ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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19-21 いつだって

 

 一方古城では、一歩踏み出そうとしたポーズのまま、ゲドが固まっていた。

 

「うん? どうしたんだ、ゲドっち?」

「い、いや、なんでもない。何でもないって、はははは。ははははは!(危ねえ・・・早まらなくてよかった・・・!)」

「???」

 

 笑って誤魔化すゲド、首をかしげるリド。気付いた者が他にいなかったのは、彼にとって僥倖であった。

 一番気付きそうなイサミが、精神リンクで第三者と話をしていたのも理由の一つだろう。

 

(・・・というわけで、あんたの出番はなくなっちまった。済まないな)

(まあしょうがありませんね。Lv.6と比べられてはさすがに分が悪いというものでしょう。ご武運を)

(ありがとう。取りあえず待機はそのままで。撤収するときに一緒に)

(わかりました)

 

 精神通話の相手は、"赤い外套団(レッド・クローク)"の一人、レイ。

 飛行能力と音波攻撃を持つ女性で、"上位透明化(スペリアー・インビジビリティ)"をかけて待機させてあったのだ。

 本来は彼女こそが十人目の助っ人であった――むろん、最高のタイミングで横から殴りつけるためである。

 結局不発に終わったが、レイの言う通りティオナの戦力とでは考えるまでもない。

 

「イサミくん? ・・・ああ、彼女とですか」

「ええ。申し訳ないですけど、この状況ですとね」

「まあしょうがありませんね。まさか【大切断】がこちらについてくれるとは思いませんでした――もっとも"あれ"が敵に回ったことを考えると痛し痒しですが――なんです、イサミくん?」

 

 イサミがじっと自分の顔を見つめてることに気付き、首をかしげるアスフィ。

 

「いや、アスフィさんやっぱり綺麗だなって」

「~~~~~~~~~~~~~!?」

 

 特に何と言うこともない、という表情から不意打ちで発せられたイサミの言葉に、十日前と同じく、その顔が水蒸気爆発を起こす。

 そして何となく、この青年に惹かれていた理由を理解した。

 

(ああそうか・・・この子はヘルメス様に似てるんだ、天然とわざとという違いはあっても)

 

 好意を持つポイントしては我ながらどうなんだと、軽い頭痛を感じるアスフィ。

 心配そうに覗き込んできたイサミに何となく腹が立ったので、みぞおちに肘を力一杯打ち込んでおいた。

 

 

 

「で、どうするよ?」

「無しに決まってるだろう! あの黒いのがイサミくんに手を出したら、その時点でアポロンたちの反則負けだ!」

「あんな奴など知らん! 我々には関係ない!」

「へん、どうだかな! いきなり襲いかかって来たくせに!」

 

 ヘスティア達とアポロン達とで侃々諤々の神会(デナトゥス)の間。

 いきなりの乱入者とティオナの暴挙にさすがの神々も戸惑って・・・いなかった。

 

「YEHHHHHHHH! これだよこれ! こう言うのがなくっちゃなあ!」

「かつて敗れた仇敵に対し、超ヒューマン人に覚醒して逆襲する主人公! 正義でも残虐でも悪魔でもない、最強の男に並ぶ力を持つ謎の第四勢力! 燃える展開じゃん!」

「ああ、地上に降りてきてよかった――!」

「いやそれ俺のセリフ」

 

 ヘルメスがぼそりと漏らした、神々の言語で言うところの「メタい」セリフも誰も聞いていない。

 そして、ルール変更を承認するかどうかはこのノリのいい連中にかかっているわけで・・・

 

「「「「 面 白 い か ら 全 部 承 認 ! 」」」」

「「ちくしょう、馬鹿ばっかりだ!」」

 

 ヘスティアとアポロンがこの時だけは仲良く頭を抱えた。

 

 

 

「へっへ、ともかくこれで十対十ってわけだ」

「そーだね!」

 

 神々の繰り広げる寸劇を知ってか知らずか、ニヤリと笑うロビラーに満面の笑みのティオナ。

 

「ティオナ、そーだねじゃなくてね・・・」

「諦めろ、フィン。こりゃもう止まらんじゃろ」

「まあティオナ一人の損失でオッタルを抑えられると思えば、戦力的には損はしていないだろう・・・多分」

 

 頭を抱えるフィンだがガレスとリヴェリアに言われるまでもなく、もうこれは止まらないと察してはいる。

 その雰囲気を察したかそれとも意にも介さないだけか、ティオナが巨大な得物(ウルガ)と共に瓦礫から飛び降りて軽やかに着地。そのままイサミ達に駆け寄った。

 

「【英雄譚(アルゴノゥト)】くん、【美丈夫(アキレウス)】くん、来たよー♪」

「まあ色々言いたい事はあるが、取りあえず感謝するよ」

「えへへー」

 

 肩をすくめるイサミに、照れ笑いするティオナ。

 が、それで収まらないのがその姉である。

 

「えへへー、じゃあないわよ馬鹿ティオナっ! ・・・団長、あれは私に任せてください。姉のけじめとして私のこの手で首を取って来ます」

「殺しちゃダメですよティオネさん!?」

「・・・(汗)」

「ほどほどに、ほどほどにね・・・」

 

 据わった目で物騒なことを言い出すティオナにレフィーヤが悲鳴を上げ、アイズとフィンが冷や汗を浮かべた。

 そしてロビラーが一歩踏み出す。

 

「で? 今のお前なら俺にも勝てるって?」

「いやあ・・・はははは・・・」

 

 笑顔を浮かべてはいるが、放たれるプレッシャーは一級冒険者すらすくませるものだ。

 まるで本気ではないにもかかわらず明らかにベートを上回るそれが、しかも正確にイサミ一人に集中している。そう言う点でも無差別にばらまいていたベートとは格が違う。

 こわばった笑みを浮かべるイサミ。アイズ達の浮かべているそれどころではない、大量の冷や汗がその頬を伝った。

 

 伝説の戦士(エピックファイター)ロビラー。

 加護で得た力を裏技的に用いて一朝一夕に強くなったイサミと違い、本当のLv.1から始めて数々の死地を踏破し、数多の『冒険』を乗り越えてその境地に達した大戦士。

 彼ならこの封印世界で【神の恩恵】を受けた冒険者だったとしても、容易にランクアップできるだけの"経験値(エクセリア)"を保有していたはずだ。

 いわば促成栽培のイサミと、本物中の本物であるロビラー。たとえステイタスで並んだとしても、その格の違いが明白に現れていた。

 

「・・・」

 

 そこまで凄みを利かせていたロビラーからの圧が、ふっと消えた。

 溜息をついて、どこか気の毒そうにイサミを見る。

 

「難儀だなあ、おまえも。まっとうに冒険を続けて経験を積んでいれば、俺相手でも多少はどうにかなったろうによ」

「時間がなかったもんでね・・・いつだって、配られたカードで勝負するしかないのさ」

 

 イサミが肩をすくめる。

 ロビラーとて一朝一夕で伝説の戦士になったわけではない。それは数十年の、それこそ伝説となるような冒険を無数に繰り返して達した境地だ。

 だがイサミにその時間はなかった。むしろいんちき(チート)であっても戦力を整え、(D&D的な意味での)レベルだけでも無理矢理に上げたからこそ辛うじて対抗できているとも言える。

 

「配られたカードで勝負するしかない、か。うまいことを言うな。お前のオリジナルか?」

「いいや、チャールズ・シュルツの剽窃さ」

「そうか。ふむ。そうだな、ふむ」

 

 感じるものがあったのか、何度も頷くロビラー。彼とて常に順風満帆であったわけではないだろう。常人の到底想像できないほどの栄光と、到底想像できないほどの挫折は常に隣り合わせだ。本物の栄光を手に入れた人間は必ず挫折も知っている。

 挫折が多ければそれだけ強くなるなどという甘い話はない。だが挫折を乗り越えて強くなった人間は、そうでない人間より確実に強い。何故なら挫折を乗り越えること、それそのものが『冒険』であるからだ。

 イサミとて『冒険』はした。だがただ一度の『冒険』では無数に積み重ねたこの英雄のそれには遠く及ばない。

 

 あるいはイサミはロビラーのステイタスすら上回ったかもしれない。

 だが、勝てない。

 ステイタスで上回っても、呪文で技量を高めても、ウィッシュで技を身につけていてさえ、「本物」の持つ経験に裏打ちされ、最適化された動きには太刀打ち出来ない。

 故に、この男と対峙できるものはこの世にただ一人。

 

「二人ともその辺にしておけ。それに、貴公の戦う相手は魔道士ではなかろう」

「俺に勝てるなんてホラ吹く奴が悪い。だがまあ、確かにその通りではある」

 

 歯をむき出しにして笑うロビラー。

 その全身から、再びプレッシャーが放射される。

 オラリオ最強の男はその圧を悠然と受け止めた。

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