ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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19-13 ヴェルフとゲド

 同じ夜、オラリオ。

 ヘスティア・ファミリアのホームに続く路地でばったりと顔を合わせた二人の男がいた。

 

「お? よう、しばらくぶりだな。元気だったか」

「・・・ああ」

 

 片手を上げて気さくに挨拶をしたのは、目つきは悪いが割と気はいいオグマ・ファミリアの上級冒険者、ゲド・ライッシュ。

 言葉少なに挨拶を返すのは着流しの鍛冶師、ヘファイストス・ファミリアのヴェルフ・クロッゾ。

 彼らは共に人造迷宮の暴走による封印外世界への転移に巻き込まれ(というか起動したのはゲドなのだが)、一月ほど同じ釜のメシを食った間柄である。

 ゲドがもっと記憶力が良ければ、ヴェルフの背中の長い布包みが封印外世界で彼が持っていた物と同じであると気付いたかもしれない。

 

「おまえさんもヘスティア・ファミリアのホームに行くところか? あれ、でもヘファイストスから出るなら"単眼の巨師(キュクロプス)"だよな。どうしたんだ?」

「戦争遊戯の助っ人に行く訳じゃねえよ。それよりお前こそ、まだLv.2なのにあいつらの助っ人に入るつもりか?」

「まあな。【勇者】だの【頂天】だのが暴れる戦場に俺程度が行ったところで何が変わるでもないだろうが、いないよりはまあ、ましなんじゃねえか?

 それにあの小僧(ベル)なら同じ状況でも間違いなく突っ込んでくだろうぜ。賭けてもいい」

「・・・そうだな」

 

 ヴェルフが溜息をつき、僅かに苦笑をにじませた。そのまま少し考え込むと、背中の布包みを下ろして投げ渡す。反射的にそれを受け取るゲド。

 

「っと、な、なんだよ?」

「ヘスティア・ファミリアのホームまで行くんだろう? 悪いけどそいつを持ってってくれ。好きに使ってもらっていい」

「え、おい」

「椿もいるんだろ? 顔を合わせたくないんだよ。んじゃな、その内どこかで飲もうぜ」

 

 いきなり押しつけられた荷物にゲドが目を白黒させている間に、ヴェルフはそのままきびすを返して立ち去ってしまった。

 どことなく吹っ切れた、さっぱりした表情をゲドの目に焼き付けて。

 

 

 

「・・・ってわけで、こいつをヴェルフから預かったんだが」

「ヴェルフが?」

 

 人で一杯になったヘスティア・ファミリアのホーム。

 卓の上に置かれた布包みを見てベルが首をかしげた。

 人が増えたこともあり、しばらく前にイサミが大きめのテーブルを作り直していたのだが、それでも今いる人数には足りないため、集まった助っ人たちは思い思いに適当な場所に立ったり座ったりしていた。

 (一応イサミの手によって椅子などは追加されている)

 春姫がぱたぱたと走り回って飲み物などを給仕しており、命もそれを手伝ったりしている。

 

「近くまで来たなら立ち寄ってくれればいいのに」

「まったくだのう。最近はこそこそしおって、手前の目の届く所に近づかん。顔を合わせれば力一杯可愛がってやるものを」

 

(職人的かわいがりですねわかります)

(そんなんだから顔を合わせたくないんじゃないかなあ・・・)

 

 イサミやヘスティアにそんなことを思われているとはつゆ知らず、不機嫌にすがめられていた椿の目が、布包みが開かれると同時に大きく開いた。

 

「これは・・・」

「魔剣だ! 魔剣だよ!」

 

 奇妙な形をした真紅の大剣。鍔はなく、柄と刀身の間に同じく紅の宝珠が輝いている。

 刀身や柄も含めた剣全体から燃えるような赤い光を放っていた。

 

「まさかこいつが・・・」

「"クロッゾの魔剣"・・・」

 

 誰もが恐れるようにそれを見つめる中、イサミが手を伸ばして柄を無造作に掴む。

 懐から青いレンズのはまった手持ちのルーペを取り出し、"魔力分析(アナライズ・ドゥエオマー)"呪文を唱えて仔細にそれを検分しはじめた。

 D&D世界でも滅多に見られない強大な魔力は、イサミをして戦慄すらさせる代物だ。

 

「凄まじいな・・・確かにこいつなら、リヴェリアさんの全力の魔法にも匹敵、あるいは凌駕するかもしれん」

「で、あろうな。それを『俺は魔剣は打たない』などとほざきおって。鍛冶師としてふぬけておるのだ・・・と言いたい所だが、さて、これはどういう心境の変化であろうの」

「よくはわからねえけど、なんかさっぱりした顔してましたよ"単眼の巨師(キュクロプス)"」

「ふむう・・・ああ、その二つ名はやめてくれ。好かんのだ」

「あ、はい、椿さん」

 

 上位者にはてきめんに腰が低くなるゲドである。

 

 

 

 しばらくああでもないこうでもないと話題にしていた彼らだが、やがてイサミが手を叩いて会話を終わらせる。

 本題――戦争遊戯における作戦を話しあうためだ。

 集まったそうそうたる助っ人たちを改めて見渡し、表情をあらためる。

 

「改めて本日はお集まり頂きありがとうございます。このたびの戦争遊戯、若輩ではありますがわたくしが指揮を執ることにさせていただきたく・・・皆様にはお思いのほどもおありでしょうが、どうぞよろしくお願いしたく思います」

「何、この戦いはお手前らの戦い、手前どもは助っ人に過ぎん。なあ"猛者(おうじゃ)"殿?」

 

 椿がひらひらと手を振り、隣に座っていたオッタルに視線を向ける。

 オッタルが無言で頷いた。

 

「ありがとうございます」

 

 心中で二人に感謝しつつ、もう一度頭を下げる。

 オラリオ最強の男とLv.5にして派閥首領の椿が納得してしまっては、他の人間がLv.1のイサミに従うことに内心不平を持っていても、それを表に漏らすのは中々に難しいだろう。

 そして壁際に立つ水色の髪の麗人に視線を向ける。

 

「アスフィさんも改めてありがとうございます。来てくれて嬉しいですよ」

「まあその、ヘルメス様の命令でしたし」

 

 視線を逸らすその頬が僅かに赤い。

 えっ、とゲドなどは思ったが、周囲は全く反応を見せずそのまま話は流れていく。

 

「リューさんたちも来てくださって助かりました」

「これくらいの恩返しはさせてください。まあ、女将さんには怒られましたが」

 

 苦笑するのはフードを下ろしたエルフ、リュー。

 後ろの二人、同じ〈豊穣の女主人〉のウェイトレスであるクロエとルノアも、それぞれ普段とは違う冒険者風の姿でここにいた。

 

「シルに"あの笑顔"で頼まれたら嫌とは言えないニャ・・・ぶっちゃけロキファミリアよりあの笑顔の方が怖い」

「カードの負け分を盾にされると・・・以下同文」

 

 何やらボソボソ呟いていたのをイサミの鋭い聴覚がキャッチしたが、聞こえないふりをしておく。

 哀れな二人の元暗殺者に見て見ぬふりをする情けがイサミにもあった。

 

 ちなみにリューは正義の女神アストレア、ルノアは大地母神デメテル、クロエは海神ニョルズの眷族なので一派閥一人という条件に抵触しない。

 アスフィも含めてそれぞれレベルは4、助っ人としては十分な戦力であった――相手がロキ・ファミリアでなければだが。

 

「そういえば命さん、『あれ』は大丈夫ですか?」

「ええ。うちの団員とミアハ様の所のナァーザさんが交替で見張ってます。万が一にも逃す気遣いはないでしょう」

 

 加えてタケミカヅチ・ファミリアのヤマト・命。

 団長であり実力で上回るカシマ・桜花が来ることも考えられたのだが、特に春姫と仲がよかったこと、集団戦向きの魔法を有していることから彼女が選ばれた。

 

(よかった・・・俺と同じLv.2がいる!)

 

 そして内心命の存在に喜んでいるのが最後に来たゲドであった。

 ヴェルフにはえらそうなことを言ったが、それでもLv.7だのLv.5だの、雲の上の人々に囲まれてるのは居心地が悪いに決まっている。

 何気に同じ〈神会(デナトゥス)〉で二つ名を賜った仲でもあり、命にはちょっぴり親近感を抱いていたりすることもある。

 まあ彼女の方では全くさっぱり、これっぽっちもそんな事に気付いてはいないが。

 

「・・・む」

「どうしました、オッタル殿」

「助っ人が八人しかいないが、これで全部か?」

 

 オッタル、椿、アスフィ、リュー、ルノア、クロエ、命、ゲド。

 確かに現在の助っ人枠は十人までなので、後二人追加する余地がある。

 

「うちのレーテーはまだイシュタル・ファミリア扱いなので彼女も助っ人枠ですね。残りの枠は交渉中というか調整中で・・・"向こう"に行ったメンツなら知っていると思いますが」

「そうか」

 

 やはり言葉少なにオッタルが頷く。

 首をかしげたアスフィが、ややあって納得顔になった。

 

「ああ、彼()ですか?」

「はい」

 

 そのまま誰とは明言せず、話は具体的な作戦に移った。

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