ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

215 / 270
21-02 流血(しない)戦争

『ロイマン、各派閥に命令を下しデヴィルとの戦いに当たらせよ。戦力に自信のない派閥は、主神をバベルで保護すると伝えるのだ』

「は、ははっ!」

 

 沈黙を最初に破ったのは【神の鏡】の中のウラノスだった。

 直立不動で答えたロイマンが、部下に矢継ぎ早に指示を飛ばし始めた。

 加えて【鏡】係の神どもに新しい【神の鏡】を何枚か出させる。

 

『ロキは街中のデヴィルを掃討してくれ。フレイヤはこのバベルの守りを頼みたい』

「あー、しゃーないなあ。モテる女は辛いっちゅーやつや」

「いいでしょう」

 

 都市の双璧派閥の主神たちがそれぞれ頷いた。

 そして視線がイサミの方を向く。

 

「そして俺はここでじっとしてろと?」

『無論だ。今お前はオラリオで最も重要な人間なのだからな』

 

 まあそうだろうな、とイサミは溜息をつく。

 大抵の相手ならイサミが出れば一掃できるのだが、万が一術者を失えば空中都市は制御を失う。幸い制御を失ってもすぐに墜落する事は無いが、気流に流されて最悪ひっくり返ることもないとは言えない。

 

「了解しました・・・が、ウチの神様の保護もお願いできれば」

『無論だ。今お前の【恩恵】が失われるのは何としても避けたい。ロイマン、最優先で迎えに行かせよ』

「かしこまりました!」

 

 指示を出す手を止めて、ロイマンが慇懃に頭を下げる。

 だがそれも一瞬の事で、ぶくぶく太ったエルフは再び矢継ぎ早に指示を出し始めた。

 それを興味深げに見やり、イサミもウラノスに頭を下げる。

 

「ありがとうございます」

『必要な事だ。あれの派閥は手練れも多い。お前とこの塔の護衛もして貰うには十分だ』

 

 厳格な表情を崩さないまま、淡々と老神が答えた。

 

 

 

「デヴィル達、姿を消しました!」

「「「えっ?」」」

 

 緊迫した十数分の後、ギルド職員の報告が神会(デナトゥス)の間の空気を戸惑いめいたものに変えた。

 

「ちょ、ちょっと待て! どういう事だ!?」

「わかりません。ですが現地からの報告では姿を消したと・・・」

 

 訳がわからないと言う顔で【神の鏡】の何枚かを見やるロイマンだったが、確かに先ほどまでデヴィル達を映し出していた【鏡】には、今やいつも通りの街路と、こわごわ周囲をうかがう市民たちが映っているのみだった。

 

「ああいたいた、イサミ君!」

「神様」

 

 それから更に数分ほどして、神会(デナトゥス)の間にヘスティアが姿を現した。

 ベルだけを伴っているが、他の面々は階下で待機しているのだろう。

 

「一体どういう事なんだい?」

「さて、俺にもなんとも。もうすぐ報告が集まるらしいのでそれを聞いてましょう」

 

 その報告はまた更に数分後にやってきた。

 

「つまり、あの怪物・・・デヴィルどもは街路を練り歩いて、その後三々五々路地裏に姿を消したわけか」

「は、はい。その後姿が目撃されておりませんので、恐らくは下水道に逃げ込んだものと・・・」

 

 報告を聞いたロイマンが唸る。

 

「被害がなかったなら何よりだが・・・なんだ? 奴らは何がしたいのだ?」

 

 たるんだ顎に手をやって眉を寄せる豚。

 少し考えた後イサミが手を上げた。

 

「なんだ、イサミ・クラネル?」

「恐らくですが都市の混乱と、住民に不安を植え付けるのが目的ではないでしょうか」

「冒険者でもない一般市民をどれだけ不安がらせたところで、我々にとっても奴らにとっても、特に脅威ではなかろう? いや確かに経済活動に色々問題は起きるだろうが」

 

 露骨にだからなんだという表情を浮かべるロイマン。

 見ればこの場の大半の神や人も、ロイマンと同じような顔をしている。

 

 うーん、とイサミは内心唸った。

 イサミはロイマンの知性についてはかなり高い評価を与えているが、それでも経験のないこと、知識のないことについて想像するのは随分と難度の高いことらしい。

 

「確かに一般市民は戦力にはなりませんが、パニックで暴動でも起きればそれだけで都市には損害を与えられますし、冒険者も逃げ惑う一般市民がいたのでは充分に戦えないでしょう。

 奴らの目的が我々の弱体化にあるのか殲滅にあるのかわかりませんが、どちらにせよ都市の混乱は奴らに有利に働きます。一般市民の存在は我々にとって有利にはなりませんが、不利になることは充分有り得るんですよ」

 

 ここで一度言葉を切って場を見渡す。ロイマンを始め、いくらかの顔には理解の光が差していた。

 頷いて言葉を続ける。

 

「つまり連中は、一般市民を自分たちの武器として、また盾として活用しようとしてるんです。

 我々が奴らの目的を計りかねている、と言うことすら武器にしているのかもしれません。

 最悪、人間の姿に変身して市民に紛れ込んでる可能性すらあります。

 一般市民が、そして我々が疑心暗鬼にかられて動きが鈍くなり、あるいは内輪もめを始めたところで・・・」

 

 ぱん、と左の手のひらに右の拳を打ち付ける。

 神会(デナトゥス)の間のそこかしこからうなり声が上がった。

 説明されてようやくこうした戦い方、いわゆるゲリラ戦の恐ろしさが多少なりとも想像できたようだった。

 

「ふんふんふん、そーか、ふんふんふん」

 

 楽しげな声に振り向くと、先ほど疑問の表情を浮かべていなかった数少ない神――ロキが薄笑いを浮かべてイサミを見ていた。

 

「・・・なんです?」

「いやいや、中々食わせ者と思っとったけどな。まさかウチの同類とは思わんかったでな? ひょっとして外の世界ではそんな風に色々やってたんか?」

 

 イサミが凄く嫌そうな顔をした。

 同時に、目の前の女神が神々のトリックスターであることを改めて思い出す。

 「こちら」でも神々同士を殺し合わせて楽しもうとしていた、極めつけにタチの悪い扇動者であるという話も。

 なるほど経験者であれば、そうした策の恐ろしさにもすぐに思い至ることだろう。

 

「よして下さいよ。俺はそんな大それた真似はしません。ただ歴史に学んだだけです」

「なるほどなるほど、外の世界にもウチみたいなのがいたっちゅうことかぁ」

「いやってほどね」

 

 これ以上この話はしたくない、と言う調子でイサミは会話を打ち切る。

 

『長期戦になりそうだな』

 

 ウラノスが呟いた。




「流血戦争(ブラッドウォー)」は地獄の最下層で行われているデヴィルとデーモンの終わりなき戦い。
ちなみにここに善の勢力がくちばし突っ込むと、両者が手を組んで逆襲してくるので手出しできないらしいw
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。