ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
「はーっはっはっは! 語るに落ちたなアポロン! そっちの子のどこが重傷だって言うのかな! い・う・の・か・な!」
「ええいうるさいうるさい! 治療しただけで、帰って来たときは重傷だったんだ!」
顔を染めたままながらも勝ち誇るヘスティアにアポロンが反論するが、さすがに言葉に勢いがない。
「証人」である神達もアポロンを指さして笑っている現状さすがにこれ以上事を荒立てることもできないだろうと、イサミが肩をすくめた時だった。
「それにだヘスティア! まだ終わりではないぞ!」
(ん?)
いぶかるイサミの視線の先で、アポロンが両手を大きく広げて更なるアピールを始める。
「ヘスティア・ファミリアの悪行はこれだけではない!
他ファミリアの団員を誘拐し、脅迫して強制的に使役しているのだ!」
(!?)
さすがのイサミが一瞬あっけにとられた。
ヘスティア達も似たようなものというか、むしろ何のことだかわからずにきょとんとしている。
そして再び人垣を割って現れたのは一人の女神とその従者らしき一人の眷属。そしてさらに二人の眷族らしき男。
後者はわからないが、薄衣をまとった女神とその従者の方にイサミは見覚えがあった。
(・・・イシュタル!?)
事情を察したヘスティアたちの顔色が変わる。イサミもその場にいたら動揺を隠し切れていたかどうかあやしいところだ。
褐色の肌に黒髪、露出過多色気過多の淫蕩の女神が腰に手を当ててヘスティアに凄む。
「久しぶりだねえ、ヘスティア・・・私のかわいい団員、フリュネと春姫を返して貰おうかい?」
「なななななな何のことかな!? ボクは何にも知らないぞ!」
一変した状況に動揺を隠すどころか全身全霊で私が犯人ですと主張する紐女神。
(神様、それじゃ・・・)
(図星と言ってるようなもんだ・・・)
下と上で、兄弟が仲良く頭を抱えた。
「フリュネは私のファミリアの団長! 春姫はLv.1だがそれでも娼館では人気の稼ぎ頭だった!
いたいけな二人をかどわかして脅迫した落とし前はきっちり付けて貰おうかねえ!」
「う、うう・・・」
イシュタルが熱弁を振るい、ヘスティアがたじろぐ。
春姫とやらはともかく「アレ」をどうやったら誘拐脅迫できるのかとか、そもそも「アレ」にいたいけなんて形容詞をつけていいのかとか、多くの神や眷族が思ってはいても口には出さない。
一通りイシュタルが言いたい事を言い終わったタイミングを見計らい、嫌な笑みを浮かべたアポロンが更に口を開く。
「そしてヘスティア・ファミリアに団員を奪われたのはイシュタル・ファミリアだけではない!
ソーマ・ファミリアもそうだ! そうだな、ザニス?」
「はい、アポロン様。こやつらは我が神ソーマ様が寛容なことにつけ込み、我がファミリアの優秀な団員をただ同然の額で引き抜き、酷使している極悪人なのです」
アポロンと同じくらい嫌な笑みを浮かべている若い男を見て、イサミが瞠目する。
まさかここで、今更ソーマ・ファミリアが出てくるとは思わなかった。
「馬鹿を言うなよ! リリはファミリアを抜けたがっていた! だからソーマ様にお願いして『改宗』させて貰ったんだ!」
「それはお前達が無理矢理リリに言わせていることだろう? ソーマ様もそんな事をするのではなかったと悔やんでおられたよ!」
「嘘だ!」
「何を根拠に嘘だというのかな、少年? むしろ君たちの方が大変な嘘つきだと私は思うがねえ?」
珍しく怒りをあらわにしたベルがザニスに食ってかかるが、ザニスはいやらしい笑みを浮かべたまま鼻であしらう。
まっすぐなベルには、この手の詭弁を弄する輩は相性が悪い。
「ともかく団員を傷つけられた以上、大人しく引き下がるわけにも行かない――どうあっても罪を認めないというならヘスティア、君に『
おおっ!と周囲からどよめきが上がる。
『
ルールを定めて行われる、いわば派閥同士の正式な決闘である。
勝った派閥は負けた派閥から、団員を含む全てを奪う事ができる。
「ヘスティア・ファミリアと、私、イシュタル、ソーマファミリアの決闘だ!
我々が勝ったら・・・私はベル・クラネルを貰う。イシュタルはフリュネ・ジャミールとサンジョウノ・春姫、ソーマはリリルカ・アーデの『返還』及び相応の賠償金だ!」
「ううむ、聞くとは無しに話を聞いていたが、これは黙ってはおれんのう。イシュタル・ファミリアは盟友でもあるし、わらわも義により合力せずばなるまいて!」
いささかわざとらしい口上と共に一歩足を踏み出したのは、仮面を付けた褐色肌、黒髪、痩身の幼女神。
後ろに控えるのは、どことなく蛇のごとき雰囲気をかもし出す獰猛にして妖艶な美女。
「おお、これは我が盟友カーリー! お前の助力を得られれば、万の味方を得たも同然!」
「任せておくがよい、盟友イシュタルよ。邪悪なる女神に正義の鉄槌を喰らわせてやろうではないか」
わざとらしい会話を交わす様子を見ると、これが闘争国家テルスキュラの女神、カーリーなのだろう。
後ろの麗人は団長姉妹のうち、姉のアルガナ・カリフか。
(・・・Lv.6か。噂は本当だったな)
だが、イサミの目を見張らせたのは容姿よりもむしろその実力だ。
レベルは間違いなく6。フリュネやシャーナをイサミ特製のマジックアイテムでフル武装させても、一対一で勝つのは難しいだろう。
フェリスは技能系よりの万能タイプなので瞬殺すらありうる。
ダンジョンという試練場無しにこの域に達するため、果たしてどれだけの血が流されたのか。想像するだに恐ろしい。
アイズは既に面識があるためか反応は見せていないが、ベルが身をこわばらせているのが天井からでもわかった。
「ダメじゃないか、ヘスティアァァァ・・・こんなかわいい子を独り占めしちゃあ!」
と、アポロンが端正な顔を豹変させて、満面の笑みを浮かべる。
本人は気付いているのかいないのか、欲望を隠そうともしない変態の顔そのものだ。
ベルが別の意味で体をこわばらせるのがわかり、イサミは苦笑する。
「それでヘスティア、どうなんだぁ? 受けるのか? 受けないのかぁ?」
「断る! 受ける義理なんてない!」
「後悔しないか?」
「するもんかっ! 行くぞベルくん!」
「は、はいっ!」
憤懣やるかたないヘスティアがきびすを返し、ベルの手を引っ張って会場を後にする。
それを見てアポロンとイシュタル、カーリー、そしてザニスとアルガナの顔に良く似た笑みが浮かんだ。
(っ!)
天井のイサミが何となくいやな物を感じた瞬間、その脳裏に魔法の警報が鳴り響いた。
ヘスティア・ファミリアのホームに仕掛けておいた、"
(シャーナ! レーテー! リリ! ホームに侵入者だ! すぐに戻れ!)
"
愕然とした瞬間、シャーナからの返答が頭の中に響く。
(すまん、動けねえ! カーリー・ファミリアだ! 妹の方がこっちにいる!)
(くっ!)
歯がみする。
カーリー・ファミリアの首領姉妹の一人、バーチェ・カリフはLv.6。
Lv.5の、しかも軽武装しかしていないシャーナたちと、恐らくフル武装のバーチェでは二対一でもきつい。
有象無象の――とは言っても恐らくLv.3には達しているだろうアマゾネスたちもいるとなれば、退却もままならないはずだ。
(―――――!)
一瞬の間に無数の考えを脳裏に巡らせ――イサミは決断した。