ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~   作:ケ・セラ・セラ

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すいません、遅れました。


3-8 リヴィラ殺人事件 (未)解決編

 その後は何事も無く、イサミ達は迷宮を抜けた。

 バベルを出たところでルルネと別れ、ハシャーナと共にいずこかへと消える。

 そしてルルネは約束通り、受け渡し場所の城壁の詰め所へ向かった。

 

 日没を過ぎ、オラリオに闇のとばりが降りる。

 無数の光が都市を彩り、それが少しずつ消えていく真夜中頃。

 ルルネが昼下がりからずっと隠れ潜んでいた城壁内の隠し部屋に、突如として黒いローブの影が現れた。

 

「ひっ!?」

「ご苦労だった。さ、依頼の品を渡してもらおうか」

「・・・」

「どうした? 後金は用意しているぞ」

 

 沈黙するルルネ。

 ローブの裾から、ずっしり重そうな袋を取り出す黒ローブの影。

 意を決したようにルルネが口を開く。

 

「そ、その前に質問に答えろ! 私が運んだものはなんなんだ?

 こいつを私に渡した奴は殺されかけたし、私もそうなるところだったんだぞ!」

「・・・それは聞かないのが依頼の条件だったはずだ」

「いいや、そうはいかないな」

「!」

 

 無機質なほどに気配の薄かった黒ローブから、わずかに驚愕の気配が発せられる。

 慌てて振り向いた黒ローブの目の前に、たった今まで存在しなかったはずのイサミとハシャーナの姿があった。

 ハシャーナの手にはあの宝玉の包みがある。

 

「・・・君たちは?」

「怪しげな依頼をホイホイ受けた馬鹿な冒険者よ。てめえのおかげで殺されかけて、今やこのザマさ。

 詮索しないのが条件とは言っても、あんな化け物相手にするほどの金はもらってねえ!

 さあ、きっちり説明してもらおうじゃねえか!」

 

 エルフの少女が吠える。

 再び発せられる、かすかな驚きの気配。

 

「君は・・・ハシャーナ・ドルリアか? 化け物とはどういう事だ?」

「赤毛の女さ。レベル4の俺の首をたやすくへし折るような怪物だ――心当たりが、あるんじゃねぇのか」

「・・・」

 

 沈黙が落ちる。

 

「おっと、逃がさないぜ」

「!」

「?」

 

 イサミの言葉と共に、黒ローブがわずかに身じろぎする。

 そのフードの奥からは、みたび驚愕の気配が発せられていた。

 が、ルルネには全く何も変わっていないように思える。

 その一方でハシャーナはややいぶかしげな顔になった。

 

「何をした? 空気の流れがちっと変わったが・・・」

「鋭いですね。つまり不可視の壁でこいつの上下左右を囲んで・・・」

「"力場の壁(ウォール・オブ・フォース)"・・・いや、"力場の檻(フォースケージ)"か。しかも《高速化(クイッケン)》を乗せて」

「何っ!?」

 

 今度はイサミが驚倒する番であった。

 黒ローブの言葉は、明らかにD&D世界の魔術の知識を持つもののそれであったからだ。

 次の瞬間、黒ローブの手が不可視の力場の壁に触れたかと思うと、それが粉々に分解される。

 イサミの〈呪文学〉知識がその現象の理由をはっきりと理解させた。

 

「"物質分解(ディスインテグレイト)"!?」

 

 その一瞬の驚愕が事態を決した。

 黒ローブの袖口から黒煙が吹き出し、あっという間に室内を満たす。

 それが晴れたとき、室内には黒ローブの姿も、例の宝玉も存在しなかった。

 

 

 

 手がかりは完全に途絶えていた。

 "完全位置同定(ディサーン・ロケーション)"も相手の位置を探ることができない。

 おそらくは探知呪文を完全にシャットアウトする"空白の心(マインドブランク)"あたりを使っていたのだろうとイサミは見当をつける。

 

「くそっ! してやられた!」

「すまねえ、油断した。俺があの玉っころをしっかり持ってれば・・・」

「いや・・・これはしょうがないですよ。まさか"真実の目(トゥルー・シーイング)"だけじゃなく、非視覚感知(ブラインドセンス)を誤魔化すとは・・・」

 

 "真実の目(トゥルー・シーイング)"。

 D&Dでもっとも強力な視覚強化呪文で、闇であろうと透明化であろうと見通し、幻や変身した存在の真の姿を見抜くことができる。

 "上位不可視化"の呪文でさえ、"真実の目"の前には無力だ。

 

 一方非視覚感知(ブラインドセンス)は、ソナーにも似た魔法的感覚で、相手の大体の位置をつかむことができる。

 霧や煙幕の中でもこれを遮ることはできない。

 つまり、この二つをあわせれば、知覚できない存在はほぼないのだ。

 

("真実の目"を魔力を込めた煙幕で遮り、おそらく"上位不可視化"で非視覚感知を遮った。完全にD&D世界の定石を知っているやり口だ。何者だ、あいつ・・・?)

 

 石壁を睨みながら、イサミは無言でたたずんでいた。

 

 

 

 ギルドの深奥。

 ほの暗き神殿にて相対するのは、祭壇に座する巨神ウラノス。そして先ほどイサミ達の前から鮮やかに姿を消してのけた黒いローブ。

 その手にはいびつな胎児が眠る緑色の宝玉。

 

「いや、肝を冷やしたよ。まさかあそこまでの実力者だとはね。備えあれば憂い無しとは良く言ったものだ」

「おまえをして危ういと言わしめるか、レベル1の冒険者が」

「ただのレベル1じゃあないさ。少なくとも、そこらの上級冒険者よりはだいぶ手強い」

 

 ウラノスが重々しく頷き、瞑目する。

 

「こたびは敵か味方か、見極めずばなるまい。それに、その宝玉のこともある」

「ロキはどうする? ディオニュソス・ファミリアと組んで動いてるみたいだけど。

 ディオニュソスはまだしも、ロキとフレイヤに目をつけられるのはまずい」

「わかっている」

 

 声音に真摯なものを含ませる黒ローブに、ウラノスも重々しく頷く。

 

「例の地下水道も、ロキ・ファミリアとディオニュソス・ファミリアにばれたようだぞ。食人花を一掃してくれたのはありがたいがね」

「食人花、モンスターを変異させる宝玉、赤髪の女、闇派閥の残党、そしてその魔術師(ウィザード)か。

 ・・・この世界にも、ついに変革の時が訪れたのかもしれぬ」

「あるいは終わりの時がね」

 

 それきりどちらも言葉を発さず、四つの松明が時折たてるぱちぱち、という音だけが暗渠の地下神殿に響いていた。

 

 

 

 時間は巻き戻る。

 地上の時間にして15時ほど。

 リヴィラの街、「ヴィリーの宿」にロキ・ファミリア一行と、リヴィラの大頭ボールス一党の姿があった。

 

「この壮絶な争いの痕跡・・・その全身鎧の男と、フードの女が戦ったと見ていいだろうな」

「そしてどちらかがくたばったって訳だな。どっちだ?」

「散らばった髪の長さからすると・・・男の方だろうね」

 

 絨毯と岩床にべったりこびりついた真っ赤な物を見下ろしつつ、ボールスの疑問をフィンが断ずる。

 

「この壁の穴も・・・」

「だろうね。拳の跡は男の物だとすると小さすぎる・・・素手で岩壁に穴を開ける、おそらく《拳打》持ちで、最低でもLv.4と言った所だろう」

「そうなると、これだけ抵抗の跡が残っているのだ、殺された男の方もLv.4か、そのくらいの実力者と見ていいな」

 

 リヴェリアの言葉にフィンが頷く。

 そのままフィンはボールス達に指示を出し、街を封鎖して殺人鬼を探し出すことにした。

 

 

 

 ボールスとアイズ達が出て行った後も、フィンとリヴェリアはしばし殺人現場にたたずんでいた。

 

「・・・何か引っかかっているようだな?」

「君に隠し事はできないね」

「長いつきあいだからな」

 

 ふ、と笑みを漏らすリヴェリアと、苦笑するフィン。

 気を取り直してフィンが口を開く。

 

「全身鎧の男とフードの女が戦い、そして男の方が死んだ。女は男の荷物をあさった後、死体を持ち去った。

 状況を見る限りこれで間違っていないと思う・・・けど親指がうずく。何かはわからないけど、引っかかるんだ。何かが」

「ふむ・・・殺人鬼は、出てくると思うか?」

「アイズ達には悪いけど、外れだと思うよ、たぶん。探し出すことはできないだろう」

 

 右手の親指を口元に当てて、フィンは言葉を続ける。

 

「それに、もう一つ引っかかっていることがある。

 装備を残して死体を持ち去られた冒険者、そして僕らが11階層で出会った、装備を失った冒険者・・・何か符合すると思わないか?」

「まさか! 彼らがこの件に関係していると?」

「勘だけどね」

 

 動揺するリヴェリアを、鋭く光る碧眼が見上げた。




 第三話しゅーりょー。
 まさかのリヴィラ攻防戦スルーに書いてる方もびっくりだよ!
 対レヴィス用に何でも屋(ファクトタム)レベル取らせたのに、披露する機会が消滅した!

 なお時系列ですが、原作時系列は

 前日夜半? ハシャーナ殺害さる
 6:00頃 アイズの鍛錬&レフィーヤとの会話
 7:30頃 ロキ・ファミリアの朝食
 8:30頃 アイズ達四人がフィンの執務室に押しかける
 9:30頃 リヴェリア達がレノアの店に
 12:00頃 フィン達合流
 14:30頃? ハシャーナの遺体発見
 15:00頃 フィン達、リヴィラに到着(リヴィラ昼)
 16:00頃 冒険者達、広場に集められる&アイズとレフィーヤ、ルルネを発見(リヴィラ昼と夜の境目)
 16:20頃 食人花の群れ出現、リヴィラ攻防戦開始、レヴィス出現

 という想定の下に執筆しております。
 この話だと、イサミがリヴィラに到着したのが十時過ぎ、三人でリヴィラを発ったのが12時過ぎくらいの想定。

 ベル達がオラリオに来たのが作中から一月ほど前で「季節の変わり目」とあるので、この話の時点で恐らく4月中旬~下旬。
 アイズが早朝鍛錬を終えたのが「日が昇ったとき」で、この季節なら五時半から六時くらい。
 アイズがシャワーを浴びて食堂に来たのが30分後として、遅くとも1時間くらい後には用意ができただろうと考えると、朝食が七時~七時半。
 意外と健康的ですね、ロキ・ファミリアw

 そこから朝食と雑談で1時間、身支度する時間も含めてレノアの店まで1時間。
 西南西ブロックで、中堅ファミリアがホームにしていたとするとそこそこ都市中央に近いであろう竈火の館から、南のメインストリートに至るまでの時間が「ややあって」なので(7巻P63)、10分から15分くらいと考えると、都市北端のロキファミリア・ホームから西北西区画のレノアの店まではその倍~三倍くらい?ということでこの数字です。

 なお1時間歩くと大体5kmなので、西南西区画の竈火の館から南メインストリートまで斜めに15分歩いたとして1.25km、これが大雑把にオラリオの直径の1/6として直径は7.5km。面積は42平方km。
 D&Dのウォーターディープ(約12平方km、十三万二千人)と同程度の人口密度として人口50万人前後の超巨大都市とこの話では設定しています。
 オラリオすごい! 中世ヨーロッパだと二万で大都市なのに! コンスタンティノープル並み!

 話は戻ってボールスが真っ先に命じたであろう「ステイタス・シーフ」が届いたのはフィン達が来てからなので、ハシャーナの遺体が発見された時間はフィン達が来る少し前。
 たぶんヴィリーが朝まで飲んだ後酒場で潰れて寝てたんだろうと思われますw

 フィン達の移動時間が三時間なのは、9巻で4レベル二人が大暴れした状態で18階層までかかった時間がそのくらいなので、魔石等の採集なども考えると時間はほぼ同じくらいではないかなと。
 4レベルだろうと6レベルだろうと、上層モンスター相手では(相手が弱すぎて)大した差は出ないでしょうし。
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