ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
21-01 伝説級呪文(エピックスペル)
『100万パワー+100万パワーで200万パワー―――!!
いつもの2倍のジャンプがくわわって200万x2の400万パワーっ!!
そして、いつもの3倍の回転をくわえれば400万x3の、
バッファローマン、おまえをうわまわる1200万パワーだ―――っ!!』
―― 『キン肉マン』 ――
時間は黒竜がオラリオへの侵攻を再開した時点にさかのぼる。
「い、イサミ・クラネル! すぐにあれを発動するのだ! 黒竜がやって来てからでは遅い!」
恐らくは前よりも数段早く飛行する黒竜を横目に、ギルド長ロイマン・マルディールが命令する。
「どうでしょう。確かに奴の侵攻速度は速いですが、まだそれなりに余裕は・・・」
「余裕を持つに越したことはないだろうが?!」
冷静さをまだ失ってはいないが、声音の強さに焦りをにじませるロイマン。
それを止めたのは、今まで沈黙を保っていた一枚の【神の鏡】だった。
『落ち着け、ロイマン』
「う、ウラノス様・・・!」
たしなめるような穏やかな響きだったが、さすがにギルドの主神の前ではロイマンも口をつぐまざるを得ない。
大人しくなったロイマンを横目で見やりつつ、ウラノスがイサミに視線を向ける。
『確認するがイサミ・クラネル。速度はどれくらいだ?』
「巡航速度で一時間に30km・・・普通の人間が全速で走るより少し早いくらいかと。短時間ならその四倍はいけます」
『立ち上がりにはどれほどかかる?』
「確言は出来ませんが、一分はかからないでしょう」
ウラノスが頷いた。
『ではあれが30kmのラインを越えた時点でそれを発動せよ』
「かしこまりました」
(自らの主神に対する態度とは違って)うやうやしくイサミが頭を下げた。
ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~
第二十一話「ヒーローズ・オブ・ランス」
そして今、オラリオは上空2kmにあった。
"
それをコピー、アレンジして作り上げたイサミの大魔法であった。
(通常必要な研究期間は例によってウィッシュ呪文を使用して短縮している)
当然本来は一人で発動できるような術ではないのだが、戦争遊戯で使った直列強化に加えて、発動に必要な〈呪文学〉の技能を同様に直列強化することで呪文の処理能力をまかなっている。
「ヒューッ!」
「本当に飛んでるぜ!」
「下界SUGEEEEEEEEEEEEEEEEE!」
のんきに大騒ぎする神ども。
ロイマンを始め、ほとんどの人間組はあんぐりと口を開けているか呆然としている。
ロキが「はーっ」と溜息をついて、窓際で印を結んで集中するイサミを見た。
「自分ホンマ何でもアリやな・・・一体どう言う世界で生きてりゃ、こんな事思いつくんや」
「俺のオリジナルじゃありませんよ。フェイルーンという世界ではこの呪文で山のてっぺんを切り取ってひっくり返して、何十何百もの空中都市が作られたと聞きます」
「なにそれこわい」
「まあ、たった一つの魔法の失敗によってほぼ全滅しましたけどね・・・」
都市のコントロールに意志を集中しつつ、イサミは溜息をつく。
呪文一つで人から神に成り上がり、それゆえに魔法の消滅と空中都市の墜落とネザリル帝国の滅亡を招いた大魔術師カーサス。史上最大の過ちを犯したと同時に史上最高の偉業を成し遂げた魔法使い。
D&D世界で魔術師をなりわいとする者にとっては、戒めであると同時に憧れでもある人物であった。
先だっての対策会議で
当然会議は紛糾したのだが、最後にはウラノスの鶴の一声で決定した。
(なおこのとき、ついでにイサミが異世界からの転生者であること、タリズダン関係についても(口止め込みで)その場の面々には伝達されている)
イサミ版"
特に触媒の制限は厳しく(そうしないと呪文設計が破綻するのでやむを得ないが)、黒竜が想定より随分と早く動き出したこともあって、余裕を見ていたつもりが作業は割とぎりぎりになったりしたが、何とか間に合った。
「・・・で、ここからどうするんや、ウラノス?」
「それは私も聞きたいわね。あの黒竜、倒せないとは言わないけど、飛ばれたらさすがに手の打ちようがないわよ?」
ロキとフレイヤ、都市の両巨頭が揃ってウラノスの映る鏡を見た。
騒いでいた神々や呆然としていたギルド職員たちの視線も集中する。
「何か考えがあるの、ウラノス? 正直タリズダンが復活しても私たちは何もできないのよ?」
「そ、そうなのですか!?」
ヘファイストスの発言にぎょっとした顔になるロイマン。
眼帯の女神は円卓に肘を突いて溜息をつく。
「私たちの力はほぼこの世界と次元結界の維持に注ぎ込まれてるわ。それを止めればもちろんある程度対応できるけど・・・止めた時点でこの世界が崩壊してもおかしくないのよ」
「・・・・・・」
ロイマン始め、その場にいた人間たちが絶句した。
この世界はそもそも自然に存在しない、タリズダンを封じ込めるためだけに特化して産み出された疑似次元界だ。
無から作り上げられ、地球のマナと神々の力を吸い上げつつ維持されている不自然な世界。エネルギーの供給を断ってしまえば当然崩壊する。
『案ずるな。タリズダンが復活した場合の対策は既に考えてある』
「ホンマやろな、自分・・・? 頼むで・・・」
疑い半分、信じたい気持ち半分と言った面持ちでボヤくロキ。
フレイヤは無言。表情からその真意をうかがい知ることは出来ない。
『そちらの準備は出来ているな、イサミ・クラネル?』
「!?」
視線が一斉に、今度はイサミに集中した。彼らに背中を向けたままイサミが頷く。
「ええまあ。正直今の呪文よりはよほど手間がかかりませんでしたので。それより私としては、この機に連中が何か仕掛けてこないかという事の方が心配ですが」
『アスモデウスの手のものか』
イサミが再び頷いた。
「推測ですが、連中の目的は単純に勢力の拡大でしょう。
つまり連中にとってベストの展開はこの世界や神々の勢力が大ダメージを受けつつもタリズダンの解放阻止、ないし再封印に成功して、その隙にこの世界に根を張って勢力を広げることです。
細かいさじ加減は現場指揮官に任せてるでしょうけど、多分全力で妨害してくるんじゃないでしょうかねえ・・・」
オアース世界から帰還するときに会話したアスモデウスの顔を思い浮かべる。
タリズダンが万が一復活したときの対策は彼の
全力で妨害しても邪神の完全復活には到らないと踏んだところでおかしくはない。
珍しく考え込む風のフレイヤが口を開く。
「本当にそれだけなのかしら? 策士と呼ばれるほどの魔王にしては単純だけど」
「多分それ以外にも複数の思惑が絡んでるでしょうが、さすがにあれの思考を読み切れる自信はありませんね。考えるだけ無駄です」
「そう」
フレイヤが肩をすくめた。
「つまりダンジョンから物理的にも離れた今、我々が警戒すべきは飛行モンスターによる襲撃と街中に潜む・・・」
「お、お話し中失礼します! 街中に人型のモンスターたちが現れました! 第三区画、貧民街からこのバベルに向かって進行してきている模様!」
その場の――ダラダラしてた神どもも含め――視線が一斉に一点を向く。
そこに浮かぶ【神の鏡】には、確かにオラリオの街路を進軍するデヴィル達と、逃げ惑う市民たちの姿が映しだされていた。
「・・・街中に潜む連中によるゲリラ戦、というわけです」
「ちょい遅かったな、自分」
「賢者になるのは難しいもので」
にひひと笑うロキのツッコミに、今度はイサミが肩をすくめて答えた。
「ヒーローズ・オブ・ランス」はD&Dの人気シリーズ、「ドラゴンランス」の世界を舞台にしたコンピューターゲーム。
「でも実際の所ドラゴンランスって大して役に立たなかったよね」とか言ってはいけない(ぉ
ざっと調べた限りではネザリルの空中都市の移動速度は判りませんでしたが、D&Dの常識を大きく覆す速度(時速300kmとか)ではないように思えました。
神や魔王、一部の呪文を除けば、D&Dにおける最速級の存在は最大級のドラゴンかエベロンのエレメンタル飛行船(共に巡航で時速20マイル=32km)ですので、まあそのへんかなと。
エピック呪文の開発過程はルール的にはほぼマジックアイテムの作成と同じですので、
ウィッシュによるマジックアイテム作成と同じ条件で開発できると、この作品では設定してます。
また省略しましたが、エピック呪文発動のために必要な《呪文学》技能判定は技能ボーナスアイテムを「直列」する事でクリアしています。
エピック呪文は効果を永続にするとコストが五倍に跳ね上がるので、ここでは元の呪文にあった永続要素を外して持続時間延長を長めにかけることでコストを抑えています。「移動」の基本要素は持続時間がないので20時間と仮定しました。