文から完全に実体化したティオナに、ティオネは泣きじゃくりながらすがりついた。

 

 

 

 五分ほど経ったろうか、落ち着いたティオネが泣きはらした、それでも笑顔を浮かべてイサミに頭を下げた。

 

「ありがとうございます。あなたがティオナを連れ帰ってくれたんですね」

「俺だけの力じゃないけどね。あちこちの力を借りてのことだし」

「それでも、です。本当に・・・」

「ああもう泣かないの、みっともないんだから」

「うるさい、馬鹿ティオナ」

 

 にぱっと笑いながら姉の頭を撫でるティオナ。

 憎まれ口を叩くティオネは、涙をぬぐいながらもその手を払おうとはしなかった。

 

「はん、こんな事で恩を着せたと思うんやないで。

 借りは借りとして帳簿に載せといたるが、それを精算したらその内ドチビもろともボコにしたるからな」

「はいはい」

 

 何が気にくわないのかねちねちと絡んでくるロキを、イサミが妙に手慣れた様子でいなす。

 

(ああ)

 

 そこで首領三人はハタと思い至った。

 ロキが仏頂面なのはイサミ(と、その主神であるヘスティア)が気に入らないからだけではなく、そのイサミにティオナ達を助けられて嬉しいこと、またそれをイサミの前で顔に出したくないからであると言うことに。

 ロキというのはそう言う神だ。

 

「それはともかく僕からも礼を言おう、イサミ・クラネル。他の団員達も無事なんだね?」

「はい。フィンさんたちの所も大丈夫ですか? 随分と大騒ぎがあったようですが」

「無傷とはいかなかった。だが、彼らの死に報いることは出来たよ」

「そうですか・・・勇者たちの魂に安らぎあれ」

 

 顔を伏せて黙祷するイサミ。

 フィンやティオナ達もしばし瞑目した。

 

 

 

 フィン達の話は、先に接触していたフェルズたちのそれとほぼ同じだった。

 精霊の分身による大儀式、『精霊の六円環』。

 それに加えて同様に培養された太古の魔竜の模造品、邪竜精霊ニーズホッグ。

 精霊の六円環でオラリオを吹きとばし、あるいはニーズホッグでオラリオを破壊する。

 

 謎の神"都市の破壊者(エニュオ)"によって仕掛けられた二重の王手。

 数ヶ月後なら完全に詰んでいたろう。

 しかしある所からもたらされた情報によってオラリオ側は先手を取ることが出来た。

 

 ギルドからもたらされた情報により生育途中の"精霊の分身(デミ・スピリット)"の場所を強襲。

 オラリオ最強のロキ、フレイヤ両ファミリアに加え、オラリオ最多の第一級冒険者を擁するガネーシャファミリア、フリュネがいなくなってもレベル4をはじめ多くのアマゾネスを抱えるイシュタルファミリア。

 そして港町メランからいつの間にかオラリオに侵入してきた、レベル6二人を抱えるダークホース、カーリー・ファミリア。

 さらにディアン・ケヒトファミリアなどその他の中堅ファミリアも参加、ヘファイストス、ゴブニュ両鍛冶ファミリアの放出した魔剣や一級武装などを用い、どうにかそれらの全てを倒せたという。

 加えて闇派閥の主神タナトスも送還に成功した。

 

「・・・例の怪人の女は?」

「アイズと戦っていたが、撤退した。

 後一太刀で倒せると言うところで、白仮面の男――オリヴァス・アクトがフォローに入って姿をくらませたらしい」

「そいつはそれまでどこに?」

「アイズと赤毛の女の戦いを無言で見守っていたそうだ。まるで立会人のようにね」

「ふむ・・・」

 

 違和感に眉をひそめるものの、何らかの答えを出すには情報が足りない。

 

「ただ、アイズに言ったそうだよ。『私たちは、タリズダン・ファミリアである』とね」

「!」

「意味はわからないが宣戦布告、ということだろうな」

「・・・ですね」

 

 リヴェリアの言に頷くイサミ。とはいえ今考えてもどうにかなるものではない。

 取りあえず怪人のことは保留にしておいて話題を変える。

 

「そう言えばディオニュソス・ファミリアが壊滅したそうですが・・・?」

 

 探るようなイサミの眼差しに、フィンがうなずく。

 

「ああ、そうだ。ディオニュソスが・・・"都市の破壊者(エニュオ)"だった」

「フィルヴィスさんと、ファミリアの他の人たちはどうなりました?」

「彼女は・・・」

 

 一瞬言いよどむフィン。

 そこにリヴェリアが言葉を重ねた。

 

「彼女たち、ファミリアの構成員はディオニュソスの企みとは無関係だった。

 フィルヴィスは精神的ショックと、レフィーヤと親しかったこともあって、今はこのファミリアにいる。

 他の構成員は三々五々別のファミリアに吸収されたはずだ」

「ふむ」

 

 何か隠していることがあるとは見当が付いたが、さすがのイサミも魔法抜きで相手の心を読めるほどには交渉に長けているわけではない。

 なので、無難に流すことにする。

 

「まあリヴェリアさんがおっしゃるなら大丈夫そうですね。彼女とは多少縁もありますし、気になってたんですよ」

「今すぐと言うわけにはいかないが、伝えておこう」

「よろしくお願いします」

 

 頭を下げるイサミ。

 軽い釘差しにリヴェリアたちが苦笑をにじませ、同時にロキがへっ、と吐き捨てるがそちらは丁重に無視。

 

「そう言えば野営地を襲撃した連中はどうなりました」

「それだよ。襲ってきた奴は倒したけど、捕まった団員たちは蘇生したのはいいんだが、暴れ出して幽閉するしかなかった――君ならどうにか出来るかい?」

「もちろんです。今日ここに来たのはそのためもありますからね。しかしそうすると、何のために襲ってきたかはわからないと」

「ああ」

 

 僅かな刹那、互いに探り合う両者。

 フィンは恐らく迷宮都市でもトップクラスの交渉者だが、それでもまだイサミの方が上だ。

 手玉に取れるほどの差があるわけではないが、簡単に付け入られるような隙もない。

 

「そうそう、聞いてるとは思うけど、これも伝えておかなくてはね。

 例の怪人とはまた別の怪物ども――あいつらは全く姿を見せなかった。

 何か心当たりは?」

「それは正直わかりません。うすうす別の派閥というか勢力なのではないかと思っていましたが、ここで協力していればオラリオの戦力にかなりの打撃を与えられたはずです。

 それをしなかったのは、あえて動かなかったか、それとも動けなかったか」

「判断するには情報が足りないか」

 

 イサミが隠し事をしていないことを確信したか、溜息をつくフィン。

 

「まあ考えても仕方ないことでしょう。それじゃ、団員のみなさんの治療を・・・」

「待ちぃや」

 

 動こうとしたイサミを、これまで沈黙を保っていたロキの声が押しとどめる。

 振り向いたイサミを、剣呑な目つきでロキがねめつける。

 

「おどれ、ナニモンや? 何故『恩恵』と無関係に魔法が使える。何故そこまで早く成長できる。何故ウチらに心を読ません? 何が目的や」

「それは・・・」

「それは?」

 

 ぐぐっ、と身を乗り出したロキに、イサミは口元に指一本立てて悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 

「それは秘密です」

「このアホンダラ! そーゆーことをやってええのはかわいい女の子だけや! おんどれみたくごついブ男が許される仕草やない! あ、リヴェリアは許す!」

「え、そこ?」

「最重要や!」

 

 思わず真顔になるイサミにさらに食ってかかるロキ。その他の面々が苦笑した。

 

「まあ冗談はともかくですね・・・"タリズダンはダンジョンである"」

「!」

 

 他の五人に聞こえないよう耳元で呟いた言葉に、ロキが一瞬体を硬くする。

 大きく舌打ちすると、仏頂面を越えて苦虫をかみつぶしたような表情でしっしっ、とイサミを追い払う仕草をした。

 にやにや笑いを収めてイサミが肩をすくめる。

 

「それじゃフィンさん、行きましょうか」

「ああ・・・?」

 

 いぶかしむような目をするフィン達三首領。

 ティオネが首をかしげ、ティオナは気にせずにこにことしたまま。

 

「まあ、多分後で神ロキから話がありますよ。この件についてはあちらの方がお詳しいでしょうし」

「ふーむ」

 

 取りあえず納得したのか、フィンはちらりとロキを見ると、イサミを案内して歩き始めた。

 

 

 

 ――結論から言えば、ディックス一党の姿はどこにもなかった。

 彼らの(そしてダイダロスの)主神であるイケロスも知らない。

 フェルズもあの決戦以降については行方を把握していなかった。

 

 ダイダロスは改めてフェルズ、そしてウラノス及びイサミ達と不戦条約を結び、人造迷宮に籠もることになった。

 しばらくはこちらに取り残され、事情を知らないままディックスに従っていた眷属の吸血鬼たちと共に、何か妙な細工をされていないか、人造迷宮を調べておくとのことだった。

 イサミとアスフィが参加したそうにしていたのは余談である。

 

 タリズダンの復活が近いのではないか――という情報は、取りあえず伏せられた。

 ボカブやウラノスの危惧はそれとしても、一連の事件で大きく何かが変わったわけでもないこともある。

 それでもロキ、フレイヤ、ガネーシャには改めてこの件が伝えられ、いざというときの行動を促すことになった。

 

 状況が判明したことにより、ウラノスやロキ、ヘファイストス、ヘルメスやタケミカヅチとも協議の上、それぞれの構成員は元のファミリアに戻ることになった。

 これ以上帰還を隠していても余り意味がないだろうという判断からである。

 ちなみにファミリア全員が失踪していたタケミカヅチは、ジャガ丸くん屋台のアルバイトで辛うじて糊口を凌いでいたらしい。

 同じ貧乏仲間のミアハの半ば居候のような形になっていたというから、困窮ぶりは推して知るべしである。

 

 半年間行方不明だった一級冒険者たちの帰還はそれなりに驚きをもって迎えられたが、最終的には「まあダンジョンだしそう言う事もあるだろ」で大体落ち着いた。

 関係者が口を揃えて「ギルドに箝口令を敷かれているから」と口にしたのもある。直近で似たような大事件もあったし、それ絡みであると何となく納得されたのだろう。

 なお〈豊饒の女主人〉に顔を出したリューはシルに泣かれ、おかみにきついのを一発喰らったらしい。

 

 そして――ベルはLv.3になった。

 18階層への決死行と、圧倒的にレベルの高い吸血鬼たちとの戦いの連続がもたらしたものだろう。

 それにしても早すぎるとイサミなどは思ったが、〈憧憬一途〉自体が全く未知のスキルであるゆえに確かな事は何も言えない状態だ。

 

 一方でヴェルフもランクアップして、念願の鍛冶アビリティを手に入れている。

 リリやシャーナもランクアップこそしなかったものの、着実に偉業経験値とアビリティ上昇を得た。

 フェリスもどさくさに紛れてヘスティア・ファミリアに入団し、(しっかりステイタスを上昇させた上で)Lv.5の冒険者としてダンジョンに挑むことになった。

 ――ダンジョンに挑むよりもオラリオ見物や図書館ごもりのほうが多い気もするが、まあ"熱烈な好事家(アーデント・ディレッタント)"と言うのはそう言うものだ。

 

 更にイサミもランクアップした・・・"Lv.1++"にだが。エピックの壁に比べれば、それ以降のレベルキャップは制限が緩いのかも知れないし、精霊分体との戦いにおけるイサミの心境の変化のせいかもしれない。

 とは言え『恩恵』の上昇は例によって微妙なものだ。

 

「まあうん、しゃーないわな。新しく伝説級特技(エピックフィート)が取れるだけでも御の字だ・・・」

「イサミちゃんはまだいーよぉ。レーテーなんか、ステイタスの更新自体できないんだから・・・」

 

 黄昏れる大男と大女の間に、微妙なシンパシーが生まれたのはこれまた余談である。

 数日後。ベルとヴェルフのランクアップ及び、パーティ継続決定の祝いの席で事件は起きた。

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