ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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21-06 虎は舞い降りた

「!?」

 

 笑顔が凍りつく。突然、ぞくりと背筋に寒気が走った。

 フェルズも何かを感じたようで表情が変わっている。

 そしてゼウスは、孫のイサミが見たこともないような厳しい表情でウラノスと視線を交わしていた。

 

「ついに来たか・・・」

「私の祈祷も最早及ばぬ。局面は最終段階に入ったと言えよう」

「じいちゃん、それって」

 

 イサミの言葉にゼウスが頷いた。

 

「ああ。たった今、タリズダンは復活した」

「!」

 

 ウラノスが手を振ると、目の前に【神の鏡】が現れた。

 指示と共に盛大につばを飛ばしていたロイマンが映り、一瞬遅れて慌ててかしこまる。

 

『ウラノス様! いかがなされましたか』

「お前も感じたであろう、ロイマン。今タリズダンが復活した」

 

 ひぐっ、とガマガエルのしゃっくりのような音をロイマンの喉が立てた。

 

『そそそそそそれでは!?』

「案ずるな。今のタリズダンはダンジョンというサナギのカラに包まれた状態。

 脱皮まではまだ僅かに時間がある。その間に反撃の一手を打つのだ。指揮はお前に任せるが、イサミ・クラネルの作戦を最優先に考えよ」

『は、ははっ!』

 

 かしこまって一礼すると、ロイマンは再び指示を飛ばし始める。

 【神の鏡】はそのまま、ウラノスがイサミ達に向き直った。

 

「そう言うわけだ、ゼウス。ただちに儀式を始めてくれ。イサミ・クラネルも頼むぞ」

「わかった」

「かしこまりました」

「フェルズはここで待機だ。不慮の事態に備えよ」

「はっ」

 

 三者が三様に頷く。

 

「揃い次第すぐに開始します。ウラノス様もお力添えを」

「うむ」

 

 ウラノスが頷いたのを確認し、イサミが短く呪文を口ずさむ。

 "願い(ウィッシュ)"呪文により、イサミとゼウスの姿が地下聖堂から消えた。

 

 

 

「ひっ!?」

「ぬおっ!?」

「ヒューッ!?」

「ワオ、クール!」

 

 二人が姿を現したのはバベルの神会(デナトゥス)の間だった。

 その場の人間がぎょっとし、それと好対照に無責任に沸く神ども。盛上がる連中に白い目を向けつつ、イサミがぱんぱんと手を叩いて注目を集める。

 

「はいはい、クソッタレな神のみなさんちゅうもーく。ウラノス様から話は聞いてますね?」

「あー聞いてる聞いてる。タリズダンがついに復活したんだろー?」

 

 戦争遊戯の前にヘルメスが聖堂の間のウラノスに語りかけたように、神同士の間にはテレパシーにも似た意志疎通の手段がある。

 余り長距離には有効ではないようだが、ウラノスの神力であればオラリオ内ではほとんど問題なく繋がる。例の聖堂の間がアンプのような効果を発揮しているのかも知れないなどとイサミは思っていた。

 

「みなさん自分の飲み物を手に持ってください。今から面白いことしますからね」

「「「「了解!」」」」

 

 イサミの言葉に逆らわず、目の前にあるお茶や酒などを手に持つ神々。普通ならツッコミやら下らない質問やらで時間を取られるところだが、「面白いこと」の一言であっさりその辺がクリアされるのが実に神々である。

 

「~~~」

 

 イサミが呪文を唱え、円卓に手を当てる。

 と、円卓が見る見る間に縮み、直径10m以上はあった巨大なテーブルが差し渡し1m足らずのちゃぶ台か何かのようなサイズにまで小さくなった。

 

「おおおお!」

「ヒューッ!」

「これから他のみなさん()も詰めかけますので。私を中心に円を描くような位置に付いて下さい。じいちゃんもこっち来て」

「うむ」

 

 アンコール!アンコール!という無責任な声を無視し、必要な指示のみを伝達してイサミは踏み台のようになった円卓の場所――つまり、部屋の中央に進み出る。

 孫に続いてゼウスもその隣に並んだ。

 懐から巻物を取り出し、内容を確認し始めるイサミにロイマンから声が飛ぶ。

 

「イサミ・クラネル。ウラノス様の命令でお前に協力することになっているが、何か要望はあるか?」

「今のところはありません。バベルとギルド本部への敵勢力の突入を何としてでもとどめて頂く以外には」

「よかろう」

 

 鷹揚に(と本人は思っている)しぐさでロイマンが頷く。

 ややあって、神会(デナトゥス)の間にどやどやと人が流れ込んできた。

 従者らしき人間の姿もあるが、ほとんどは神だ。

 その中に緊張感を隠し切れないヘスティアと、不安げな顔のベルの姿もあった。

 

「あ、イサミくん!」

「兄さん! ・・・え? おじいちゃん!?」

「あ、ゼウスじゃないか! 久しぶり・・・え、おじいちゃん? え? え?」

 

 イサミを見つけて駆け寄ってこようとするふたりだったが、ゼウスの姿を見てベルが硬直した。ヘスティアが混乱して、ゼウスとベルを交互に見ている。

 ゼウスがひどくばつの悪そうな顔になり、イサミはまたしても冷たい眼差しで祖父を見下ろしていた。

 

 

 

「その、ワシはヤバい奴に追われておってな。死んだ振りをして逃げなきゃならなかったんじゃ。おまえたちには済まんことをしたと思うておる」

「おじいちゃん・・・」

 

 ひとしきり愁嘆場を演じた後、ゼウスの口から簡単に経緯が説明された。色々言いたい事はあるが言葉にならないベルの、目尻に涙が浮かんでいる。

 一方でヘスティアはイサミと同じような表情になっていた。

 

「ふんふん、つまりヤンデレから逃げたくてベルくんを。ぼ・く・の・ベルくんを! 泣かせたわけだねゼウス」

「こいつはメチャゆるせんよなぁ~っ!」

「外野は黙ってろ!」

 

 丁度良い暇つぶしとばかりに茶々を入れる周囲の神々をツインテールでぺしぺしと叩き、威嚇する紐神。

 一方でベルは紐神の言葉に目をしばたたかせ、ゼウスは冷や汗を浮かべている。

 

「え・・・ヤンデレってなんですか神様?」

「ああ、そこのくそじじい・・・ゼウスはヘラという女神にぞっこん惚れられててねえ。オラリオにいたときから逃げ回っていたんだ。ヘラが近くに来ていることに気付いて逃げ出したんだろうさ」

「・・・おじいちゃん?」

 

 イサミとヘスティアほどではないが、明らかに温度の低下した視線を祖父に投げかけるベル。老神の冷や汗が五割増しになった。わたわたと両手を振り回し、必死に釈明する。

 

「しょ、しょうがなかったんじゃ! だってあいつ怖いもん! 下手に出くわしてたらお前達どころか村もひどいことになってたぞ!? そのへんわかるじゃろヘスティア!」

「む・・・まあそれは」

「そんなに凄かったんですか?」

「まあ神々の間でもはばかられる程度にはね・・・」

 

 遠い目になるヘスティア。

 ベルは複雑な表情。色々事情があるのがわかっても、感情で納得が出来ないのだろう。

 それまで黙っていたイサミが神会(デナトゥス)の間の中と入り口を見渡し、ざっと神の数を数えてから口を開いた。

 

「まあ神の頭数も揃ったようだし、ベルも神様もそのへんに。今は何よりもまずこの危機を乗り切らないとな。家族会議はその後だ」

 

 イサミの言葉にぴくん、とヘスティアのツインテールが跳ねた。

 

「父さん妖気です」

「だから外野は黙ってろ! うんうん、そうだね、家族会議かあ。やっぱり一度はしておかないとね!」

「―――」

 

 笑顔で腕を組んで何度も頷くヘスティア。自分も出席する気満々の紐神に冷めた一瞥をくれた後、イサミはベルの方を振り向いた。親指で窓の外を指す。

 

「ともかく俺達はこれからタリズダンの復活に対抗する為の儀式を行う。お前には楽な仕事を任せてやろう」

「楽って・・・あれが?」

 

 窓の外、広場の入り口に築かれたバリケード。

 巨塔を侵さんと冒険者たちを相手に壮絶な戦いを繰り広げるデヴィルとモンスターの混成軍を見下ろし、ついで引きつった笑顔で兄を見上げるベル。

 

「あれがだよ、愚弟。なんせ俺は今からクソッタレの神と、それ以上にクソッタレな神どもを相手にしなきゃならないんだからな」

 

 ニヤリと笑って、イサミは弟の肩を叩く。

 それで取りあえず気持ちを切り替えたのか、ベルが真剣な顔で頷いた。ゼウスが成長した孫の姿に喜びと驚きの混じった顔で、ヘスティアは蕩けた表情で少年を見ていた。




「テレパシーみたいな通信手段」に関しては、原作の戦争遊戯の直前、【神の鏡】を出すときにヘルメスがウラノスに語りかけたところからの拡大解釈です。
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