ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
色々なキャラの活躍盛り込もうと思ったらプロットが長くなりすぎた。
何とも言えない心持ちのまま、ベルはホームに戻ってきた。既に日は傾き、夕方と言っていい時刻になっている。
どこか心此処に在らずといった面持ちで、だからだろうか。
声を掛けられるまで彼女に気付かなかったのは。
「ちょっといいかい、【リトル・ルーキー】?」
「!」
美しいアマゾネスだった。
170cmを越えるすらりとした長身にアマゾネス特有の黒髪褐色肌。
発達した胸と尻を丈の短い布に押し込め、踊り子のような透ける薄衣のズボンらしきものを履いている。
手には布包み。その他には宝石しか身につけていなかった。
「えっと・・・あなたは?」
「んー・・・」
イシュタル・ファミリアと言えばアマゾネスである。しかも〈神の宴〉でいきなり襲われたばかりだ。
更に言えば明らかにLv.3かそれ以上の実力者のたたずまい。
自然警戒を深めるベルに、女は難しい顔で頭をかく。
「まあ、その、なんだ。あんたが警戒するのは当然だし、私は確かにイシュタル・ファミリアなんだが・・・変な事はしないさ。ばれたら〈戦争遊戯〉が一発でおじゃんだからね。ほら、武器も持ってないだろ?」
「・・・」
布包みを足元に置き、両手を上げる女。それでもベルは警戒を解こうとはしない。
最初にああも盛大にやらかされてしまっては、いくら純朴といっても限度がある。
困り果てた顔になって、女が溜息をついた。
「えーと、だね。あたしは"
「うーん・・・うん? アイシャさん?」
どこかで聞いたような、と首をかしげるベル。
その時、廃教会の玄関口から現れた人影があった。
「あれ? 遅いよぉ、ベルちゃーん。ミアハさまのとこまでどれだけ・・・アイシャちゃん!?」
「あっ」
レーテーが顔色を変えたのを見て、ベルは思い出した。
かつて春姫を救おうとして失敗し、レーテー、当時のフリュネに痛めつけられたアマゾネス――その名がアイシャであったことを。
「・・・あんた誰?」
一方でアイシャは不審げな顔であった。
まあ、かつてのフリュネと今のレーテーを見て、同一人物だと看破できる人間は多分いるまい。
「あ、変装してるからわからないんだ! ほら、これでわかるでしょ!」
「わかるか!」
根本的なところでずれている。
アイシャに二人が同一人物であると納得させるまで、十分くらいの時間がかかった。
「まさか本当にイシュタル様の言った通りとはねえ・・・あっ。
そうか、あんたがいなくなる前に現れた、でかい変なアマゾネスってのはあんたのことか!」
「変ってひどぉい! 誰もレーテーのことフリュネだって信じてくれないんだもん!」
「だからわかんないって・・・」
うーとすねるレーテーはそれはそれでかわいいのだが、何せ身長が2m30だ。イサミやオッタル、かつてのフリュネよりも頭一つ大きい。
顔立ちはもちろん体型もすらりと均整の取れたものに変化していて、これで分かれというのはさすがに無理があるとベルですら思わずにはいられなかった。
「それで、あたしに何の用だい。春姫に会わせないつもりか? それとも・・・いや、そもそも何故春姫をさらった。あいつの妖術を使って成り上がろうって魂胆かい?」
「それは・・・」
「そんなことしません! 春姫さんは僕たちが絶対に守ります!」
「へえ」
口ごもるレーテーに代わってベルが声を上げた。
アイシャが、新たな興味をもってこの白髪の少年を見る。
「つまり、あんたたちは春姫を守る為にさらったと?」
「そうです! 少なくとも、兄さんとレーテーさんと僕はそのつもりです! 多分他の人たちも!」
軽く驚いた表情になって、アイシャがレーテーに視線を移した。
「あんたが・・・?」
「うん・・・私たち春姫ちゃんにひどいことしちゃって・・・その時にアイシャちゃんにもひどいことしちゃったから・・・ずっと謝りたかったの。ごめんね、アイシャちゃん」
「・・・あんた、ほんとにフリュネなのかい?」
目を丸くするアイシャ。
確かにかつてのフリュネを知っていた者からすれば、今の彼女は外見以上に別人にしか思えないだろう。
「その、ですね。兄が魔法で心を治したときに副作用でこんな感じになったというか・・・僕にもよくわからないんですけど」
「はあ・・・」
「ううっ」
まじまじと見られて縮こまるレーテー。
ちょっとかわいいとベルもアイシャも思ったが、二人とも口には出さない。
ややあって、アイシャが溜息をついて肩をすくめた。
「まあいいさ、済んだ事だ。それにあたしの代わりに春姫を逃がしてくれたんだ、それで帳消しにしてやるよ」
レーテーの顔がぱあっと明るくなった。
「わーい! ありがとう、アイシャちゃん!」
「ふわっ!?」
アイシャを抱きすくめて顔中にキスの雨を降らせるレーテー。
目を白黒させてアイシャがもがくが、なにせ文字通り大人と子供くらいの体格差である。為すすべもなく口づけの嵐を受けて悲鳴を上げるしかできない。
「あ、それじゃ僕はこれで・・・」
「ちょっと待て! 逃げるな! これなんとかしておくれよ!
あ、だめ、ふわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「あーもうアイシャちゃんかわいいー!」
自分にとばっちりが来たらかなわない、とばかりにそそくさとこの場から退散しようとするベル。
必死でそれを押しとどめようと懇願するアイシャ。
そんな事に気付かずにキス魔モードが暴走するレーテー。
結局ベルが良心の呵責に耐えきれず、レーテーを必死で止めるまでハグとキスの嵐は続いた。
「それで、アイシャちゃんはどうしてウチに来たの?」
「最初からそう聞いてくれないかねえ・・・まあともかく、春姫に会いに来たんだよ。後忘れ物を届けにね」
ひどく疲れた顔になり、最初から持っていた布包みを掲げるアイシャ。
「うん、わかった。それじゃ呼んで来るね」
「え、大丈夫なんですか?」
あっさり頷くレーテーに驚くベル。
「アイシャちゃんなら大丈夫だと思うよぉ。回りに誰かいる感じもしないし」
「あーまあ、イシュタル様ならやりかねないか・・・【リトル・ルーキー】、あんたが呼んできてくれればいいんじゃないか?
あたしと、他に多少伏せてるのがいても、こいつがいればどうにかなるだろ?」
「うーん・・・」
ちらり、とレーテーを見上げるベル。
笑顔のまま、レーテーがノータイムで頷く。
「最初にも言ったけど、春姫が嫌がったらこのまま帰るよ。ただ、こいつだけは渡しておいてくれないかな。
あんたの兄貴は【神秘】アビリティ持ちだって聞いてるし、変な細工があるかどうかは調べりゃわかるだろ」
「・・・わかりました」
頷くと、ベルは廃教会の中に入っていった。
ふと思ったけど、レーテーの意識の中ではかつてと今とで
自分自身で認識している「自分の姿」にさほど差がないのかもしれない(怖