ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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19-8 戦争とは準備が八割である

 神会終了後、すぐさまオラリオ中が動き出した。

 当事者派閥に属するものは〈戦争遊戯〉の準備に。ギルドは開催のあれこれに。無責任な神々は特等席の確保と騒ぐ用意に。

 ヘスティアを護衛してホームに帰ってくるなりイサミも動いた。

 

「取りあえず神様は協力してくれる神様を集めて、会議の段取りをつけてください。シャーナとレーテーは交代で神様の護衛。護衛をしてない時はベルを鍛えてやってくれ」

「ぼ、僕? でも、シャーナさんとレーテーさんにはほかにやって貰うことあるんじゃないの?」

 

 確かに特訓でもしようかとは思っていたが、この状況で二人がつきっきりとは思っていなかったらしい。

 

「お前は叩けば叩くだけ延びるからな。幸いLv.3になったばかりだ。ステイタスの延びもいいだろう」

「まあ・・・気にすんな。俺達はどのみちやれることも大してないしな」

「だよねー」

 

 コネを使って助っ人を呼ぼうにもシャーナの前の所属は厳正中立のガネーシャ、レーテーに至っては敵であるイシュタルである。

 基本純戦士でそれ以外の芸に乏しい彼らとしては、体を動かすくらいしかやることがない。

 

「わかりました。お願いします!」

 

 立ち上がったベルが、二人に強く頭を下げた。

 ベルには今回の一件を招いてしまったのが自分であるという自責の念がある。

 実際にはアポロンの理不尽な横恋慕も、酒場で喧嘩を売られたことも彼の責任というには程遠いが、それでもきっかけになってしまったのは自分だと強く感じている。

 

(・・・危ういか?)

 

 イサミは当然そうしたベルの堅苦しい部分を承知している。

 その後に自分を追い込んで暴走しがちであることも。

 

(しかし特訓となると、そうした負荷を掛けた方がいいかもしれないか)

 

 取りあえず見守ることにする兄である。

 それに今はやることがとにかく多い。開戦日の前に改めて話しておこうと考え、イサミはこの思考を打ち切った。

 

「リリとお春はまだ魔法スロットが残っていたな?」

「は、はい。リリは一つ残っています」

「春は三つです」

 

 『神の恩恵』を受けた冒険者はその素質により1から3つの魔法スロットを持つ。

 リリは小人族(パルゥム)としては多い二つ。既に変身魔法【シンダー・エラ】を発現させているので残り一つ。

 魔法に長けた狐人(ルナール)である春姫には未発現の三つのスロットがあった。

 

「二人には取りあえず魔道書(グリモア)を読んで貰いたい。お春には強要はしないが――」

「いいえ」

 

 きっぱりと、強い意志を持ったまなざしで春姫がイサミの言葉を遮った。

 

「イサミ様の、そしてベル様の助けになるのであれば、お春はできる事をしとうございます。

 たとえ"あの魔法"をもう一度発現することになろうと、それが皆様の助けになるのであれば、春は喜んで受け入れます」

 

 狐人の少女の固い決意とひたむきさに、居間にいた一同の顔がほころぶ。

 微笑ましく、そして尊い金剛石のような輝き。今ここにフレイヤがいたら、一も二もなく眷族に加えようとしていただろう。

 

「ああ、お春君。君のそう言う所、ボクは好きだよ」

「あ、ありがとうございます、神様」

 

 ヘスティアの、真っ向正面からの好意の言葉に頬を染める春姫。

 と、ほほえみの表情は全く変えないまま、ヘスティアのオーラが一転して威圧的なものになる。

 

「それで? なんでベルくんなのかな? 直接君を助けたイサミくんはともかく、何故そこでベルくんの名前が上がるのかな? あ・が・る・の・か・な?」

「ひいいっ? そ、それはっ!?」

 

 またしても赤くなるやら青くなるやらの顔になった春姫に、ヘスティアがずずいと顔を近づける。笑顔は変わらないまま。

 

「いやあ、君はやっぱり不埒ものだなあ・・・ボクを差し置いてベルくんを・・・へぶっ!?」

「話を続けるぞ。二冊読んでうまいこと使える魔法が出たら、お春には迷宮に潜って貰う。レベル上げというか、まあとにかく場慣れだけでもして貰わないとな。動ける奴がいないから、タケミカヅチの連中に頼もう」

 

 チョップでおのれの主神を沈めたイサミが、何事も無かったかのように話を続ける。

 こくこくと、人形のように頷いていた春姫がふと首をかしげた。

 

「は、はい・・・え。二冊でございますか?」

「スロットは三つしかないし、魔法の発現もそれまでの経験値が物を言うからな。経験を積んだ方が強力な魔法は発現しやすいはずだ。二つ読んで使えそうなのが出なかったら、今回は諦める」

「わかりました」

 

 こくこく頷く春姫と頭を抑えて唸る紐神、それを白い目で眺めるリリを見つつイサミは話を続ける。

 

「それで、リリだが・・・」

 

 

 

 翌日、イサミは西の大通りをファミリアのホームに向かって歩いていた。

 東北東第二区画のヘファイストス・ファミリアで椿と打ち合わせを済ませた帰りである。

 注文書と手付けを渡した時の椿のこれ以上ないほどの真顔を思い出し、少し笑う。

 

 取りあえず事が終わるまでバイトは休みと言うことで、ヘスティアはホームで大人しくしてもらっている。

 ベルはシャーナとレーテーの二人を相手に特訓。エリクサーの減り具合を見るに、かなり無茶をやっているようだ。

 狐人の面目躍如と言うべきか、見事に使えそうな魔法を発現させた春姫はタケミカヅチのパーティに同行してダンジョン。

 交渉ごとに長けたフェリスにはあちこち飛び回って貰っている。

 そして、リリは・・・

 

「よう、久しぶり。どこ行ってたんだ?」

「げっ」

 

 気さくに手を上げて挨拶してくるその人物を見た瞬間、イサミの喉から自然に声が出た。

 

「げっ、はねえだろう、久しぶりに会ったのに」

「自分の胸に手を当ててよく考えてみろよ」

 

 やれやれ若い者はこれだから、とでも言いたげに肩をすくめる髭の超戦士、ロビラーに冷たい視線を浴びせるイサミ。

 もちろん極めつけに高いアーマークラスを誇るこの男の面の皮を、その程度で貫けるはずもない。

 

「で、何か用か? 年寄りの世間話に付き合うには、今ちょっと忙しいんだが」

「だから人を年寄り呼ばわりするんじゃねえよ。俺はまだ若いんだ。それと年上なんだから敬語を使え、敬語を」

「うわー、うざーい。これだから老害はなー」

 

 肩を並べて歩きながらじゃれ合う二人。

 自分を斬り殺しかけた人物であるのに、どういう訳かロビラーの前では素になれるイサミである。

 ロビラーも物怖じせず自分を煽ってくるイサミを気に入っている節もある。

 戦場で会えば間違いなく命を取り合う仲であるが、どこか奇妙な友情がこの二人の間にはあった。

 

「そう言えば何でついてくるんだ? ホントに世間話がしたいのか」

「アホぬかせ。お前が俺と同じ方向に歩いてるだけだ」

「ふうん? お気に入りの店でもあるのか?」

 

 ここ西のメインストリートは飲食店や酒場の並ぶ区域である。

 ある意味ストイックではあるが、一般的な意味での禁欲とは程遠そうなこの黒ひげの戦士を僅かに見上げ、イサミは首をかしげた。

 

「おう、中々にいい店でな。最近のお気に入りだ」

「ほほう。急に用事を思い出した。その店の前までは一緒に付き合ってやろう」

「これほど下心が見え見えなセリフを聞いたのは久しぶりだな」

 

 相も変わらぬ調子で心温まる会話を続けていた二人が、同時にぴたりと足を止めた。

 特に殺気や闘気をぶつけられたわけではない。

 ただ、その男の存在感そのものが二人の会話に割って入った。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 二人の向かう先10mほど。

 無言で立つ猪人(ボアズ)の偉丈夫。

 防具こそ付けていないが戦闘衣、背中には大剣。

 オラリオに知らぬ者とてないその男こそ、"猛者(おうじゃ)"オッタル。

 

 あからさまな戦闘態勢でこそないが、このレベルに達した戦士にとっては弛緩と脱力こそが戦闘の準備態勢だ。

 その準備態勢を崩さぬまま、オッタルが口を開く。

 

「お前を訪ねたが、不在だったので戻るところだった。・・・何故その男と一緒に歩いている?」

 

 一般人にはわからない程度、ごく僅かにではあるがオッタルが緊張を強める。

 イサミとロビラーが顔を見合わせ、示し合わせたかのように互いを指さした。

 

「「こいつが俺につきまとってくるから」」

 

 オッタルの眉間の皺が深くなった。

 

「いや、俺は最初からメインストリートを西に歩いてたんだぜ。そこにくっついてきたのがおっさんのほうだろう」

「俺が歩いてたらお前が近寄ってきたんじゃねえか」

「先に声かけたのそっちだし」

「後の先という奴だ。それがわからんようではまだまだ青いな」

「俺脳筋の戦士じゃなくて、インテリの魔術師だしー。筋肉語じゃなくて人間の言葉で喋ってくれますかぁー」

「もういい」

 

 更に眉間の皺を深くしたオッタルが、そこで二人の言葉を止めた。

 この二人と会話する愚かしさを理解したのだろう。

 

「まあ立ち話もなんです。適当に店に入りませんか」

「・・・よかろう」

 

 周囲から視線が集まりはじめている。取りあえずイサミはこの場から立ち去ることにした。

 オッタルの好感度というか自分への評価のようなものが下がる音がピロピロピロ、と鳴るのを幻聴しつつ。

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