ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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19-11 アイシャと春姫

 

 アイシャの名前を聞いた途端、春姫は飛び出した。

 慣れない迷宮探索で蓄積している疲労も忘れて、もつれる足で走り出す。

 慌てて追いついたベルが支え、一緒に階段を駆け上がって廃教会の外に出る。

 

「あ、アイシャさん!」

「え、あんた・・・?」

 

 飛び込んできた東洋系のヒューマンの少女をアマゾネスが抱き留める。

 声こそ春姫のものだが、外見はタケミカヅチ・ファミリアのヤマト・命。ちらりと視線を飛ばされたベルが頷く。

 そのまま泣き始めた春姫の頭を、アイシャは優しく撫でてやった。

 

 

 

「あ、ごめんなさい。この外見だとわからなかったですよね・・・」

「わかるさ。相変わらず泣き虫だからね」

「もう、アイシャ姐さんったら・・・」

 

 しばしのち、泣きやんだ春姫はようやくアイシャと顔を合わせた。

 今までからは想像もつかない優しい表情で、アイシャはその頭を撫でてやっている。

 いつの間にかイサミとシャーナ、ヘスティア、リリやフェリスも玄関口でその様子を見ていた。

 

「まあ元気そうで安心したよ。こっちの水があってるみたいだね」

「はい。みなさんよくしてくださいます」

 

 居並ぶヘスティア・ファミリアの面々を見渡し、にっこりと笑う春姫。

 そして白髪の少年に視線を飛ばした一瞬、表情が微妙に変化したのをこの百戦錬磨のアマゾネスは見逃さなかった。

 

「へーえ・・・で、春姫の本命は【リトル・ルーキー】ってわけかい」

「ファッ!?」

「そ、そんな・・・」

 

 悪戯っぽい表情のアイシャ。ベルと春姫が頬を染め、ヘスティアとリリがむっとした顔になる。フェリスはチェシャ猫のような表情。

 

「そーだよぉ。春ちゃんはベルちゃんが大好きなの。ねっ?」

「れ、レーテーさま!」

 

 顔を真っ赤にした春姫が抗議するが、レーテーはニコニコするばかり。紐女神などはこめかみをぴくぴくさせ始めたが、さすがに横やりは入れない。まあ入れようとしたら、叫ぶより早く横の大男が口を塞いでいただろうが。

 くっくっ、と喉を鳴らして笑っていたアイシャが、表情をまじめな物に戻した。

 

「まあ春姫を守ろうってのはいいさ。でも、守りきれるのかい?

 知ってるだろうがこいつの妖術は桁外れだ。"うち(イシュタル)でも都市最強(フレイヤ)に勝てるかも知れない"ってイシュタル様が夢見ちまうくらいにはね」

 

 アイシャの主神イシュタルは、同じ美の女神であるフレイヤにライバル意識を持っている。憎んでいると言ってもいい。

 理由は単純。他の女神が自分より称賛されているのが心底気にくわないのだ。

 

「もう春は・・・春姫はあの術は使えません。イシュタル様の【恩恵】に全て置いてきました」

「そうかい。でも『また発現するかも知れない』ってだけであんたを狙う理由になる、そう考える奴らはいるんだよ? イシュタル様に限らずね」

「それは・・・」

 

 居並ぶヘスティア・ファミリアの面々を見渡すアイシャ。イサミやレーテーはもちろん、シャーナやリリなど、そう言ったオラリオの裏も知る面々は厳しい表情になっている。

 

「つまりあんたたちは春姫を手元に置いておくだけで、そうした連中に延々と付け狙われる可能性があるってことさ。

 春姫が生きてる限りずっとだ。仮に今回守り切れたとして、今後もずっと守りきれる保証はあるのかい?

 まかり間違えば、ギルドやフレイヤが手を出してくることだって無いとは・・・」

「守ります!」

 

 アイシャの言葉を遮り、ベルが言い放った。

 

「ギルドが相手だって、オッタルさんたちやロキファミリアの人たちが相手だって、僕たちは戦います! 絶対に!」

 

 はっ、と。その言葉をアイシャが鼻で笑う。

 

「たかがLv.3の小僧が何を吼えてるんだか。ちやほやされて勘違いしてるんじゃないかい?」

「勘違いなんか・・・してません!」

 

 少年の脳裏によぎるのは憧憬であり、慕情である少女の姿。

 心の中に彼女を住まわせている限り。想いが途切れない限り。ベル・クラネルが慢心することはあり得ない。

 その目の光に覚えた喜びを押し隠して、アイシャは挑発を続ける。

 

「口だけなら何とでも言えるよ。あんたなんか"猛者(おうじゃ)"や"勇者(ブレイバー)"どころかあたしにだって勝てないさ」

「勝ちます!」

「じゃあ勝ってみな。《戦争遊戯(ウォーゲーム)》であたしのことを倒してごらんよ。そうしたら認めて上げるさ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・!」

 

 もはやベルに言葉はない。その瞳に燃える炎が何より雄弁に答えを返す。

 胸の鼓動が高鳴るのを感じつつ、アイシャは今度こそ獰猛な笑みを浮かべる。

 

「アイシャ姐さん・・・」

「ああ、そうそう。こいつがあったね。忘れ物だよ、春姫」

「これは・・・」

 

 布包みを渡すアイシャ。

 中身を確かめた春姫がそれを大事そうに胸に抱く。

 ちらりと見えた紋様に覚えがあるような気がして、春姫を助けだしたときに彼女が着ていた緋の打掛衣裳だとイサミは思い出した。確かあれは、春姫の本来の体にそのまま着せてきたのだったか。

 

「それじゃあね。あんたも出てくるかどうか知らないけど・・・ま、がんばりな」

 

 春姫の頭を優しく撫でてやり、アイシャはきびすを返した。

 最後にちらりとくれた視線に対し、女神は腕を組んで自慢そうに胸を張り。シャーナは肩をすくめ。レーテーはにこにこ笑い。そしてイサミはニヤリと笑った。

 ニヤリと笑い返し、こちらを睨むベルにも最後に一瞥くれると、アイシャはその場を立ち去った。

 後ろの面々に見えないところで満足げに笑いながら。

 

 

 

「乗せられたな、ベル」

 

 遠ざかっていくアイシャの後ろ姿を見つつ、イサミがベルの肩を叩いた。

 

「え?」

「ああもうそれでこそベルくんだけどそれがボクじゃなくてお春くんのためだっていうのがもう!」

「あ、いやその」

 

 嬉しいやら腹が立つやらで頭を抱えてがーっと吼える紐神、ぶすっとした表情を隠さないリリ、カナリヤを見つけた猫のような顔で春姫に絡んで顔を真っ赤にさせているフェリス。

 

「やれやれ、勝手に代弁してくれやがって・・・まあ、若いもんのケツを持ってやるのも年長者の役割だがな」

「いちいちおっさんくさいですねえ」

「うるせえよ」

 

 イサミのすねを蹴る(外見は)可憐なエルフの少女。

 そして全ての中心にいる少年は、たった今アイシャに啖呵を切ったのと同一人物だと思えないくらい、ぽかんとしたまぬけ面で棒立ちしていた。

 

「ええと、一体何が・・・」

「あーもう、ベルちゃんかわいーっ!」

「うわーっ!?」

 

 まあ、数秒後にはレーテーのハグとキスの嵐にもみくちゃにされることになるのだが。

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