ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
そこからは一方的な展開になった。
残った左翼に飛びつき、翼ひしぎ逆十字。自分ごと大地に叩き付けると共に両手両足で翼をへし折る。これで黒竜は完全に飛行手段を失った。
膝立ちになった黒竜の膝に右足をかけ、そのまま左膝で喉をかち上げる。黒竜の喉がつぶれ、再び鮮血を吐き出す。血しぶきを浴びた
地を這うような低空飛行のドロップキック。
それでも立ち上がろうとする黒竜の左腕を肩に担ぎ、容赦なく折る。
黒竜の絶叫と共に折れた肘関節から骨が飛び出した。
倒れ込んだ黒竜に、高い跳躍からのダイビングヘッドバット。
『よし、シャクティ! 今こそとどめを!』
「はい、ガネーシャ様! ガネーシャビーム、
数歩下がった
胸から腕へ、逆の腕を回りまた胸へ。
赤い輝き、【神の力】が稲妻を帯びて円環を描く。
光が加速すると同時に、巨神の目が放つ赤い輝きもまばゆいほどに光を強める。
『
「了解! 行くぞ黒竜、これで終わりだ! ガネーシャ・・・」
『「「「「「「ビィィィィィィイィィィィムッ!」」」」」』
合掌していた両手を前に伸ばし、水泳の飛び込みのような形にする。
目と、合わせた手刀から放たれる赤い輝きが合一し、一本の赤い光線が迸る。
それはボロボロになりながらも立ち上がった黒竜の胸のあたりに命中し、次の瞬間そのまま貫通して胴体に巨大な穴を開けた。
時間が止まっていた。
手刀を合わせて突きだしたポーズの
肺の下半分と腹部内臓の上半分は持って行かれたであろう、冗談のような大穴を胴体に開けたまま立ち尽くす黒竜。
穴の向こうに遠くオラリオが見えた。
黒竜の残った目から、ふっと光が消える。
ゆっくりと、恐ろしくゆっくりとその体が前のめりに傾く。
ズゥン・・・と。
地面を揺らしはしたものの、それまでの激闘に比べれば余りにも静かに黒竜は大地に伏した。
「「「―――――――――――――――――――――――!!!!!」」」
歓声が爆発した。
エイナでさえ両腕を振り上げて、精一杯の声で叫んでいる。
ロキが円卓に足を乗せてガッツポーズを取り、フレイヤが微笑んで椅子の背にもたれかかった。
《勇者》と《猛者》が視線を交わす。小人族の勇者は笑みを含ませて、猪人の武人は重々しく頷いて。
大理石の巨像すら揺るがすほどの歓声が、
シャクティも大きく息をついて力を抜く。狂ったように叫ぶ主神の声も今は遠い。
心地よい虚脱と疲労感に身を任せる一瞬。
誰もそれを責めることはできまい。
実際シャクティは油断していなかった。
気を抜いたのはほんの一瞬であるし、すぐに黒竜に近づいて、念のために胸の魔石を砕こうとしていたのだ。
だがその一瞬を制するように、響いた声があった。
ワ レ ヲ カ イ ホ ウ セ ヨ
「?!」
弛緩していた精神が凍りついた。
「間に合えっ!」
即座に巨神が走り出す。
その前で黒竜の屍がびくん、と大きく震えた。
巨神のかかとが背中から魔石の位置に踏み下ろされる。
がしり、とそれが止まった。
息絶えたはずの黒竜の右前足がそれを掴んでいる。
その体勢のまま折れた左前足を地面に突いて立ち上がる。
目の光は消えたまま。どことなくぎくしゃくとした動き。
「このっ!」
取られたままの足を軸にして、巨神が宙に浮く。
そのまま黒竜の首の付け根を狙っての回し蹴り。
炸裂。
蹴りのショックで取られていたかかとが離れる。
地面に落ちた巨像が素早くバク転して距離を取った。
『これは・・・?』
そこで初めて黒竜の全体像が目に入った。
地面から生えた数十本の緑色の紐――サイズを考えれば恐らく太さ1mほどはあるだろう触手か何か――が、黒竜の体に突き刺さっている。
まるで糸の切れた操り人形のようだが、本物の操り人形とは逆に、地面に繋がっているそれこそが黒竜を立たせ、操っているのだと直感的にわかる。
「ぐっ!?」
そこで、シャクティの口から思わずうめき声が洩れた。
黒竜の胴体に空いた巨大な穴が、高速で塞がっていく。
ただしそこを塞いでいるのは鱗と肉ではなく、触手と同じであろう緑色の何かだ。
良く見れば砕いた右膝とへし折った左腕にも緑色の何かが巻き付き、増殖して肉体を補修補強している。
「あれは!? フィン!」
「間違いない、ロキ! あの触手と同じものだ! 59階層の!」
何人かの人間と神がそれを聞いて顔色を変えた。
59階層に現れた「堕ちた精霊」。
死にかけたそれを再生強化した緑色の「なにか」。
"
おそらく「堕ちた精霊」より更に強大ななにか、ダンジョンの更なる下層に存在するなにかが今度も現れた。
だがあそこはダンジョンではない。オラリオから50km以上は離れた荒野のただ中だ。
まさかそんな場所にあの緑色の触手が現れようとは、ウラノスやロキですら想定外。
「おのれ・・・そこまでして自由になりたいか! 原初の混沌よ!」
地下の祭壇でウラノスがうめいた。常にいかめしい顔を崩さないこの神をして、この状況は衝撃的なものだったらしい。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そばに控えるフェルズは無言。握りしめられた銀色の籠手がかすかに震えている。
「・・・・・・・・・・!」
見る見るうちに黒竜の損傷を補修していく緑の触手。
拘束から脱出して距離を離した
「!?」
最後の隙間が埋まったのと同時に、ぎょろりと。
緑の触手で覆われた部分に無数の目が開いた。
強大な怪物と相対したときのそれとは違う恐怖。生物としての根源的な何かを刺激するそれ。言葉にするなれば・・・妖気。
実際に見たものしかわからないそれ。生まれて初めて接したそれに、さすがの一級冒険者も一瞬足が止まる。
黒竜の胸が大きく膨らんだ。
『防御せよシャクティ!』
「は、はいっ!」
腐っても神ゆえに妖気に影響を受けなかったガネーシャの叱咤。
我に返ったシャクティが【神の力】を絞り出し、腕を組んで顔面を守る。
直後、黒い閃光が走った。
深夜アニメ見てたらクトゥルフTRPGのCMやってました。
TRPGのテレビCM! しかもクトゥルフ!
時代は変わったなあ・・・