ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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19-32 竜王参上

 革鎧と戦闘衣の切れ端がちぎれて舞った。

 右脇を薙ぎ払われ、ダフネが吹き飛ばされた。地面と平行に10m近くを飛び、瓦礫の上を転がって鐘楼だったとおぼしき大きな残骸に当たって止まる。

 

「ダフネちゃん!」

「くそっ!」

 

 呪文の詠唱を中断してダフネが悲鳴を上げる。アイシャが悔しげな声を漏らして顔をそむけた。

 キチキチキチ・・・と、目の攻撃色は変わらぬまま、ヒュアキントスがにじり寄る。確実にとどめを刺す気だとわかり、オラリオでもまた悲鳴が上がる。

 だがアイシャは動けない。ベルのポーションを(勝手に)分けて貰ってはいるが、脚の傷が深い。ベルも、カサンドラの解毒呪文が完成するまでに後十秒はかかる。

 

 と、そこで怪物は違和感に気付いた。

 自らの鎌爪を持ち上げ、無事な方の目でじっと見る。先ほどダフネを薙ぎ払った鎌爪だ。

 爪のトゲに、戦闘衣の切れ端が引っかかっている。

 だが血が一滴たりともついていない。

 

「「!」」

 

 アイシャがそれに気づくのと、怪物の顔がダフネに向き直るのと、気絶していたように見えたダフネがぱっと起き上がるのがほぼ同時。

 ダフネの右脇腹の「傷痕」からは、臓物がこぼれ落ちるどころか一滴の血も流れてはいない。

 大きく引き裂かれた戦闘服の裂け目からは、樹皮のような色と質感に変化した皮膚が見えていた。

 

 

 

『おーっとぉーっ! 無事だ! 無事だ【遁走者】! 脇腹をえぐられハラワタをぶちまけろ!されたのにぴんぴんしている! 何らかのスキルか、それとも魔法でしょうか! とにかく体の一部だけを硬化装甲化し身を守った模様!

 あえて自分に標的を移し、【リトル・ルーキー】の回復の間敵を引きつけることを選んだ【遁走者】! その名に恥じないタフさとしぶとさ! 死の追いかけっこはまだまだ続く!』

『このガネーシャ感動した! がんばれ、【遁走者】! がんばれ、ダフネ・ラウロス! そして俺がガネーシャだ!』

 

 【月桂輪廻(ラウルス・リース)】。ダフネの持つもう一つのスキルだ。任意の部分を樹皮化させることによって部分的に極めて高い防御力を得る。ただし、命の危険がある状況でないと事実上発動しない。

 バランス型で敏捷高めのステータス。逃走速度を上げる【鉛矢受難(エリオス・バスシオン)】、瀕死時の防御力を上げる【月桂輪廻(ラウルス・リース)】の両スキル。状態異常を防ぐ【耐異常】アビリティ。敏捷度を大幅強化する魔法。

 つまる所、ダフネ・ラウロスは生存力に特化した冒険者であった。

 

「はっは、ここまでおいで、クソ団長!」

「ギギギギギギギッ!」

 

 その生存力をフルに使い、挑発すらして、全力の逃走を再開するダフネ。

 だがその動きはやはり鈍っている。

 表皮を硬化させて一撃を防ぎはしたが、人一人を10m近く吹き飛ばすような一撃を受けて、Lv.2の彼女がその衝撃を耐えきれるわけがない。

 あばらが痛み、内臓が全力で悲鳴を上げている。

 

 今度は二歩で追いつかれた。

 薙ぎ払いではなく、振り下ろしの左。

 背中を袈裟懸けに切り裂かれ、スキルによる防御は間に合ったが、地面に叩き付けられた。

 破片が舞い、瓦礫の山の中に体がめり込む。

 すぐに立ち上がろうとして血を吐いた。

 

(あ、こりゃだめだわ)

 

 震える腕で体を支え起こす。だが四つん這いになるのが精一杯。

 親友(カサンドラ)がまた悲鳴を上げそうだなと頭の片隅で思った時、視界の端に見慣れた光が射した。

 

(そうか、ちゃんと呪文完成させたんだね。あたしに構わず。――立派になったもんだ)

 

 没落した家のお嬢様。浮世離れしていて、おどおどしていて。

 何かと危なっかしく目を離せない娘だった。

 その娘も、いつの間にかいっぱしの冒険者になっていたらしい。

 

「ダフネちゃん!」

 

 遅れて悲鳴が聞こえる。

 ああ、そんな声を出さないで。

 できればあちらを向いていて。

 次の瞬間、ウチは八つ裂きになるはずだから。

 それをあんたにだけは見せたくない――

 そう思った瞬間、周囲が真っ白な霧で満たされた。

 

 

 

「ダフネちゃん!」

 

 呼びかけてもダフネは遠く、自分の脚では何をどうしたって間に合わない。

 ベルは意識を取り戻したばかりだし、ベルのエリクサーで回復したアイシャが駆け出そうとするが、彼女の脚でも間に合う距離じゃない。

 そもそもダフネを助けに行くのではなく、呪文を完成させることを選んだのは自分。

 でも、だからって、親友が死ぬところなんか見たくはない――!

 そう思った次の瞬間、周囲がミルク色の霧に包まれた。

 

「ふぇっ!?」

 

 同時に脇を通り過ぎていく「何か」の風圧と冷気。

 直感的に氷雪系の魔法、それもかなり高レベルの物だとわかった。

 

「春姫さん! ゲドさん!」

「ま、間に合いました――!」

「あの女はこっちに任せろ! お前は回復を万全にしとけ!」

「はい!」

「え? え? え?」

 

 ミルク色の霧の中で動く気配と、交わされる会話。

 カサンドラは訳もわからず周囲を見渡すが、やはりミルク色の霧しか見えない。

 と、思ったら、いきなり目の前にベルの顔があった。

 

「カサンドラさん!」

「ひゃ、ひゃいっ!」

「こっちへ!」

 

 手を引かれ、足元すら定かではない濃霧の中を訳もわからずについていく。

 その間、怪物の雄叫びと地面を蹴る音が何度も聞こえる。

 霧の中に何人かの人影が見えたところで、話し声が聞こえた。

 

「えっ? あんたら双子?」

「ああいや、魔法でね・・・そっちもこっちも俺っていうか」

「はぁ・・・けったいな魔法ねえ・・・」

「ダフネちゃん!」

 

 足元が不確かにもかかわらず、親友の声に向かって走り出す。

 

「うあっと!」

「ご、ごめんなさい」

 

 目つきの悪い男にぶつかり、反射的に謝る。

 それとそっくりのもう一人の目つきの悪い男がボロボロの親友を背負っていた。

 

「ダフネちゃん・・・」

「はは、生き残ったよ・・・よくやったよ、あんた」

「うん・・・うん!」

「ほれ、これ飲め」

 

 涙ぐんで、何度も頷くカサンドラ。

 男がバックパックからエリクサーの瓶を取り出し、ダフネに飲ませる。

 ダフネが礼を言ってもう一人の背中から降りた。

 物も言わずカサンドラがダフネに抱きつく。

 ダフネはほほえみ、その背中を軽く叩いてやった。

 

「おいクラネル、もうそろそろ氷雪系の魔剣が打ち止めだ! つーかあいつ、半分くらい弾いてるぞ!」

「ベル様、あいつが幻影に惑わされなくなってきました。もう余り持ちません」

「ルアン!? あんた裏切ったのかい?!」

「それは後で。今は奴を倒す手立てを考えないと」

 

 いきなり自分の派閥の下っ端である金髪の小人族が出て来て【リトル・ルーキー】の仲間面をしているのに驚くダフネだったが、確かに今はそんな事を言っている場合ではない。

 

「手数も厄介だが、とにかくあの固いのをどうにかしないとね・・・目つきの悪いの、魔剣はまだあるのかい?」

「ゲドだ。魔剣は残ってる、山ほどな。ただ、さっきから撃ってるけど半分くらいは無効化されるし、取って置きのが一本あるがこれでもあいつを倒せるかどうかとなるとなあ・・・どう考えても階層主クラスだろ、あれ」

 

 アイシャの言葉にゲドが難しい顔をした。

 もちろん、"真実の目(トゥルー・シーイング)"がかかってない面々にはその表情は見えないが。

 

「手はないこともありませんけど・・・時間がかかります」

「魔法かい? それともあの紫の剣?」

「紫の剣です。でも多分、三分目一杯チャージしないと・・・」

「よし、じゃあそれで行こう」

 

 話を最後まで聞かず、アイシャが頷く。

 慌てたようにベルが言葉を継いだ。

 

「で、でも、三分チャージしても倒せるかどうかは・・・」

「他にないならしょうがないだろ。必要ならあたしらが時間を稼ぐ。囮にもなる。あんたはそいつをブチ込むことだけ考えな」

「・・・はいっ!」




うーん、ちょっぴりタイトル詐欺(ぉ
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