ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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19-12 戦争初日

 オラリオ東南80km、シュリーム古城。神会(デナトゥス)から四日後の朝。

 アポロン、イシュタル、ソーマ各ファミリアと、ロキ、カーリーの助っ人たちは準備を終えて城の中に立てこもっていた。

 アポロン・ファミリアの女性団員の一人が何やら騒いでいたが、いつもの事と誰も気にも止めない。

 立ち会い人のガネーシャ・ファミリア団員の宣言のもと、曙光と共に門が閉ざされ、全員が戦闘態勢に入る。

 

 ――そして何事も起こらないまま日が暮れた。

 ヘスティア・ファミリアが宣戦を布告すれば、近くのアグリスの町から狼煙が上がることになっている。

 しかし、この城の中で誰より鋭い目を持つハイエルフのリヴェリアですら、煙のけの字も見つける事はできなかった。

 

 日没後、テーブルと椅子を持ち込んで食堂として使っている大広間の一角。

 「臆病者のヘスティア・ファミリア」を笑う他ファミリアの構成員たちに紛れてフィン達の姿があった。

 

「やはり、初日は外してきたか」

「だろうな。よほど自信があるのでなければ、相手の気力が一番充実しているタイミングで仕掛けはすまい」

 

 フィンの言葉に頷くのは対面に座るリヴェリア。

 その横で黙々と食事を口に運ぶガレスも頷く。

 

「まあ適当にダレて気が緩んだところでかかってくるか、それとも30日ギリギリになり、ワシらが疲弊したところを攻める算段か。

 どちらにせよ長期戦は覚悟しておいた方がよさそうじゃの」

「ああ。籠城で意外にきついのが精神的疲労だ。外に出られず、気晴らしもろくにない。鬱屈が溜まり、正常な判断ができなくなる。

 人間関係もぎくしゃくし、些細なことで喧嘩が起きるようにもなる。ましてや今回は寄り合い所帯かつ人も多い。イサミ・クラネルならその程度は考えているだろう」

 

 揃って頷くリヴェリアとガレス。

 

「ギルドの図書館の本を全て読破した、というのが事実なら彼はオラリオには勿体ない男かもしれんな。『学区』に籍を置けば、間違いなく当代有数の学士として名を残しただろう」

「まあやりたいことと才能が一致してるとは限らんからの。それにおまえさん(リヴェリア)を除けば、やっこさんは掛け値無しにオラリオ一の魔導士だ。それはそれで勿体ない」

 

 そうだね、と頷くフィンの右頬にやわらかいふくらみが当てられた。

 

「気晴らしナラ、やはり女ダナ。今夜お前の寝床で奉仕しよう。イイナ?」

 

 笑顔のまま固まるフィンの表情。

 それとともに、今度は左頬に同じようなやわらかいふくらみが当てられる。

 

「あら、団長はあなたみたいながさつな女は好みじゃないのよ? 都会の流儀を身につけてない田舎者は、そのへんの草むらでトカゲでも相手にしてなさいな」

「ホウ、ということはお前は随分とフィンの(ねや)に呼ばれているのだろうナア? 是非話を聞かせて貰いたいものだが」

「・・・この年増が」

「小娘ェ・・・」

 

 互いに胸にフィンの頭を抱え込んだまま、その頭上で火花を散らすアルガナとティオネ。

 二人の視線がぶつかる空間に、本当に火花が見えそうな一触即発の空気。

 威勢のいい話で盛上がっていたアポロンファミリアの団員たちが、ぎょっとして二人の方を振り向いた。

 

 笑顔で固まったままのフィンが、助けを求めるように視線を送る。

 それに対してガレスは露骨に視線を逸らして食事を詰め込み、リヴェリアは優雅に茶を口にした。

 

 

 

「はあ・・・」

「グギギギギギギギギ……」

 

 一方、遠くに逝ってしまった姉を隣のテーブルから眺めるのは、アルガナの妹バーチェ。

 フィンの頭を両側から挟み込む四つのふくらみを、人を殺せそうな視線で睨んでいるのはティオネの妹ティオナ。

 同じテーブルに着いているアイズとレフィーヤが一筋の冷や汗を浮かべていた。

 

 

 

「丁度いい。今度こそ決着付けてやろうじゃねえか。表へ出ろ!」

「イイダロウ。どちらがフィンにふさわしい雌か、思い知らせてヤル」

「二人とも、城壁からあまり離れたら失格だから気を付けろよ」

「何でそんなに冷静なんじゃおまえさん(リヴェリア)は」

「あー、二人とも。戦争遊戯が終わるまでは私闘禁止だ。僕たちは勝たなきゃならないからね。ここでエリクサーやらなんやらを消耗するわけにはいかない」

 

 今にも本当に外に出ていこうとしていた二人が、フィンの言葉でぴたりと止まった。

 

「・・・ヨシ、なら敵の一級冒険者をどれだけ倒したかで勝負ダ」

「・・・いいでしょう。一級冒険者の数が同じなら、二級の数で」

「決まりダ! これで私がフィンを独り占めする!」

「上等だァ! 団長の操は私が貰う!」

 

 チンピラのごとくメンチを切り合う二人のアマゾネスを見て、フィンは深い深い溜息をついた。

 

 

 

「アルガナは変わった・・・変わってしまった・・・だがそのおかげでもうアルガナと戦う事はない・・・

 私は喜べばいいのだろうか、それとも悲しめばいいのだろうか・・・」

「うんまあ、喜べばいいんじゃないかな・・・」

 

 隣のテーブルでは妹たちが遠い目をしている。

 最初はティオネもまだ大人しかったのだが、加減というものを知らないアルガナに対抗していくうちに本性が現れ、いまやご覧の有様であった。

 

「でも、こうしてバーチェとお茶を飲めるのは嬉しいかな。ずっと、こうしたかったんだ」

「・・・私もだよ」

 

 にっこりと笑うティオナにつられ、バーチェも僅かに微笑んだ。

 

 

 

「けっ、面白くもねえ」

 

 一人の狼人が何をするでもなく城内をうろついていた。

 差し渡し100mほどの城の中は500人も入ると一杯一杯で、あちこちのテントで雑魚寝している平団員も少なくない。

 そうした団員たちも手持ちぶさたにうろうろしていたが、二つ名の通りの凶相とその雰囲気から、出会う誰もがその男を避けていた。

 "凶狼(ヴァナルカンド)"ベート・ローガ。

 

「ねーねーベートー。何が面白くないのさー?」

「うるせえ。黙ってろまとわりつくな息をするな」

 

 回りをちょろちょろとつきまとう小柄なアマゾネスを拳でこづく。

 前は本気で殴り倒していたのだが、強く殴るほど喜んでいる気がして怖くなったのでやめた。

 

「えへへー」

 

 にへら、と表情を緩ませるアマゾネスの少女、レナ・タリー。

 その様子を見たら、確かにこづかれて喜んでるようにしか見えない。

 イシュタル・ファミリアの団員であるこの娘は先だっての事件の絡みでベートに殴り倒されて以来、こうしてベートにつきまとっているのだった。

 殴れば殴るほど喜ぶし、罵倒されてもけろりとしているし、挙げ句の果てには惚れた雄に殺されるなら本望とまで言い放つこの娘に、文字通り一匹狼を通してきたこの男はほとほと参っていた。

 まあ神々の言葉で言うなら「クソ狼爆発しろ」なのであるが。

 

「・・・ん」

「うん? どしたの?」

「黙ってろ」

 

 ベートが不意に足を止めた。横のレナがまとわりついてくるが無視。

 その視線の先には小姓のような(ベートから見れば「ひらひらした」)格好の小人族がいる。胸にはアポロン・ファミリアの紋章。

 くんくん、とベートが鼻を鳴らした。

 

「あ、あの。なんでしょうか?」

 

 自分が見られていることに気付いたのか、不安そうな顔で尋ねてくる小人族。名前は確かルアンとか呼ばれていたか。

 どこぞの酒場でアポロン・ファミリアがヘスティア・ファミリアに喧嘩を売ったとき、執拗にあのガキを挑発していたやつだと、ベートは思い出した。

 だが・・・

 

「っ・・・」

 

 じろり、と視線に力を込める。冷や汗を浮かべたルアンが一歩後ずさった。

 そのまま僅かに時が流れる。

 

「ふん」

「あ、ちょっと待ってよベートー!」

 

 ベートがきびすを返し歩み去る。

 肩を落として安堵の息をつくルアン。

 そのルアンをちらっと見やり、レナは狼人の後を追った。

 

「ねえねえ、あの小人族がどうしたのさベート?」

「どうもしねえよ。俺は弱っちい奴も、弱っちい奴がこすい事をやるのも嫌いなだけだ」

「あー。アポロン・ファミリアがヘスティア・ファミリアに因縁付けたときのこと?」

 

 その問いには答えず、ベートはむっつり顔で歩き続けた。




城のサイズと護り手側の人数ですが、原作で「100人で守るには広すぎる」とあり、とはいえ100人で守れないほど広すぎもしないようなので、色々勘案して差し渡し100m(これだと適正人数300人くらい)。
人数についてはソーマとアポロンが100人超程度、イシュタルは春姫の儀式の時に上級冒険者の「大半」を集めて100人。
(桜花とヴェルフの行く手を阻んでアレンに瞬殺されたやつとか、儀式場以外にもLv.3がいたりします)
ということでイシュタルの上級冒険者の数が150人、大体Lv.1とそれ以外の比率が半々なのでイシュタルが全部で300人。あわせて500人超くらい、という感じ。
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