ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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20-10 怒りの象神

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

『GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR………』

 

 にらみ合う。何度目かの僅かな膠着の時間。

 双方、ダメージは蓄積していた。

 

 G(ジャイアント)・ガネーシャは右の肩口が指の厚みほどにえぐられ、無惨な姿をさらしている。両の牙は溶け落ち、大理石を汚す黒いしみが胸まで垂れていた。上半身を中心に牙や爪で削られた無数の傷痕。

 

 黒竜はそれに比べれば目立った傷痕はない。

 腹に牙で貫かれた二つの穴。だが魔物特有の回復力で、既に血は止まっている。

 しかし腹を貫かれたダメージは黒竜と言えども軽いものではないし、執拗に攻められた右足はまだ回復していない。繰り返された打撃もノーダメージとは行かない。

 

「おおおおおおおおっ!」

『!』

 

 僅かな静寂を破り、先に動いたのはやはりG(ジャイアント)・ガネーシャだった。

 まがりなりにも生物である黒竜と違い、【神の力】で動かされる石像に疲労はないし、損傷はあっても痛覚はない。放っておけば疲労も負傷もある程度回復してしまう黒竜と戦うのであれば、速攻こそが取るべき戦術。

 これまで何度も繰り返してきたように低い姿勢で突進してくる巨像に対し、黒竜もまた身を低くして身構える。

 タックルか、体当たりか、それとも跳躍か。

 どれが来ても対応できるよう、この鬱陶しい石の塊を注視する。

 

 一瞬巨像の肩が沈んだ。

 跳躍か、と巨竜は身を起こす。

 それがシャクティのフェイントであるとも知らず。

 

 沈んだ肩が更に沈む。

 ほとんど地面すれすれのような高さで巨像が突っ込んでくる。

 狙いは痛めつけた右後ろ足。

 

 体を起こしてしまった巨竜は対応できない。

 反射的に痛めた右足で蹴りを放つ。

 左足でもよかったが、痛めた足を体重のかかる軸足に使うよりは、まだ蹴り足に使った方がマシ。

 そういう意味で黒竜の判断は間違っていない。

 間違っていないがゆえに、シャクティの術中だった。

 

『GYGAAAAAAA!?』

 

 蹴り出された足をダメージ覚悟で両腕で抱え込む。

 そこから流れるようなひねりを加えた側転。

 黒竜は苦痛の声を上げて倒れる。いや、倒れ込むしかない。

 無理に耐えれば足が折れる。

 竜と象神が一つの竜巻になり、回転しながら倒れ込む、まさしくドラゴンスクリュー。竜殺しの必殺技だ。

 

『GAAAA・・・』

 

 倒れ込んだ黒竜が苦悶のうめきを上げる。

 倒れたとしても、よほどうまくタイミングと方向を合わせない限り、足へのダメージは免れない。

 そもそも格闘自体が生まれて初めてである黒竜にそのような技術はなかった。

 

 その隙を突いて再びG(ジャイアント)・ガネーシャが仕掛ける。

 倒れたはずみで離していた黒竜の右足に再び飛びつき、今度は両手で足を取った上に両足で挟み込んで力一杯にひねる。

 人間ではないゆえに技のかけにくい黒竜ではあるが、関節の仕組み自体は変わらない。粗くはなるが、逆関節を取ったりひねったりすることは不可能ではなかった。

 

『GYGOOOOOOO!』

 

 苦痛と怒りの吠え声を上げながら、黒竜がG(ジャイアント)・ガネーシャを蹴る。

 離れない巨像を二度、三度と蹴り、何発目かが足を取っていた石の肘に命中。

 そのまま石像を蹴りはがすが、転がって素早く立ち上がったG(ジャイアント)・ガネーシャに比べて明らかに動きが鈍い。

 

『よし! よし! よぉぉぉぉしっ! でかしたぞシャクティ!』

「ありがとうございます、ガネーシャ様。ですがまだどうにか互角程度。油断は禁物です」

 

 戒めを口にするシャクティの口元も、僅かにほころんでいる。

 有史以前より数多の大英雄が挑んで勝てなかった黒竜を相手にここまで戦えている。

 その事実が、冷静沈着な彼女をして昂ぶらせている。

 

 だがそれでも油断はしない。相手はいかなるモンスターにも勝る伝説の大魔獣。

 魔石を砕くまで油断はならない。

 

「サハスララ、団員たちに被害は出ているか! ヴィンダーハナ! 各部の損傷は!」

「せいぜいたんこぶが出来たのと、馬車酔い・・・石像酔い?してる奴がいる位だ! 駆動に影響なし!」

「こちらも概ねかすり傷だが、表面の【恩恵】はかなり削られている! 特に肩口は後数度やられたら骨組が露出する恐れがある!」

 

 巨像各部との交信を担当する団員と、【神の鏡】で巨像各部をチェックする団員の返事にシャクティは頷く。

 G(ジャイアント)・ガネーシャを動かしているのは各団員の背中と構成材に刻まれた【恩恵】、そこから発せられる【神の力】だ。

 石材や木材、骨組に刻まれた【恩恵】は巨像の動力源であると同時に伝達経路でもある。損傷がひどくなればその分出力も伝達効率も低下する。

 そして内部の木材は【神の力】で強化されているとは言え、強度は大理石に比べれば格段に落ちるし、元々が建築物であるから内部には空洞も多い。

 表面の大理石が削りきられると、一気に崩壊する恐れもあった。

 

(かさにかかって攻め立てるのは危険だが、過度に慎重になれば回復の隙を与える。そうでなくても古城を吹き飛ばしたあの吐息(ブレス)を奴はまだ見せていない。

 つまり、今まで通りのペースで攻め続けるのが最良!)

 

 一瞬にして判断を下すとシャクティは巨像に大地を蹴らせる。

 

「行くぞお前達! 今日、我らガネーシャ・ファミリアは歴史に名を刻む!」

『「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおーーーーっ!」」」」」」」」』

 

 伝声管と【恩恵】を通じて伝える意志。返ってくるのは万雷の如き(とき)の声。

 神と人が一体となり、神の力が燃える炎となる。

 まばゆいほどの赤い輝きに包まれて突貫する巨神はまるで地上を流れる流星。

 それを迎え撃とうとする黒竜に今度こそ正面からぶつかり、赤い閃光が爆発する。

 

 黒竜が吹き飛ばされた。

 何の技もけれんもない、しかし最高のスピードとパワーとタイミングで放たれたショルダーアタック。それをまともに食らった黒竜は踏ん張りきれない。空中でバランスを取るための翼ももはや片翼のみ。

 

 一km近く吹き飛ばされた黒竜が山と森を削り、土煙と地響きとともに停止する。

 起き上がろうとする黒竜の視界に映ったのは両手足を一杯に広げて宙に舞う巨神の姿。

 跳躍して空中で一回転。

 全身の重量を存分に乗せて叩き付ける落下技。象神の流れ星。

 

『ガネーシャ・シューティングスタープレスッ!』

『GOHA――!』

 

 肺の中の空気が強制的に排気される。ゆえに悲鳴も上げられない。

 それでも落ちてきた石像の腕を掴んで取っ組み合いに持ち込もうとするが、相手は爪をするりと躱して立ち上がる。

 転がって、足の苦痛に耐えながら黒竜も立ち上がろうとする。

 

 だがそれと同時に巨神が跳んだ。

 黒竜の肩と同じ位の高さに飛び、後ろ回転蹴り。

 

『GB――ッ!』

 

 喉元に突き刺さる石のかかと。

 立ち上がろうとしていた黒竜はこれをかわせない。

 くぐもった音を立てて、再び後ろ向きに倒れ込んだ。

 

「まだまだっ!」

『GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』

 

 さらに追撃しようと踏み込んだG(ジャイアント)・ガネーシャに、しかし今度は黒竜が超反応を見せた。

 仰向けに寝転んだ状態から、無傷の左足による強烈な直蹴り。

 いかに【恩恵】があろうと、人間と獣では基本の反応速度が違う。

 

 痛めた右足を使わず、いわば背中を軸足にして放たれた蹴りにシャクティは反応できず、巨神は吹き飛ばされた。

 黒竜の巨体を支える強靱な脚力と背中のバネの力を込めた渾身のカウンター。

 受け身も取れず、G(ジャイアント)・ガネーシャは土煙と共に山肌に叩き付けられた。

 

 だが、吹き飛ばされた巨像は即座に立ち上がる。

 二歩の助走を付けて跳躍。

 放物線ではなく直線的な跳躍からの跳び蹴りが、立ち上がった黒竜の肩口に命中する。

 狙ったのは喉元だったが、それでもバランスを崩して黒竜は転倒した。

 

 膝を突いて着地したG(ジャイアント)・ガネーシャが素早く立ち上がり、黒竜の痛めた右膝にストンピングを見舞う。

 

『GYYY!』

 

 黒竜が苦悶の悲鳴を上げる。

 転がってうつぶせになり、三本の足で距離を取ろうとする。

 

『GA!?』

 

 が、その足が止まった。

 後ろに延びた尻尾をG(ジャイアント)・ガネーシャが掴んでいる。

 巨神はそのまま尻尾をたぐり寄せ(正確にはたぐりながら近づき)、半ばよりも根元に近いあたりを脇に抱える。

 

 僅かな拮抗。

 だが、足を痛めている黒竜には分が悪かった。

 四つ足で走る事もできるが本来は二足歩行、もっと言えば空中を舞うための肉体。

 ほぼ同じウェイトでも陸戦用の人型であるG(ジャイアント)・ガネーシャと比べれば無駄な部分が多すぎる。

 

「はあああっ!」

『!?』

 

 拮抗が破れて後ろに引きずられたかと思った次の瞬間、黒竜の体が引っこ抜かれる。

 ジャイアントスイング。

 ミスミスミス、と軋む音がする。

 黒竜は折れていない左の翼を広げて脱出しようとするが、その前に遠心力の勢いのまま山肌に叩き付けられる。

 

『GA!』

「たあっ!」

 

 またしても跳躍からの、今度はニードロップ。

 起き上がろうと転がった黒竜の、右胸脇にピンポイントで落下命中。

 急降下爆弾が致命的な箇所で爆発する。

 

『ッ!』

 

 黒竜が一瞬硬直した。

 右膝から伝わってくる手応えに、シャクティが確信する。

 今の一撃で黒竜の肋骨は折れた。

 少なくとも前後の肋骨を繋ぐ、肋軟骨が外れるか折れるかした。

 

 もがく黒竜が巨神をはじき飛ばす。

 逆らわずに後ろに飛び、転がって受け身。素早く立ち上がる。

 

 一方の黒竜は立ち上がったものの、咳き込んだかと思うと口から盛大に血を吐いた。

 酸性の黒い血が大地に落ち、白い煙を上げる。

 間違いない。折れた肋骨が肺に刺さった。それも恐らく複数。

 

(!)

 

 シャクティの目が光った。

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