ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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第二十話「ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか」
20-01 DRAGON


 

 

 

 

 

『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか?』

 

―― 『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』 ――

 

 

 

 

 

 ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか?

 深く暗い迷宮の奥底、膨大な金銀財宝の上にトグロを巻いて眠る竜。

 ふとその目が開き、闇を透かし見る。

 

 ほら穴の一つから現れたのは剣と盾を構え鎧に身を包んだ戦士、短剣とクロスボウを持った俊敏そうな盗賊、大斧を構えたドワーフ、ローブをまとった魔術師、弓を引き絞るエルフと言った面々。

 いずれの防具も傷だらけで、しかしその目に燃える闘志はいささかも傷ついてはいない。

 

 王国に仇なす邪竜を倒すため、決死の覚悟で竜の洞窟に潜ってきた勇者の一団。

 竜は咆哮を上げ、勇敢なる戦士たちは国を救うべく最強のモンスターに挑む。

 誰もが憧れる英雄譚のひとこまだ。

 

 ――ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか?

 

 結論。考えるまでもなく間違ってなどいない。

 何故なら、屋外で空からブレス攻撃されると大抵の冒険者は手も足も出なくなるからだ――!

 

 

 

ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~

 

第二十話「ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか」

 

 

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――!』

 

 魂を消し飛ばすがごとき咆哮が天地を揺るがす。

 単なる比喩ではない。畏怖。実際に魂をわしづかみにされるような。

 リリ、ゲド、ダフネなど、低レベルの人間が意識を刈り取られてばたばたと倒れていく。リューやレフィーヤと言ったLv.4の冒険者でさえ顔を青くしてふらついていた。

 

 宙に羽ばたき、日の光を遮る巨大な黒い影。

 いや、黒いのは影になっているからではない。

 その全身は光すら吸い込むような漆黒の鱗でくまなく覆われている。

 角の生えたは虫類のような頭部。鋭い牙。四肢の爪。コウモリのような皮膜の翼。

 その左目に白銀の剣が柄まで埋まっていることまで見て取ったのは、知覚に絶大な強化を付与するイサミと視力に優れたハイ・エルフのリヴェリア。そしてもう一人。

 

「・・・・・・・・・・・うわっ!?」

 

 轟、と黒い炎が吹き上がった。

 呆然としていたシャーナが慌てて一歩下がる。

 アイズの全身から吹き上がる黒い炎。

 スキル〈復讐姫(アヴェンジャー)〉。怪物に対し攻撃力高強化。竜種に対し攻撃力超強化。憎悪の丈により効果向上。

 

「アイズ!?」

「どうしたんじゃアイズ・・・まさか!」

「そのまさかだ! フィン、ガレス、あれは・・・!」

 

 親代わりのフィン達の声もアイズの耳には届いていない。

 憎悪。それだけが彼女を塗りつぶしている。

 アイズが剣に手をかけた。

 憎悪の炎を、自らの風と融合させるべく、呪文を口ずさむ。

 

「"風・・・(テンペ・・・)"」

「アイズさん!」

 

 呪文が止まった。

 目の前にあったのは、心配そうなベルの顔。

 剣を抜こうとした手をベルが握って止めている。

 いつの間にか、黒い炎が消えていた。

 

「あ、あの・・・その・・・大丈夫ですか?」

「あ・・・うん・・・大丈夫・・・」

 

 言葉少なに会話を交わし、見つめ合う。

 アイズは元より言葉の多い方ではない。ベルも思わず体が動きはしたが、憧れの存在を目の前にしてそれ以上の言葉が出てこない。

 騒然とする戦場の中で生まれた、奇跡的な沈黙の一瞬。

 

「あーっ、近い! 近いですよ! それにいつまでアイズさんの手を握ってるんですか!」

「あっ! ご、ごめんなさい!」

「・・・・・」

 

 それを破ったのはエルフの少女だった。

 憤怒の表情で両方の間に割って入り、両手で無理矢理引きはがす。

 一瞬でゆでだこのようになったベルが両手を上げて飛び下がり、アイズは意表を突かれるとともに僅かに名残惜しそうな表情になる。

 それに気付いたレフィーヤが更に沸騰する・・・かと思われた所で再び黒竜が咆哮した。

 

『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――!』

 

 今度は倒れるものも怯むものもいない。

 しかし、今やその場の誰もが相手の正体を察知していた。

 

「隻眼の――黒竜――!」

 

 それは古のおとぎ話。

 千年を遥かに超える昔、ダンジョンから飛び出した大魔獣の一匹。

 残りの二匹、陸の王者(ベヒモス)海の覇王(リヴァイアサン)を打ち倒したゼウスとヘラの両ファミリアすら勝てなかった、世界最強の怪物。

 

 ばさり、と黒竜が翼を羽ばたかせた。

 一つだけ残った右目がぎょろりと動き、イサミ達を見た。

 いや、正確にはその内のただ一人、風をまとう少女を見た。

 そのことにアイズ本人と、イサミのみが気付く。

 

「っ!」

 

 ぞくり、とイサミの背に凄まじい悪寒が走る。

 表情の変化を見るに、恐らくフィンも、度合いは違えその他の一級冒険者たちもそれを感じている。

 

「『我願う! 我に時間を!』」

 

 イサミが再び切り札の"願い(ウィッシュ)"呪文を切る。

 《高速化》《二重化》"願い(ウィッシュ)"を《二重化》《"上級呪文融合(グレーター・アーケイン・フュージョン)"》呪文二つに、それを更に《二重化》《"素早さ(セレリティ)"呪文8つに変換するというややこしい過程を経て、イサミの一瞬が一分半ほどに引き延ばされる。

 

「『我願う! 我が同輩たちを安寧の地に運びたまえ!』」

 

 その一分ほどの間に更に連発される"願い(ウィッシュ)"。

 最初の呪文で100人弱のアマゾネス達が瓦礫の下から姿を消した。

 同様に瓦礫に埋もれたもの、打ち倒されたものたちが更なる呪文発動に応じて姿を消す。

 最後の発動で、残っていたイサミ達もその場から消える。

 次の瞬間、黒い閃光のような黒竜の吐息が、土台ごと城の残骸を消し飛ばした。

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