ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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19-14 開戦

「と、作戦はこんな所ですが、みなさん何かありますか」

 

 卓上の地図やコマ、時には幻影も交えた一通りの説明を終えて辺りを見回すイサミだが、誰一人言葉を発しない。

 内容の余りのデタラメさに呆けているのが半分、半信半疑なのがもう半分といったところか。

 

「疑うわけではないのだがのう・・・本当にできるのか、そんなことが?」

「まあイサミ君なら・・・できるんでしょうね」

「相手の数を封じるのがひとつ、相手の用意した物資を封じるのが一つ。後は何より相手の意表を突けるという点が大きいかと」

「まあそうなんだろうけどさあ・・・ホント、君ってデタラメだよね、イサミくん」

 

 溜息をつくヘスティアに、イサミは肩をすくめることで答える。

 

「恐らくLv.2くらいまでの敵は一掃できるでしょう。となると、後は純粋な質の勝負――運がよければロキやカーリーの一級冒険者にもなにがしかのダメージは与えられそうですね」

 

 リューの言葉に、ルノアが指折り数え始める。

 

「あっちはLv.6が九人、イシュタル暫定団長のタンムズと"麗傑(アンティアネイラ)"がLv.4、レフィーヤちゃんと"太陽神の寵童(ポエプス・アポロ)"がLv.3だったわね。後はイシュタルのアマゾネスにLv.3が50人ほどか」

「レフィーヤちゃんはこの前Lv.4に上がったわよ」

「そう言えばそうだったニャ。アポロンの平団員とソーマは全員Lv.2かそれ以下だから無視して構わないニャ」

「こちらはLv.7の"猛者(おうじゃ)"、Lv.5の俺とレーテー、フェリス、椿。おたくら四人がLv.4、ベルが一応Lv.3、よくわかんねえのが一人。まあ質でもちょいと負けてるわな」

「よくわからんってそりゃ俺の事か?」

「お前以外に誰がいるよ」

 

 きっぱり断言するシャーナに憮然とするイサミである。

 

「まあヒュアキントスは塔のてっぺんの玉座の間でふんぞり返ってるらしいから、うまくいけばそれだけで終わるだろう。アマゾネスもLv.3の連中なら一掃できる。問題はタンムズと"麗傑"、ロキとカーリーの連中だけと思っていい」

「さらっと内部情報口に出しやがるニャ、こいつ・・・」

 

 一方、"猛者(おうじゃ)"オッタルは腕を組んでテーブルの上の地図を見つめたまま無言だった。

 

「オッタル殿、なにか?」

「作戦自体に異論はない。お前がやれるというならやれるのだろう。

 俺が気になる事は一つだ――"奴"は出てくると思うか?」

 

 イサミが厳しい顔になる。

 奴――黒の超戦士ロビラー。

 一対一であれば恐らくいかなる相手にも勝利できるであろうオッタルだが、ロビラーだけは別だ。

 かつての戦いでは、ベルの支援魔法込みでかろうじて互角。

 武器の破損で水入りとなったが、それがなくても勝てたかどうかとなるとオッタルも口をつぐまざるを得ない。

 オラリオの【頂天】をして、ロビラーとはそう言う相手だ。

 

「正直わかりません。出てくるつもりなら先だっての時に何か言っただろうと思わなくもありませんが――あのおっさんのことだからなあ・・・」

 

 真剣だったイサミの顔が呆れるような、苦虫を噛み潰したようなものになって額を抑える。

 オッタルも〈豊穣の女主人亭〉でのことを思い出したのか、僅かに額に皺が寄った。

 騎士道に篤く、約定を違えない戦士の鑑でありながら、享楽的でふざけ屋でいたずらと人を驚かせるのが好き。ロビラーとはそう言う男であった。これで秩序属性なのだから世の中間違っている。

 

 

 

 それから二十日間ほどが過ぎた。

 最初の頃は毎日神会の間に集まっていた暇神たちも、10日を超えたあたりでぽつぽつ欠け始め、今は半分も席が埋まっていない。

 盛上がっていたオラリオの雰囲気もだれるというかゆるみはじめ、徹底して姿を現さないヘスティア・ファミリアのメンバーに代わってヘファイストスの団員が市民に難詰されたり、椿の詰めている鍛冶場が一部の暇人によって監視されるという事態まで起こり始めた。

 とは言え三十日の猶予期間も2/3を過ぎると「さすがにそろそろ」という心理が働くのか、神界の間に顔を出す神や特設会場で席取りをする暇人も少しずつ戻り始めて――

 そんなある日の夜明け。オラリオと、古城の最寄りの町であるアグリスに真紅の狼煙が上がった。

 

戦争遊戯(ウォーゲーム)だっ!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」

『ヒャッホォォォォォォォ!』

 

 いつぞやの朝のごとく、たちまちの内に知らせはオラリオ中を駆け巡る。

 

「狼煙が上がったぞぉぉぉ!」

「こりゃ女房を質に入れてでも観に行かなあきまへんで!」

 

 冒険者たちは観戦場と化した酒場に詰めかけ、一般市民はギルド前庭の(勝手に設営された)特設会場に押し寄せた。

 そこ以外でもオラリオ各所の広場や大通りには人が溢れ、その時を今か今かと待ち構えている。

 

『あー、あー、あー、テステスマイクテス。

 ・・・それでは、みなさんお待ちかねぇ!

 今回の〈戦争遊戯〉実況を務めさせて頂きますガネーシャファミリア所属、喋る火炎魔法こと【火炎爆炎火炎(ファイアー・インフェルノ・フレイム)】イブリ・アチャーで御座います。以後お見知りおきを!』

「うるせえ!」

「早く始めろぉ!」

『と、申されましても戦端を切るのは神ヘスティアの胸先三寸乳八寸! 我らはそのありがたい乳と神徳をただ拝むのみで御座います!

 なお解説は我らが主神ガネーシャ様! ガネーシャ様、それでは一言!』

『――俺が、ガネーシャだ!』

『はいっ、ありがとうございましたー!』

 

 一転してやんやの喝采を送るオラリオ市民たち。

 ガネーシャほどオラリオの市民に愛される神は少ない。

 ややニュアンスは異なるが匹敵するのがフレイヤ、それに次ぐのがデメテル、更にはヘスティアだろうか。

 おっぱいの大きさが決め手という説もあるが気にしてはいけない。

 

「さて、いよいよだな――ベル・クラネルと別れは済ませてきたかい、ヘスティア?」

「ふん」

 

 そしてオラリオの中央に位置する白亜の巨塔の地上三十階。神会(デナトゥス)の間でアポロンがヘスティアに語りかける。顔を背けた彼女に、今度はヘルメスが視線を向けた。

 前の神会以来、神々の間では彼がこの一件を仕切るような形になっている。確かめるような視線に、ヘスティアがはっきりと頷いた。それを確認してヘルメスが虚空に語りかける。

 

「ウラノス、力の行使の許可を」

【――許可する】

 

 地の底から響くようなその声を合図に、観客で賑わうオラリオの各所、更には遠く離れた世界中の各地に無数の銀の鏡が浮かび上がった。

 『恩恵』と並び下界で行使が許されている唯一の『神の力(アルカナム)』――『神の鏡』。

 遠隔地の様子を細大漏らさず見ることのできる千里眼の力。下界の催しを神々が楽しむために認められた特例であった。

 

 さらに今回はオラリオのみならず、この知らせが届いた世界各地からも神の鏡が映像を現地に届けている。

 オラリオ最強、つまりゼウス、ヘラ両ファミリア亡き後の文字通り世界最強である二つの派閥の激突。

 これはその知らせを聞いたほとんど全ての神の関心を引くのに十分なカードであった。

 

『では神の鏡(えいぞう)も届きましたことですし、改めて説明をさせていただきます!

 今回の〈戦争遊戯〉はアポロン派とヘスティア派のいさかいに端を発するものでありますが、色々ありまして――』

 

 

 

「おーら、賭けを締め切るぞ! もうないか、もうないか!」

「オッズはアポロン3にヘスティア1か・・・意外と離れてねえな」

「いくら"猛者(おうじゃ)"でもロキ全員相手じゃあなあ。カーリーの二人もLv.6なんだろ? 10:1くらいでも・・・」

「どうせ神連中だろ。あいつらいつも大穴狙いだからな」

 

 呆れる胴元の視線の先では、「うおーっ!?」「来い来い!」「幸運の兎よー!」と、賭け札を握りしめて叫んでる神々(ばかども)の姿があった。

 どれくらいのファミリアの財務担当が今頃顔を真っ青にしているかは、知らない方が色々な意味で幸せである。

 

「それじゃこれで・・・」

「ヘスティア・ファミリアに20万だ」

 

 どさり、と卓の上に重い金袋が置かれる。

 

「ヒューッ!」

「よく賭けるなあ、モルド!」

「俺じゃねえよ。頼まれた分だ」

 

 ゲドの先輩であるモルド・ラトローは椅子にふんぞり返り、憮然としてエールのジョッキをあおった。

 

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