ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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21-04 ニイタカヤマノボレ

 そして更に数日後。

 僅かに先んじて状況を動かしたのは敵側の方だった。

 

「ギルド長! デヴィル達が一斉に動きました!

 各地区の町屋の中から現れた模様! モンスターらしき姿もあります!」

「下水でなくてか!? ・・・イサミ・クラネルはどうした?」

 

 叫んだ後、小声でギルド職員に尋ねるロイマン。

 その答えは果たして、なけなしの期待を裏切るものだった。

 

「まだ戻っていません。今連絡中です」

「ぬぐぐぐ・・・今日で、今日で準備が終わったものを!」

 

 歯ぎしりするロイマンに、次々と凶報が伝えられる。

 

「モンスターです! ダンジョンから飛行モンスターが・・・すごい数です!」

「デヴィルとモンスターが各地区から一直線に大通りをバベルにやって来ます! いえ、一部はギルド本部にも!」

「全ての冒険者を動員しろ! 助っ人どもは本部に回せ! バベルもそうだがウラノス様も何としてでもお守りせねばならぬ!」

 

「オラリオ各所で戦闘が始まっています! 市民のパニックは何とか押さえ込んでいるとのこと!」

「どうせ下級冒険者などこの状況では役に立たん! 引き続き市民が街路に出ないようにさせておけ!」

 

「イサミ・クラネル氏と連絡がつきました! もう少しで全員終わるそうです!」

「ええい、報告は正確にしないか小僧め! 後何人とかあと何分だとかあるだろう!」

 

 状況やイサミに対して罵り声を上げながらも、的確に指示を出していくロイマン。

 神会(デナトゥス)の間の【神の鏡】には、既に無数の戦闘が映し出されていた。

 

 ギルド本部前でぶつかり合う高位らしきデヴィル、モンスターたちとガネーシャ・ファミリア。及びロイマンが「助っ人」と言っていた一級冒険者たち。

 大通りでデヴィル達を駆逐していくロキ・ファミリアとその他の上位派閥。

 オラリオ周囲の城壁で飛行モンスターを迎撃する弓手たち。

 

 それら直接戦闘を行う者達の他にも、街路を駆け巡って伝令するもの。

 バベル周囲の広場入り口に間に合わせのバリケードを作るもの。

 街を回り、外に出てこないよう市民たちに呼びかけるもの。

 裏路地や下水の出入り口を偵察して敵の姿がないか確かめるもの。

 矢玉やポーション、替えの武器を前線に運ぶもの。

 路地を進むデヴィルを発見して、上級冒険者が来るまで時間稼ぎをするもの。

 直接戦うには力不足の数千人の下級冒険者たちも、彼らなりに全力を尽くしていた。

 

「まだフレイヤ・ファミリアは動かさないんですか?」

「どう考えても敵の最大の狙いはバベルとギルド本部だろうが! フレイヤとガネーシャは動かせん!」

 

 オラリオ全体が戦闘状態になる中、フレイヤ・ファミリアの一級冒険者(と、ヘスティア・ファミリア一同)だけはバベルから動かなかった。

 フェルズがいたら「まあ、妥当な判断だろうね。彼自身の身の安全も入ってないとは言えないが」とでも言ったかもしれない。

 

 

 

 納屋のような粗末な小屋の中、老人が黙々と針を動かしている。

 長い白髯を垂らした好々爺だが、意外に筋骨はたくましい。

 

 老人はチュニックに空いた穴をつくろっていた。

 ここ数年作業着として使っていた古着で、既にあちこちに修復の跡がある。

 

「何、まだまだ使えるさ、こうして直してやればな・・・」

 

 破れた箇所の裏側から布を当て、ちくちくと針を使う。

 かつては多くの人を動かし大きな仕事もしてきたものだが、今はこのあばら屋が老人の城、鋤と鍬が老人の仕事道具だった。

 畑の作物を世話し、時々孫たちの活躍の便りを聞いて頬をゆるめる、そんな生活。

 孫たちが冒険者になったのはともかく、かなりの成功を収めていると聞いたときは大いに驚いたものだが、元気でやっているなら何よりだ。

 

「こんなものか。あれ、ハサミはどこにやったかな? 確かこのへんに・・・」

 

 繕いを終え、糸を結んで後は切るだけになったところでハサミが見あたらず、キョロキョロする老人。その動きがふと止まった。

 小屋の表から人の声が聞こえてきたのだ。それも一人や二人ではない。

 

(あやつからの定期連絡にはまだ早い。誰だ? 一体・・・)

 

 最悪の事態を考え、そろそろと裏口に移動しようとしていたとき、扉が勢いよく開かれた。

 つかつかと無遠慮に入って来た男の姿を見て、老人が硬直する。

 

「じいちゃん、非常事態だ。タリズダンが復活しつつある。一緒に来て貰うぞ」

「イサミ!? わ、わしは、その、これには事情が・・・え?」

「そのあたりは大体わかってるからとにかく来てくれ。時間が無いんだ」

 

 すっかり自分を追い越してしまった孫の巨体。大きな手で腕を掴まれて強引に連れ出された老人は、小屋の外で二度目を丸くする。

 

「おー、ゼウスじゃん!」

「天界に送還されてなかったのか!」

「いやあれだよ、きっとあのヤンデレに追いかけられて隠れてたんだぜきっと」

「違いないな、HAHAHAHAHA」

「おお・・・」

「あれがか・・・」

 

 小屋の外にいたのは数十人ほどの神どもと、その二、三倍ほどの従者らしき人間たちであった。

 それも老人の記憶が確かならオラリオにいた神々ではない。

 

「神を集めているのか? タリズダンと言ったな、イサミ」

「うん。ちょっと必要になってね」

 

 神どものたむろっているところに歩いて行く二人。

 老人が相手であるからか、イサミの口調も普段よりやわらかい。

 老人の表情が驚愕から沈思黙考のそれになる。

 

「そうか・・・ん? んんん!?」

 

 何かに気付いたのか、老人の足がぴたりと止まった。

 

「どしたの、じいちゃん」

 

 孫の問いかけに、ぎぎぎぎ、と音がしそうな動きでその顔を見上げる老人。

 

「神を集めていると言うことは・・・"あいつ"も来ているのか?」

「さあ? 言ってくれないと誰の事かわからないなあ」

 

 すっとぼけた顔の孫に、怒りと恐怖がない交ぜになった表情で老人が叫ぶ。

 

「嘘つけぇっ! そこまで知っててそれだけ知らんってことはあるまい!? い、いやじゃ! ワシは行かんぞ!」

「はいはいおじいちゃん、移動するんでじっとしててくださいねー。ちくっとしますよー」

「いやじゃあああああああああああああああああああああああああああ!?」

 

 絶叫を上げつつ、イサミとベルの祖父――大神ゼウスの姿はイサミおよび他の神と人と共にその場から消えた。

 

 

 

「は~るばるきたぜオラリオ~」

「おー、これが・・・って、ここどこだ?」

「あら、なんかすげー音がしてるじゃない? なにかしらあれ」

「お気をつけを、カビリャカさま。あれは戦闘の音です。それもかなり高レベルの」

 

 イサミの転移用に用意されたスペースにイサミ達は移動していた。

 外からは戦いの音が響き、神々の従者たちのなかには臨戦態勢に入る者もいる。

 待機していた職員が、彼らを先導して安全な場所に連れて行こうとしていた。

 

「ここは・・・ギルドの中央ホールか。本当にオラリオに戻って来ちまったんじゃのう・・・」

 

 がっくりと肩を落とすゼウスを、イサミはいささか冷たい視線で見下ろす。

 

「あれこれ理由があるとは言え、ベルを泣かせた罰だぜ、じいちゃん」

 

 怨みがましい目で見上げてくるゼウスに、にべもなく言い放つイサミ。

 はあ、と溜息をついて再びゼウスが肩を落とした。

 

「それを言われると何も言えんのう。・・・お前は判っていたのか?」

「じいちゃんの遺体を探しに魔法を使って、全然反応がないのはおかしいと思ってたからね。川の下流も調べたけど全然だったし。

 確認したのはオラリオに来て魔法の腕を上げてからだけど」

 

 そうか、と頷いてゼウスが表情を真剣なものに改める。

 

「・・・イサミ、一つだけ聞かせてくれ。お前はともかくベルは・・・あれは、自らの意志で冒険者になったのか?」

「ああ。自分の意志でだよ、じいちゃん」

「そうか・・・うん、そうか」

 

 感慨深そうな表情で何度も頷くゼウス。

 イサミの視線が再び冷たいものになる。

 

「子供の頃からやれハーレムだの美女だの、さんざんベルを洗脳してきたのはじいちゃんだろ。それを何今更『孫が一人立ちしてうれしい』みたいなツラしてるんだよ。

 あいつってば何も知らないくせにハーレムハーレム言い出すんだから・・・」

「かっかっか、男なら美女を腕に抱くのは本能よ。それが沢山いればなおさらじゃい」

 

 全く悪びれることなく高笑いする祖父に、今度はイサミが溜息をついた。

 

「まあまじめな話に戻ろうか。ワシはあの連中と一緒に行けばいいのか?」

「いや、じいちゃんが来たら連れてくるようにウラノス様に言われてる。こっち来てくれ」

「うむ、わかった」

 

 頷き合うと、祖父と孫は足早に歩き出した。

 

 

 

「そういやじいちゃんさ」

「なんじゃ?」

 

 ん?とゼウスが孫を見上げる。

 

「ウチの主神様から『女神様の風呂に【神の力(アルカナム)】抜きでのぞきを成功させた神がいた』って話を聞いたけどまさか・・・」

「ああ、それワシじゃな」

「やっぱりかぁー」

 

 頭を抱えるイサミ。まあ薄々わかってはいたのでそこまでのショックではないが。

 

「なんじゃ、ワシの武勇伝を聞きたいのか。なら話さないわけにもいかないのう」

「聞きたくないって」

「まあそう言わずに。あれは30年くらい前の事だったか・・・」

「聞きたくないって言ってんだろ」

 

 イサミが肘で祖父の肩をこづき、老神はかっかっか、と楽しそうに笑った。

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