ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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19-5 戦争遊戯(ウォーゲーム)

戦争遊戯(ウォーゲーム)だっ!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」

『ヒャッホォォォォォォォ!』

 

 神の宴の翌日、その報せは、文字通りオラリオを駆け巡った。

 主に物見高い神々の姿を取って。

 間を置かずそれはギルドも承認するところとなり、彼らは前準備に忙殺されることになる。

 

「ああもうどういう事なのよ! イシュタル・ファミリアとカーリー・ファミリア相手に戦争遊戯ですって!?

 やっぱりイサミ君にもっと太い釘を刺しておくんだった!」

「あああ、エイナ落ち着いてー!」

 

 そんなさなか才色兼備を絵に描いたような敏腕受付嬢が頭を抱えて絶叫し、周囲がギョッとした眼を向けたのも余談である。

 

 

 

 オラリオ中央、バベル三十階。

 "神会(デナトゥス)"の大広間に神々が集っていた。

 久方ぶりの戦争遊戯(ウォーゲーム)ということもあって、参加資格のある神々はほぼ全員が顔を揃えている。

 欲望の笑みを隠し切れないアポロン、別の欲望に笑みを浮かべるカーリー、二人に比べやや厳しい顔のイシュタル。ソーマはやはりいない。

 少なくとも見た目は落ち着いて時を待つヘファイストス。いつも通り曖昧な笑みを浮かべるヘルメス。

 頭の後ろでつまらなそうに腕を組み、卓に足をのせて椅子をユラユラさせるロキ。女王の如く多くの男神を従えるフレイヤもいる。

 

 最後に入場してきたのはタケミカヅチに付き添われたヘスティアだった。

 武神であるタケミカヅチはLv.2の冒険者を相手取ってすら、数合なら打ち合えるほどの技量を持つ。

 眷族が介入できないはずのこの場ですら何をやってくるかわからないと言うことで、万が一のために付き添いを頼んだのだ。

 

「よーやっと来おったかドチビめ。ほんじゃ、手続き始めんでー」

 

 進行役のロキのやる気のない声と共に、当事者たちによって必要書類が作られ、サインが記されていく。

 

「我々の要求は前に伝えた通り。私、アポロンはベル・クラネルを。イシュタルはフリュネ・ジャミールとサンジョウノ・春姫、ソーマはリリルカ・アーデの『返還』及び相応の賠償金。

 その点だけははっきりさせておきたい。後で聞き苦しい言い訳を並べられてもわずらわしいのでね!」

「ふん」

 

 短く吐き捨てるヘスティアを、アポロンは得意満面といった顔で見下ろす。

 

「まあまあ、そうむくれるな。美しい顔が台無しだよ。そうだな、もし君が勝ったら何でも要求は呑もうじゃないか」

「おい、アポロン?」

「構わないではないか。どうせ我々の勝ちは揺るがない。書記くん、その旨明記しておいてくれたまえ」

「ほーいほい」

 

 自分たちが負けるとは微塵も思っていないアポロンは、自信満々に書記官担当の神にそれを明文化させる。

 声を上げたイシュタルだが、それでも自分たちが負けるとは思っていないので、さほど強くは言わなかった。

 続けて細々とした決めごとを詰め、やがて勝負形式についての話になる。

 ヘスティアは代表者数人を出しての団体戦、アポロンたちは派閥全員での総力戦を提案する。

 ヘルメスがさりげなくヘスティアに有利なように誘導しようとするも議論は平行線になり、結局その場の神々全員が一人ずつ紙に勝負形式を書き込んで、代表者一人にくじを引かせることになった。

 

「ヘイ、そう言うと思って準備しておいたぜ!」

「さすがマウイ、おれたちにできない事を平然とやってのけるッ!」

「そこにシビれる!」

「憧れるぅっ!」

「はいはい、紙配りやー。一人一枚なー」

 

 無意味にノッてる神々をよそ目に、ダルそうに進行を続けるロキ。

 全員が箱の中に紙を入れたのを確認して、さて誰に引かせようかとなったとき、双方の視線がヘルメスに集中した。

 

「え? 俺?」

「アポロンの息のかかった奴は信用できないからね」

「それはこちらも同じだ。ミアハやヘファイストスに引かせるわけにはいかない」

「と、言うわけで任せたよ、ヘルメス!」

「我が友よ、君に全てを委ねよう」

 

 元々アポロンヘスティアの双方とそれなりに付き合いがあり、かつ天界でも地上でも中立を気取っていたヘルメスは、全ての神々の(自称)友人である。カーリーは戦えれば何でもいいし、イシュタルも反対はしない。

 ある意味では確かに適任と言えた。

 

「どうかお手柔らかに・・・」

 

 苦笑しつつえいやっ、と引いた一枚の羊皮紙。

 それを見て顔をしかめると、ヘルメスはそれをその場の全員に見せた。

 書かれた文字は『攻城戦』。

 

「YEHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!」

「ひょおおおおおお! さすがヘルメス、持ってるじゃーん!」

「やっぱ派手に楽しめないとなー!」

「ぬるぽ」

「ガッ」

 

 無責任にはやし立てる神々。にまあ、と笑みを浮かべるアポロンたち。

 

「数人程度では城を守ることはできまい。攻め手は譲るよ、ヘスティア」

「わらわは攻めるほうでも良かったんじゃがのう?」

「まあまあ、カーリー。どちらにせよ戦うには変わらんさ。存分にその力振るえるだろうよ」

「だといいがのう、くっくっく」

「・・・・・・・・・」

 

 余裕たっぷりに攻め手を譲るアポロン。

 ヘスティアは無言のままそれを睨んでいたが、やがて口を開いた。

 

「本来この戦いは僕とアポロン、イシュタル、ソーマ・・・ソーマ本人の意志はどうだかわからないけど、とにかく君たち3ファミリアとの問題だ。そこにカーリーが絡んでくるのはおかしいと思わないかい?」

「じゃがのう、事の原因はおぬしが我が盟友たるイシュタルから構成員を奪ったことじゃ。であれば、義憤ゆえにわらわはそれに手を貸さねばならぬ」

「よく言う!」

 

 声を荒げるヘスティア。

 そこにまあまあと割って入ったのはヘルメスだった。

 

「主張なんてどっちが正しいかわからないんだから、それはおいておこうじゃないか。

 でも、直接関係ないファミリアが『友誼ゆえに』ってことで参戦できるなら、ヘスティアの側にも友誼ゆえの参戦があってもおかしくないよね?」

「ほう」

「まあ、道理ではあるな」

 

 その場にいた神々の視線がヘファイストスに集中した。

 ヘスティアの神友にしてLv.5の椿を有するれっきとした上位派閥。しかもオラリオの武具の最大手。

 上級冒険者の数も決して少なくはなく、ヘスティア・ファミリアに最も欠ける数の要素も補うことができる。

 

 とは言えアポロンたちの笑みは揺らがない。

 数であればアポロンたちのファミリアにはそれ以上の上級冒険者がいるし、質で言えばLv.5の椿が一人増えたところで、Lv.6のバーチェとアルガナを打ち負かすことはできない。

 

「じゃあ助っ人を認めるんだな?」

「1ファミリアに限るがね」

 

 どうせ勝負の天秤は動かない、と確信するアポロンはイシュタルとカーリーの顔を確認すると大きく頷く。

 そしてその言葉に答えて参戦を表明したのは眼帯の鍛冶女神・・・ではなかった。

 

「なら決まりね。フレイヤ・ファミリアはこの戦争遊戯(ウォーゲーム)においてヘスティア・ファミリアに助太刀するわ」

「「「「「「「ファーーーーーーッ?!」」」」」」」

 

 ヘスティアとフレイヤを除くその場にいた全ての神々が――アポロンたちは元より、ロキやヘファイストス、ミアハやタケミカヅチ、ヘルメスを含めて――盛大に吹き出した。

 

「くぁwせdrftgyふじこlp!?」

「ちょw、ちょまw」

「(ry」

「アポロンその他のご冥福をお祈りします」

「今神会でフレイヤさまがロリ巨乳に助太刀したんだけど何か質問ある・・・と」

「戦争遊戯は死んだんだ。いくら呼んでも帰っては来ないんだ。もうあの時間は終わって、君も神生と向き合う時なんだ」

「そんな事よりロキよ、ちょいと聞いてくれよ。神会とあんま関係ないけどさ(ry」

「あ、ありのまま今起こったことを話すぜ! おれはヘスティアが絶対不利かと思ったらアポロン終了のお知らせだった・・・な、何を言ってるかわかんねーと思うが(ry」

 

 普段なら盛大に盛上がるはずの神々が混乱のどん底に陥ったのである。

 どれほどの衝撃だったかは想像に難くない。

 

「そうだこれは夢なんだ、私は今、夢を見ているんだ。目が醒めたとき隣には全裸のベルきゅんが寝ていて、初々しく恥じらいながらも私に微笑んでくれるんだ・・・」

「しっかりせんかこの阿呆が!」

 

 アポロンは錯乱してカーリーに平手打ちを喰らい、イシュタルは完全に固まり、ロキは椅子ごと後ろに倒れ込んで後頭部を強打し悶え苦しんでいる。

 例外である二人――ヘスティアはこわばった笑みを浮かべてフレイヤを見上げ、フレイヤは楽しげな笑みでその視線を受け止めていた。

 ロキがどうにか起き上がり、フレイヤを問い詰める。

 

「お、おどれ何考えとんのや!?」

「あら、アポロンの条件はどこでもいいから1ファミリアでしょ? なら私のところでもいいんじゃない?」

「なるほど、確かにそれなら問題ないわな・・・って、ンなわけあるかーい!」

 

 絶叫と共にノリツッコミするロキ。フレイヤはただ微笑むだけである。

 

「あ、あなたいつの間にフレイヤを味方につけてたの!?」

「まあ、色々あってね・・・はは、はははは・・・」

 

 驚愕する神友から問い詰められるも、ヘスティアは曖昧な笑みを浮かべるばかり。

 こめかみには一筋の汗が流れている。

 その脳裏では昨夜、オッタルが来てからの一幕が思い起こされていた。

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