ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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20-02 ガネーシャ・ザ・フール

 

「あぁーーっっ!?」

 

 オラリオ、バベルの塔。

 神会(デナトゥス)の間にヘスティアと、その他何人もの神の絶叫が響いた。

 一瞬遅れて荒事に慣れたタケミカヅチが彼らを一喝する。

 

「落ち着け、ヘスティア! 少なくとも命は生きている! ならお前やヘファイストスの子も無事である見込みが高い!」

「そ、そうか、【恩恵】の繋がりがあったか・・・!」

 

 あの場に団員たちを送り込んでいた各ファミリアの主神たちが【恩恵】によって繋がっている団員たちの生死を確かめ、それぞれ安堵に胸をなで下ろす。

 ロキやフレイヤですらそれは例外ではなかった。表情に出すかどうかはまた別の話だ。

 

「お、連中バベル前の広場にいるぞ!」

「すげーな、全員運んできたのか!」

 

 たまたま【神の鏡】でオラリオを見ていた神の一人がイサミ達を発見する。

 思わず飛び出そうとしたヘスティアの足が、次の瞬間ぴたりと止まった。

 

「どうしたの、ヘスティア?」

「イサミくんが・・・改めて『アレ』の偵察に行ってくるって・・・」

 

 ぎぎぎぎぎ、とちょうつがいのきしみ音が聞こえてきそうな動きで振り返るヘスティア。

 

「はあっ!?」

 

 思わず叫ぶヘファイストス。

 周囲の神々も似たり寄ったりの表情だ。

 

「ああもうなんであの子はーっ! こっちからじゃ話しかけることも出来ないし! もっと便利な魔法とかないのかよ!」

 

 頭をかきむしって叫ぶ紐神だが、"メッセージ送信(センディング)"の呪文は短いメッセージを一往復やり取りするだけの呪文なのでどうしようもない。

 その一回も反射的に返信してしまったので、もう呪文の効力は切れていた。

 

「話は聞かせて貰った!」

 

 その時、良く通る声と共に神会(デナトゥス)の間の大扉が開いた。

 神々の注目がそこに集中する。視線の先に立つのは象の仮面を身につけた神、ガネーシャ。ギルド前の会場から走ってきたのだろうか、息が荒い。

 しばし、気息を整えるガネーシャの呼吸音だけがその場を支配した。

 沈黙したまま、視線だけを送る神々を代表してロキが口を開く。

 

「話は聞かせて貰ったゆーたな。自分、なんぞ考えでもあるんか?」

「いやいっぺん言ってみたかったのだ」

「帰れボケェッ!」

「ぐぉあっ?!」

 

 殺気全開のゴブレット(銅製)がまともに命中し、中身のワインをぶちまけて馬鹿神(ガネーシャ)が崩れ落ちる。

 場の何人かは伝説の大魔獣が現れた緊張すら忘れ、気が抜けて円卓に突っ伏していた。

 ロキでさえ頭痛をこらえるような表情で額を抑えている。

 

「はーっ・・・こんのクッソ忙しい時にドアホが。ええからオラリオの治安維持でもおのれの子供達にゆーてこいや。下手すりゃ暴動起きんで」

「ま、待てロキ。まだ言うことが・・・」

 

 馬鹿特有のタフさで起き上がってくる馬鹿に、トイレのシミを見るような視線を向けるロキ。

 

「おう頑丈やな自分。今度は瓶の方行っとくか? ん?」

 

 本当にワインの瓶を振りかぶり、投擲の体勢を取るロキ。ワインまみれになった仮面をぶんぶんと左右に振ってガネーシャが必死でアピールする。

 

「いや待て! 待つのだロキ! 考えがあるのは本当だ! 既にギルドにも話は行っている!」

「む」

 

 ああいつもの馬鹿か、と弛緩していた神々の視線が再びガネーシャに集中した。

 ロキが黙って続きを促す――ただし酒瓶は振りかぶったままで。

 

 

 

「と、言うわけだ。最悪でも時間は稼げると思うから、お前達はその間に善後策を協議するなり、子供らを避難させるなりしてほしい」

「・・・本気で言っとんのか、自分?」

 

 しかめっ面で聞き返すロキ。既に瓶は円卓の上に戻していた。

 

「そもそもアレは最初からそのために作られたものだ。まさかこの俺が、伊達や酔狂だけであんなものを作らせると思ったか?」

「「「「「「うん、思ってた」」」」」」

「・・・」

 

 その場の全員が一糸乱れぬ首肯を返す。

 さすがに怯んだガネーシャだが、気を取り直してヘスティアに向き直った。

 

「そう言うわけだ、出来ればお前の子ともつなぎを取っておきたい」

「それはわかるけど、こっちからじゃなあ・・・」

「何か無いのか、魔道具とか?」

「うーん・・・あっ!」

 

 ヘスティアの脳裏に半年、体感時間では一ヶ月ほど前の会話が甦る。

 

「そうだ、あれがあった!」

 

 

 

「ベルくん!」

「神様!?」

 

 いきなり冒険者たちが現れたと大騒ぎになっているバベル周辺の広場。報告に現れたフィンとオッタルから話を聞き、ほどなくヘスティアはベル達を探し当てていた。

 ヘスティア連合軍とロキ・ファミリアの残りの面々、アルガナ、バーチェもいる。

 イサミの仕業か戦争遊戯(ウォーゲーム)参加者には治療が施され、自力で動ける程度には回復している。黒の超戦士、ロビラーはまたしてもいつの間にか姿を消していた。

 

「ああ、無事で良かった!」

「神様・・・」

 

 近づくなり、感極まってベルに抱きつくヘスティア。

 元の姿に戻ったリリがむっとした顔になるが、さすがに今は何も言わない。

 

「そうだ、イサミ君に連絡が取りたいんだよ! あの魔法の石、持ってないかい? あ、それともサポーター君かな?」

「あ、はい、それならリリが持っています」

 

 腰のベルト(これも魔道具)から握り拳ほどの自然石を取り出すリリ。

 "送信の石"という名前の通りの魔道具だ。一度失われたが、作り直した。

 返事ももどかしく女神は石を受け取り、目をつぶって僅かに念じる。

 しばらくそのままでいたヘスティアが、ややあって目を開いて溜息をついた。

 

「どうでした?」

「何か魔道具・・・水晶玉だかなんだかで連絡を維持するってさ。そんなのがあるなら最初から使ってくれればいいのにね」

「・・・僕たちはこれからどうしましょう? 兄さんは神様が戻ってきたらホームに帰って逃げる準備をしておけって言ってましたけど・・・」

「うん、ボクの方にもそう言ってたよ」

「そうですか・・・」

 

 やはり兄さんでもアレには敵わないのか、と肩を落とすベルに、慌てたようにヘスティアのフォローが入る。

 

「な、なあに、そのための偵察だろ! 案外弱点見つけて帰ってくるかも知れないよ!」

「・・・そうですね」

 

 まだ不安を抱えているのは丸わかりだが、それでもどうにかベルが笑顔を浮かべる。ヘスティアやリリ、レーテー達がほっとしたように表情をゆるめた。




ちなみに連絡に使っているのはテレパシー付きの水晶玉(クリスタルボール)です。
好きな人間を映し出して、対象とテレパシーで会話できるという超便利通信アイテム。
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