ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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19-26 アイシャ・ベルカ

「【風よ(テンペスト)】!」

 

 フィン達の戦いを見ていたアイズがついに魔法を発動させた。人に使う魔法ではないと自らに戒めていたそれを。

 風がアイズを取り巻き、力と速度を倍加させる。だがその力をもってしても相手の防御を崩しきれない。促成の連携だろうに、指示もなしに互いをフォローして実にうまく戦っている。

 

 むろん、アイズは知らない。

 彼らの間に精神的なリンクがある事など。そしてそれを介して、タイムラグ無しに的確この上ない指揮をアスフィが執っていることなど。

 更に言えばイサミの強化魔法がこの瞬間にも次々と積み重なっている。彼らがアイズを捉えるには到らずとも、全力での対応を強要するレベルには達していた。

 

 イサミと三首領、レフィーヤ。アイズとシャーナ達。ティオネとティオナ。そして枠外の春姫、リリ、ゲド、命。

 状況は千日手であった。

 ただひとり、白兎と呼ばれる少年を除いては。

 

 

 

 主塔の崩壊跡。

 もはや主戦場と化した城の中庭(だった場所)を一人離れ、ベルはここに来ていた。

 潜入していたリリからの情報で、敵の大将であるヒュアキントスが主塔の頂上、かつての玉座の間に本陣を構えていた事はわかっている。

 ロキもカーリーもあくまで助っ人に過ぎない。この戦いの勝利条件はヒュアキントスを倒すこと。

 それを託され、あるいは譲ってもらい、今ベルはここに来ていた。

 

 がらり、と瓦礫の崩れる音がする。

 素早くナイフを構えて向き直る。

 瓦礫をかきわけてようよう脱出に成功したアポロン・ファミリアの男は、ベルの姿を見ると「ひっ」と悲鳴を漏らした。

 ベルが彼らの首領を含めた上級冒険者たちを叩きのめした事は知っているのだろう。それともあの場にいたのかかもしれない。

 そのまま男は恥も外聞もなく、よろめきながら逃げ出した。その様子からLv.1であろうと見当をつけ、放置する事にする。

 今のベルの目標はただ一つ、ヒュアキントスだけだ。

 

 注意深く主塔があったあたりを捜索して回る。春姫が発動した霧もここまではやってこない。

 ふとその足が止まった。

 

(これは・・・詠唱?)

 

 注意深く隠してはいるが、間違いなく魔力の波動と呪文の詠唱。

 それが感じられる瓦礫の影に向かって数歩歩いたとき、褐色の女傑が現れた。

 

「よう、【リトル・ルーキー】。やっぱりあんたが来たねえ」

「アイシャさん・・・!」

「来ると思って、あの馬鹿の横でずっと待ってた甲斐はあったよ・・・そうそう、ヒュアキントスならそこの瓦礫の影で治療を受けてるよ」

 

 自分の出てきた瓦礫を親指で指し示すアイシャ。

 ヒュアキントスの玉座の横でずっと待機していた彼女は主塔の崩落から彼を守り、ついでに何人かのアポロン・ファミリア団員も救っていた。

 今ヒュアキントスを治癒している黒い長髪の女性、治療師カサンドラもその一人だ。

 怒りを帯びたやや甲高い声がその影から響く。

 

「裏切ったか【麗傑(アンティアネイラ)】! 何故【リトル・ルーキー】に私の場所を教える!」

「だ、団長、動かないでください! 治療はまだ・・・」

 

 ヒステリックな怒声にもアイシャは動じず、溜息をつく。

 

「あのさ、ちょっと考えてごらんよ、【太陽神の寵童(ポエプス・アポロ)】。魔法持ちのLv.3相手に詠唱と魔力を隠せるはずないだろ。特にそっちの白兎はかなり敏感みたいだしね」

「・・・・・・」

 

 ヒュアキントスが黙り込んだ。彼とて普段ならこんな事は言わない。いきなり城が崩壊し、自身も負傷して動揺していたのだろう。

 

「ああ、そうそう。気になってるだろうから教えて上げるけど、タンムズは多分この瓦礫の下だよ。・・・主塔の根元にいたからねえ。Lv.4とは言え、さすがに自力で這い出ちゃこれないだろうさ。

 ロキとカーリーは足止めされてるみたいだし、あたしとヒュアキントスを倒せばそっちの勝ちってことだ」

「ちょっと待てぇー! それを教える必要は無いだろうがぁ!?」

「まあそうだけど、余計な事で気をそらされちゃ困るもんでね」

 

 今度は全く正論なヒュアキントスの悲鳴を、アイシャがどこ吹く風と受け流す。

 イシュタル・ファミリア暫定団長タンムズ――戦いもせずに戦闘不能(リタイア)

 

 

 

 やや呆れた表情を浮かべつつも油断無く構えたままのベルにアイシャが向き直った。

 その手には両手剣に1mほどの柄を付けたような武器。剣と槍の中間のような東方の武器、大朴刀だ。

 

「さて。約束したねえ、【リトル・ルーキー】」

「はい」

「ヒュアキントスを落としに来たんだろうけど、あたしと一対一でやり合う度胸はあるかい? Lv.3のあんたが、Lv.4のあたしを相手に?」

「そうでなくては、春姫さんを守れませんから」

 

 ナイフを順手に構え、静かに答えるベル。

 くはっ、とアイシャが破顔した。一笑と言うには余りにも獰猛な笑み。桿婦(かんぷ)の、正しくアマゾネスの笑みだ。

 

「いい答えだ。男なら、女は力ずくでものにしな!」

「おおおおっ!」

 

 咆哮が交錯する。雄を見つけた女戦士の歓喜の咆哮。守らねばならぬと猛る男の咆哮。

 轟、と風が猛る。アイズの起こした暴風の中、ベルの神のナイフと、アイシャの大朴刀が激突した。

 

 

 

(何っ!?)

 

 ベルのナイフと打ち合った瞬間、アイシャは心底からの驚愕に襲われた。

 疾い。そして重い。

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 力はまだ辛うじて勝負になるレベルだが、早さが圧倒的だ。

 

(この速度・・・Lv.5の域?!)

 

 フリュネに痛めつけられた時を思い出す。アイシャ自身ランクアップし、あの時よりも強く、速くなった。だがそれでもまだ、あの時のフリュネには及ばない。

 そして今目の前にいる少年は間違いなくあの時のフリュネに匹敵、あるいは凌駕する速度をものにしている。

 得物の重量で力の差は相殺できるが、逆にその分速度はこちらが圧倒的に不利。

 ここでようやくオラリオの神々もベルの行き先に気付き、いくつかの『鏡』が彼らを映し出した。

 

『おおーっとぉ?! これは凄い! Lv.3の【リトル・ルーキー】がLv.4の【麗傑】を圧倒している?! パワーは互角のようだが、スピードが圧倒的だぁ!

 ほんと何なんでしょうねこの人! ひょっとしてレベル詐称とかしてない!? いや詐称してたらそれはそれでランクアップ速度が更にとんでもない事になりますが!

 どっちにしろとんでもない【リトル・ルーキー】、翔んでベルたま! オラリオの千葉県、大陸のノースダコタ出身の兄弟は、どれだけ我々を驚愕させてくれるのかーっ!』

『【麗傑】ですらこの有様なら、このままではベル・クラネルが勝負を決めてしまうだろうな。

 この戦いはあくまで攻城戦、謎の黒い戦士がオッタルを打ち倒そうが、ロキ・ファミリアが優勢だろうが、その前に【太陽神の寵童】が討たれれば終わりだ。

 まあ、同じ事はイサミ・クラネルにも言えるのだが・・・それはともかく、俺がガネーシャだ!』




アイシャさんは公表されてるのがLv.4に成り立てのステータスしか無いため、能力値の傾向がさっぱりわかりません。
筋力=器用>敏捷>耐久>魔力 っぽいかんじではあるのですが。
ので、タイプが似てる(バランスタイプ、かつ魔法もあり)ティオネをLv.4にしたようなイメージで数値設定しています。
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