ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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19-34 終幕(フィナーレ)

「ゲド様! ダフネ様の容態は!」

「今エリクサー飲ませてるけどかなりの深手だ! 頭もやられてるかもしれん!」

「くっ! カサンドラ! 回復魔法待機だよ!」

「は、はい!?」

 

 カサンドラに声を掛け、アイシャはヒュアキントスの正面に回り込む。

 立ち上がったヒュアキントスに、今度は正面から拳や蹴りを打ち込み始めた。

 ヒット・アンド・アウェイではなく、足を止めての打撃戦。

 それ故にヒュアキントスは跳躍するタイミングがつかめない。

 

 だがそれは、攻撃するのに何の支障もないと言うこと。

 四本腕の鎌爪が、先ほど同様アイシャの体に次々と傷痕を穿っていく。

 そして三度目の全力攻撃(フルアタック)を、アイシャは避けなかった。

 

「アイシャ様!?」

「今・・だ! カサンドラ! 私に回復魔法を!」

「え、・・・カサンドラ様! 右前15度、7mです!」

「は、はい!」

 

 僅かに言いよどんだリリの指示に従い、カサンドラが「ソール・ライト」を発動する。もしカサンドラが霧を見通せていたら、そうはいかなかったかもしれない。

 四本の鎌爪に体を貫かれたアイシャの姿を見ていれば。

 

 

 

 こいつは倒した、と思った瞬間、ヒュアキントスは驚愕に襲われた。

 抜けない。

 獲物の体を深々と貫いた鎌爪が抜けない。

 

「ギッ!?」

「おど、ろいたか・・・ばかめ。人間様を・・・なめんじゃないよ」

 

 口の端から一筋の血を流し、アイシャが不敵に笑う。

 右肺、左肩、右脇腹、左太もも。

 いずれも背面にまで貫通する傷に、鎌爪が突き刺さったまま回復呪文が掛けられた。

 つまり鎌爪を巻き込んで肉体が再生し、爪を完全に埋め込んでしまったのだ。

 

 これが剣や槍ならあるいは引き抜けたかも知れない。

 しかしスリクリーンの鎌爪は湾曲している上に、獲物を逃がさないための逆トゲが付いている。

 それが今は逆に、鎌爪を捕らえる抵抗となっていた。

 

「シギャアァァァァァ!」

 

 振り回し、叩き付け、四本の腕を乱暴に動かして、この生きた枷を破壊しようとする。

 だが壊れない。この人間の五体が、万力のように強い力で四本の腕をしっかりと拘束している。

 緩んだと思ったところにまた回復魔法が飛び、再び爪が肉に埋め込まれる。

 

「・・・春姫様! あの魔法を! ゲド様、マジックポーションの用意!」

「はい! 【タマテバコ】解除!」

 

 ここが勝負時と見たか、ルアン(リリ)が魔法の解除と、新たな魔法の発動を指示する。

 ふうっ、と春姫が粉末のような何かを飛ばした。

 黄金色のそれは、風に乗ってふわりと広がり、暴れ回るヒュアキントスとアイシャを包む。

 

(お願い、私の魔法・・・アイシャさんを・・・そしてベル様を助けるために!)

 

「【――枯れ木に花を、咲かせましょう】」

「【育ててくれたおじいさん。助けてくれたおばあさん。二人の恩に報いるために】」

「【――枯れ木に花を、咲かせましょう】」

「【たとえこの身が滅びても。たとえ姿が変わっても。あなたの恩は忘れない】」

「【――枯れ木に花を、咲かせましょう】」

「【ハナサキノオキナ】」

 

 

 

『ウオオオオオオオオオ!』

 

 霧が晴れた次の瞬間、オラリオで歓声が巻き起こった。

 戦っている。まだ【リトル・ルーキー】たちが戦っている。

 首を食いちぎられた【リトル・ルーキー】は白い雷光の走る剣を構えているし、とどめを刺される寸前だった女冒険者も、どうやら無事のようで――と、そこまで見て取った瞬間、一斉に驚愕の叫びが上がった。

 

『なっ!? なんだあ!? 怪物の全身を、緑色の何かが覆っていく・・・ツタだ! これはツタだ! どんどん大きく、捕まった冒険者ごと怪物を飲み込んでいくっ!

 いやもはやツタとは言えない! これは木! これはまさにジャッキーと豆の木! 天まで伸びよとばかりにそびえ立つその姿は勝利へのはしご段かーっ!

 あ、ああーっ! なんと、花が咲いた! 満面の花だ! 美しい! 美しすぎる!』

『なんと! 戦いのさなかとは思えんな・・・それはそれとして俺がガネーシャだ!』

 

 【火炎(ry】の実況通り、ツタは今や巨大な木となって一面の花を咲かせ、ヒュアキントス達を丸ごと飲み込んでいた。

 上は10m近くにも延び、下は瓦礫の奥深くにまで根を伸ばしている。

 こうなってはさすがのヒュアキントスも容易くは脱出できない。

 安堵したか力を使い果たしたか、アイシャががっくりとうなだれて意識を失う。

 それと同時に春姫もくずおれた。駆けつけたゲドが慌ててその口にマジックポーションを注ぎ込む。

 

 春姫が発動させたもう一つの魔法、【ハナサキノオキナ】。

 その力は生命の操作。

 最初に春姫がまいた花の種。【ハナサキノオキナ】はそれに力を与え、成長させる。

 しかしその分のエネルギーはどこからか持ってこなくてはならない。

 つまり、春姫の精神力だ。

 Lv.1としては破格の精神力と魔力を持つ春姫だが、それでもこの束縛には全精神力を要したのだ。

 

 リィン、リィンと鈴の音が鳴る。

 リリも【リレハァ・ヴィフルゥ】を解除していた。

 息詰まる数瞬。

 

 と、「豆の木」が枯れ始めた。

 余りに高速で成長させたこと、精神力の補給が途切れたことで枯死を始めたらしい。

 見る見るうちに茶色に染まり、しなびていく「豆の木」。

 それと共にバキバキ、ブチブチと音が響く。

 絡みつく無数のツタをちぎり、ヒュアキントスが幹の中から姿を現す。

 左上腕を振り、いまだ絡みついていたアイシャの体を放り捨てた。

 即座にカサンドラの「ソール・ライト」が飛び、ゲドの影がそれを回収する。

 担がれたアイシャがうめき声を上げたのを見て、春姫がほっと息をついた。

 

「シャギャアアアアアアアアアアアアアア!」

 

 びりびりと大気が震える。

 これまでで一番の怒りを乗せた咆哮。

 もう許さぬ、お前達は全員死ぬのだとばかりに高みから睥睨する真紅の複眼。

 

 だがその前に待つのは白き髪の少年。

 後ろ手に回した剣は、英雄の光でまばゆく白く輝く。

 チャージ、完了。

 

 仲間達が脇に下がる。

 ここからは主役の出番。

 脇役は文字通り脇に下がるとばかりに。

 対峙する少年と怪物。それはまるで英雄物語の一幕のようで。

 

「・・・行きます。これで、おしまいにしましょう」

「シャギャアア!」

 

 再び怪物は跳躍した。

 四本の腕で哀れな獲物を貫くべく、背中に力を溜める。

 だが怪物は見誤っていた。

 あの紫の剣であれば、あれだけの力をまとっていても致命傷にはなるまいと。

 リーチの差で先に少年を屠ってしまえばよいと。

 

 後ろ手に構えていたがゆえに、白き稲妻が刀身を覆っていたがゆえに気付かなかった。

 ベルが構えていたのが【神のナイフ】ではなく、友が鍛えた真紅の魔剣であることを。

 

「魔力を集束した剣が【英雄の一文字剣(アルゴ・ストラッシュ)】、火炎光線(スコーチング・レイ)を込めた一文字剣が【聖火の英斬(アルゴ・ウェスタ)】。ならヴェルフのくれたこの剣で放つのは――!」

 

 かっ、と目を見開く。

 落ちてくる。怪物が、ヒュアキントスが落ちてくる。

 ベルの視界に映る世界がゆっくりになり、ヒュアキントスの落下が止まったように見えた。その目に恐怖が宿り、【クロッゾの魔剣】に気付いたことがわかる。

 

 だがもう遅い。ベルの武器が魔力剣であれば鎌爪が先に届いた。怪物にならなければ、神より授かった魔法があった。

 だが魔剣より、それも絶大な威力を持つ【クロッゾの魔剣】よりも間合いの長い武器など、彼は持ってはいない――!

 ゆえにその結果は必定。

 

「【友情の大英斬(アルゴ・アミキティア・ペルグランデ)】!」

 

 

 

 白い稲妻をまとい、巨大な火柱が天を貫いた。

 イサミが、アイズが、アスフィが。シャーナとレーテー、狂戦士化したフィン、リヴェリアとガレス、ティオネとティオナ、フェリス命椿リュールノアクロエリド。

 オッタルとロビラーすらもが戦いを中断して空を見上げる。

 彼らは戦いが終わったことを知った。

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