ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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3-4 リヴィラ殺人事件 ~真相はクレーターに消えた~

 

 迷宮第十八階層、通称『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』。

 光り輝く水晶と、美しい森、草原、そして湖。

 地上にあったならば別荘地として大人気のスポットであったろう。

 "楽園(リゾート)"の異名も決して大げさではないな、とイサミは思う。

 

 この階層には水晶の発光の間隔によって朝昼夜が存在するが、そのリズムは地上のそれと一致していないため、ずれが生じる。

 現在は「朝」。とはいえ地上でも十時過ぎのはずなので、今のところはそれほどずれてはいないようであった。

 

「ハシャーナさんは・・・やっぱりリヴィラの中だな」

 

 イサミは"完全位置同定(ディサーン・ロケーション)"の呪文を使い、ハシャーナの居所を確かめた。

 何気に呪文の無駄遣いである。

 

 湖から突き出した岩山に作られた街、リヴィラ。街路はまだ人通りもまばらで、店も余り開いていない。

 地上であれ地下であれ、冒険者は朝寝坊なようであった。

 

 バラックのような店や洞窟を利用した酒場、水晶の柱などが入り乱れる街路を登っていく。

 美しい天然水晶と粗末な建築物が入り乱れる町並みには、一種独特の風情がある。

 やがてイサミは「ヴィリーの宿」と看板の出た洞窟の前で足を止めた。

 

「ここか・・・」

 

 洞窟の中へ入ろうとしたイサミの足が止まる。

 中からかすかに匂う――血のにおい。

 

 表情を変えず、無言のままで《高速化(クイッケン)》した"生物同位(ロケート・クリーチャー)"を発動する。

 洞窟の中に、ハシャーナの反応はなかった。「生きた」ハシャーナの反応は。

 

 直後、イサミはきびすを返して街路を戻り始めた。

 酒場らしき適当な洞窟を見つけ、階段を下りたところで再び呪文を発動する。

 

「《高速化(クイッケン)》"上位不可視化(スペリアー・インビジビリティ)"」

 

 誰も見ていない踊り場で、イサミの姿が消えた。

 "上位不可視化(スペリアー・インビジビリティ)"。

 名前の通り"不可視化(インビジビリティ)"の上位呪文で、音や匂い、それどころか"透明看破(シー・インヴィジビリティ)"の呪文でさえ察知できなくなる。

 念には念を入れ、足跡を残さないよう"長距離飛行(オーヴァーランド・フライト)"の呪文で地上10センチほどを飛行しながら、イサミは「ヴィリーの宿」に引き返した。

 

 

 

 「ヴィリーの宿」には、やはり誰もいなかった。

 その代わり部屋の一つに転がっていたのは、上あごから上を踏みつぶされた男の死体。

 顔はわからなかったが肌の色、そして背格好からして間違いなかった。

 

「ハシャーナさん・・・くそっ!」

 

 ののしり声を上げるイサミ。

 憤りがひとしきり収まると、今度は無言で考え込む。

 

「・・・まあ、しょうがないか」

 

 やがてため息をつき、背中の"ヒューワードの便利な背負い袋"から一本の巻物(スクロール)を取り出す。

 日本のそれとは違い、羊皮紙を丸め、紐で束ねたものだ。

 この世界では一般的ではないが、他のD&D世界では込められた呪文を使用できる使い捨てアイテムとして普及している。

 

 そのスクロールに記された呪文は"完全蘇生(トゥルー・リザレクション)"。

 一片の塵からでも肉体を再生し、魂を呼び戻す――『死者を蘇らせる』呪文だ。

 本来ベルに不慮の事態が起きたときのための物だったが、借りがある相手をこのまま放置しておくのも気が進まなかった。

 

 余談だがイサミが一日二回使える"願い(ウィッシュ)"の疑似呪文能力でも、これだけ遺体が残っていれば蘇生は可能である。

 ただ・・・。

 

(レベルが下がるんだよなあ)

 

 D&Dの世界にはそれなりに多くの蘇生手段があるが、"完全蘇生"以外は、おおむね対象のレベルを1減少させる。

 そうでない呪文もあるにはあるが、そうした呪文は「死亡直後」にかけるのが絶対条件なので、今回は使えなかった。

 

 この世界の1レベルはおおよそD&Dの3レベルに相当するから、ステイタスが1/3くらい下がるというのが妥当な予想だとは思うが、万が一この世界のレベルで1低下、と言うことになったら割としゃれにならない。

 何年もかけてステイタスを上げ、更に偉業を積んでランクアップを果たさなければならないこの世界で、1レベルは相当に重いのだ。

 

 

 

 もう一度ため息をつき、覚悟を決めて、イサミは"完全蘇生(トゥルー・リザレクション)"の巻物を開く。

 洞窟に巻物を読み上げる声が響く――もっとも"上位不可視化"をかけた状態なので、本人以外には聞こえないが。

 

 やがて長い詠唱が終わり、強大な魔力がハシャーナの遺体の周囲に集まる。

 それはやがて物理的な光を発し、遺体の欠損部分を回復させ始める。

 更に光が強くなり、魔力が生命力と魂をその冷たい肉体に再び吹き込む。

 そして・・・

 

「フォォォォォォォォォォッ?!」

 

 誰にも聞こえないイサミの絶叫が、ヴィリーの宿に響き渡った。

 

 

 

 乾きかけた血と脳漿、目玉。

 引き裂かれた背嚢と散らばった装備。

 

 その中央にあるのは今や頭を踏みつぶされた男の死体ではなく――身長140cm、年の頃12、3ほどの、可憐なエルフの少女であった。

 腰まであろうかという豪奢な金髪。精緻な芸術品のような面立ち。小ぶりながら形良く盛上がった胸の双丘。華奢で触れたら折れそうな手足。

 ちょっとおでこが大きい以外は、非の打ち所のない美少女だ。

 元のハシャーナがつけていた、男物のボクサーパンツが異彩を放っている。

 

(ぬわんっっっっじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁ?!)

 

 頭を抱えてイサミが絶叫するが、その声はやはり誰にも聞こえない。

 そのようにイサミが混乱している間に、エルフの少女が目を開いた。

 鋭い目で周囲を見渡し、素早く、しかし隙のない所作で跳ね起きる。

 立ち上がり、周囲を見渡そうとしたところで、サイズの合わなくなっていたボクサーパンツがすとん、と足下に落ちた。

 

 そこで初めて違和感を感じたのか、自分の体を見下ろす少女。

 そこにあったのはごくうっすらと金色のうぶ毛が生えた、何もない――

 

「お・・・俺の色黒で反り返ってカリ高の、自慢の【ツーハンデッドソード】がぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 実に下品な内容の絶叫が、澄んだ少女の声で、今度こそ洞窟内に響き渡った。

 

 

 

(お、落ち着いてください、ハシャーナさん!)

 

 頭を抱えて、キング・ク●ムゾンのCDジャケットみたいな顔になる美少女を何とか落ち着かせようと、肩に手を置く。

 が、透明化を解かずにそうしてしまったあたり、イサミもまだ混乱している。

 少女からすれば見えない何者かが接触してきたことだけしかわからない。

 

「ぬおっ?! なんだぁ!?」

(ぐぶぉっ!?)

 

 闇雲に振り回した拳がみぞおちにクリーンヒットする。

 ベート・ローガのそれにも劣らぬ一撃にたまらずイサミが吹き飛び、隅の棚に叩き付けられて派手にひっくり返した。

 

「そこかぁ!」

 

 戸棚の転がり具合で見当をつけ、全裸の少女が金髪を振り回してイサミにのしかかる。

 馬乗りになり、固めた拳を振り下ろそうとする寸前、ようやく気づいたイサミが透明化を解いた。

 同時に音を誤魔化す魔力も消えて、声も届くようになる。

 

「ストップ! ストップです、ハシャーナさん! 俺ですよ! イサミです!」

「・・・イサミ?」

「え、ええ。ハシャーナさん・・・ですよね?」

 

 探るように尋ねるイサミののど首を、ぐい、と少女が左手で締め上げる。

 

「ぐえっ!?」

「俺をこんな風にしたのはおまえか・・・?」

 

 拳をぶるぶる震わせる少女。

 その表情はうつむいていてよくわからない。

 

「あー、その・・・よくわかりませんけどたぶん・・・」

「返せ」

「はい?」

「俺の【ツーハンデッドソード】を返せぇぇぇ! いやむしろおまえの【バスタードソード】をよこせぇぇ!」

「ファーッ!?」

 

 少女が、鬼女のごとき形相でイサミのズボンをおろそうとする。

 イサミは"自由移動の指輪(リング・オブ・フリーダム・ムーブメント)"の力で馬乗りになった少女の下から必死に抜け出すが、少女はすかさず身を翻して再度襲いかかる。

 

「おまえの、おまえの【バスタードソード】を俺によこせぇぇぇぇ!」

「ぎゃあああああ!?」

 

 鋭い攻撃(?)にイサミは精神集中する暇もない。

 ズボンをおろそうとする少女と、させまいとするイサミの必死の攻防が洞窟を揺らす。

 

 イサミが"感情沈静化(カーム・エモーションズ)"を《高速化》して発動する事を思いつくまでに、ベッドが真っ二つになってひっくり返り、壁にクレーターが二つできた。

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