ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
「大丈夫ですか、ゲドさん!」
「あ、ああ・・・」
神速で戦列を駆け抜けホーンド・デヴィルの鎖を切り裂いてゲドを救った少年は、紫の輝きを放つナイフを逆手に構え、立っていた。
Lv.6に達するであろうデヴィルと相対して、欠片ほどの怯えも見せてはいない。
同時にゲドの視界を影が二つ、切り裂いた。
思わず視線を動かすと、抵抗をものともせずバリケードを乗り越えてこようとしていたシロアリの怪物――アイス・デヴィルの首と右腕が吹っ飛んだところだった。
二つの傷口から青い体液を吹き出し、白い巨体がバリケードの向こう側に落ちて見えなくなる。
それを為したであろう二つの影が、奇妙なことに回転しつつその軌道を曲げ、防衛線のこちら側に戻ってくる。
「あっはー♪」
屍山血河広がる戦場に不釣り合いなほど明るい声とともに、真紅の甲冑とマントをまとった巨体が戦列を飛び越して現れた。
戻ってきた二つの影――巨大な戦斧を空中でキャッチし、ほとんど音も立てずに着地する。
「レーテー達が来たからには、もうやらせないよ!」
見得を切ったそれに続いて大剣を担いだ小柄なエルフの少女、銀の胸当てを身につけた軽戦士、マントをまとった水色の髪の麗人、大朴刀を担いだ桿婦らが次々と現れる。
「ヘスティア・ファミリアだ!」
「うおおおおおおおおおおおお!」
先ほどにも勝る大歓声が上がった。
バベルを挟んで反対側からも、それに匹敵する歓声が聞こえる。
オッタルらの名前が聞こえるところから見て、フレイヤ・ファミリアの面々もあちらに参戦したのだろう。
「行きましょう! ここから僕たちの
「「「オオオオオオオオオオ!」」」
ベルの宣言に応えて上がる
前線で戦う者は雄叫びを上げ、後列に控える者はそれに加えて武器を振り上げる。
若き英雄の登場に、全ての戦う者達が高揚する。
「GYYYYYYYYYYY!」
だがその雄叫びと同時、ホーンド・デヴィルがベルに襲いかかった。
得物の鎖を失おうと、爪もあれば牙もある。援軍が来ようともそれごと叩きつぶせばいい。
速い判断と鋭い踏み込みは、地獄の軍団の最精鋭の名に相応しかった。
「GYッ・・・!?」
しかし次の瞬間、紫の閃光が走った。
胴を上下に切り裂かれてはらわたをぶちまけるホーンド・デヴィル。奇しくも先ほど自らが屠った上級冒険者たちと同じ死に様。
ベルが叫んだ瞬間を狙った、そのタイミングは完璧。
だがそれでもベルが上回った。
一瞬にして神のナイフが紫の刃を形成し、鋭く振り抜かれたそれが悪魔の胴体をするりと切り抜ける。
【
戦争遊戯の時から更に冴えを増したその剣が、ただの一太刀でLv.6モンスターを打ち倒した。
更なる歓声が上がった。
強敵を打ち倒し、意気上がる守備側。
しかし、ベルの目は大通りの向こうから駆けてくる怪物達の姿を捉えている。
「・・・!」
無言でベルがナイフを構え直し、気合いを入れる。
まだ戦いは長く続きそうだった。
鋭い剣戟の音が響く。
【エアリアル】を発動させたアイズの全力。
それでもなお倒しきれない相手が目の前にいた。
「アァァァァリィアァァァァアァ!」
「・・・!」
颶風を伴う赤き凶剣の一撃。
愛剣でそれを辛うじて払い、そのまま
払われた赤い大剣を力ずくで引き戻し、今度はレヴィスが大振りにそれを打ち払った。
金の髪が数本切り払われ、宙に舞う。
間合いを離し、息をつく。レヴィスは全くの平静だが、アイズの呼吸は既に荒くなりかけていた。
オラリオの東側、大通りに面した第三区画の家屋の上。
誰も入り込めない二人の世界を、アイズとレヴィスは形成していた。
獣骨の面を付けた白の怪人が腕を組んでそれを見ている。
アイズとレヴィスの戦いに割って入らない限り何もしない白の
ロキ・ファミリアが遊撃を始めて間もなく、襲いかかって来たのが赤の
結果、ロキ・ファミリア本隊とアイズ達の距離は1kmほども離れてしまっていた。
再び剣戟の音が響き始める。
技と速さでは辛うじて互角なものの、力が圧倒的。どれだけの魔石を食らったのか、全力で【エアリアル】を展開するアイズ相手に反撃を許さない、まさしく怪物。
「くっ・・・」
アイズが焦りをにじませる。
スキル【
黒い炎で身を包み、超絶的な強化を与えるアイズの切り札。
ただし、怪物相手にしかこのスキルは発動しない。
人語を解し、人の姿をし、あまつさえ彼女を何度も身を呈して守ろうとした白い怪人の存在もあり、アイズはレヴィスをモンスターと認識できない。
アイズは強い。しかしその強さはモンスター相手のそれだ。技も経験も駆け引きも、そしてスキルも怪物を屠ることを願い、思い、想定し、発現したものだ。
人でありながらモンスターの力を持つ相手に、全力を発揮しきれない。
屋根の上を、徐々に押されていく。建物の切れ目がもうすぐそこ。
「「!」」
アイズを押し切り、地面に叩き付けようとしていたレヴィスが後ろに跳んで下がる。一瞬遅れてアイズも。
次の瞬間、炎の雨が一帯に降り注いだ。
「うひゃー! レフィーヤやるねえ!」
「街中であんな派手にやって大丈夫かしら・・・」
「だ、だってあれくらいしないとあの人相手には牽制にもなりませんよ!」
ティオナ、ティオネ、レフィーヤの姿が、大通りを挟んだ北側の建物の上にあった。
街中で火炎魔法、しかも範囲攻撃をぶちかましたレフィーヤが慌てて弁解する。幸い表通りは石造りの建物が多いので、延焼する危険性は低いだろう。
「おのれ、邪魔立てするか!」
「あんたらの都合に付き合う義理はないっての!」
「っ!」
短剣を手に跳躍する白い怪人。次の瞬間鋭い金属音が鳴る。
アマゾネス姉妹の姉、ティオネの手から鋭く投擲された狩猟ナイフを、オリヴァスが辛うじて弾いたのだ。
次いでアイズがティオネたちの隣に飛び移り、レヴィスもオリヴァスの隣に降りた。
「モンスターの掃討は?」
「城壁の上の人たちと交代だって。・・・黒竜が動いた」
「・・・!」
アイズの瞳に暗い炎が灯る。
それに物言いたげな表情を見せつつ、ティオネはフィンの指示を伝える。
「だからこいつらとのお遊びも終わり。逃げないようなら・・・私たち全員で潰す」
「みんな、残りのモンスター掃討したらこっちくるってさ! アルガナとバーチェも!」
怪人たちに聞こえるように大声で言う姉妹。
いかにこの二人が強力とは言え、ロキ・ファミリアとカーリー・ファミリアの主力全員相手には到底太刀打ち出来ない。イサミ達が不在だった『精霊の六円環』の時も同様の状況で退却している。
だが。
「・・・オリヴァス」
「なんだ」
歯をきつく食いしばり、言葉を絞り出すレヴィス。
「可能な限りでいい。あいつらを足止めしてくれ」
「承知した」
死ねと言うにも等しい言葉に、無造作に頷く白の怪人。
むしろ動揺したのは屋根の上のアイズ達だった。
「・・・!」
「ちょ、あんたら本気!? あたし達だけならともかく、団長やアルガナたちも加わって勝てると思ってるの? 10対2だよ!?」
レヴィスが歯を食いしばったまま、屋根の上のロキ・ファミリアを見上げる。
その顔には焦りにも似た感情が浮かんでいた。
「もうこれが最後のチャンスだ・・・アリア! 私が! お前を
「な、何を言ってるんですかあなたは・・・!?」
異様さに押されるレフィーヤ。無言のアイズ。レヴィスは憑かれたように言葉を続ける。
「黒竜が動いた! 我が神も間もなく本来の姿を取り戻す! そうなれば私もお前達も皆この世から消える! 今だ! 今しかないのだ!」
「・・・それでも」
決意を固めた表情でアイズが口を開いた。騎士の誓いの如く顔の前に剣を立て、レヴィスを見据える。
「それでもあなたたちには負けない」
「アリアァァァァァァッ!」
静かに宣言したアイズに、レヴィスが飛びかかる。
アイズが構え、ティオネ・ティオナ・レフィーヤとオリヴァスが動こうとした瞬間。
「ガッ!?」
「!?」
空中でレヴィスが叩き落とされた。
同時に空中に姿を現したのは緑のマントを翻すエルフ。
他の四人の足が驚愕で止まる。
ふわりと着地するエルフ。街路に叩き付けられて素早く跳ね起きたレヴィスが、歯をむき出しにして闖入者を威嚇する。
「貴様・・・っ!」
「あなたを止めに来ました、アリーゼ」
【疾風】リュー・リオンがそこにいた。