ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
「「「「ウオオオオオオオオオオ!!!!」」」
「ヒャッッホォオォォオオオオオ!」
「ちょっと、ヘスティア! やめなさい、はしたない!」
爆発的に盛上がる神達。今日ばかりはそれに混じって盛上がるヘスティアは、椅子の上に立ち円卓に脚をかけてガッツポーズ。それをたしなめる神友も、笑みを隠し切れていない。
「ああ、ヒュアキントス! ヒュアキントス!」
「馬鹿な・・・そんな・・・」
「はー、堪能したわい。とどめを刺さないのが不満じゃがな」
一方で呆然としているのはアポロン陣営だ。
助っ人であるカーリーは純粋に戦いを楽しんでいられるが、アポロンとイシュタルはそうはいかなかった。
どうやらヒュアキントスが生きていると知ってアポロンは胸をなで下ろしていたが、それで話は終わらない。
どんっ、と円卓が叩かれる。
アポロンとイシュタルがびくり、と震えて振り向いた。
振り向いたその先には、腕組みをして仁王立ちする紐女神。
「覚悟はできているだろうなぁ、アポロォォォン?」
「ひいいいい!?」
地獄の底から響くような低い声音に、アポロンは椅子から転げ落ちて盛大な尻餅をつく。
イシュタルも思わず一歩下がり、カーリーも「おおう」と声を漏らす。
ツインテールはひゅんひゅんと風を裂いて唸り、怒気と陰気をまとわせたその顔は冥府の女王の如し。
「イぃぃシュゥゥタァァアァル・・・よくもボクのホームを荒らしてお気に入りのカップを粉々に砕いてくれたな・・・?」
「あ、あれは団員どもが勝手にやったことであって・・・!」
「しゃらーっぷ! アポロン、イシュタル、カーリー・・・お前達全員、生半可な事じゃ済まさないからなぁ・・・」
「ちょっと待て、わらわもか!?」
それまで他人事のような顔をしていたカーリーが初めて慌てふためく。
「あったりまえだ! そもそも最初にボクの子供たちを襲撃したのはお前達だろうがっ!」
「わ、わらわはあくまで助っ人じゃ! そう言う損得勘定は参加者で・・・」
見苦しい言い訳を並べようとしたカーリーの前に、ぬっと紙が突き出される。
「ところが、この議定書には助っ人含めて『参加者』と記されてるんだなあ」
「なんじゃとーっ!?」
野次馬がにまにましながら突き出した議定書のコピーを慌てて確認するカーリー。
確かに負けた場合はカーリーも要求を呑むと明記されていた。
戦えればいいと、ろくに内容を確認もしなかったカーリーのミスである。
しばらくぷるぷると震えていたカーリーが、くるっと振り向いて笑顔を作る。
「あー、ヘスティア? のう、お主はわらわと違って慈悲溢れる女神。ひどいことはせんよな? お主のような心優しき女神が万が一にも天界送還など・・・」
「じ・ひ・は・な・い。ハイクを詠め!」
「のぉぉぉぉぉ!?」
頭を抱えて絶叫するカーリー。
「ハイクって何?」
「極東のポエム。死ぬ時に詠む習慣があるらしい」
「そっかー、アポロンたち死ぬのかー。ご冥福をお祈りします」
「ナムー」
「おかしい人を亡くしたな・・・」
「いや俺ら神やん」
背後で無責任な野次馬たちがやんややんやと盛上がるのを聞き、アポロンのこめかみに一筋の汗が流れる。
意を決したアポロンががばり、と極東のドゲザを敢行する。
「あれは! ファーイースト・ドゲザ!」
「知っているのかトト!」
「気になる女の子を泣かせた男が開発した必殺の技! 巨人とともに決行したそれは人呼んで平身低頭・・・」
またもや無駄に盛上がる野次馬をよそにアポロンが必死のアピールを始める。
「出来心なんだヘスティア! 君の子が余りにかわいかったから・・・!
そうだ、ヘルメス! 全てはヘルメスの仕組んだことだったんだよ!
奴がいなければ私だってこんな暴挙には出なかった! 信じてくれ! この通りだっ!」
「む」
じろり、とヘルメスを睨む
動揺しまくるアポロンたちとは違い余裕でへらへらと笑うヘルメスを一瞥し、ふんと鼻息を漏らす。
ここがつけいる隙と見たか、イシュタルも参戦した。
「そ、そうだよ! 元はと言えばこいつが持ち込んできた話さ! 私たちに罰を強要するなら、そのへんも勘案してほしいね!」
「まったくもってその通りだけど、ヘルメスについてはもう詫びは済んでいるんでね。そもそも、どうして【
あっ、と声を漏らす神一同。
「ヘルメスも許せないけど、いきなり実力行使に出てきた君たちはもっと許せない! 三人とも財産没収、派閥解散の上でオラリオ永久追放だーっ!」
「ま、待ってくれ! 私がいなくなったら歓楽街や娼婦はどうするんだい! あんたが全部引き受けるとでも!?」
「そんなものギルドなりガネーシャなりにでも管理させればいいだろ! ガネーシャのとこはそう言うの好きみたいだしな!」
もしガネーシャ・ファミリアの女性冒険者、特に団長のシャクティ・ヴァルマがこの場にいたら全力で異議を唱えていただろう。
ただ、ヘスティアが知るガネーシャ・ファミリアはガネーシャ本人とシャーナ(ハシャーナ)だけであるため、そうしたイメージができるのもやむを得ないことではある。
「ねえ、ヘスティア? さっきからひとりで話を進めているけど、私たちにも請求の権利はあるのよ。忘れてないでしょうね?」
「む・・・そういえばそうだったね」
鈴のような声がヘスティアの追及の嵐を中断させた。
イシュタルが歯ぎしりをして声の主――フレイヤを睨む。
そもそも彼女が春姫に執着していたのも、戦争遊戯をしかけたのも、フレイヤを倒すための鍵であればこそだ。イシュタルのフレイヤへの憎しみはそれほどまでに深い。
「今は平和だけど、これからオラリオに何があるかわからないでしょう? 闇派閥が復活するかも知れないし、戦力は残しておいた方がいいと思うのよ」
「それはまあ、確かに」
ヘスティア達は体験していないが、オラリオでは数ヶ月前にディオニュソスやタリズダンの使徒たちによる大規模破壊作戦と、その阻止作戦が行われたばかりだ。
暗にタリズダンの使徒たち――怪人レヴィスをはじめとする『タリズダン・ファミリア』に対抗する為の戦力が必要であるとほのめかされ、ヘスティアも語気を弱めざるを得ない。
が、そのような事情を知らないイシュタルの目に、フレイヤの介入は別の意味に映る。
「ふざけるな! 情けを掛ける気か、フレイヤ!」
「あら? 言葉通りのつもりなのだけれど・・・あなたがその気なら恩に着てくれてもいいわよ?」
「ぐ・・・ががががっが!」
微笑むフレイヤに飛びかかろうとして、辛うじて自制するイシュタル。
タケミカヅチやオグマその他の武神が何人もこの場にいる以上、感情にはやっても結果は火を見るより明らかだ。
「まあしょうがないな。それじゃあアポロン、イシュタル、カーリーは財産の半分を没収、脱退を望む団員には無条件でそれを認める、今後一切の私闘禁止、それを破ったら今度こそ財産全没収の上でファミリア解散、オラリオ永久追放・・・これでどうだい?」
「そうね・・・まあそんな所でいいでしょう」
「やれやれだ。賠償金の分配は後で話すとして・・・アポロン、イシュタル、カーリー。フレイヤに感謝しろよ?」
先ほどからずっと額を地面にこすりつけていたアポロンががばっと顔を上げる。
「じゃ、じゃあこれで許してくれるのかい!?」
「・・・まあ君も踊らされたところはあるしね・・・今回だけは勘弁してやる」
「それじゃ私とベルきゅんの愛も許して貰えるんだね!?」
「寝言は寝て言えーっ!」
瞬間的に再沸騰したヘスティアの足の裏が、アポロンの顔面にクリーンヒットした。
情けない悲鳴を上げて頭を抱えるアポロンに、さらに容赦のないストンピングの嵐を見舞う。
一方的な蹂躙劇は、見かねたヘファイストスが実力行使で止めに入るまで続いた。
その一方で、別の理由でブチ切れそうになっている女神もいる。
こともあろうに殺してやりたいほど憎んでいる女に情けを掛けられる形になったイシュタルだ。
「・・・・!」
顔を上げてフレイヤと目が合った。
僅かに微笑んだその目は全てを見透かしているようで。
「あら、不満なの、イシュタル?」
「・・・・・・・・・」
優雅に首をかしげるフレイヤ。無言のまま睨み続けるイシュタル。
「あなたのファミリアの戦力は惜しいんだけど・・・どうしてもというならこの案を蹴ってもいいのよ?
もちろん、その場合は最初のヘスティアの案通りにさせてもらうけど」
「っ!」
愕然とするイシュタル。
つまりフレイヤはこう言っているのだ。
私の情けを受けて生き延びるか、それともそれをつっぱねて誇り高く死ぬか。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
長い沈黙があった。
「どうなの? 私としてはどちらでもいいんだけど」
「・・・・・・・・・る」
「あらなに? 聞こえないわ」
「受け入れる! 受け入れると言ったんだ!」
血を吐くように叫ぶイシュタル。
女神のプライドが折られた瞬間だった。
「フレイヤ様こえー」
「相当怒ってるな・・・」
「くわばらくわばら」
外野のつぶやきにも、フレイヤは微笑むのみだ。