ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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19-24 霧の中から

「あん? テメエも来るか!」

 

 高笑いしながら十何本目かの魔剣を振りかぶるゲド。

 最後の生き残りとおぼしき小人族が慌てて瓦礫の陰に姿を隠した。

 

「へ、臆病者め! まあLv.1だろうし、放っておいてもいーかあ!」

 

 完全に調子に乗っているゲド。

 

(それにしても一瞬だけだったけど、どっかで見たような・・・?)

 

 そんな思考がちらりと脳裏をよぎったりもしたが、ハイになっていた彼はそれをすぐ忘れた。

 

 

 

 全面衝突が始まって僅かな時間しか経っていないが、フィンは早くも指揮を放棄して自身が参戦することを考え始めていた。

 通常ロキファミリアの戦闘で彼自身が前線に立つことは殆どない。

 オラリオ随一の彼の指揮力は、個々の冒険者たちの能力を五倍にも十倍にも上げる。

 だが今、状況は彼の指揮を必要としないところまで来ていた。

 

 剣戟と言うよりは鉄塊を乱打しているような重低音を響かせ、激戦を繰り広げるロビラーとオッタル。少なくとも見た目には互角の勝負を演じているように見える。

 かつて戦ったときより格段に増しているオッタルの剣速は、フィンの目をもってしても捉えきれないほどに早かった。

 

(あの時は本気ではなかったと、そう言う事か)

 

 明らかに足止めが目的だった当時のオッタルの様子を思い出し、苦いものを覚える。

 実際の所はイサミの剣によるものが大きいのだが、それはさすがにフィンにもわからない。

 

 戦場のほかの場所に目を転じると、イサミ・クラネルはガレス達三人を悠々とあしらいつつ、味方に強化魔法(バフ)らしきものを連続して発動している。

 アイズは相変わらず九人相手に互角以上に戦っているが、彼らの連携のうまさから倒すには到っていない。加えてアイズが誰かを倒したと思った瞬間に体の直前で剣が弾かれる。

 

(【万能者(ペルセウス)】の魔道具か?)

 

 さらに強化魔法の蓄積か、徐々に差が縮まりつつある。【エアリアル】を発動するのも、そう先のことではないだろう。

 リヴェリアは回復魔法を、レフィーヤは必中魔法(アルクス・レイ)を詠唱中。

 ゲドとか言う三級冒険者が魔剣で雑魚を全滅させたが、一級冒険者の戦いに介入できるほどの実力はない。魔剣を打ち込もうものなら、味方ごと巻き込むことになるだろう。

 みにくい姉妹ゲンカをしているティオネとティオナは敢えて視界から外す。

 

 そして――この〈戦争遊戯〉の原因の一つでもある春姫とかいう狐人の魔道士。

 詠唱を続ける彼女を見た瞬間、フィンの親指が激しくうずいた。

 

(!?)

 

 根拠はない。あくまで春姫はLv.1の、ろくに実戦経験もない冒険者だ。登録もそのはずだし、見た目のステイタスも立ち居振る舞いもそれを裏付けている。が・・・

 

(何か、よほどの魔法を持っているということか・・・? イシュタルが固執しているのもそのため?)

 

 フィンは自分の勘を疑わない。それで生死の境をくぐり抜けた事は両手の指でも足りない。彼女はこの戦場のキーマンたり得る存在だと確信する。

 しかし、もう一つの不確定要素が直接春姫を排除しようとしたフィンの足を止めた。

 ()()()()()()()()()()

 気がついたときにはフィンにも気配を掴ませず、あの少年は消えていた。

 とはいえ、不思議に彼のことについては親指はそれほどうずかない。

 フィンが彼のことを振り切って行動しようとするまでに数秒の逡巡しか要さなかった。だがその数秒が致命的だったとすぐに彼は思い知る。

 

「リヴェリア! 指揮を!」

 

 詠唱を続けながらフィンの言葉に頷くリヴェリア。彼らの間ではこれだけで足りる。

 そして飛び降りようとした瞬間、周囲の全てがミルク色の霧に包まれた。

 

 

 

「「「「!?!?!」」」」

 

 古城で、オラリオで、神会(デナトゥス)の間で。

 全ての人々(と神)の間に困惑が走った。

 

「おーい、神の鏡(えいぞう)来てないぞぉ!」

「よし、こいつの頭を斜め45度にチョップだな! そうすりゃ直る! 俺は詳しいんだ!」

「お前の鏡だって映ってないだろうが!」

 

『おーっと、全ての鏡が突然映像が途切れてしまった! これは・・・霧でしょうか!? ショック! ショック! 実況ショック! 霧の中から鉄の王! 夜霧よ今夜もありがとうなんて言ってる場合じゃない!

 こんなんじゃ俺、これ以上実況を続けたくなくなっちまうよ・・・果たしてこれは【神の鏡】の不調なのか、それとも現地がいきなり霧で包まれたのか! どうなんでしょう、ガネーシャ様!』

『うむ、普通に向こうが霧で覆われているのだろう! そして俺がガネーシャだ!』

 

 

 

「アルガナ! 右前だ!」

「オウ、わが良人(オス)ヨ!」

 

 霧の中、聞こえてきたフィンの声にアルガナは瞬時に反応する。

 あちらも霧の中、相手がどこにいるかわからなかったのだろう。

 がら空きの脇の下、前後の肋骨を繋ぐ軟骨を突き破って、アルガナの手刀が手首まで深々とイサミの左肺に突き刺さった。

 

「!?」

 

 ()った、と思った瞬間違和感に気付いた。

 相手が縮んでいる。手刀を突き入れたときは間違いなくあの大男だった。だが今は自分と同じ位の身長、そして女の――

 

「バーチェ!?」

 

 信じられないような顔でこちらを見て、ごぼりと血を吐くバーチェ。

 アルガナは何かを言おうとして、だが次の瞬間大戦斧の斬撃がその背中を深々と断ち割った。

 

 

 

「ガレス! 左だ!」

 

 フィンの指示に反射的に体が動く。

 一歩踏み込み、見えたイサミとおぼしき影に全力の斧の一撃を見舞った。

 ただ、アルガナと違ったのは付き合いの長い彼がその声に僅かに違和感を感じていたこと。

 ガレス自身も気付いてないその違和感が斧を僅かに鈍らせ、それが結果としてアルガナの命を紙一重の所で救った。

 ガレスの渾身の斬撃を無防備に食らっては、アルガナといえども即死は免れなかっただろう。

 

「どういう事じゃこれ・・・ぐわっ!?」

 

 たった今自分が切り伏せたアルガナ。そのアルガナに貫かれたバーチェ。瀕死の二人を見てさすがに呆然とするガレス。

 だがその一瞬の隙を突いた攻撃に不完全ながらも対応してみせたのは、まさしくドワーフの大戦士の面目躍如だった。

 

 鎧から火花が散った。痛撃を受け、たたらを踏む。

 だが致命傷ではない。鎧の隙間を狙った杖の一撃を、体をひねって辛うじて肩当てで受け止めた。

 椿が鍛えた分厚い最硬金属(アダマンタイト)の肩当てが無惨にひしゃげる。肩と腕が軋んだ。骨にヒビは入っているだろう。が、許容できるダメージだ。

 Lv.9相当の打撃を受けてそれだけで済む頑強さを褒めるべきか、最上級鍛冶師の鎧と都市最強魔道士の防御術を貫いた攻撃側を褒めるべきか。

 

「今のを防ぎますか・・・さすが【重傑(エルガルム)】」

「ふん、魔道士の小僧が生意気をほざくでないわ。今ので仕留められん、それ自体が貴様が戦士でない証よ」

「ごもっとも」

 

 イサミが肩をすくめた。

 あわよくばと思ったが、さすがに都市最強の一角を謳われるこのドワーフはベートよりも一枚上手だ。加えてここまでガチガチに固められると、圧倒的なステイタスをもってしても一撃必殺は難しい。

 音も立てずに後退し、イサミが再び霧の中に消える。ガレスが舌打ちし、残った最後のエリクサーを取り出してアルガナとバーチェに半分ずつ振りかけた。

 

 

 

「アイズ! 風で霧を吹き飛ばせ!」

 

 瓦礫の上。一瞬の驚きの後、フィンが即座に指示を叫ぶが返事は帰ってこない。

 それどころかあらゆる音が聞こえない。

 唐突に世界が静寂に包まれてしまったかのようだ。

 すぐそばに立っているはずのリヴェリアとレフィーヤにも呼びかけるが、やはり答えはない。

 彼女らが続けているはずの詠唱の声すら聞こえなかった。

 

「きゃあっ!?」

「あ、ごめん」

 

 取りあえず合流しようと先ほどまでリヴェリア達がいた場所まで後退し、僅かに目測を誤ってレフィーヤのつつましい胸に突っ込んでしまったのはご愛敬である。

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