ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
ギルドの地下、聖堂の間。
松明に照らされた暗闇の中、巨神が玉座に座していた。傍らにはフェルズの姿もある。
「久しぶりじゃのぅ、ウラノス」
「ああ、久しいな、ゼウス」
十数年ぶりとは思えない気さくさのゼウスに、いつも通り重々しく頷くウラノス。
「お主も久しぶりじゃな、フェルズ。相変わらずいい女じゃ」
「よしてくれゼウス。
「なあに、ガワが何であろうと中身はいい女じゃよ」
「まったく・・・変わらないなあなたは」
フェルズが天を仰いで溜息をつく。
ああ、とイサミが納得したような顔になった。
「やっぱり女性だったんですね。まあ女性人格のウォーフォージドというのもそこそこいるようではありますし、別にいいんじゃないですか。私から見ても時々そう見えることがありましたし」
「む、そうか・・・中々隠せないものだな」
むう、と唇?をへの字にするフェルズに表情をゆるめた後、ゼウスがまじめな顔になる。
「それで、ワシは何をすればいいんじゃ」
「詳しくはお前の孫から聞くがいい。今回の計画を立てたのはその男だからな」
「なんじゃと!?」
振り向いて目を丸くするゼウス。
「まあ色々あってね」
肩をすくめるとイサミは作戦の詳細を話し出した。
「まあ、何となくダイダロスやフェルズの同類ではないかと思っておったが・・・どんな世界から跳んできたんじゃ、
話を聞いたゼウスが呆れ半分、感心半分で孫に問う。
「この封印のすぐ外の世界だよ。エルミンスターさんいわく、『色々試して芳しくなかったから、アプローチを変えてみた』ってさ。
俺の世界ではトリルやオアース、エベロンを舞台にして冒険する
「ふーむ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ?!」
顎髭をしごいて考え込むゼウス。その一方でフェルズが珍しく慌てていた。
「ゲームになってる? 私の世界が?!」
「ええ。エベロンを舞台に冒険者になって遊ぶゲームですが」
考えてみると、他の世界の事がゲームで存在しているというのも妙な話ではある。
ひょっとして「偉大なるG」も転生者、あるいは姿を変えたモルデンカイネン本人だったりしたのだろうかとふと思うイサミ。
本当にそうかどうかは怖くて聞けないが。
「―――」
その辺を詳しく説明され、フェルズが唖然とする。
さすがの彼・・・もとい彼女にとっても、自分たちの世界が他の世界でゲーム化されているというのは想像の埒外であったらしい。
「・・・他の世界も知っているのかね」
「まあいくらかは。アサスとかレイブンロフトとかミスタラとかロクガンとかクリンとか」
「ロクガンというのは聞き覚えがあるな。六人目の転移者がそこから来たと言っていた。私の次だ」
ロクガンというのはD&D世界における東洋風のワールドだ。ドラゴンではなく龍が、ゴブリンではなく鬼がいて、侍や忍者、二本足で歩く鼠人間の野伏せりが闊歩する世界である。
「貴族風の青年でね。自信満々にダンジョンに潜っていったが一年ほどで行方不明になってしまったよ」
「・・・術者でしたか?」
「? ああ。地図のような大きな巻物を帯にたばさんでいたな」
「シュゲンジャだったかー」
頭痛をこらえるようにこめかみを押さえるイサミ。首をかしげるフェルズに何でもないと手を振って返す。
シュゲンジャとはロクガン固有のクラス(本来は)であり、地水火風空の五大元素から力を得る信仰術者だ。名前は修験者だが、どちらかというとイメージは陰陽師に近い。
ゲーム的に一言で言うと最低限の火力呪文と最低限の回復呪文と最低限の支援呪文と最低限の便利呪文とを組み合わせたクラスである。
飛行呪文がない壁の呪文がない石化と呪いを解く呪文がない、攻撃呪文は(使えたとして)魔術師より弱くて覚えが遅い、何より致命的なのは、基本ルールに載ってる呪文以外使用できないことだ。
D&Dは沢山の追加ルールで強力な呪文が追加されるのだが、シュゲンジャはそれらを事実上使用できないのだ(DMの判断次第、ということになってはいるが)。
おまけに地水火風のいずれかを得意元素に指定しなくてはならないのだが、この時、得意元素の反対元素に属する呪文は使えなくなる。
火力呪文を得意とする火のシュゲンジャは水属性の回復呪文が使えず、支援を得意とする地のシュゲンジャは風属性の便利呪文が使えない。
そのくせ呪文習得にやたら面倒な制限があり、さらに他の信仰系術者のように物理的に戦ったりすることも出来ないし、それに代わる特殊能力があるわけでもない。
背景世界であるロクガンがパワーバランス的に余り派手でないためだが、それゆえD&D3.5版で屈指の「使えない」烙印を押されてしまっている悲劇のクラスである。
「まあ過去のことは忘れて現在と未来に眼を向けましょう」
「ああいやその」
「何か?」
気を取り直そうとしたイサミだが、やや済まなそうにフェルズが手を上げた。
「一つだけ聞かせて欲しい。君の知るエベロンの歴史では最終戦争と――ウォーフォージドの扱いはどうなった? 戦争は続いているのか? ウォーフォージド達はまだカニス氏族の奴隷なのか?」
「ええと、王国歴の、正確には忘れましたけど確か990年代に謎の魔法爆発が起こり、サイアリ一国が吹き飛びました。
それをきっかけに和平が成立し、"五つ国"の残る四カ国にエルデンリーチ、ズィラーゴ、ムロール・ホールド、タレンタ、ヴァラナー、ダーグーン、クバーラ、ラザーと言ったあたりが互いの独立を承認して一応戦争は終わりました」
「サイアリが!? いやすまない、話を続けてくれ」
頷いてイサミは話を続ける。
「ウォーフォージドは色々ありましたが、種族の一つとして認定されて人権を得ました。ウォーフォージドを作り出す創造炉は解体されて、新たなウォーフォージドは生まれなくなっています。
ただ、中には肉の体を持つ生物を敵視して、ウォーフォージドだけの世界にしようと暗躍している連中もいます」
「そうか・・・いやそれでも奴隷兵士として消費され続けるよりはマシだな・・・」
ふう、とフェルズが溜息をついた後、再びイサミに視線を向ける。
「ああ、もう一つ。カニス氏族はどうなった? 本拠地を動かしたりはしていなかったのだろう?」
ぴくり、とイサミの眉が動いた。
「ご想像通りカニス氏族は、当時の当主と後継者が揃って死亡した上に本拠地も消滅したため、現在はアンデールとシャーンとカルナスで、後継者を争って分裂していますよ」
「そうか。いや、ありがとう。すっきりした」
溜息をつくと、フェルズがイサミに頭を下げた。
だがイサミはそれには反応せず、じっとフェルズを見つめる。
「何かね?」
「いや、間違ってたら申し訳ないんですが・・・あなた、アーロン・ド・カニスですか?」
「!?」
無機質な金属と水晶で出来たフェルズの顔が、それでも目を丸くするのが傍目にも判った。
アーロン・ド・カニス。少し出来の良いゴーレムに過ぎなかったウォーフォージドに本物の自我を与えた天才
作っては戦場に送られる消耗品だったウォーフォージドたちを「道具」ではなく「人間」として扱うように主張したため、実の父親によってカニス氏族から追放された悲劇の人物だ。
本来男性であるはずなのだが・・・まあそういう事もあるだろうと何となく納得するイサミである。
しばしの沈黙の後、フェルズが首を縦に振った。
「よくわかったね。それともそのゲームでは私はよほどの有名人なのかな?」
「いえ、フレーバーテキストにちょっと名前が出てくるくらいです。
ただエベロンというのは高レベルの人物の少ないところですからね。あなたほどの
ウォーフォージドに人権を与えようとしたとか、『ウォーフォージドに自分の意識を移す秘術を開発したのかも知れない』という記述があったりしたのもありますが」
はあ、と再度溜息をつくフェルズ。今度の溜息には苦笑の色が濃い。
「やれやれ、困ったものだ。まさか異世界で私のプライベートが赤裸々に暴かれていようとは。これでは道化――いや、まさしく"
「まあ有名税という奴じゃあないですか」
肩をすくめてイサミが笑った。
シャーナに続く二人目の女体化キャラです(真顔)
まあ特典とか読む限り、実際の所原作でも女性なんじゃないですかねえ、フェルズって。
フォージ・オブ・ウォーはD&Dのエベロン関係のサプリメント。
百年続いた「最終戦争」(これが終了したところからエベロンの冒険は始まります)に関する歴史設定集です。
「偉大なるG」は当然D&Dの原作者ゲイリー・ガイギャックス氏のことですね。
モルデンカイネンはもともと氏の持ちキャラでした。
シュゲンジャは貴族で高貴な階級で術のレパートリー以外はほぼ秘術魔法使いとなると、やっぱり日本における修験者のイメージじゃないよなあと。
ウィザードリィだと魔法使い系の敵だったりしますし、まあその辺は文化がちがーう!ということで。
話に出て来たシュゲンジャ、実は今の主人公と並んで始める前に主人公候補だったキャラです。
その場合ベルの代わりにオリ主として登場し、ボコボコにされながら少しずつ成長していく話になる予定でした。
(憧憬一途はないが、元が弱い&シュゲンジャはミストラに選ばれし者に(たぶん)なれない&チートしても大して強くないので、普通にステイタスが急上昇する予定だった)
なお
アサス=ダークサン(ファンタジー版Falloutみたいな砂漠だらけのエクストリームハード世界)
レイブンロフト、ミスタラ=同名のワールド(レイヴンロフトはホラー系、ミスタラは割とオーソドックスなファンタジー。電撃で展開されていたD&Dの舞台)
ロクガン=オリエンタル・アドベンチャー(東洋風)
クリン=ドラゴンランス(翻訳もされたあれ。次世代だと神も魔法も全部滅んで新しい魔法体系が立ち上がる)
の背景世界ですね。