ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

189 / 270
19-25 総力戦

(この人たち・・・私が見えてる?)

 

 霧が視界をふさぎ、一瞬足が止まったところに集中攻撃が来た。

 が、風の流れと足音、武器が空気を切る音だけで察知し、ぎりぎりでかわす。

 

「化け物かこいつは?!」

「化け物だよぉ!」

(・・・化け物じゃないもん)

 

 シャーナとレーテーだろう言葉にこっそりむくれつつ、大きく跳躍して相手から距離を取ってみる。それにも瞬時に追随してくる九人。

 間違いなくこちらが見えている、と確信したところで他の戦いの音が全く聞こえなくなっているのに気付く。

 霧は音を吸うと聞いたことがあるが、イサミとガレス達はともかく、腹に響くほどの重い大音響を発していたロビラーとオッタルの剣戟音が聞こえなくなるのは明らかにあり得ない。

 考える。この状況を打破するにはどうすればいいか。追ってきた彼らをあしらいつつ、必死に普段使い慣れない頭を回転させる。不意に以前の記憶が甦った。人造迷宮で風を起こし、正規ルートを仲間に伝えた時のこと。

 

「――【風よ(テンペスト)】!」

 

 ありったけの魔力を込めて、無志向性の風を全方位に向けて放つ。周囲を囲んでいたシャーナたちが吹き飛ばされた。

 イサミの"風制御(コントロール・ウィンド)"の巨大竜巻にも匹敵する莫大な、爆発的気圧変化。一瞬こらえたかに思えた霧は、次の瞬間あえなく吹き散らされて消失した。

 

 

 

 強烈な風と共に霧が消失した。

 それに一瞬遅れて巨大な鐘を乱打するような、腹に響く強烈な剣戟の音が戻ってくる。ロビラーとオッタルが互いに叩き付ける剣がぶつかる音だ。

 

 その場にいる全ての人間が一瞬足を止め、周囲の状況を確認する。

 例外は霧も音の消失も関係なく切り結び続けていたロビラーとオッタル、そして互いにバーサークが発動しているヒリュテ姉妹くらいだ。

 

「くうっ」

「お、おい、大丈夫か!?」

 

 戦場のもう一方の端で、春姫ががくりと膝をついた。

 魔法を解除して一人に戻っていたゲドが慌ててそれを支え、回復のポーションを取り出す。

 

「ええと、マジックポーションも飲んだ方がいいのか?」

「お、お願いします・・・」

 

 力づくで術を破られたショックと精神力の消耗で荒く息をつく春姫。

 ゲドは慌ててもう一本のポーションを"ヒューワードの便利な背負い袋"から取り出した。

 

 

 

「・・・やはり、彼女の術か?」

「だろうな」

 

 詠唱を続けながら頷くリヴェリア。レフィーヤも全力を込めた【アルクス・レイ】の詠唱を続ける。

 

(ん?)

 

 ちらり、とフィンの視界の端に動くものがあった。

 すぐに隠れてしまったが、確かアポロン・ファミリアの団員の一人だったかと記憶から引っ張り出す。

 周囲からいじられていたのと、こちらの方を時々見ていたのでよく覚えている。確かルアンとか言ったか。

 小人族の英雄という立場上、同族から視線を向けられるのは慣れていたので特に気にもしなかったが・・・

 

(・・・?)

 

 フィンの親指がうずく。

 

(どういうことだ? 彼がこの状況を作っていたとでも? だが何故アポロン・ファミリアの彼が?)

 

 フィンの直感は当たっていた。だがさしもの彼にも、ルアンがルアンではなくリリの変身した姿で、本物のルアンがオラリオの貸倉庫の一つでタケミカヅチ・ファミリアの面々に幽閉されている事など推測しようもない。

 ましてや春姫の幻術にリリの音を操る魔法を組み合わせて同士討ちを誘発したなど、想像の外であった。

 

 魔導書を読んだ春姫とリリが発現した魔法。

 春姫の妖術「タマテバコ」は周囲を霧で包み、その中にあらゆる幻を産み出す魔法だ。他人に別人の姿をかぶせる事もいとたやすい。

 

 一方でリリの魔法「リレハァ・ヴィフルゥ」は周囲の音を操作する魔法だ。音が伝達しない無音の壁を作ったり、あるいは音を特定の人間にだけ聞かせる、逆に聞かせないこともできる。

 そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 リリの化けたルアンがちょくちょくフィンに目撃されたのも、彼の声をより正確にコピーするためだったのだ。

 

 精神リンクを介したイサミの指揮によって、アルガナやガレスに同士討ちを誘発させたのがこの二人の合わせ技であった。

 霧で視界を、リリの魔法で声を断絶させる。イサミ達は霧を見通す"真実の目(トゥルー・シーイング)"と"レアリーの精神感応(レアリーズ・テレパシックボンド)"による精神リンクでその影響を免れる。

 敵を分断し、指示も届かないようにしたところで、幻影と偽のフィンの指示で同士討ちを誘発する。その結果がカリフ姉妹の戦線離脱(リタイア)だ。

 

 本来なら次にガレスとアイズ、あるいはアイズをティオネにぶつけるつもりだったが、その前に春姫の術を破られてしまった。

 だがLv.1二人がLv.6二人を打ち倒したと考えれば、驚天動地の大戦果と言えよう。

 

 なお、同時に複数の対象に行わなかったのは、単に彼女たちの技量では不可能であったためである。

 魔法に熟達して高度な制御が可能になればあるいは違うであろうが・・・閑話休題。

 

 

 

「リヴェリア! 回復魔法を! 傷は塞いだがこいつらまだ動けるダメージではない!」

 

 ガレスの雷声が剣戟の轟音にも負けずに響き渡る。

 リヴェリアが頷き、詠唱していた呪文を発動した。

 

「ヴァン・アルヘイム!」

「我願う! かの魔法を打ち消さんことを!」

「っ!」

 

 妖精王の血筋にのみ許される膨大な魔力がロキ・カーリー両ファミリアの者達を癒さんとする刹那、イサミの"願い(ウィッシュ)"が割って入る。

 都市最強の回復魔法は効果を発することなく、膨大な魔力と共に宙に溶けて消えた。

 だが発動を待機していたのはイサミとリヴェリアだけではない。

 

「この・・・! アルクス・レイ!」

 

 全力全開の精神力を込めた極大の光芒がエルフの少女から放たれる。

 ()()()()に。

 

 【戦争遊戯】直前にレベルアップした(つまり外部にまだ知られていない)レフィーヤが獲得したスキル"二重追奏(ダブル・カノン)"。

 詠唱を終えて待機していた呪文を保持しておき、改めて詠唱したものと二つ同時に発動する事のできる唯一無二、前代未聞の希少スキルだ。

 ただし、「この世界では」という但し書きがつくが。

 

(あの魔法による呪文の"相殺"は超短文詠唱が必要になる! 59階層での戦いでは相手が長文詠唱ばかりだったから問題にならなかったけど、リヴェリア様の魔法に間髪を入れず、しかも二発同時に放てば――!)

 

 光が空を貫く。

 恐らく、今までで最高最速の、会心の呪文。

 音より早く飛び、逃げてもどこまでも追尾するそれ。

 イサミは回避しようともせず、棒立ちのままそれを受けて――

 

「えっ!?」

 

 何も起きなかった。

 爆発も、光芒がイサミを焼く事も、魔力を叩き付けてそれを弾く事すらしなかった。

 光芒はイサミに命中し、ただ消えた。

 イサミの正面からではなく横からそれを見ていれば、呪文の光がイサミに届く数cm前で水が砂地に吸い込まれるように光線が消えていくのが見えたことだろう。

 

 ベルやリリ、ゲドならそれがキラーアントクイーンの持っていた「呪文抵抗」と同種の力だと気付いたかもしれない。

 "呪文抵抗(スペルレジスタンス)"。

 名前そのままの呪文は、術者の術力に応じた呪文抵抗の力を与える。そして術力でイサミに勝てる存在は――死霊王やグラシアを含めて――オラリオには存在しない。

 

「嘘・・・何が・・・」

「しっかりしろレフィーヤ! 敵はまだ立っているんだぞ!」

「! は、はい!」

 

 呆然としかけた少女を、フィンの一喝が正気に戻す。

 それを横目にリヴェリアはじっとイサミを観察していた。

 正確にはイサミとその周囲から発する魔力の波動を、である。

 

(私の呪文を相殺する前後に、彼からは呪文が発動したときと同じ魔力の高まりが三回放たれた。

 呪文も口にせずに魔法を発動できるのか・・・それはさておくとしても、だがしかしタイミング的に考えてそれがレフィーヤの呪文を防いだかというと怪しい。

 魔力の高まりと同時に、アイズと戦っている連中の周囲にも連動して魔力の波動が感じられた。

 恐らくは三回とも、彼らに対する強化魔法(バフ)。ならばあれはあらかじめ掛けておいた防御魔法のたぐいか)

 

 そこまで思考が走った時点で、リヴェリアはイサミの視線が自分に向いている事に気付いた。

 そしてそうこうしている間にも、更に二度無言の呪文が発動している。

 

「随分と隠し玉の多い事だな――イサミ・クラネル」

「へっへ、リヴェリアさんも知らない取って置きがまだある、まだある」

 

 目は笑わず、しかしおどけるイサミを睨むリヴェリア。

 今度は極めつけの高速詠唱、それも手持ちの最低ランク回復魔法の詠唱を始める。

 威力を求めて長い詠唱を行う事は、この相手には手番を失う愚を犯す事に他ならない。

 フィンの指示でレフィーヤも同様に回復魔法の詠唱を始める。最初の攻撃で手持ちのポーション類をほぼ失った彼らには魔法以外に回復手段が無く、よしんば打ち消されたとしても相手の手番を消費させる事はできる。

 もはやリヴェリアはこの戦い、相手の方が格上であるとはっきり認識していた。ゆえに、自分は嫌がらせに徹する。

 

「リヴェリア、指揮を頼む」

「二度目だな」

「三度目はないよ――多分ね」

 

 軽口をかわし、フィンが愛槍を額に当てた。

 それまでは棒立ち――あるいは極東武術で言う自然体――のまま《高速化》した呪文を発動し続けていたイサミが、初めてはっきりと杖を構えた。

 彼はこの後に何がくるのかを知っている。

 

「【魔槍よ、血を捧げし我が額を穿て――ヘル・フィネガス!】」

 

 フィンの碧眼が真紅に染まる。理性の大半と引き替えに狂化による圧倒的な力を引き出す狂戦士化の魔法。

 あるいは【エアリアル】を発動したアイズに匹敵するかと思われる爆発的な速度で、弾丸と化したフィンが飛び込んでくる。

 その突きを、イサミはそれでも余裕を持って受け流した。

 

(フィンのあれすら余裕か・・・っ!)

 

 恐らくはLv.7に迫るであろうフィンの息もつかせぬ連続攻撃を、それでも危なげなくさばいていくイサミ。

 続けて姉妹の応急処置を終えたガレスも躍り掛かるが、その二人の連続攻撃すらイサミはいなして見せた。

 イサミの圧倒的な経験不足を踏まえても、2レベルのステイタス差。楽勝ではないが、簡単に打ち崩される差でもない。

 加えてガレスの負傷、さらにかつてフィン本人が看破した通り、防御に徹しつつ呪文を発動するのはイサミの最も慣れた戦法だ。それが僅かではあれ、経験の差も埋めてくれていた。




リリの魔法「リレハァ・ヴィフルゥ(Lilleha Vfrue)」は元ネタ「リレ・ハゥフル(人魚姫、Lille Havfrue)」。
声を奪われた人魚姫、というイメージからとりました。
変身魔法のほうが「シンデレラ」のもじり(Cinder ella)なので。
後リリのポジション的にメッチャ声を失った人魚姫っぽいw

風を操って矢の軌道を操作する「ヴィリーアプフェル(ウィリアム・テルのリンゴ)」やアイテムの声を聞いて効果を増強する通訳魔法「聞き耳ずきん」なども考えたんですが、結局「単純に強くなる魔法じゃない」事と、この「報われない女」イメージが決め手でしたw

春姫の方も、「ウチデノコヅチ」同様昔話から取りました。
狐といえば人を化かす幻術だよなーと思ったんですが、メジャーな昔話で狐の出てくるのって意外と少ないんですよね。有名どころでいえば狸の方が多い。・・・春姫が狐人じゃなくて狸人だったら、新魔法は「ブンブクチャガマ」になってたかもw
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。