ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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19-7 虎の威を借る紐

 再び話は現在、神会に戻る。

 最初の混乱はひとまず収まったが、当然、それで事が終わるわけでもない。

 

「ふっざけんなぁぁぁぁ! 無効だ無効! 話になるか!」

「へへーん! ボクのファミリアを四対一で袋叩きにしようとしてた奴のいうことかい!

 自分が不利になったら手のひら返すとか、ちょーっとかっこわるいんじゃないかなイシュタル!」

 

 こんなのありかと食ってかかるイシュタルに、ここぞとばかりヘスティアが勝ち誇る。

 フレイヤの虎の威を借りてるのはどうかと自分でも思うが、それでも好き放題やってくれたこの女神にやり返すこの快感には代え難い。

 フレイヤはそんなヘスティアを愛でるように微笑むだけである。

 

「いくらなんでも勝負にならないだろうが! 取り消しを要求するぞ! 書記官!」

「つっても、今1ファミリアなら助っ人OKってお前らも言ったじゃーん」

「ちょっと待てアポロン! わらわたちがいて負けると言うか貴様!?」

「lv.6が二人いる程度で都市最強に勝てるなら苦労はせんわあ!」

 

 ぽろっと本音がこぼれたアポロンを締め上げるカーリーに、普段なら萎縮するであろう色ボケ神が逆ギレする。

 

「いやあ、参ったねえ。いつの間にフレイヤ様を味方につけてたんだい、ヘスティア?」

「この優男に同意するのは不愉快だが、まったくだ。・・・何か裏があるんじゃなかろうな?」

「とは言っても、フレイヤ相手に私たちが何かできるかどうかはなあ」

「うーん、イサミ君の様子を見る限り、それほど重いペナルティでもないとは思うんだけど・・・」

 

 はっはっはと笑いつつ、目の奥から冷徹に目の前の紐神を推し量るヘルメス。

 一方でタケミカヅチとミアハは真摯に悩んでいるが、実際彼らにできることはほぼない。

 

 そして円卓のまた一方。無責任な神々があれこれさえずる中で椅子に座り直したロキが片ひじを卓に、もう一方の手を膝において僅かに身を乗り出し、フレイヤをねめつけていた。

 その視線に気付いたフレイヤが、ほほえみを口の端に残したまま、それを真正面から受け止める。

 しばらくその均衡が続き、それに気付いた周囲が少しずつ静まっていく。

 やがて室内に沈黙が満ちるのを見計らったかのようにロキが口を開いた。

 

「・・・ドチビといいおんどれといい、何考えとんのや? 男か? それとも『例のあのこと』か? あの小僧を貰うのと引き替えに助けることにでもしたか?」

「なんだとぅ! ボクがそんな取引をするわけが・・・むぐぐっ!」

「黙ってなさい、この馬鹿!」

 

 ヘファイストスその他に押さえ込まれるヘスティアをちらりと見て、フレイヤが視線をロキに戻す。

 

「いやねえ、そんな下衆な取引を私がするわけないじゃない――欲しければ奪うわ」

「ふん」

 

 ロキが鼻を鳴らす。

 

「せやったらなんでや? そんな事をしておどれに何の得がある?」

 

 謎めかして流そうとして、ふとフレイヤの脳裏に虎頭の兄の顔がよぎる。

 とっておきの笑みと共にフレイヤはそのセリフを口にした。

 

「そうね――わからない方が面白いことが世の中には沢山あるわよ?」

「~~~~~~~~~~っ!」

 

 何かピンポイントに刺激してしまったのか、ロキが真っ赤な顔でギリギリと歯を鳴らす。

 

「ムカツクムカツクムカツクムカツクぅっ!」

「ああら、でもそうでしょう? 面白いってのは大事な事よ?」

「だから余計に腹が立つんじゃボケぇっ!」

 

 テーブルをひっくり返す仕草と共に絶叫するロキ。

 

「おお、見事なちゃぶ台返し」

「さすがロキ、ツッコミの神だな!」

「おどれらは後でボコる。・・・くそ、何がしたいんやおどれは」

「さあ? でもわかるでしょう? 私の子供達に対抗できる派閥があるとすれば、それは一つだけよ、ロキ」

「――――」

「――――」

 

 無言のままぶつかる視線。沈黙の中、誰かが飲み込んだ生唾の音がやけに大きく響いた。

 しばし息詰まる時間が流れ――ばん、とロキが円卓に平手を叩き付ける。

 

「ええい、やったるわい! ロキ・ファミリアも〈戦争遊戯〉に参戦やぁ!」

「「「「ウオオオオオオーッ!」」」」

 

 今度こそ、歓声に大広間が揺れた。

 都市の双璧、共に最強を冠する二つのファミリアが正面から激突するのだ。

 およそ考え得る中でもこれ以上の娯楽などあり得ない。

 

「劇場版戦争遊戯Z! この世で一番強い派閥!」

「オラリオ丸ごと大決戦!」

「とびっきりの美乳対無乳!」

「なんやとコラァー!?」

 

 色々な意味で盛上がる神々たちをよそに、本来の当事者であるヘスティア達とアポロン一党は何となく隅に追いやられたような気持ちでいる。

 

「ええい、あの貧乳ロキめ! いつもいつもなんでボクの邪魔をするんだよ!」

「これがフレイヤ様の狙いなのか・・・? ううん、読めん」

「参ったわね。ロキのところが参入するとなると、戦力の差が・・・」

 

「まったく、一体何なのさ、この展開・・・」

「というか、私たち置いてけぼりになってないか? ベルきゅんがそもそもの問題なんだぞ!?」

「まあわらわは命がけの戦いができればよいがのう」

 

 と、言いつつロキ・ファミリアと共闘になる時点でアルガナが役に立ちそうにない気がひしひしとするカーリーである。

 前の一件でアマゾネス特有の惚れスイッチが入ってしまっているので、ロキ・ファミリアの団長がいる時点でろくな事にならないのは目に見えていた。

 そしてロキはフレイヤを睨む。

 

「・・・満足か? おどれの思惑に乗ってやったで。今回の件、よっっっっっぽどオモロい事があるんやろうな?」

 

 さもなかったら承知せえへんど、と。怒りとも笑みともつかぬ表情で無言に語るロキ。

 そしてこの神会で初めて、フレイヤの笑みに楽以外の感情が交じる。

 それは喜び。これから起きる何かに対する、強い喜びだ。

 

「ええ、期待して貰っていいわ。とっても面白いことが起きるはずよ」

「ほーう。そら楽しみやな・・・くくく」

「ふふふ・・・」

 

 寒気のする笑みを浮かべる二人を、この時ばかりはほかの神々も遠巻きにして近づかないでいた。

 それはさておき、ロキ・ファミリアの参戦を前提にさらに条件詰めが行われる。

 あーだこーだ互いに条件を出し合った結果、細かい事はこうなった。

 

1.戦争形式は城攻め。互いの大将を倒せば勝利。大将はヘスティア・ファミリアとアポロン・ファミリアそれぞれの団長とする。

2.ヘスティア、アポロン、イシュタル、ソーマ各ファミリアはフルメンバーで参戦可能。

3.ロキ・ファミリアからはフィン、リヴェリア、ガレス、アイズ、ティオネ、ティオナ、ベート、レフィーヤが参加。カーリーからはアルガナとバーチェ。

4.ヘスティア側にもアポロン側と同数の助っ人を許す。ただし1ファミリアにつき一人のみ。

5.ヘスティアの【恩恵】を受けているリリと春姫は暫定的にヘスティア・ファミリアであるとする。

 

 もちろん、ヘスティア側は猛反発した。

 

「ボク達の助っ人は一ファミリアに一人だけだとーう!? なんだその不公平な条件! ロキやカーリーの所は事実上フルメンバーじゃないか! このルールだと"猛者(おうじゃ)"くんしか借りられないだろ!」

「「「「いや、オッタルさん一人おったら十分やろ」」」」

「むぐっ・・・」

 

 異口同音に口にする神々に、一瞬ちょっと納得してしまったヘスティアである。

 その一方ロキは「ウチの子供らがオッタル一人に負けるゆうんかー!」と暴れ出したい気持ちであったが、ぐっとこらえる。

 内心、賛同した連中は後で追加でボコると固く決心していたりするが。

 そして最終的には、

 

「そうね、確かにこっちからはオッタルだけの方が面白いかしら」

「フレイヤー!?」

 

 という貸し出し元の鶴の一声で決定した。

 悪戯っぽい微笑の奥で何を考えているのか、それをうかがい知れる神はいない。

 

 とは言えヘファイストスの椿などを考慮に入れても、オッタル一人でロキとカーリーのトップメンバー全員(Lv.6九人+レフィーヤ)に釣り合うかと言われればさすがに否である。

 そこで追加の条件が設定された。

 

6.開戦可能日は今から四日後とする。ヘスティア・ファミリアはこの日から一ヶ月以内の任意の日の夜明け以降日没前に告知を行い、それ以降は自由に攻めてよい。

7.戦闘期間は開戦から一ヶ月後の日没まで。その間に城が落ちなかったらアポロン側の勝利。ただし開戦可能日以降、外から補給は受けられない。守備側が城壁から50m以上離れたら失格。

8.アポロン側は魔剣を使わない。

 

 総合的にはまあまあ妥当な条件と言えるだろう。

 ヘスティア側にとっては暗に場外戦術を仕掛けて良いとする条件であり、かつアポロン側は最長二ヶ月の籠城を強いられる。

 いつ攻めてくるかがわからないので気が抜けず、最長一ヶ月の準備期間を取れるヘスティア・ファミリアに対し、四日以内に全ての準備を終える必要がある。

 しかも一ヶ月という長い戦闘期間が許されている以上、ヘスティア・ファミリアはダメージを受けたら撤退して、オラリオで補給休養の上再出撃すら可能なのだ。

 

 イシュタルの豊富な財力で魔剣を買い込み、火力で圧殺することも不可能だ。一方でヘスティア・ファミリアは友好派閥にしてオラリオ最大の鍛冶派閥、ヘファイストス・ファミリアから魔剣を揃えて火力で城攻めができる。

 もっとも高レベル冒険者が数人所属しているとは言え、新参かつ未だ零細の部類である紐神派閥に大量の魔剣を買い込む資金があるかというと微妙だ。

 (イサミがいなければという但し書きはつくが)

 

 かくして条件は整い、正式に戦争遊戯の開催が宣言される。

 三々五々帰り始めた神々の中、ヘスティアが席を立ったロキの前に立つ。

 

「何やドチビ」

「・・・何を考えてるんだい? キミらしくない気がするんだけど?」

 

 ヘスティアの言葉に、ロキがむすっとした顔になる。

 先ほど、フレイヤに誘導された時と同じ顔だ。

 

「知った風な口利くんやないわボケ。ウチにはウチの思惑があるっちゅうこっちゃ」

「その思惑がキミらしくないって話なんだけどね・・・」

「知るか。どうしても知りたきゃ〈戦争遊戯〉に勝ちゃええやろ。そしたら話したるわい」

 

 自分の言葉をにべもなくはねつけるロキを、ヘスティアは何とも言い難い顔で見上げる。

 

「・・・」

「ほれ、どけどけ。邪魔や無駄乳」

 

 紐神を軽く押しのけて去っていくロキ。

 その後ろ姿を、何とも言えない顔でヘスティアが見ていた。

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