ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
そのまま大剣は崩れ去り、塵となって消えた。
「ありがとう、ヴェルフ・・・」
万感の思いを込めて友に礼を言う。
たとえ聞こえなくても届くだろうと思った。
彼の目の前には、ヒュアキントスが横たわっている。
人間に戻っていた。
そして、奇跡的に生きていた。
裸体のあちこちに変異の後遺症が見えるが、兄ならば治せるだろうかとぼんやり思った。
顔を真っ赤にして手で目を覆うカサンドラを叱り飛ばし、回復呪文の詠唱を始めさせるダフネ。
同じく顔を真っ赤にした春姫が目をそむけつつマントを差し出したのを受け取り、ヒュアキントスにかぶせる。
ゆっくり近づくと、ダフネが振り向いた。
「おめでとさん、あんたの勝ちだよ――正直、勝てるとは思わなかったよ。すごいねあんた」
一応負けた方ではあるが、晴れ晴れと笑うダフネ。
〈戦争遊戯〉の勝敗など、もうどうでもいいのだろう。
笑い返すとともに、腰からエリクサーの入った試験管を抜いて彼女に渡す。
ちょっとびっくりした顔になったのが少しおかしくてまた笑った。
「いいのかい?」
「ええ。もう終わったんでしょう?」
「まあ、誰が見てもあんたの勝ちだろうね。一応礼は言っとくよ」
「どういたしま・・・ふわっ!?」
言葉の途中で後から抱きすくめられた。
血と汗の臭いの中にも香る、女の香りと柔らかい感触。一瞬で顔に血が昇る。
「ははははは! 良くやったよ【リトル・ルーキー】! まさか、まさかねえ!」
「ぼ、僕だけの力じゃないです! アイシャさんや、ヴェルフのくれた剣が・・・」
背中からベルを抱きすくめ頬ずりするのは褐色の女傑。
その表情はそれなりに長い付き合いの春姫でも見たことがないほどに喜色満面だった。
「謙遜も過ぎればイヤミさね! よくやった、ほんとよくやったよ! ほら、
「きゃっ!?」
「うわっ?!」
近くに立っていた春姫を引き寄せ、ベルと抱き合わせるようにして二人纏めて抱きすくめる。
ベルと春姫の顔が揃って赤くなり、リリがむすっとした顔になる。
カサンドラがまたもや頬を染め、ダフネとゲドは何とも言えない顔でそれを見ていた。
『け、決着~~~~~~~っ!!!!!』
『『『『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!』』』』
轟音のごとき歓声がオラリオを揺るがした。
アポロン連合に賭けていた神々が絶叫し、賭け券が吹雪のように宙を舞う。
三ファミリアによる一方的な蹂躙のはずだった。
まさかのフレイヤ・ファミリア参戦とそれに呼応してのロキ・ファミリアの参戦。
城を丸ごと打ち崩した大魔法。
【
ロキ・ファミリアとの全面激突。
最強の男オッタルと謎の男との壮絶な一騎打ち。
【リトル・ルーキー】と【麗傑】の全力の戦い。
勝負がついたかと思ったところで起きた、ヒュアキントスの怪物化。
敵味方無しに協力して怪物を討伐する冒険者たち。
二転三転、最初から最後まで驚愕に満ちた戦い。
それまでの全てが一気に爆発したような歓声であった。
その歓声の中、ヴェルフは静かに蜂蜜酒のジョッキを掲げた。
自らの打った魔剣が崩れ落ちる時、何かを呟いていたベル。
それが自分への感謝だと言うことが、彼にはわかっていた。
「とんでもねえよ、ベル。礼を言うのは俺の方だ――ありがとうな」
そしてヴェルフは、ひどくうまそうにジョッキを飲み干した。
「で、どっちが勝ったよ?」
それまでの激闘が嘘であったかのように、黒剣を肩に担いでのんびりと尋ねるのはロビラー。
オッタルも剣を納めこそしていないが、既に戦闘態勢は解いていた。
「決まってるでしょう・・・俺の弟ですよ」
胸を張るイサミ。
その横で槍にもたれかかったフィンが溜息をついた。既に狂化は解除されている。ベートやアルガナ達も治療を施され、目を覚ましていた。
「やれやれ、負けちゃったか。まあ今の彼相手に、【太陽神の寵童】じゃきついと思ったけどね」
「【麗傑】も倒しての堂々の勝利ですよ。というかあっちも色々ありまして・・・オラリオじゃこっちより盛上がってたかも」
「何? 一体何があったんじゃ? オッタルとそこの男の戦い以上に盛上がっておったと?」
「それがですね・・・まあ、歩きながら話しましょう」
目を丸くするガレス。火柱の立った方角に向け、歩きながらイサミが語り始めた。