ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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19-4 花火

「いやあ、このアポロン感服したぞ! このタイミングで始めるというのは考えが及ばなかった!」

「派閥抗争だかなにか知らぬが、要するに戦争じゃろう? なら相手が油断しておるときに始めるのが一番じゃて。奴らも多少は警戒しておったようじゃが、甘い甘い」

 

 ヘスティアとベルが去った宴の会場、からからと笑うのはカーリー。

 今回の襲撃の大方を計画したのはこの女神であった。

 

「確かにね。どうやらあたしも少々なまってしまっていたようだ」

 

 艶やかな、しかし獰猛な笑みを浮かべながらイシュタル。

 オラリオではまがりなりにも秩序を守ろうとするギルドやガネーシャ・ファミリアがあり、また闇派閥を含め過去の凄惨な抗争の記憶もあって、派閥抗争に踏み切るにも最低限の自重をする雰囲気がある。

 だが文明社会から隔離された密林で、ひたすらに殺し合いを重ねて来たカーリーにそんな配慮は微塵もない。

 

「奴らのうち厄介なのはLv.5の二人のみ。バーチェなら万が一にも逃す気遣いはない。ソーマの有象無象もおることじゃしな。

 後はアルガナとおぬしの子らがヘスティアを、イシュタルの子らが奴らのホームを抑えればそれで勝ちよ。白兎の小僧もアルガナには敵うものでもあるまい。ホームの方にいるのもLv.1の雑魚二人、気にかけることもなかろう」

 

 フェリスのことはまだ正式に届けていないため、さすがにカーリーたちも把握してない。

 とは言え現状でその言に間違いはなかった。

 

「いやはやまったく。しかしベルきゅんを差し置いてあんなウドの大木を団長にするなど、ヘスティアも見る目が・・・うん?」

 

 大きく頷いて言葉を継ごうとしたアポロンが、ふと顔を横に向ける。

 中庭に広がる庭園の奥でポンポンという軽い破裂音と、色とりどりの光がきらめいた。

 

「花火か? そんな物を用意していたっけかな?」

「いえ、アポロン様。少なくとも我々のものではありません」

「ふむ?」

 

 そばに控えていた団員の返答を聞き、首をかしげるアポロン。

 ぴくり、と仮面の下でカーリーの片眉が上がった。

 ややあって服は正装のまま、剣を下げたヒュアキントスが現れた。

 

「アポロン様、申し訳ありません。取り逃しました」

「何だと?!」

 

 大げさな身振りで驚くアポロンに、淡々と報告するヒュアキントス。

 

「通廊で襲撃を掛ける直前、いきなり花火(パイロテクニクス)が・・・いえ、火花と煙が通廊に充満しまして。光に目がくらんだその隙に姿を消しました」

「・・・アルガナはどうした」

 

 不機嫌そうなカーリーが問うのと同時に、その背後に蛇のごとき麗人の姿が音もなく現れる。

 

「その男に後詰めを頼まれ、通廊の出口を抑えていた。一瞬煙に紛れたと思ったら、次の瞬間には気配も残さず消えた」

「ほう」

 

 不機嫌そうな表情が、更に不機嫌の度を増した。

 もはや誰彼構わずのど笛に食らいつき、食いちぎりそうなほどの。

 イシュタルが表情を改め、考え込むような顔になる。

 

「どうやら奴らも多少の切り札は持っていたようだな――イサミ・クラネルか? Lv.1のくせに団長を務めているにはそれなりの理由があったというわけだ。

 【神秘】アビリティ持ちという話があったが、意外と本当かもしれんな」

「小細工に過ぎんわ。密林鼠のようにコソコソしおって」

 

 吐き捨てるカーリー。

 互いに命を削る殺し合いをこそ望む彼女にとって、そうした手練手管は唾棄すべき堕落に過ぎない。

 続けてバーチェたちが同様に相手を取り逃がしたという報告、更には春姫を奪還されたという報告が入り、いよいよその機嫌は最悪のものとなっていった。

 

 

 

 暗闇に明かりが灯り、周囲を昼間のように照らす。

 イサミの唱えた"太陽光(デイライト)"の呪文だ。

 

「・・・ようやく一息つけるな。みんな怪我は?」

「ボクは大丈夫」

「僕もだよ兄さん」

「俺とレーテーが少し。まあかすり傷だ」

「わ、わたくしもありません」

「リリは大丈夫です」

「私もないわね」

「お前にゃ聞いてない。大体パーティ会場からずっと一緒だったろうが」

「うーん、団長さまったらい・け・ず」

 

 いつぞやの、オラリオ市壁の詰め所であった。

 イサミ、シャーナ、ルルネがフェルズを問い詰め、そして逃げられた場所である。

 

 イサミ、ベル、ヘスティア、シャーナ、レーテー、リリ、春姫、フェリス。

 元兵士の詰め所なだけあってかなり広い空間で、これだけの人間がいても手狭感はない。

 取りあえずシャーナたちの傷を治癒すると、魔法で部屋を掃除して絨毯を敷き、一同は車座になって座った。

 イサミが口火を切る。

 

「で、どうします?」

「・・・どうするって、何がさ?」

 

 答えたのはヘスティア。

 パーティ会場から逃げてきたままのドレス姿。

 イサミを見上げるその表情からは内心を読み取ることができない。

 

「我々はイシュタル、カーリーというオラリオでも屈指の戦力を持つ派閥から喧嘩を売られました。

 派閥抗争ともなれば、専守防衛というわけにはいきません。市街でもダンジョンの中でも、時と場所を選ばず襲ってくるでしょう」

「だろうな。その程度の事はむしろ普通だったわ」

「だよねー」

 

 頷くのはシャーナとレーテー。

 彼女らは二人とも、そう言った派閥抗争を目の当たりに、あるいは当事者として参加してきた冒険者だ。

 

「結構ぶっそうなのねえ、オラリオって・・・」

「最近はそうでもなかったんだがなぁ」

 

 腕組みして唸るフェリスと、頭をボリボリかくシャーナ。

 

「アポロンとソーマだって、この二つには遠く及ばないにしても多くの上級冒険者と100を越える団員を抱えた中堅派閥です。

 質はそれなりでも零細中の零細である我々とは戦力が違いすぎる。

 今まで通りにダンジョンで魔石を稼いで暮らしていくのは不可能だ――となれば、腹をくくって戦うか、あるいは逃げるしかない」

「その通りだ」

 

 この場にいないはずの――間違っても存在しないはずの九人目の声が、入り口から響いた。

 ギョッとしたシャーナたちが瞬時に武器を取って立ち上がり、次にその声の正体に気がついて愕然とする。

 

「神ヘスティア。そしてイサミ・クラネル。我が神フレイヤからのお言葉を預かってきた」

「伺いましょう」

 

 その男一人が入ってきただけで、部屋の空間全てが押しつぶされるような錯覚。

 "猛者(おうじゃ)"オッタルを、イサミは悠然と立ち上がって迎えた。




"パイロテクニクス"はD&D2レベル魔術師呪文。
小技の類ではありますが、使いどころ次第では役に立つ典型みたいな呪文です。
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