ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
19-1 〈神の宴〉
『島根にパソコンなんてあるわけないじゃん』
―― 『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』 ――
数日後。ベルとヴェルフのランクアップ及びパーティ継続祝いの席で事件は起きた。
「【アポロン・ファミリア】の構成員を叩きのめしたぁ!?」
「す、すいません・・・」
ベル、ヴェルフ、リリの三人でささやかながら祝いの宴を開いていたとき、アポロン・ファミリア十数人と喧嘩になり、ベルとヴェルフで全員叩きのめしてしまったのだ。
首領のヒュアキントスはベルと同じLv.3。他にもLv.2が複数いたがヒュアキントスは激戦の末ベルに沈められ、残りもベルとヴェルフの敵ではなかったらしい。
現在傷だらけになった二人が、イサミに治癒魔法を掛けて貰っている。
「いや、その状況ならブン殴っても間違いじゃない。あまり舐められるのも問題だからな」
「イ・サ・ミ・く・ん?」
「おっとヤブヘビヤブヘビ」
ヘスティアのお説教が余計な事を言ったイサミにも飛んでくる。
とは言えヘスティアも単に暴力を好まないからベルをたしなめているだけであるし、話を聞く限り完全にあちらから、それも執拗に喧嘩を売ってきた形だ。
さほど気にすることもあるまいと、そう思っていた。この時は。
「〈神の宴〉の招待状・・・!?」
「ガネーシャ以来開催されてないみたいだし、そろそろ誰かが開催するだろうとは思ったけど・・・アポロンからかあ」
ヘスティアがため息を漏らした。
翌日の夕食前のひととき、封蝋に弓矢と太陽のエンブレムが刻印された招待状。
ギルドでランクアップその他をエイナに報告してきたベルが、アポロン・ファミリアの使者である二人組の女性から受け取ったものである。
「なになに? 神の宴って?」
「ああまあ名前の通りさ。神だけを呼んで集まる催し物。大概はただの宴会かな」
オラリオに来たばかりのフェリスが顔を輝かせて質問するのに、イサミが解説してやる。
「どうします?」
「まあ、もめ事を起こしたばかりだし無視は出来ないなあ」
「すいません、僕が手を出したばかりに・・・」
「ああ、大丈夫だよ。変な責任は感じないでくれ。というかボクもあいつは苦手なんだ」
ああ、と訳知り顔で頷くイサミをじろりと紐神が睨む。「余計な事は言わないように」というサインだ。
イサミが小耳に挟んだところでは、アポロンは所構わず求愛をするような神でヘスティアもその昔その被害にあったらしいが、この様子では当たらずといえども遠からずのようだ。
はいはい、と両手を挙げて降参のゼスチャーをした後、表情をまじめなものに改める。
「でも昨日の今日ってのはなんかひっかかりますねえ・・・ベル、やっぱりお前に喧嘩を売ったのもわざとじゃないのか?」
「確かにな。今はあんまり無くなったが、先に手を出させてケチをつけるって派閥間抗争を起こすときの喧嘩の売り方でよくあった奴だぜ、それ」
横から口を挟むのはちびちびと手酌で酒を飲んでいたシャーナだ。
しぐさがおっさんくさい。
「・・・わからない。言われてみればしつこくこっちを怒らせようとしてたような気はするけど・・・」
「「「「うーむ」」」」
くう、と音がした。
我慢して話を聞いていたレーテーの腹の虫が耐えきれなくなったらしい。
「それじゃ取りあえず、話の続きは飯の後にしましょうか」
「ボク、今日は肉料理がいいなー!」
「おれは脂っこいのがいいな。酒の肴になる奴を頼むぜ」
「はいはい、献立は昨日から仕込んでるんですからわがまま言わない」
主神とシャーナの軽口を軽く流しつつ、真っ赤になってうつむくレーテーの頭を軽く撫でてイサミは台所に向かった。
ちなみにメニューは鶏の手羽元(ウイングスティック)を大量に投入したホワイトシチューである。鳥のダシが効いていてンマーイ!のである。
ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~
第十九話「魔術師に火球の巻物三枚と魔弾の短杖を支給するコストは騎士のフル装備一人分より安い」
二日後。
指定された会場の前で送迎の馬車を降りるヘスティアとベルの姿があった。どちらも正装である。
かたわらにはヘスティアがやや強引に説き伏せて連れてきたミアハと、その眷族であるナァーザの姿もあった。
「済まぬな、ヘスティア、ベル。服から何から色々と世話になって」
「その、誘ってくれてありがとう・・・」
無論二人とも正装だ。ヘスティアとナァーザはドレスの上から更に毛皮のコートを羽織っている。
僅かに頬を染めたナァーザはいつになく美しい。
「それではそろそろ行くとするか?」
「ああ。ベルくん、エスコートは頼んだぜ」
「は、はい」
今回の神の宴の、普段のそれとの最大の相違点がこれであった。
つまり、自らの眷属を一人同行させるべしと。
現に会場の前では次々到着する神々の横に、同様に着飾った眷族――多くは上級冒険者――が肩を並べ、あるいは付き従っている。
自らの子を見せびらかしたい神々にとっては、中々粋な趣向であるのだろう。
入ってすぐのところでタケミカヅチと命、ヘファイストスと合流する。
ヘファイストスと一緒に来た椿はどこかへ行ってしまったようだった。
直後にヘルメスが乱入して命を赤面させ、即座にタケミカヅチとアスフィの折檻を受けて轟沈する。
そうこうしているうちに時間になり、正面の舞台に一人の男神が眷族たちと共に姿を現した。
優雅な純白のトーガに月桂樹の冠、整った顔立ち。
まさしく一般の人間がイメージする「神」そのものの姿なのだが、どこか浮ついた印象も与える。
「諸君! 今日はよく足を運んでくれた!
今回は私の一存で趣向を変えてみたが、気に入って貰えただろうか?
日々可愛がっている者達を着飾らせ、こうして我々の宴に連れ出すのもまた一興だろう!」
アポロンの挨拶に、ノリのいい神たちがやんやの喝采をあげる。
そのアポロンを見るともなしに見ていたベルと、アポロンの視線が一瞬だけ交錯し――ぞくり、とベルの背筋に悪寒が走った。
「どうしたい、ベルくん?」
「いや・・・多分気のせいです」
「そうかい? んー、アポロンは挨拶回りか。話をしたいけど後にした方がいいかな。その間はパーティを楽しもうぜ、ベルくん」
「あ、はい」
それからしばらくベル達は、顔見知りの神や眷属たちとの歓談に興じた。
18階層への道行きやその後の異世界へ渡った大冒険、アポロンがとかく色恋沙汰で問題を起こしがちな変な神であること。
「【
「恋愛に熱い神ってことさ。なあヘスティア?」
「知らないね!」
ニヤニヤと水を向けるヘルメスに、不機嫌なヘスティア。
ひたすらパクパクと料理を詰め込む様は、頬にドングリを詰め込むリスのごとし。
「後はそうだな――執念深い」
「え?」
ベルが聞き返そうとした瞬間、会場にざわりと波が走った。
その波紋の中心にいるのは、巨漢の猪人を従えた銀髪の麗人。美の女神、フレイヤ。
神、人、性別も種族も問わず多くの視線が集中する。ことに彼女を初めて見る眷属たちには衝撃的で、魂が抜けたかのように立ち尽くすものもいた。
「フレイヤを見るんじゃない、ベルくん! 魅了されてしまうぞ!」
「へあっ!?」
こちらも例外ではなく、フレイヤに見惚れていたベルに飛びついてその視線を遮るヘスティア。
(何をやっているんだかなあ)
(いいじゃない、かわいくて)
それらを見て、透明化して天井の暗がりに隠れ潜むイサミは溜息をついた。一方その隣で同じく天井にへばりついているフェリスはけらけらと笑っている。
二人だけである。姿や音が見えず、聞こえずとも、一流の冒険者となれば気配だけで存在を察してしまうため、しっかりとした隠密の技能を持っていない他のメンバーは連れてこれなかったのだ。
念のため、会場近くの酒場ではシャーナ、レーテー、リリが待機している。何かあれば精神感応リンクで即座に突入する手はずだ。
ちなみに"
魔法の効果で声も聞こえないのだが、互いに読唇術の心得があるし精神感応リンクもあらかじめ確立してある。二人だけなら問題はなかった。
(さすがにこの場で実力行使に及んでくるとは思えないが・・・さて)
「いいかい、この女神は男と見れば手当たり次第ぺろりと食べてしまうような、ドラゴンのような奴なんだ!
「は、はいっ!?」
フレイヤの挨拶を受けてデレデレした男神どもがそれぞれの女性眷族の蹴りを食らい、ベルを一晩のお楽しみに誘おうとしたフレイヤをヘスティアが全力でガード。
フレイヤが笑いながら去った後はロキが現れてまたヘスティアと角を突き合わせる。
「そもそもそっちのヴァレンなにがしより、ボクのベルくんの方がよっぽどかわいいね! 兎みたいで愛嬌がある!」
「笑わすなボケェ! ウチのアイズたんのほうが、実力もかっこよさも百万倍上や!」
醜い眷族自慢からのとっくみあいが始まりそうになり、羞恥に顔を赤らめたベルとアイズがそれを引きはがす。
(何をやっているんだかなあ)
イサミ、本日二度目の溜息である。
原作ではベルがオラリオに着いたのが「季節の変わり目」で多分これが春のはじめ、四月頭として、中層に挑んで18階層にたどり着いたのがそれから約60日後なので、そこから半年後とすると作中は12月始めくらいとなります。
ベルくんやミアハさまも、正装の上にコートやマントくらいは着けてたかも。