ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

181 / 270
19-17 最強の呪文

『『『『『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!』』』』』

『おーっと、これはまさかの展開だーっ! 城を丸ごと倒壊させる大大大魔法! イシュタル・ファミリアのアマゾネス達を丸ごと封じた重力魔法! そして両軍主力全面激突必死の展開から、まさかの一騎打ち!

 合意と見てよろしいですか? よろしいですねっ! ガネーシャ様、何かありますか!』

『うむ! 俺がガネーシャだ!』

 

 遠く離れたオラリオでも、歓声が渦巻いている。

 

「俺見たぜ! 半年くらい前、西のメインストリートで、あの二人がすげえ殴り合いしてたんだ! 最後には【凶狼(ヴァナルカンド)】が勝ったけどよ、顔面ボコボコでフラフラだったんだぜ!」

「Lv.1の魔導士がかよ! すげえな! やっぱレベル詐称してんじゃねえのか!?」

「俺ベート・ローガに2000ヴァリス!」

「こっちはあの虎縞頭に500だ!」

「はいはいないか他にないか! 賭け締め切るよー!」

 

 

 

 一方で古城でも、双方の大将が一騎打ちを決めてしまったので、早々に見物人モードに入ってしまうものもいる。

 

「行けー、お兄さん! クソ狼をやっちゃえ!」

「おいクソバカゾネス、どっちの応援してんだ」

「向こうに決まってるでしょ!」

「ティ、ティオナさん!」

「(汗)」

「・・・お前達どういう関係なんダ、ティオネ?」

「まあ色々あって・・・」

 

 珍しく素のアルガナの真顔の問いかけに、ティオネは眉間をもみほぐしつつ答えた。

 

 

 

「言っておくが俺は魔導士だ。術はバンバン使わせて貰うぜ」

「好きにしろよ見かけ倒しのモヤシ野郎。俺の前で詠唱なんざできるもんならなあ!」

「よく吠えた。降りてきやがれ!」

「おう、今ぶちのめしてやるぜ!」

 

 瓦礫から飛び降りるベート。

 きらり、とこのタイミングを待っていたイサミの目が光る。

 

「"滑性脂(グリース)"」

「「「「「「「「えっ」」」」」」」」

「のうぉわああっ!?」

 

 さしものLv.6、さしもの凶狼(ヴァナルカンド)といえども、5mの高さから飛び降りたその先が脂でつるつるの石畳ではたまらない。華麗に着地どころではなく、綺麗にひっくり返って後頭部を強打する。

 

「《高速化》《光線分枝化》《二重化》《最大化》"知力破壊光線(レイ・オブ・ストゥピディティ)"!」

 

 ぴっ、と。

 四本の赤い光線がイサミの指先からほとばしる。

 それは尻餅をついて回避もままならないベートの体に命中し、ベートは一瞬びくんと跳ねてから動かなくなった。

 

「ヴィクトリー!」

 

 その場の全ての人間が、余りと言えば余りの展開に唖然としている。

 勝ちどきを上げるイサミに、荒野を吹き抜ける風の音だけが応えた。

 

 

 

『『『『『ふっざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁ!!!!!!』』』』』

 

 一方オラリオでは怒号が渦巻いていた。まあ当然である。

 

「ざっけんな! 金返せ!(※払ってません)」

「キンタマついてんのかてめえ!」

『何たる卑劣! 何たる卑怯! この魔導士は一騎打ちに応じた凶狼(ヴァナルカンド)の足元に罠を仕掛け、魔法で倒したのです! 許すまじヘスティア・ファミリア! 許すまじイサミ・クラネル!

 あれ、でも魔法使っていいって言ってるんだから問題なくね?』

『いや、あるだろ。ガネーシャ断言!』

 

 

 

 ベートは目を見開いたまま微動だにしない。

 イサミの魔法によって知力にダメージを受け、精神活動を停止してしまっているのだ。

 肉体は無傷でも、精神が活動しないのでは屍と変わらない。

 

「なんだよその反応?! 俺は魔導士なんだから魔法で勝って何が悪い! こいつだって認めてたろ!」

「いやまあ・・・それはそうなんだがな・・・」

 

 さすがにここまで拒否反応があるとは思わなかったのか、イサミが不機嫌な顔で抗議する。辛うじて言葉を返すリヴェリアは頭痛をこらえるような顔だ。

 

「ねーよ」

「兄さん、今のはさすがに・・・」

「レーテーもちょっとどうかと思うの・・・」

「ひきょうものー! キンタマついてんのかー!」

「フェ、フェリスさま! 女性がそのような・・・!」

「いやまあ実戦なら何でもありだとは思いますが・・・」

「そーだよイサミっち! 男と男の勝負だぜ!」

「お兄さん、さすがにそれはないと思う」

「・・・」

「お前らまで・・・」

 

 身内(+真顔のティオナ)からもやんわりと、あるいは直裁に否定され、憮然とするイサミ。

 

「ええい、くそ! しょうがないな、仕切り直しだ」

 

 転がって微動だにしないベートに近寄り、"滑性脂(グリース)"の呪文を解除してからドラゴンマークの"大治癒(ヒール)"を発動する。

 強力な治癒の魔力が停止していた思考力を回復させ、ベートはパチパチと目をまばたきさせた。

 

「よう、気がついたか?」

「・・・っ! このクソ野郎が!」

 

 跳ね起きて牙を剥くベート。イサミも軽くバックステップで飛びすさり、杖をベルに放り投げる。

 

「ベル、ちょいと持っててくれ」

「あ、うん」

 

 反射的に杖を受け取り、ベルが頷く。

 空になった両手で、イサミがファイティングポーズを取った。

 ちょいちょい、とベートを差し招くように指で挑発する。

 

「どうやらみなさんお気に召さないようだからな。仕切り直してやるよ。泣いて喜べ」

「この野郎・・・!」

 

 顔中に血管を浮き立たせ、もはや戦争遊戯など関係ない、こいつだけはブッ殺すとばかりに"凶狼"の二つ名そのものの面相になるベート。

 その殺気にさすがにプレッシャーを感じつつも、イサミは短く「力ある言葉」を呟いた。

 

 

「ヒャッホォォォォ!」

「やれ! ブッ殺せ!」

「男の勝負を舐めた奴に制裁を加えてやれー!」

 

 一方オラリオは大盛り上がりであった。イサミはすっかりヒール扱いで、普段なら間違いなく悪役の嫌われ者ベートを揃って応援するという珍しい状況になっている。

 

『おーっと、ここでまさかの仕切り直し! 卑怯卑劣の男にも一片の廉恥心、正々堂々と試合開始の冒険者魂があった! わたくしも魂のバーストオイルが沸騰しております!

 とはいえLv.1がLv.6に戦いを挑むのだからあれくらいは許される気がしないでもない! まあ本当に申告通りLv.1ならですが! ガネーシャ様、何か一言お願いします!』

『うむ! 俺がガネーシャだ!』

 

 

 

「!?」

「あ、あれ? リヴェリア様、今、クラネルさんが・・・? 私の気のせいでしょうか?」

「お前も感じたか・・・恐らく間違いではない。彼が魔法を発動した瞬間()()()()()()()()()。どういうからくりかはわからんが――ベート! 気を付けろ! ()()()()()()()()()!」

「はっ、もうろくしたか、ババア! 話は後で聞いてやるよ! こいつをブッ殺してからな!」

 

 ざわり、とベルの全身が総毛立った。Lv.6の本気の殺気の放射に、全身が拒否反応を示している。

 春姫がぐらり、と揺れてフェリスに支えられた。ゲドなど今にも泡を吹いて倒れそうなくらい顔色が悪い。

 Lv.5やLv.4の面々すら、緊張を強いられるプレッシャー。

 だがそれでも、イサミは悠然と拳を構えて立っている。

 

 今にも飛びかかりそうな態勢で、力を蓄えるかのように身をかがめるベート。

 半身で拳を軽く握り、左拳を僅かに前に出す構えのイサミ。

 誰もが無言で二人を注視している。

 そして、唐突に「機」が二人の間を通り過ぎた。

 

「死ねっ!」

 

 ベートの神速の踏み込み。

 蹴り出した足から腰、背中、肩、腕、拳への完璧な力の伝達。

 理想のフォーム、理想の速度、理想のタイミング。

 当たった、と誰もが思った。終わった、と何人かは思った。

 だが。

 

「!?」

 

 ベートの拳は、イサミの顔面1cm手前で止まっていた。

 ベートが止めたわけではない。ベートの拳が伸びきって自然に止まった。

 イサミは、ただ5cmほど後ろに上体を反らしただけ。

 

 ベートが拳を引き戻す。

 その間にあるはずの反撃が、ない。

 そもそもあの夜の殴り合いでは、しつこいほどにカウンター狙いに徹していたのに、それもない。

 

 「わざと」攻撃もカウンターもしなかったのだ、この男は。

 回避されたことへの驚愕で一瞬で冷静になっていたはずの頭に、再びカッと血が昇る。

 イサミが前に出していた左拳が、再びちょいちょい、と挑発の動きを取る。

 ぶちん、と何かが切れる音がした。




"滑性脂(グリース)"からの"知力破壊光線(レイ・オブ・ストゥピディティ)"はいっぺんやってみたかった(ぉ

なお"滑性脂(グリース)"の通称は「神をも殺す呪文」です。
(リプレイでオーク神の分体をこれですっ転がしたので)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。