ダンジョンでドラゴンと戦うのは間違っているだろうか ~マンチキン・ミィス~ 作:ケ・セラ・セラ
疑問を脇に置いたレヴィスであったが、その疑問自体は間違っていない。
実際リューはランクアップしていた。
何と言ってもイサミは現在地上に降りている神を
当然、その中にはリューの主神であるアストレアも含まれている。
ブランクがあったとは言えアストレアと別れてからの復讐劇、そしてここ最近の冒険行はランクアップ、それも相当な
加えて今のリューにはイサミの"
(装備部位が重なるものは、一つのアイテムに複数の魔力を付与して対応している)
それらを合わせれば総合力はLv.6上位、防御力と機動力に限って言えばLv.7をも凌駕するだろう。隠密の技能も強化されているので、相乗効果で透明化の効果が更に上昇している。
イサミと相談の末用意して貰った装備と対抗策、戦術だった。
(ですが――)
それだけの強化をもってしても、現状は「何とか勝負になっている」程度だ。既に赤毛の
(このままの攻撃を続けてラッキーヒットを期待するか、あるいは切り札を使うか・・・)
足止めとしてのリューはこの上なく有効に機能している。
だがそれでオラリオは救えるかも知れないが、リューの目的は果たせない。
「おおっ!」
「!」
リューが逡巡したその一瞬、レヴィスがその大剣を石畳に叩き付けた。
叩き付けられた一点が爆発し、敷石の破片と砂礫が飛散する。
リューの体にもパラパラと砂が当たった。
(しまった!)
「そこかあっ!」
土煙を押しのけてレヴィスが奔った。
反射的に回避するリューだが、それでも空中を舞う土ぼこりにその動きの軌跡が浮かび上がってしまうのは避けられない。
激しい金属音が走り、空中に火花が散る。
攻撃的行動を取ったわけではないので透明化は解除されないが、それでも刀での防御を強要された。
咄嗟に空気を蹴り、土ぼこりとレヴィスの剣が届かない上空へ退避する。
(くっ)
まだ晴れない土ぼこりを見下ろし、リューの額に僅かに汗がにじむ。
前提を覆された。
最早透明の指輪で姿を隠して攻撃するのは不可能に近い。
イサミからはしばらくの間攻撃をしながら姿を隠し続けられる魔法の粉も借り受けていたが、それもこの状況では意味がない。
同系統の呪文では最上位に位置する"
長期戦に持ち込むのも不可能だ。その気配を感じれば、レヴィスは躊躇無くこの場を離れてアイズのもとへと向かうだろう。
オラリオを守るため、前以上の怪物と化した黒竜に挑む彼女ら。そこに怪人たちを向かわせるわけにはいかない。正義の女神の眷族として、それだけはできなかった。
(・・・)
固く目を閉じ、再び開く。
その時にはもう、覚悟は定まっていた。
「・・・ほう?」
収まってきた土ぼこりの中で、赤髪の怪人が薄笑いを浮かべた。
街路の上、片手に刀を提げたリューが姿を現したのだ。
そのままゆっくりと、しかし確かな足取りでリューがレヴィスに近づく。
笑みを浮かべたまま、片手で剣を街路に突き立て、レヴィスは待つように動かない。オリヴァスは元より腕を組んだまま不動。
彼我の距離が6mほど、レヴィスならば一足一刀の間合いに入った所でリューは立ち止まった。赤い怪人を見つめる瞳は硬く、そして揺るぎない。
レヴィスも笑みを浮かべたまま、いまだ動かない。
対峙する二人。いつ、どちらが動くか読めない。
それでもレヴィスの勝ちは揺るぎない。
そうオリヴァスが思ったその瞬間、二人の姿はかき消えた。
「む・・・どこだ!? レヴィス! どこだ!」
またしても透明化したか、と考えたオリヴァスが一瞬の後、己の過ちに気付く。
まだ僅かに漂っている土ぼこりに動きはない。二人が石畳を蹴る音もない。
つまり二人は、文字通り消えてしまったのだ。
「レヴィス! どこだ、レヴィース!」
無人の街路に、白の怪人の声がむなしく響いた。
「・・・ここは!?」
怪人として姿を現して、恐らく初めて見せた驚愕の表情。
ダンジョンのもたらす多くの神秘を目の当たりにしてきたレヴィスにとっても、今目にする光景は異様であった。
暗くも明るくもない空間。
周囲には何もないようでありながら、見えない何かが全ての空間に満ち満ちているようにも思える。
暗緑色から濃紺、暗紫色と色を変える波のような無数のゆらぎが視界の果てまで連なり、天にも地にもゆらぎ以外は何もない。
そのくせ足元にはしっかりした地面の感触。
その中で、刀を提げたエルフの戦士の姿だけがはっきりと見える・・・いや、感じられるといった方が正確かも知れない。全ての感覚が混乱し、本当に視覚で相手の姿を捉えているのかすら、今のレヴィスには自信がなかった。
そもそも何がどうしてこうなったのか。
相対したとき、リューの目が一瞬大きく見えて、次の瞬間にはここにいた。
(何をされた? 詠唱はしていなかったはず。幻覚か? 仲間が潜んでいたか?)
さすがのレヴィスも一瞬混乱したその隙にリューが動いた。
水の中を動くような動きで歩み寄り、ゆっくりと剣を振り上げる。
「何だそのノロノロした動きは! 私を・・・っ!?」
いらだちと共に剣を振り抜こうとした瞬間、レヴィスは異常に気付いた。
その驚愕の一瞬を切り裂き、リューの剣がレヴィスの肩口を断ち割る。
「がっ・・・」
致命傷ではない。
そのままならへそまで切り下げられていたところを、咄嗟に身を翻してレヴィスはリューの一太刀を逃れていた。
肩口を割られ、左腕は動かせないだろうが致命傷には程遠い。
だがしかし、普段ならすぐに塞がるはずの傷が塞がらない。そもそもあのような力も速度も乗っていない剣で断てるほど、レヴィスの皮と肉はやわくはない。
「まさか」
右手で引きずる赤い大剣を見る。
「引きずる」だ。
「持ち上げる」でも、まして「構える」でもない。
あの時リューの剣を自らの剣で払わなかったのは何故か。
いつもなら小ぶりのナイフほどにも重さを感じない、細枝の如く縦横無尽に振るえるはずの剣が持ち上げられなかった。まるで巨大な鉄塊ででもあるかのように。
だが。
だがそれが剣が重くなったのではなくレヴィスが非力になったせいなのだとしたら。
愕然とした表情で目の前のエルフを見る。
ことさらにゆっくり歩いてゆっくり剣を振ったように見えたが、それが「今の彼女」の全力なのだとしたら。
「その通りです、"
クラネルさんは"
彼女の表情から内心を読んだのか、一撃を加えた後距離を取ったリューが口を開く。
レヴィスが愕然とした表情のまま、自らの胸元を見下ろす。
無数の魔石を食らい、はち切れんばかりの力を蓄えたはずの胸の魔石が、ほとんど何の力も伝えてこない。
ダンジョン外に適応した一部のモンスターのように、生存に必要なごく僅かな分だけは本来の肉体の一部として扱われるのか、体が動かなくなったり崩壊したりするようなことはないが、今のレヴィスは怪人ではなく普通の人間とほぼ変わらない、ということだ。
"
己と敵をどこでもない場所、地水火風の四大元素の隙間である「空」すなわち虚無に置くことで、あらゆる霊的な力を封じる技。
D&Dにおける東洋世界ロクガンにおいて、"
イサミはウィッシュ呪文によって自らを作り替え、一度シンタオ・モンクの奥義を究めた上でそれを魔術師の技術で魔道具として擬似的に再現したのである。
エピックレベルに近い高度なものになってしまった上で一度きりの使い捨てだが、恐らくリューがレヴィスに勝てる、唯一の手だった。
ただ、力を封印されるのはリューも変わらない。【恩恵】も、無数の魔道具も、イサミの施した強化魔法も、今は何の効果も発揮していない。ただの、刀を持った一人のエルフに過ぎない。
(ですがこれで条件は対等。イサミさんが作ってくれた一度きりのチャンス、けして無駄にはしません)
刀を握り直す。
施された魔法強化は効果を発揮していないが、それでも
【恩恵】が効果を発揮していないとは言え、鍛えた技と肉体も変わらない。
人一人を斬るのに不足はない。
「ちっ」
「む」
一方でレヴィスは思い切りよく、右手の大剣を手放した。音を立てず、「地面」に赤い凶剣が転がる。
レヴィスの剣は刃渡り1.5m、刀身の幅が根元では50cm近く、それに応じた厚みも備えた超重量級の武器だ。重さは80kgにもなろうか。【恩恵】も魔石の力も持たない人型生物が振り回せる代物ではない。
「―――」
「っ―――」
無言で、レヴィスが無手の構えを取る。左腕も構えを取るが、どこまで動かせるかはわからない。
その構えを見てリューは僅かに眉を動かしたが、無言で刀を青眼に構えた。
クーカン・ドーとシンタオ・モンク、シンセイはD&D三版のサプリ「オリエンタル・アドベンチャー」に載っていたもの。
大体作中の説明通りですが、漢字は私が適当に当てはめたものだと言うことをお断りしておきます。
クーカン・ドーは多分向こうのデザイナーの意図としては「空間道」とかじゃないかなあと思うんですが、さすがにそれだと忍殺かい!ってツッコミが入るのと、視線による攻撃扱いなので、「瞳」の字を当てました。
後、書き終わった後で気付いたんですが、これ互いの呪文や超常能力は封じますけどマジックアイテムは封じませんねw
なので、クーカン・ドーっぽい効果を発揮するオリジナルアイテム、ってことでひとつ。