ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
つかの間、その場に流れた沈黙と停滞を破ったのは赤毛の女だった。
「貴様など知らぬと言った」
「
「・・・!」
リューの言葉にレヴィスの眉がぴくりと動いた。
「え? どゆこと? ティオネ判る?」
「わ、わかるわけないでしょ!」
「・・・」
戸惑うティオナ達。
レヴィスとオリヴァス、そしてリューは無言のまま。
僅かに時が流れた後、ティオネ達の後ろの屋根から足音がした。
振り向くティオネ達の目に映ったのは家々の屋根を跳んでくるロキ・ファミリアの面々。
「どうした、何をぐずぐず・・・【疾風】?」
リヴェリアの眉がいぶかしげにひそめられる。
「リヴェリア様、どうかここはお譲りください。この女は私の・・・親友の仇です」
「だがお前はまだLv.4だろう!」
「黒竜を相手になさるのでしょう。ならばここはお任せを。勝算がないわけではありません」
「・・・」
口ごもるリヴェリア。フィンも咄嗟には判断がつかないようで親指を口元に運ぼうとする。
「リヴェリア、フィン」
その動きを止めたのはアイズの言葉だった。
「相手にならない、と言うことはないと思う。勝てるかどうかは・・・わからないけど」
「ではここは任せるよ【疾風】。武運を祈る」
「フィン!」
いっそ無情なほどに即断するフィン。リヴェリアが声を上げるが、その勢いは強くはない。
彼女もわかっている。ここでリューを「捨て石」にするのがオラリオを守るためには最善の一手であることを。
「そちらも」
そして当の本人はレヴィスから目をそらさないまま、短く答えを返した。
「行くぞ!」
フィンの号令が響く。
葛藤も未練も飲み込んで、ロキ・ファミリアの精鋭達が駆ける。
リヴェリアとレフィーヤだけが一瞬振り向いた。
「・・・!」
ぎりり、とレヴィスの奥歯が鳴った。
それは自らに一瞥をもくれないアイズへの憤りか、それとも自らを邪魔する目の前のエルフに対する怒りか。
「ちっ」
「待て、オリヴァス」
舌打ちして動こうとした骨仮面を、赤毛の女が制止する。
「追わずともいい。こうなればこの女の首を奴らの前に転がしてやるまでだ!」
「させません。少なくとも、あの方々がオラリオのために戦っている間は、決して」
憤怒の炎に顔を歪ませるレヴィスに対し、リューは凪いだ湖面のごとく静か。
「ほざけっ!」
レヴィスが街路を蹴った。
踏み割られた敷石の破片が爆発のように後方に広がり、一つがオリヴァスの腕をえぐって血をにじませる。
Lv.7にも匹敵する、馬鹿げたステイタスに支えられた踏み込み。
一般人や並の冒険者には、それこそ彼女の姿が消えたようにしか思えまい。
轟、と空気を引き裂いて赤い凶剣が唸る。
受けるには力が足りない。回避するには敏捷が足りない。
Lv.4とLv.7。単純にして圧倒的な能力値の前には、神技をもってしても埋めきれない差がある。
そのはずだった。
「!?」
レヴィスの大剣と、リューの構えた日本刀が触れあい、火花を散らした。
受け止めてはいない。かわしきってもいない。
レヴィスの圧倒的速度。
踏み込んで剣を振り下ろすまでにリューは半歩動いただけ。
だが斜めに担いだ刀を左肩で支え、振り下ろした凶剣を身体全体、刀全体で受け流す。
「っ」
自分を断ち割る力をそらした代償に、横向けのベクトルがその身体にかかる。
吹き飛ばされつつも、リューは「鍵となる言葉」を口ずさむ。
「なにっ?!」
腕をえぐられても何一つ反応しなかったオリヴァスが、思わず声を漏らす。
瞬間、リューの姿が消えていた。
「ちっ・・・そう言えば最初も透明化していたな。ステイタスの差をそれで補おうという魂胆か、小賢しい」
だがレヴィスに焦りはない。彼女ほどにステイタスを高めていれば、呼吸音や剣の風切り音だけでも大体の位置はわかる。そして地面を蹴れば僅かに土煙や微細な塵が動くのは避けられない。怪人の目はそれも見逃さない。
だがそれでも。
「ぐっ!」
火花が散る。
アイズと戦っていた時を含め、今日初めてレヴィスが焦りの表情を見せた。
聞こえたのはほんの僅かな風切り音だけ。
咄嗟に、それも本能的に動かした剣が見えない斬撃を防いだ。
防いでいなかったら、一撃で首を切り落とされていただろう。
同時にリューの姿が現れる。
地上1mに浮かんで、いや、
「さすがに、そう簡単にはやらせてくれませんか」
さして悔しげでもなく呟いて後方に跳び、またしても姿を消す。
先ほどの一撃を無理な姿勢で防いだレヴィスはこれを追撃できない。
「おのれ羽虫がっ・・・!」
格下と見下していた、本命の前のただの石ころに過ぎなかったはずの相手に翻弄された。最早アイズのことすら忘れたかのように怒り心頭に発する。
オリヴァスが仮面の下で僅かに眉を寄せた。
それから数度、攻防が繰り返された。
空中から突然現れるリューの剣をギリギリの――本当にギリギリの所でレヴィスがかわし、受ける。
首、腕、足首。いずれも当たれば落とされる。
レヴィスをしてそう感じさせるだけの鋭い一撃。
一撃離脱でその場を飛び退き、再び空中に溶け込むリュー。
攻撃を待ち受けているにもかかわらず、一撃一撃ギリギリで防いでいるレヴィスはそれを追撃できない。
リューの剣は高度を選ばない。同じ地面に立っていない。それどころか重力の方向にすら影響されていないかのように思えた。
おそらく"
地面を、壁を、天井を蹴るように、彼女の足は空気を蹴ることが出来る。
上下逆転していようと横倒しになっていようと、彼女ほどの体術とセンスの持ち主ならば関係ない。人間相手にはあり得ない、予期できない変幻自在の攻撃方向。
レヴィスがそれを防ぎ続けていられるのは、ひとえに桁外れの敏捷性と知覚力、そして僅かな幸運があればこそ。
「ありえん!」
攻防が二桁に達し、またしてもリューが姿を消したとき、不意にレヴィスが叫んだ。
「お前はLv.4のはずだ! ステイタスの更新もランクアップも出来ない!
いかに姿を消そうと、いかにお前の隠形が優れていようと、私が感知できないはずがない!
たとえお前の全力の斬撃であろうと、防ぐ必要すらないはずなのだ!
どうやってランクアップした!
我を忘れるぎりぎりにまでレヴィスが感情を高ぶらせる。
だが実際その通りであった。
リューがLv.4としていかに優れていたとしても、3lv分のステイタス差は圧倒的だ。
本当にそれだけの差があれば、そもそもレヴィスはリューの剣を防ぐ必要すらない。
レヴィスの首に全力の斬撃を見舞ったとしても、僅かに血がにじむ程度だろう。
3lv、それも人類と
「・・・」
一方リューは無言。
レヴィスの詰問に答えずに攻撃を再開しようとして、ふと脳裏によぎったのはかつての赤髪の親友と、色々ろくでもないことを仕込んでくれた小人族の仲間。そして人の悪い笑みを浮かべる虎縞頭の巨漢。
僅かに笑みを浮かべ、リューは口を開く。
「それは・・・」
「それは!?」
空中から聞こえてきた声に、レヴィスが反応する。彼女にとっての「理不尽」によほど憤っているのか、声のした場所を攻撃することすらしない。
それを見たリューは間をたっぷり置いて、その一言を放った。
「それは秘密です」
「~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!!」
今度こそ我を忘れたレヴィスが声のした空中の一点に飛びかかった。
だがその寸前、リューの方が動いている。
笑みを消して、剣を振り下ろす。
攻撃態勢に入った――つまり、先ほどまでと違って防御に専念していないレヴィスの首筋。そこを目がけて断頭の剣尖が迫る。
だが首筋のうぶ毛に刃先が触れたかと見えた刹那、世界が軋む音がした。
「!」
「!?」
ぎぃんっ、と音がした。
無論錯覚だ。
神経網を走った精神的な衝撃が、聴覚に誤情報をもたらしたに過ぎない。
"
それ自体にはリューは耐えた。
だが朦朧化は防げても、"
剣は僅かにそれ、レヴィスの後頭部と髪を浅く切り裂くだけに留まる。
"
「くっ!」
それでも素早くコマンドワードを唱えて再び透明化するリュー。
一方レヴィスは"
「オリヴァス! 何のつもりだ! 手を出すなと・・・」
「落ち着け!」
白仮面の男が一喝した。
次の瞬間、リューの剣をまたしてもぎりぎりでレヴィスが防ぐ。
「・・・すまん」
短くそれだけ言うと、レヴィスは再び先ほどと同じ体勢――リューの攻撃を待ち構え、あわよくばカウンターする構えに入る。
その目は既に白い怪人を見ていない。
オリヴァスは無言で、ただ僅かに頷いた。
レヴィス=アリーゼは本編でも構想はあったそうですが、ボツになった設定だとか。
まあ結構あからさまに伏線は張ってあったと思いますので、このSSでは流用させて頂きました。