ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
「・・・落ち着きましたか?」
「・・・ああ・・・その、なんだ、ワリい・・・」
室内はモンスターか何かが暴れたとしか思えない惨状だった。
ベッドは半ば砕け、原形を保った半分だけが部屋の隅に転がっている。室内は木くずと洞窟の岩壁の破片が散乱していた。
ベッドのマットレスを敷き、少女とイサミがその上で向き合って座っている。
少女はシーツを肩から羽織り、あぐらをかいてうつむいていた。
「その・・・確認しますけど、ハシャーナ・ドルリアさんですよね? 一週間前に俺を介抱してくれた?」
こくり、と少女が頷いた。
「とりあえず今の事はおいておいて、記憶はありますか? こうなる前の」
「・・・」
しばらく沈黙があった。
イサミは辛抱強く待つ。
「・・・ああ、思い出した。首をわしづかみにされて、俺は死んだ。
首の骨の折れる感覚まできっちり思い出せるぜ・・・おまえが、その?」
「はい」
そのまま言葉が途切れる。
この世界においては、神々ですら死者の蘇生は禁じられている。
むろん神の力を使えばたやすいことではあるのだろうが、子らの人生を尊ぶ神々はそれを許していない――というのが建前である。
「で、これについてはできれば秘密にしていただけるとありがたく・・・」
「ああ、そいつぁ構わねぇよ。生き返らせてもらった恩義もあるしな。
しかし、その蘇生魔法だか魔道具だかは、こうやって相手を女にしちまうもんなのか?」
「そんなことはない・・・はず・・・なんですけどねえ・・・」
心底情けなさそうな顔になるハシャーナ、穴があったら入りたいという表情のイサミ。
実際、"完全蘇生"の呪文でそんな事は起こらないはずなのだ。
「まあ、考えられることがないわけでもないですけど・・・」
一つは、巻物の使い方がまずかった可能性。
実のところ、巻物は誰でも使える便利アイテムではない。
たとえばイサミは
ただ、ここに抜け穴が存在する。
〈
便利なのだが――読者諸兄は「キャプテン・スーパーマーケット」という映画をご存じだろうか?
スーパーの日用品係が過去に飛ばされて、アーサー王と共にゾンビと戦うコメディ映画だが、その中で、主人公アッシュが呪文を唱えて封印を解き、魔法の書を得るシーンがある。
しかし呪文がうろ覚えだったために、魔法の書は手に入ったものの、ゾンビ軍団を呼び起こしてしまうのだ。
〈魔法装置使用〉の欠点も大体ここにある――言ってみれば精密機器であるマジックアイテムを無理矢理叩いたり振り回したりして使っているのだ、何か起きないわけがない。
まあ、ウィザードのイサミが"完全蘇生"を使うにはそれしかなかったので、しょうがないとは言える。
「そんな理由かよ、おい・・・」
「ええとその、もう一つ思い当たることがないでもなく・・・」
「蘇生された人間が別人に変化する」という現象にひとつ、イサミは心当たりがあった。
命の変転を是とする彼らの呪文らしく、これらの呪文は対象を「生き返らせる」のではなく「新しい肉体に転生」させる。
さすがに動物などになることはないが、エルフがドワーフに、人間が小人族になるなどは当たり前だし、リザードマンやゴブリンになることすらあるのだ。
「だから、神様達が蘇生を禁じてるのはそういう表向きの理由の他に、何か蘇生という行為自体に障りがあって、それで禁じているんじゃないかと」
「それで俺がこんなエルフの小娘になる羽目になったと?」
「現状では推測でしかないですけど・・・・」
はーっ、とハシャーナは頭をガリガリかいて男前にため息をつく。
見た目が華奢繊細なエルフの美少女なので違和感のある事おびただしい。
「で、俺はずっとエルフの女として生きて行かなきゃならないわけか」
「ひょっとしたら戻せるかもしれませんけど・・・」
「オッケー! 何だ、戻せるならそうと言ってくれ!」
いきなり破顔一笑するハシャーナ。
エルフの美少女が歯をむき出して大笑いするというのも、なかなか見れない光景である。
「でも、しばらくはこのままの方がいいかもしれません」
「何でだよっ!?」
一転してハシャーナが悲鳴を上げる。
「頼む! 俺の【ツーハンデッドソード】を返してくれ! あれが俺の生き甲斐なんだ! 穴しかないなんて寂しすぎる!」
「自重しろエロオヤジ! 戻さないとは言ってませんよ! でも、今戻したらあなたを殺した犯人にあからさまにばれるでしょう?!」
「む・・・そりゃそうか」
さすがにまずいと思ったのか、落ち着くハシャーナ。
イサミが考え考え言葉をつなぐ。
「もちろんまだこの街にいるとは限りませんけど、とりあえずはここを移動した方がいいかもしれません。話はそれからと言う事で・・・外の森がいいでしょうか?」
「よし、んじゃ行こうぜ」
そういって勢いよく立ち上がるハシャーナ。
そのまま出て行こうとするのを見て、イサミが慌てる。
「ちょ、ちょっと! 何裸で出て行こうとしてるんですか!」
「いや何って・・・サイズ変わっちまったから防具も服も使えねえだろ。
武器だって、持ってりゃばれるかもしれねえし・・・つうか、数日前に買い込んだ安物だから、置いてっても大したこたぁねえよ」
ハシャーナの言葉にイサミが妙な顔になる。
「わざわざ別の装備を・・・結構裏があったりします?」
「鋭いな。ま、その辺含めて話してやるよ」
にやり、とハシャーナが男臭い笑みを浮かべた――エルフの美少女の顔で。
「まあ、それはわかりましたから服だけは着てください。精神衛生に悪い」
「お、なんだ? 俺のスケベボディを見て勃起したか? 欲情したか? ん?」
にやにやと、上目遣いでイサミに体をすり寄せるハシャーナ。
シーツの前をちらちら開けて、完全に遊んでいる。
「カンベンしてください、割とマジできついんで」
一方、イサミは珍しく苦り切った顔をしていた。
"ミストラに選ばれし者"として不老の肉体を手に入れた彼は15歳で肉体年齢が止まっている。
つまり、肉体的欲求も15歳相当ということだ。
(精神は肉体の影響下にあるというけどなあ・・・)
精神年齢は合計で50近いというのに、思春期の少年同様、ちょっとしたことでも【抜剣覚醒】してしまうというのは実にこう、情けないものがある。
「とりあえず着るだけ着てください! サイズはどうにかしますから!」
「わーった、わーったって。・・・・覗いてもいいのよ?」
「さっさと着ろ!」
「で、どうすんだ」
だぼだぼの戦闘衣と靴を身につけたハシャーナが言った。
パンツとズボンがずり落ちないよう、両手で支えている。
「はい、お疲れ様。ちょっとそのままいてくださいね――創造のドラゴンマークよ、その力を示せ・・・"
「お、おおっ?!」
手をかざすイサミの脇腹に、精緻な文様が浮かび上がる。
次の瞬間、だぼだぼだった戦闘衣と下着は今のハシャーナの体ぴったりに仕立て直されていた。
「・・・けど、靴やベルトなんかがそのままなんだが」
「これ、一度に一種類の素材しか加工できないんで・・・ほい、もう一発」
創造のドラゴンマークが再度輝くと、革製のベルトや靴もぴったりのサイズに変化する。
ぴょんぴょん、と軽く飛び跳ねてはしゃぐハシャーナ。
「便利な魔法持ってやがんなあ! この靴なんか前より履き心地いいぞ!」
「魔法とはちょっと違うんですけどね。それじゃ行きますよ。お静かに・・・"
イサミが呪文を発動する。
「・・・ん? なんだ? 何したんだ?」
きょろきょろと辺りを見回すハシャーナ。
術者を中心に仲間ごと透明化する呪文だが、同じ呪文で透明化した者は互いの姿を見れるので、知らなければ何がどうなってるのかわからないのは無理もない。
「他の人には今俺たちは見えません。このまま街の外まで出ますから、俺から離れないのと音を立てないようにお願いしますね」
「ふーむ・・・妙な芸を使うなあ、おまえ」
「魔道具の力、とだけ言っておきましょう」
感心半分、いぶかしさ半分と言ったあたりでハシャーナが唸る。
魔法が一人三つなんて面倒な世界はこれだから困ると思いつつ、イサミは例によって魔道具で誤魔化した。
「しかし、離れちゃいけないのか」
「ええ、術が解けますので」
「お姉さんが腕を組んでやろうか? おっぱいが当たって・・・いて! いてえ! わかった、悪かったから髪つかんで引きずるな!」