ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
実際ウラノスの言葉通りになった。
ちょくちょく昼間でも出没するデヴィルたちに人々は怯え、外出しなくなった。
大通りの店も大半は戸を閉めきり、人々で賑わっていた街路や広場も見回りの冒険者以外にはめっきり人を見なくなっている。
幸いなのは食糧の配給が滞っていないことで、怪物が迷宮から溢れてきたときのことを想定して大量の備蓄と配布計画が用意されていたおかげだった。
ロイマンの計算によれば切り詰めれば二ヶ月は保つとのことで、この状況では数少ない安心要因だった。なお水は魔道具でまかなっている。
ホームが消失してしまったガネーシャ・ファミリアだが、元々『アイアム・ガネーシャ』本体にはガネーシャと派閥上位メンバーの住居、執務室と催事場くらいしかなかった。
大半の団員たちは台座と周囲の建物に住んでいたので、ファミリア全員が揃って寒空の下(しかも上空2000mだ)に放り出されるのは免れている。
ヘスティア・ファミリアの面々は教会の地下室からバベルに移動。
これで快適な暮らしが出来ればもう教会に帰りたくなーい!とだだをこねるところであったが、実際にはバベルに避難してきた神々(主に零細派閥の主神)が多数いるため、むしろ生活環境は教会地下にいたときより悪化していた。
バベルでは収容しきれないので、ギルド本部にも振り分けて保護しているほどだ。
そんな中で衆目を集めたのがベルのランクアップ。不安がオラリオを包んでいる折でもあり、若き英雄の誕生に全市が湧いた。
それでもレベルの上では4にすぎないが、実質ステイタスではLv.5最上位からLv.6なりたての間ほど、恐らく敏捷のステータスだけなら既に他のLv.6に比して遜色ない、あるいは上回っているだろうというのがイサミの見立てだ。
そして神々から与えられた新たなる二つ名は「
「こいつ頭おかしいぜHAHAHAHA」と取るべきか、「こいつサカってやがるぜHAHAHAHA」と取るべきか、微妙な所ではある。
加えてイシュタルから正式に改宗したフリュネ改めレーテーがLv.6にランクアップ。
10人ほどしかいないLv.6が一人増えたと、これまた市民の心を明るくするニュースとして大々的に喧伝された。
イサミも【戦争遊戯】の大暴れで市民からは「実質Lv.7」のような扱いをされており、特例で"
無論神々がその場のノリで決めたことだが、一人でも多くの英雄を求めていたギルドによって追認されている。
実際注目度はベル以上で、「全力を出しなさい=ベルに悪い虫が付かないように彼より目立ちなさい」と条件を付けたフレイヤの意図も達成された形だ。
ヘスティア・ファミリアも今や押しも押されぬ上位派閥扱いで、主神たるヘスティアなどは情報紙を何度も読み返してはにまにまと頬をゆるめ、団員たちから苦笑されていたりする。
団員の数こそ少ないがイサミとベルに加えてLv.6のレーテー、Lv.5のシャーナとフェリス、Lv.4のアスフィ、アイシャ(ヒュアキントス相手の共闘もあり、紐神も改宗を拒否しきれなかった)と粒ぞろい。
ダフネとカサンドラもアポロン・ファミリアを抜けて改宗している。
対抗できる派閥があるとすればロキとフレイヤの双璧及びガネーシャだけであろうというのが大方の見方だったし、実際そうでもあった。
一方でダンジョンと黒竜は不気味な沈黙を保っている。
戦争遊戯にもかかわらずダンジョンに潜っていた小数の冒険者たちはイサミが回収し、今ダンジョンに人はいない。
路地裏や下水道をロキ・ファミリア、ガネーシャ・ファミリアをはじめとする上位派閥が巡回捜索し続けているものの、よほどうまく姿を隠しているのか尻尾を掴むことも出来なかった。
そしてVIP扱いのイサミはほとんど軟禁状態で、変身してやってくる刺客の対策のためにヘスティア・ファミリアの面々ともそうそう会えない有様。
――と、言うことになっている。
実際にはある目的のために"
「しかしデヴィルどもの出没が厄介ですねえ。瞬間転移は無いでしょうが・・・幻影という可能性は?」
「グラシアは幻影の能力も持っているんだったか? しかし報告によると姿をくらますときには煙幕や闇の呪文なども用いてるようだからね。
幻影ならば、ぱっと消すなり地面に潜るなりすれば済むことだし、やはり"
この二人が直接出張ることが出来れば問題はないのだが、現在イサミは都市の最重要人物だし、フェルズも余り表に出るわけにはいかない立場だ。
「見回りの冒険者全員に"
「勘弁してくれ。そんなことになったら私は干からびてしまうよ」
「今はダンジョンに入って
二人揃って溜息をつく。
"不可視視認"は名前通りの、"きらめく塵"は輝く粉を相手にまとわりつかせて透明な敵の居場所を明らかにする呪文である。"不可視視認"で透明な敵を感知した人間が、"きらめく塵"でその姿を見えるようにすれば、他のメンバーも普通に戦える訳だ。
ロキやガネーシャ、フレイヤなど一部の冒険者たちと"
オッタルやフィン、アイズと言ったトップクラスであれば気配や呼吸音だけでも敵を斬ることは出来るが、オラリオ中を探してもそのレベルは十人ほどしかいない。
そういう意味では絶対的にマンパワーが足りていない状況であった。
「しかし・・・混乱という意味ではもう十分混乱していると思うのだがね。
そのなんだったか、ゲリラ戦か。それは混乱させて自壊を狙う戦術なのかね?」
「数が少ないときはそれしかない場合もありますが、基本的には小数で大軍と戦う為の戦術ですから、相手の急所を攻撃するのが普通ですね。補給物資とか、後方の拠点とか、分散した小部隊とか。
自分で言っておいてなんですが、今回のは相手の混乱を狙って戦局を有利にするという目的も勿論ありますが、むしろ混乱の方が主軸かも知れないと思えてきました」
フェルズがミスラルの指を同じミスラルの顔の顎に当てる。しぐさが微妙に女性的だなとイサミは思った。
「つまり・・・時間稼ぎか」
「はい」
あれから半月ほどが経っているが、黒竜はうずくまったまま、ダンジョンもオラリオが浮き上がったときのままで何ら変化を見せていない。
何をしているのかはイサミにもウラノスにもうかがい知れないが、このまま放置しておいていいものでないことだけは間違いなかった。
「しかし、かといって何が出来るわけでもないですしねえ・・・」
「それが問題なのだよな」
再び、二人が揃って溜息をついた。
たとえオラリオの全戦力を集めても、今の黒竜を倒せるかどうかは未知数。
これで敗北してしまえばオラリオ側は本当に詰む。
最悪の事態に備えるためにも、イサミを投入するわけにはいかないから尚更だ。
もう一度溜息をついてイサミが立ち上がった。
「まあ愚痴はこの辺にしておきましょう。ダイダロス殿の所に顔を出してきますのでこれで失礼」
「そう言う事なら私も行こう。面倒だが顔を繋いでおくに越したことはないからね」
イサミに続いてフェルズも席を立った。
死霊王たちも人造迷宮の上層2、3フロア分ごとオラリオの浮上に巻き込まれた(というか相談の上でイサミが巻き込んだ)ため、いまだに街の地下に隠れ住んでいる。
現在はギルドの地下から地下水路を通じてこまめに連絡を保っていた。
「ではご一緒に。しかしフェルズさんも意外とまめですね」
「非常時に私が連絡役になることもあるだろうからね。その時普段から顔を合わせているかどうかは結構違う。それでプロジェクト自体が台無しになることもあるし・・・」
「色々ご経験がありそうですね」
「私は研究だけしていたかったんだがねえ」
会社員というか中間管理職めいてぼやくフェルズに、ちょっとシンパシーを感じるイサミだった。
現在のベルくんは敏捷度がLv.6トップクラス(多分アイズより高い)、その他の能力値がLv.6最低値くらいのイメージです。
イサミが作中Lv.7扱いなのは砦をぶっ壊した件とLv.6のベート瞬殺、そしてガレス、アルガナ、バーチェの三人と狂戦士状態のフィンとガレスをそれぞれ同時に相手取ったあたりですね。
二つ名ですが、「三月兎」には「頭がおかしい」の他に「繁殖期の兎が跳ね回る」というニュアンスがあります。
昔は三月に活動が活発になることから三月が繁殖期と考えられていたようで。
イサミの方の二つ名"アスタウンディング"は有名なSF小説雑誌。
E・E・"ドク"・スミス、ロバート・ハインライン、アイザック・アシモフ、レイ・ブラッドベリ、HPラブクラフトと言った伝説的作家が名を連ねた、SF黄金時代を築いた雑誌として知られます。
「宇宙英雄物語」でも宇宙船の名前として出て来てましたね。(仰天号でしたっけ? こっちはこっちで別の元ネタかもしれませんが)
ファンタジー方面なんで「ウィアード(変な、おかしな)」(元ネタはウィアード・テイルズ、蛮人コナンとか載ってた奴)にしようかと思ったんですが、まあこっちの方が語感がいいなと。