ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
黒竜は命令に従い、小さなものたちの作り上げた石積みの山を目指して飛び続けていた。
ゆっくりとしか飛べない自分の体がもどかしい。
かつては天の高みに舞い、空気の壁を切り裂いて飛ぶことすら出来たのに。
体が重い。
少し動かしただけでも息切れを感じる。
小さなものたちにえぐられた体がまだ回復しきっていない。
憎悪がたぎる。
傷痕が痛むたびに燃えさかる憎しみに更に燃料がくべられる。
小さなものたちを殺す事に躊躇もためらいもなかったが、傷が癒えていない状態でそれを強要されたことには怒りがあった。
小さなものたちを殺し、喰らい、そやつらの積み上げた石積みを粉々に吹っ飛ばせば多少気分は晴れるだろうか。
その様な事を考えていた黒竜が、ふと空を見上げた。
「黒竜視認! 現在の軌道だと奴の後方数百メートルを通過します!」
『方向を調整せよ! このまま奴にぶち当ててやれ!』
「はっ!」
【心臓の間】と名付けられた奇妙な部屋に軌道を計算していた団員の声が響き、続いて頭部からの主神の指示が届く。
頭部同様正面の壁は映像を映すモニタになっており、左右に数枚の【神の鏡】が展開していた。
玉座に座るシャクティが答えを返すのと同時、再びガネーシャが吼える。
『神力噴射全開! 総員気合いを入れるのだ!』
『『『『『おうっ!』』』』
ガネーシャの号令に、再びガネーシャ・ファミリア総員が答える。
彼らもまた、各所の部屋に体を革のベルトで固定して、これから起こる衝撃に備えていた。
『叫べ! ジャイアント!』
『『『『ジャイアント!』』』』
『イナズマ!』
『『『『イナズマ!』』』』
『『『『『『キィィィィーーーーーーーークッ!ッ!』』』』』
赤いオーラをまとって落ちてきた人型の流星を黒竜は見る。
完全にかわしきることは、できなかった。
黒い影をかすめて赤い流星が大地に落ちた。
一瞬遅れて巨大な土ぼこりが巻き上がり、衝撃波が大地を走る。
「お?」
「うん?」
大地を伝播した衝撃波はオラリオをも軽く揺らした。
祭りの余韻を引きずる市民たちも空を仰ぎ、首をかしげた。
幸か不幸か、戦争遊戯のために展開されていた【神の鏡】は決着と同時に消されており、彼らはわずか数十km先に伝説の大魔竜が存在するとは知らない。
それがパニックを押さえ込んでいるのが救いだった。
巻き上がった土ぼこりの中からずしん、と音がした。
ずしん、ずしんと地響きを立てて現れたのは象頭の巨神。
大理石で出来ているはずのその巨体にはいささかの傷もひびわれもない。
その体の表面を無数の細い紋様の帯が覆い、赤い光を放っている。
その光の正体はガネーシャの【
通常地上世界ではあり得ない量の【
だがそれほどの力を行使していながら、ガネーシャは天界に送還されていない。
その秘密が
物体に【恩恵】を刻めば、その物体はベルの【ヘスティア・ナイフ】と同じく【恩恵】の力を得る。だがそれだけではただの物体であることに変わりはない。そこでガネーシャは考えた。
「団員たちの【恩恵】も【
ガネーシャのアイデアにもかかわらず、この考えは正鵠を得ていた。
ガネーシャと団員一人一人の【恩恵】が【恩恵】を刻んだ石像のラインで繋がる。
【恩恵】の力は巨像の全身にくまなく行き渡り、その体を動かす。
ガネーシャは指揮官兼【神の鏡】によるセンサー兼【
言ってみれば千人のベルが千本の【ヘスティア・ナイフ】を振るうようなもの。
一本一本はモンスターを切り裂く程度の力だが、それを千本束ねればどうなるか。
それが、
土ぼこりから姿を現した
その先には同じ位の大きさの黒い塊。
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――!』
咆哮が再び天地を揺るがす。
隻眼の黒竜だった。
ただしその体には新しい傷が出来ており、更に右側の翼が根元からぽっきりと折れている。
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――!』
憎悪と怒りの咆哮が
大空の王者はついに空を奪われたのだ。
隻眼に怒りをたぎらせて、自分に近づいてくる象頭の石像を見る。
黒竜にとっても初めて相対するたぐいの存在ではあったが、それでもわかることはあった。
こいつらは、自分を傷つけたちいさなものたちと同じにおいがする。
ならば殺すしかない。喰らうしかない。
一人たりとも残さない。みな、みな、無惨に殺してくれる――!
『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■―――――!』
四度、黒竜は咆哮した。