ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
「さて、と」
オッタルとロビラーが互いに剣を構えて微動だにしなくなる。
申し合わせたように、両軍の首領が視線を合わせた。
「あちらはあちらで完結しているようだし、そろそろ僕たちも始めようか?」
「できれば決着まで見届けたいところではありますがねえ」
「まあね」
ちらりと向こうに視線を飛ばすイサミの言葉に苦笑するフィン。
彼としても叶うなら二人の決着を見届けたかった。
しかしフィンはアポロン、イシュタル両ファミリアに組みする助っ人の首領であり、イサミはそれを打ち破るためにここにいる。
春姫たちの身柄、主神の命令、派閥の名誉、戦士の意地。戦わずには済まされない。
もっともロキもヘスティアも後者二つにこだわるような神ではないが、それでも実際に戦う者達はそれを意識せずにはおれない。
「・・・・・・・・・・・・・」
戦場に沈黙が広がっていく。
イサミたちが互いに僅かな目配せをする。
ティオネやガレスが武器を構えた。
しばしの沈黙。
「おおおおっ!」
「むんっ!」
ロビラーの黒剣とオッタルの不壊剣が激しく激突する。
激しく重い金属音が大気を震わせるものの、火花は散らない。
つまり、どちらの剣もわずかにも欠けていないと言うことだ。
そして同時に他のものたちも動く。
「ロキ、カーリー・ファミリア、突撃っ!」
「《高速化》《最大化》"
「!」
瓦礫の上、動こうとしていたロキ・ファミリアを、イサミの呪文による11連続の猛炎が包み込んだ。
だが次の瞬間、炎の嵐を突き抜けて次々と戦士たちが降ってくる。
彼女らの体には例外なく、緑色のオーラが甲冑のように輝いていた。
「ちっ、リヴェリアさんの防護呪文か!」
「こんな短い時間で?!」
「瓦礫の上に出てきた時に既に詠唱は終えていたんだろうさ! 魔力もうまく隠してたってことだ! 都市最強の魔道士は伊達じゃないな! それよりベル!」
「う、うん、わかってる!」
兄弟がそれ以上の言葉を交わすいとまはない。
最強のドワーフ戦士ガレス、
それら全てを長杖でいなし、時にはカウンターで痛撃を与えつつ、イサミは次の詠唱を始める。
「くそ、本当にオッタル並みか! わしら三人を相手に悠々と詠唱などしおってからに!」
「どうでもいい! こいつハ一級冒険者扱いでいいヨナ! よし! 私の愛ノため、贄となれ大男!」
「アルガナ・・・いや、もう何も言うまい・・・」
戦場のもう一方では逆に【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインに残りのヘスティア連合軍が総掛かりだ。
シャーナ。レーテー。フェリス。アスフィ。助っ人の椿、リド、リュー、ルノア、クロエ。
アスフィは何やら魔道具を、フェリスは
【疾風】の二つ名を持つリューが、しかも
むしろ七人がかりで戦っているシャーナ達の方が翻弄されている。
「これがっ、Lv.6、ですかっ!」
「みんな気をつけてー! アイズちゃん、まだ魔法使ってないから! 魔法使ったらもっと早いから!」
「これよりまだ上があるのー!?」
「弱音吐くんじゃないニャ、ルノア! この戦いの先に少年のプリプリしたお尻が待っていると信じて!」
「いらんわんなもん!」
何を想像してるのかよだれを垂らす猫人の言葉に割とマジでキレながらも、元暗殺者は攻撃の手をゆるめはしない。
だが2レベル分のステイタスの壁は分厚く、一瞬でもそれを埋めるためには武神と呼ばれるだけの技量が必要で。しかしルノアはその域には遠く達していない。
(少年・・・。・・・?)
クロエの言葉にベルのことを思い出し、目をやろうとしたアイズがかすかに困惑する。
激突する超戦士二人、瓦礫の上で指揮を執るフィン、詠唱するリヴェリアとレフィーヤ。自分とイサミ回りの一連の戦場。そしてこちらも詠唱を始めた狐人の魔道士とその護衛らしき
「あんたも一級冒険者よね! その命、
「ティオネがアルガナになってるー!」
たがいにバーサークして取っ組み合う姉妹は敢えて視界から外す。
(あの子が・・・いない?)
僅かに眉をひそめるアイズ。
この戦場のジョーカー、ある意味では最も注意するべき人物とフィンも言っていた白髪の少年の姿が、ない。
そして。
「【声を奪われて、それでも私はあなたを慕い続ける】」
戦場のどこかでひっそりと詠唱が完了した。
戦闘は続く。一級冒険者やそれ以上、最低でもそれに準ずる力を持つ者達によるそれは、一般人やLv.2以下の冒険者にとってはまさしく超人同士の戦いであった。
オラリオですら、半分くらいの者は歓声も上げずにただそれに見入っている。
それが半ば目に映っていないかのように春姫が詠唱を続けているが、護衛のゲドは我知らずそれに見入っていた。
だからだろうか。
気がついたとき、周囲には百人近い冒険者たちがいた。
「げっ!?」
慌てて剣を構え直すが既に緩やかな包囲を敷かれており、脱出は困難であるように思われた。
恐らくは幸運にもイサミの呪文の直撃や崩落による生き埋めを免れた者達だろう。アポロンやイシュタル、ソーマのエンブレムを付けている。
落下や瓦礫によるダメージなのだろう、無傷でこそないが重傷を負っているものもいない。
Lv.1らしき者もいるが大半はLv.2、つまりゲドと同格以上。
向こうもこちらがLv.2とLv.1一人ずつなのはわかっているようで、下卑た笑みを浮かべながら近づいてくる。
(あっちは・・・ダメだ、全然手が離せる状況じゃねえ!)
シャーナ達は七人がかりで一人の【剣姫】に翻弄されているし、イサミもLv.6三人を相手にしていて全く余裕がない(ようにゲドには見える)。
(俺が・・・俺がやるしか!)
「【太古の言葉により命ず 冥府より来たれ死の影 汝にまことの名を与えん 我は汝、汝は我なり】」
超短文詠唱が完成すると共に、どことなく影を帯びたもう一人のゲドが地面から立ち上がる。
それを見た包囲側の冒険者たちが一瞬足を止めた。
「おっ!?」
「魔法か!」
「怯えるな! どうということはことない! Lv.2が二人に増えただけだ、数が違う」
悪運強く生き残っていたソーマ・ファミリア団長ザニスがくい、と眼鏡を上げて鼻で笑う。周囲のものたちもそれはそうかと笑った。
「とりあえず、さっさとやっちまおうぜ。そっちの魔道士の詠唱が終わる前によ」
「ああ、そうだね」
「つってもしょせんLv.1だろ? 大したこたあねえさ」
だっ、と冒険者たちが殺到して来た。
十人ほどの上級冒険者が二人のゲドを、同じくらいの数が春姫を狙う。
「・・・あっ!」
突然、ゲドが何かに気付いたような顔になった。
「げっ!?」
同時に、走り寄ってきたアポロン・ファミリアの冒険者の顔が激しく引きつる。
次の瞬間、瓦礫の中に巨大な火柱が立った。
「あっぶねえ・・・すっかり忘れてた・・・」
冷や汗をかくゲドの手の中で、椿謹製の炎の魔剣がパリンと崩れて落ちた。
突進してきた者達を含め三十人近くを一瞬で吹き飛ばされ、包囲側が呆然とする。
その隙にゲドは腰の矢筒から、明らかに矢筒より長い白い大剣を取り出した。
影も本体に駆け寄り、同様に青い短剣を取り出す。
当然だが、レベルの低いゲドをそのまま参戦させるほどイサミも愚かではない。使えるなら何でも使う。
ゲドに与えられた役割は武具やポーションなどを補充するサポーターであり――魔剣の発射装置であった。コマンドワードを唱えれば魔剣を振る、便利なアイテムだ。
"
異空間に物体をしまい込むたぐいのアイテムをこれでもかと支給し、サポーター数十人分のアイテムを運搬する移動補給基地と化したのが今のゲドだ。
そして振れさえすれば魔剣に使用者のレベルは関係ない。
「オラオラどんどん行くぞぉ!」
「ひぇぇぇぇぇっ!?」
一転して調子に乗るゲドが、今度は影と二人がかりで魔剣を振り始める。
ヘファイストスとゴブニュの倉庫を総ざらいした上で、椿を含めた両ファミリアの上級鍛冶師達が二十日間不眠不休で鍛えた最高品質の魔剣が百本以上。
たかがLv.2程度の冒険者たちが耐えられるわけがなかった。
アポロン、イシュタル、ソーマの残った平団員――ザニスを含めて