ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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3-3 レノアの店

 

 翌々日、怪物祭から二日目の朝。

 ロキ・ファミリアの食堂は朝食を取る団員達で賑わっていた。

 アマゾネス姉妹の妹、ティオナがサンドイッチをほおばりながらアイズに話しかける。

 

「ねーねー、今日は何か予定あるの?」

「レイピア・・・壊しちゃったから弁償しないといけなくて・・・」

 

 カップスープをすすりながら憂鬱そうに答えるアイズ。

 昨日、アイズは整備を済ませた愛剣を受け取りに行き、代剣として借りたレイピアをゴブニュに渡した。

 そしてゴブニュがレイピアを鞘から抜いた瞬間、剣は哀れ根元からぽっきりと折れたのである。

 

 スローモーションで床に落ちていった刀身、落ちたときの金属音。

 ゆっくりとこちらを振り向く、曰く言い難いゴブニュの表情・・・背を向けて逃げ出したくなるくらい、いたたまれなかった。

 結局のところ損耗の原因はダンジョンで酷使しまくったせいであって、たかが数匹のモンスターを切っただけでこうなるわけがないのだ。

 

「四千万ヴァリスだって・・・しばらくダンジョン潜らなくちゃ・・・」

「じゃあ、あたしも行くよ! 作り直してもらった大双刃(ウルガ)の代金払わないと!」

「わ、私もお邪魔でなければ・・・」

 

 こうしてティオネとリヴェリアとフィンも巻き込み、彼らはダンジョンに潜る事になった。

 フィンとティオネは依頼を見繕いにギルドに、アイズとティオナは消耗品の調達に。

 そして、リヴェリアとレフィーヤの魔導士二人は、魔術師(メイジ)レノアの店に来ていた。

 

「レノア、邪魔するぞ・・・おや」

「あ・・・これはどうも」

 

 店の中にはイサミの巨体があった。椅子に腰掛けて、店主と何やら話し込んでいた風である。

 

「おや、リヴェリア。この小僧と知り合いだったのかい?」

「知り合いと言うほどではないが・・・どうかしたのか?」

 

 かすかに首をかしげるリヴェリアに、どこか嬉しそうに老婆が言う。

 

「いやなに、同業者と出会ったのは久々なもんでね・・・ひっひっひ」

「ほう」

「えっ!?」

「あー、出来ればご内密に。余り広めたくはないんで」

 

 リヴェリアが軽い感嘆の声を漏らし、レフィーヤが目を丸くする。

 当然である。魔術師(メイジ)とは、それだけ珍しい存在なのだ。

 

 魔道具を作り出す《神秘》アビリティ持ちですらオラリオに四人しかいないのに、更に《魔導》アビリティを持っているとなれば、リヴェリアは目の前のレノアと、後もう一人しか知らない。

 魔法大国アルテナでさえ数えるほどにしか存在しない、希少な人材なのである。

 

 リヴェリアは改めて目の前の青年を観察する。

 頼りになる兄貴分というのがぴったりの顔立ちで、愛嬌と適度な野趣を備えている。

 そこまで思ったとき、その愛嬌のある容貌が冷や汗を浮かべ始めた。

 

「どうした?」

「あーその、愚弟がそちらのお嬢さんにまたしても失礼をいたしましたようで・・・」

 

 また? と首をかしげるリヴェリアに対して、レフィーヤがいきなり大声を上げる。

 

「あーっ! そうですよ! アイズさんが話しかけようとしてるのに逃げ出して! あなたは弟さんにどういうしつけをしてるんですか!」

「いやその、まことにおっしゃるとおりなんですが、男の子には色々デリケートな事もありまして・・・」

 

 角でも生やしそうな剣幕でベルをなじるエルフの少女と、平謝りする大男。

 おぼろげに事態を理解したらしいリヴェリアがくっく、と笑いを漏らした。

 

「リヴェリア様! 笑ってないで何か言ってやってください!」

「人の店先で余り騒ぐな、レフィーヤ。それに、若い男ならそういうこともあるだろう」

「うー・・・」

 

 不服そうに唸るレフィーヤ。

 イサミはほっと一息つく。

 

「ご理解いただけて幸いです・・・レノアさんもすいません」

「なに、かまわんさ。若いってのはいいねえ、ひっひ」

 

 

 

「それで今日は何を? ・・・と言っても、魔導士がここに来る以上、理由は一つか」

「ええ。そろそろ杖を使ってみようかと思ったんですが、やっぱり最初は信頼できる人の作った物がいいかなと」

「作り置きじゃこの坊やは満足できないらしくてね。それで話し合ってたんだが・・・ふぉっふぉっ、年甲斐もなく熱が入っちまったよ」

 

 楽しそうに笑う老婆。

 そこだけを見ていると、孫と話して喜んでいる祖母のように見えなくもない。

 

「ああそうだ、リヴェリアさん。実際に使ってる人の意見も聞かせて貰えるとありがたいんですが・・・」

「ふむ、そうだな。君はソロか? 到達階数は?」

 

 一瞬逡巡するが、いずれはばれることでもあるし、と素直に答えることにする。

 

「今のところソロです。到達階数は43階層」

「ほーお。まぁ、確かにその階層で杖無しはきついな」

 

 ソロで43階層?!と再び目を丸くするレフィーヤをよそに、しばし瞑目するリヴェリア。

 

「そうだな・・・まず私の杖を見て貰おうか。レノア、見せてやってくれ。できてるだろう?」

「あいよ。まったく、特製の魔宝石を四つも駄目にして・・・」

 

 職人らしいぼやきをこぼしながら、レノアは後ろを向き白銀の長杖を取り出す。

 こちらもいつの間に取り出したのか、イサミは青いレンズのはまった手持ちのルーペを取り出し、杖を舐めるように観察していた。

 ルーペを構えた一瞬、魔力を感じたリヴェリアだが、片目をつぶったのみで何も言わない。

 

「・・・芸術品ですね」

「ふふ、わかるかい、坊や」

 

 思わず漏れる感嘆の声。

 "魔力分析(アナライズ・ドゥエオマー)"の呪文で透かし見た白銀の杖の内部は、無数の魔力経路がブレも混線もなく整然と走っており、精緻な細工が施された杖飾りで大きく広がって、複雑な曲線と直線が絡み合い、交差して幾何学的な美を描き出している。

 カウンターの上の杖に視線を落としつつ、リヴェリアが口を開く。

 

「まあ構造については門外漢だから置いておくとして、杖の性能を決定するのはざっくり言って制作者の腕と魔宝石、材質、そして長さだ。

 単純に長ければ長いほど、魔力の増幅効果は上昇する」

「滝が高いほど水は勢いよく落ちると、そういうことですね」

 

 イサミの言にリヴェリアが頷く。

 

「うまいたとえだな。だが、後衛の魔導士としては威力最優先でよくても、ソロの魔法戦士となると話は違ってくるだろう。立ち回りを考えれば、必ずしも長い杖が正解とは言えまい。

 ソロを続けるなら短杖(ワンド)にする手もあるし、信頼できる前衛とパーティを組めるなら長杖で砲台に徹する手もある。杖を選ぶならその辺も考えた方がいい」

 

 リヴェリアに礼を述べ、イサミはしばし考え込む。

 

「レノアさん、それじゃやっぱりさっきのあれで・・・」

「あいよ。初めてだし、9000万ヴァリスにしといてやるか。金は足りるかい、ひひ」

 

 にやにやする老婆に、イサミは肩をすくめる。

 

「9000万くらいならまあ、明日にでも」

「このとんま、そんなこたぁ聞いてないよ。あっちの競りに入れたぶんも一緒に払えるのか、って聞いてんのさ」

「競り?」

「ほれ、そこのさ」

 

 首をかしげるレフィーヤに老婆が示した先にあったのは一冊の本。

 

「これ、ひょっとして魔導書(グリモア)・・・・に、におくっ?!」

 

 引きつったような声を漏らすレフィーヤ。

 

 魔導書。

 それを読んだ物に強制的に魔法を発現させる、文字通りの魔法の書だ。

 当然きわめて貴重なもので、価格は天井知らずに高い。

 今は競りが行われているらしく、札には真新しいインクで二億と記されていた。

 

「まあ、競りが終わるのは半月先でしょ? その頃までには稼いできますって」

「いひひ、威勢のいいことだね。せいぜい死なないよう気をつけな」

 

 へーい、と肩をすくめてリヴェリア達の方に向き直る。

 

「それじゃリヴェリアさん、レフィーヤ、お先に失礼します」

「ああ」

「あ、はい、お気をつけて!」

 

 挨拶されたレフィーヤが、いきなりしゃちほこばって直立不動になる。

 ベル・クラネルの兄と言う事で色々思うところはあるが、とりあえずは明らかに格上の魔導士であるイサミに敬意を示すことにしたらしい。

 根本的なところでは素直な娘である。

 ともあれイサミはバベルに向かい、リヴェリア達も杖の具合を確かめた後店を出た。

 

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