ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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19-15 初手(オープニングショット)

 

「はーっはっはっは! 臆病者(チキン)がようやっと来やがったか!」

「"猛者(おうじゃ)"以外は取るにたりねえ! 魔法の詠唱でもしようもんなら蜂の巣にしてやらあ!」

「けどあいつら、魔剣も使ってくるんじゃねえのか? あっちは使用制限ないだろ?」

「馬鹿言え、長弓相手に魔剣じゃ、どうやったって距離が足りねえよ。それこそロキの"九魔姫(ナイン・ヘル)"ならともかくな!」

 

 城壁の上は意気軒昂であった。

 鈴なりとまでは行かないが、アポロン、ソーマの団員に加え、肉弾戦を好むアマゾネスゆえに割合としては多くないがイシュタル団員もそれなりの数が長弓を構えて待機している。

 落ち着いて構えているのは、ロキ、カーリー両ファミリアの助っ人くらい。二十日間以上一つの城の中に閉じ込められていた鬱屈が爆発したような形だ。

 

 籠城戦では時折こう言うことが起きる。緊張感と閉じ込められた苦痛は確かに士気をくじくが、ひとたびそこからの出口を見つけたとき、今までの反動が暴走とも思える士気の上昇を招く。

 彼らにとっては、ヘスティア・ファミリアの宣戦布告こそがそれだった。

 

「おい、見ろよ!」

「あいつら馬鹿か! 正面から来やがったぜ!」

 

 

 

『おーっと、意外や意外! ヘスティア・ファミリア、正面から堂々と参戦だ!

 彼我距離は約2km! 悠然と前進してくるーっ!』

 

 既にイサミが【神秘】スキル持ち(ではないか)という噂は広く知れ渡っている。

 なにがしかの策を弄してくるのだろうと思われた大方の予想を覆し、ヘスティア・ファミリアは一団となって城の正面、北側から現れた。

 すかさず実況が拡声端末を握って唾を飛ばしはじめる。

 

『先頭は派閥首領、イサミ・クラネル! 嘘か真かLv.1ゆえに二つ名はなし! 【神秘】と【魔導】スキルを持つという噂もある! 何でこの人ギルドから罰金喰らってないの! 

 怪物祭では空飛ぶ馬で怪物を退治して回り、ロキ・ファミリアと共に59階層まで足を踏み入れた男! 深層で彼に助けられたと話す冒険者も少なくない! 全てが未知数!

 その横に並ぶのはその弟、復活の【リトル・ルーキー】ベル・クラネル! 冒険者登録一ヶ月半でランクアップ! その後半年の行方不明を経て更にランクアップ! 現在Lv.3!

 その驚くべきランクアップ速度には何か秘密があるのか! あるならちょっと分けて欲しい! 今オラリオで最も注目される若手の一人です!

 ちっちゃな子好きに大人気! ロリエルフパワーファイター、シャーナ・ダーサ!

 ちっちゃいがいればおっきいもいる! 2mの首領と並んですら頭一つ高い巨大狼人(ウェアウルフ)、レーテー!

 つい最近派閥に参加したヒューマン、フェリス! 美人だけど無難すぎてなんか実況のネタにしづらい!

 いずれも経歴不詳の謎の面々ですが、ギルドの登録情報ではなんと全員がLv.5! 本日はどのような戦いを見せてくれるのか! 今回の戦いの発端となった元イシュタルファミリアのサンジョウノ・春姫、Lv.1の姿も見えます!』

「「「ウオオオオーッ!」」」

 

 もう変装の必要もないため(そして普段の変装がまだ使えるように)、春姫は本来の姿に戻っている。

 Lv.5三人という意外な伏兵の登場に盛上がる観客の面々だが、それもまだ序の口だった。

 

『そしてこれらヘスティア・ファミリアの面々の後ろに続くのはみなさんご存じ、オラリオ最強の男【猛者(おうじゃ)】オッタル! 彼の燦然たる経歴は誰一人知らぬ者はないでしょう!

 更にはヘファイストス首領、椿・コルブランド! 正体不明の覆面女三人! その後に続く赤いフードにマントの影は、近頃噂の快男児、"赤い外套団(レッド・クローク)"か!

 そして前々回の神会(デナトゥス)で二つ名を授かったタケミカヅチの【絶†影】ヤマト・命と・・・なっ、なんだとぉーっ!

 水色の髪、白いマント、全身に巻き付けられたベルトポーチ、そして眼鏡愛好家(フェチ)のわたくしが見まごうはずもないシルバーフレームのスクエアフルリム眼鏡!

 ヘルメス・ファミリア首領、水色の麗人、全世界眼鏡愛好家の希望の星! 【万能者(ペルセウス)】アスフィ・アル・アンドロメダだーっ!』

「「「「ウオオオオオオーッ!?」」」」

『お前そんな趣味があったのか。ガネーシャびっくり』

 

 歓声とも驚愕とも付かない、観客たちの特大のざわめき。

 表向きはLv.2でしかないが、稀代の魔道具作成者である彼女の知名度は、下手をすればその辺の一級冒険者よりもよほど高い。

 純粋な戦闘力は低くとも、何が出てくるかわからない魔道具の恐ろしさは知れ渡っている。

 

 それより何より、ガネーシャと別の意味で絶対中立であるはずのヘルメス・ファミリアから助っ人が参戦したという事実が全オラリオを震撼させていた。

 当然、それは神々の集う神会(デナトゥス)の間でも変わらない。

 

「ヘルメスは中立を崩した! 実は奴は最初からロリ巨乳に肩入れしていたんだよ! いや、この〈戦争遊戯〉そのものが奴の仕込みだったんだ!(迫真)」

「「「「なっ、なんだってーっ!(迫真)」」」」

 

 芝居がかった仕草で叫ぶ(ばか)に、ノリ良く追随する(ばか)ども。

 ほおづえを突いたヘルメスは悠然といつもの笑みを浮かべたまま。

 

「おいおい、言いがかりは困るなあ。俺は最初からずっと中立だぜ?」

「ふざけるな! お前の所の団長を参加させておいて何が中立だ!」

 

 激昂するアポロンにも、その表情は髪の毛一本ほどにもゆらぎはしない。

 口汚くヘルメスをののしるアポロンと、それをのらりくらりとかわすヘルメスのやりとりがしばらく続いたが、やがてイシュタルが鋭くそれを止めた。

 

「そもそも貴様が・・・」

「その辺にしておけ、アポロン! ・・・所詮はLv.2だ。確かに魔道具の数々は侮れまいが、代わりに一級冒険者でも引きずり込まれるよりはまだしもだろう」

「わらわとしてはむしろそっちの方が良かったんじゃがのうー」

 

 どこか自分を納得させるように言葉を発するイシュタル。対してカーリーはふんと鼻を鳴らしてどうでもよさげ。この殺戮の女神にとっては、魔道具に頼った戦い方など邪道でしかない。

 アポロンも不承不承矛を収め、不機嫌な顔でどすんと勢いよく腰を下ろす。

 ヘルメスはへらへらと笑って肩をすくめ、視線をヘスティアに向けて素早くウィンクをして見せた。

 

「ふん」

 

 もっともアポロンやカーリーと同じ、胡散臭げな視線を返されただけではあったが。

 なお、ゲドについて【火炎(ry】が何かアナウンスしたが、神会(デナトゥス)の間でもオラリオ市街でも誰も聞いていなかった。

 

 

 

 城砦からの距離2kmを少し割り込んだところで、ヘスティア・ファミリア連合軍は歩みを止めた。

 一級冒険者がよほどの剛弓を引けば届かせる事自体は不可能ではないが、間違っても命中やダメージを期待できる距離ではない。

 当然魔剣や魔法など届くはずもない。

 

「ここでいいのか、イサミ・クラネル」

「ええ。オッタルさんの女神様からのリクエストです。派手にやってやろうじゃありませんか」

「む」

 

 そう言えばそうだった、と今更ながらに思い出すオッタル。

 まさかこんな作戦を考えついたのはそのせいか、だがそれで我が女神が喜ぶなら・・・とつらつら考える内に、杖を振り上げたイサミの詠唱が始まる。

 

 

 

『おーっと! イサミ・クラネル、魔法だ! ここで魔法を使い始めた! 何かの強化魔法(バフ)、あるいは射撃を避ける為の目くらましを準備するのでしょうか?

 ガネーシャ様、一言お願いします!』

『うむ! 俺がガネーシャだ!』

『解説してくださいよお願いですから!』

 

 オラリオでも大多数の人間は首をかしげ。

 

 

 

「なんだあ? 魔法の詠唱か?」

「ビビリめ! よほど俺達の弓が怖いと見えるぜ!」

「どうだい、リヴェリア?」

「・・・量自体はさほどでもないが、恐ろしく研ぎ澄まされた魔力だ。正直ここから何が来るのか・・・」

 

 古城の城壁の上でもほとんどの人間がそれを笑っていた。

 そして次の瞬間、その笑みが凍りつく。

 

「《距離延長》《元素体得:音波》《最大化》《威力強化》《二重化》"極北の風(ボレアル・ウィンド)"」

 

 超短文の詠唱を完了させたイサミから一直線に、幅6mの衝撃波が走る。

 それは2kmの距離を一瞬に超え、城の東側、守備側から見て右側を通り抜けて巨大な砂ぼこりの壁を作り上げた。

 

「・・・・・は、ははははは!」

「ハハハハ! ばかめ、外しやがった!」

「だからもっと近づけばいいのによ! 臆病者だからしゃーねーけどよぉ!」

 

 一瞬の驚愕から醒め、げたげたと笑う守備側。

 だがロキ・ファミリアの顔に笑みはない。そのようなミスをする男かどうか、彼らが一番よく知っている。

 そしてそれは事実だった。

 

 "極北の風(ボレアル・ウィンド)"呪文は本来高さ6m、幅6mの極寒の突風を術者の術力に応じた距離に吹き抜けさせ、範囲内に冷気によるダメージと風による行動阻害を与える術だ。

 並の術者でさえ、その射程距離は200mを軽く越える(この呪文が使える術者を「並」と言っていいかどうかは別として)。D&D世界の魔法としてはかなり規格外の効果範囲だが、この術の最大の恐ろしさはそこではない。

 この術の特徴は持続時間中ずっと風を吹かせていられること。そして風の方向を変えられること。つまり――

 

「薙ぁぁぁぁぁぁぎぃぃぃぃぃぃぃぃ払ぁぁぁぁぁらぁぁぁぁええええええええええぇっ!」

 

 属性を変化させ、音波――つまり純粋な衝撃波と化した刃渡り2kmの不可視の剣が横薙ぎに振り抜かれる。

 音波は物体を破壊するのに最も適した属性。衝撃波に触れた石造りの城壁が抵抗すら許されず破壊、いや粉々に分解されて塵に返る。

 

「うわああああああああああああああああああっ!?」

「ああああああああああ!?」

「ああもう、やっぱりあの人デタラメだーっ!」

 

 イサミを支点として半径2kmの扇形、地上の一切合切を薙ぎ払う不可視の剣。

 秒速250mで吹き抜けた破壊の突風は地上から6mまでの部分を綺麗に消失させ、古城と城壁は礎を抜かれた積み木細工のように脆くも崩れ落ちる。

 ロキ・ファミリアはともかく、それ以外の者達には驚く暇すらあったかどうか。

 数秒後、巨大な土ぼこりと共に古城は瓦礫の山と化した。




こういう隠し球があったので、実は派閥全員の総力戦でもさほど戦力差は変わらない罠。
Lv.3以下の連中は全滅でしょうし、上位の連中も(本人は耐えても)持ってるエリクサーなりポーションなりが多分全損なので、火力勝負ではちょっと勝目がないですね・・・状態。
なお今回一番確実に勝つ方法は、これで城を破壊した後三日ほど放っておくことだったりします。
最初の一撃で食料その他も全部吹っ飛んでる上に補給が出来ませんので。

そして作中ではかっこよく書いてますが、実のところこの呪文、方向は六秒(D&Dの1ラウンド)に45度しか変えられないので、イサミ本人は時計の秒針程度の速度でゆっくり杖を動かしてるだけだったりしますw
なにぶん射程2kmなので、末端では作中で書いたように秒速250m(時速900km)を越えるめちゃくちゃな速度になるのですが。
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